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<インタビュー>梅井美咲×北村蕗――自由な感性が交わり生まれる、°pbdbという音楽

インタビューバナー

Interview & Text:つやちゃん
Photo:興梠真穂

 梅井美咲と北村蕗によるユニット「°pbdb(キューピーキューディー)」が、本格的に動き出した。それぞれ異なるフィールドで活動しながら、独自の音楽性を培ってきた二人が結成した°pbdbは、8月に5曲入りEPをリリース。さらに9月にはユニット名義として初のライブをビルボードライブ横浜で開催予定だ。そもそも、なぜ二人は°pbdbを始めることになったのか。音楽、歌詞、ビジュアル、ライブ空間をどのように作り上げようとしているのか。ユニット結成の背景からEP制作、初ライブへ向けた構想まで、二人に話を聞いた。

二人の異なる感性が交わり、生まれる°pbdbの音楽

――お二人がどういう経緯で°pbdbを始めたのか、その背景から伺えますか?

北村蕗:初めて出会ったのが2021年の夏で、ユニットを結成したのが2023年の3月ぐらいです。

梅井美咲:わりとやんわり始まったね。

北村:「ここから」っていう明確なタイミングはなかった。私が山形に住んでて、2023年に東京に引っ越してきたんですけど、その前に山形で梅井ちゃんを呼んでライブをしたことがあって。ただ、物理的な距離があったのでなかなか会えなくて、話すのも会った時ぐらいでした。

――お互いの音楽について、結成前や結成当時はどういう印象を持っていたんでしょう?

北村:私は山形にいた時からSNSで梅井ちゃんのことをチェックしてて、その時点ですでにファンみたいな感じでした。最初は、ピアノがめっちゃ上手いっていう印象で。ピアノの上手さにもいろんな方向性があるじゃないですか。梅井ちゃんのピアノは、心情とダイレクトにつながってる。景色が浮かぶし、ちゃんと音に性格が表れてた。

――分かります。演奏が上手い人はいくらでもいるけど、それとは別に、梅井さんのピアノは生命感のようなものがあると思います。

梅井:「生命感」って言われたの初めてで、めっちゃ嬉しいです。

北村:生き物みたいな感じがある。





――音楽的な意味でリズミカルというより、感覚としてリズミカルというか。鍵盤の演奏そのものに生命力が宿っている。

梅井:でも、それはすごく大事にしているところかもしれません。トラックメイクでもそうなんですけど、できる限りグリッドに沿いすぎないことを意識していて。ピアノを演奏する時も、テンポに忠実であることがすべてではないと思ってます。昔は、自分の勢いに任せて走ってしまうことが嫌だったんですけど、いろんな人とアンサンブルを重ねる中で、それも良さだと思えるようになってきた。今、そういったところをどんどん発展させている途中です。それが生命力につながっているかは分からないですけど。

――逆に、梅井さんから見た北村さんの音楽的な魅力は?

梅井:蕗ちゃんは、例えばすごくバキバキのトラックを作ったとしても、「誰にも嫌われない声」をしているんですよ。以前、King Gnuの常田さんが井口さんについて、「嫌味じゃない声」とか「誰が聴いても嫌じゃない声を持っている」というようなことを話していたインタビューを読んで、それって蕗ちゃんにも言えるんじゃないかなと思った。透き通っていて、どんな音楽をやっても中心にその声がある感じがする。これから彼女がどんなジャンルの音楽をやったとしても、その声が一本の大きな筋になる気がします。




北村:私たち、帯域が全然被らないんですよ。まったく違う質感の声をしていて、梅井ちゃんは私には出せない精度を持っているなってすごく思います。

――今回のEPを聴いて、改めて音がいいなと思いました。お二人は、ソロの作品でも以前からすごく音の良さが際立っています。

北村:マスタリングだけ、いつもお世話になっている佐藤(宏明)さんにお願いして、ミックスは二人でやったんです。

梅井:制作もミックスも、パソコンの前で交互に作業していく。

北村:このトラックは梅井ちゃんがいじって、そのあと私が別のプラグインを挿す、みたいに分かれてる。

――珍しいスタイルですよね。

梅井:でも、蕗ちゃんから渡された時に「確かにこの音はここにあるべきだよね」と理解できることが多い。

――音で会話しているような感じですね。サウンドデザインに関する二人の傾向はあるんですか?

梅井:お互い、声をあまり前に出したがらない印象があります。私もそうなんですけど、声だけを目立たせたいというより、それ以外の音――ロウ感だったり、パーカッションだったり――も同じくらいの存在感で聴きたい。そのバランス感覚は一致している気がしますね。

北村:あと、音を左右に振ったりもする。

梅井:好きだね。可能な限りすべての空間を使い切りたい、みたいな意識がある。上も下も、右も左も。

北村:でも結局はバランスかも。「めっちゃ振った音があったら、次は真ん中で鳴らしたいよね」みたいなこともある。そうやってバランスを取ってる。

――しかも、この良い音を大きなスタジオで作ってるわけではなく。

北村:私の家のパソコンでやってます(笑)。

――それにしても、お二人の「交互に作る」という制作スタイルは珍しいですよね。DAWを交互に触っていくんですよね? それは、自然にそうなったんですか?

北村:そう。これが一番楽なんですよね。

梅井:楽だし、楽しい。Abletonだったら遠隔でも作業できるし、期日を決めてファイルを投げ合う方法もあると思うんですよ。PAS TASTAのインタビューでも、何日までにファイルを投げる、みたいな作り方をしてるっていうのを読んだことがあって。でも、たぶん私たちがそれをやったら続かないってどこかで分かっている(笑)。だから、お互い忙しくても会う日を決めてやってます。相手が作っている音を聴きながら、寝たり、本を読んだり。

北村:ゆるくやってるよね(笑)。

――横で相手がDAWを触っているのをのんびり見ているわけですよね? 作り方の違いを発見することもありますか?

北村:選ぶ音はやっぱり違いますね。展開の中で「あ、この音を選ぶんだ」とか「こんな風に入れるんだ」とか。

梅井:そうそう、同じような音色にしたのに、選んでいるプラグインが違うことがある。別の経路を通って似たような音になっていて、「え、これ使ったらこんな音になるんだ。最終的に一緒やん」みたいな(笑)。


――ゴールは一緒だけど、ルートが違う(笑)。

梅井:そうそう。「ルート違った!」っていうことは何回かあって、面白かったですね。

――ひとりあたりどのくらいの時間作業してバトンタッチするんですか?

北村:1時間くらいかな。

梅井:12時くらいに集まって、3ターンぐらいやったら18時、19時になってるとか。

北村:時間が溶けちゃう。

――相手が作っている間に口出しはしない?

梅井:全然しないです。「それいいね」って言ってるか、寝てるか、本を読んでるか(笑)。

――°pbdbとしての正解や、ゴールイメージを強く共有しているわけではない。

梅井:「こういう曲を作りたいね」というのは、曲ごとに最初に決めますね。でも、結果的にまったく違うものになった、みたいなのばっかりで。

――お互いの作る音に、癖も見えてきましたか?

梅井:私は蕗ちゃんから「水属性っぽい」って言われたことがあります。逆に私は、蕗ちゃんを「土属性っぽい」って言ったことがある。

北村:梅井ちゃんは泡とか水滴の音を扱うのがすごく上手い。それは°pbdbというより、ソロ作品を聴いて思う。私には、この水っぽい感じは出せないなって。

梅井:蕗ちゃんの音は、土っぽいというか土着的というか。蕗ちゃんのソロ作品を聴いていても、パーカッションを扱うのが上手いなと思うんです。だから、一般的なダンスミュージックを蕗ちゃんが作ったとしても、よく聴くものとはちょっと違うものになる。


――今作を聴いていると、お二人がプライベートでどんな音楽を聴いているのか全然見えてこないなと思って、そこが面白いなと。それで梅井さんが別のインタビューで、ドーチーやア・トライブ・コールド・クエストを挙げていて、意外だなと感じました。

梅井:私は音楽はネットで見つけるものももちろんあるんですけど、長く聴いているものは誰かから教えてもらったものが多いんですよ。高校生の時によくお世話になっていたDJの方がいて、その方がバイクの後ろに私を乗せて連れていってくれたジャズ専門のレコードショップに、なぜか2Pacがあってどんどん掘っていったり。あと、父の影響で徳永英明を聴くようになったり(笑)。

北村:私は、梅井ちゃんとはちょっと聴き方が違う気がする。演奏している人が出している空気感や伝わってくる音像で「好きかも」「ちょっと違うかも」と判断するところがあって、それが一番大きい。

梅井:私も「このジャンルだから好き」ということはあんまりない。とはいえ、「この人のこの作品が好きだから、他の作品も全部好き」というのもなくて。「このアルバムのこの曲がめっちゃ好き」とか、「このアウトロがめっちゃ好き」とか、けっこうピンポイントなんですよ。




――ジャンルの話は、お二人の活動スタイルにも繋がっている気がします。以前なら、ミュージシャンって固定した肩書きがあったじゃないですか。ジャズピアニスト、シンガーソングライター、トラックメイカー……と、それぞれ専門の畑があって、その中でキャリアを作っていくことが当たり前だった。でもお二人は、そこがかなり混ざってますよね。

梅井:本当にぐちゃぐちゃですよね。ジャンルレスに活動すること自体が、もう普通になってきている気がします。

――あえて「ジャンルレスです」と宣言する必要すらない。ひとつの型にはめられたくない、という感覚はありますか?

梅井:あります。最近はそんなに言われなくなったんですけど、「ジャズピアニスト」と言っていただくことが多かった時期は、ちょっと窮屈だなと感じることがありました。もちろんジャズも自分のルーツのひとつなので、今はそう言われても「やめてくれ」とは思わないし、それも自分の一部だと思ってる。ただ、もうちょっと自由な生き物として活動したい。もっと色んな選択肢があると思うし、その時々でそれを楽しみたいんですよ。

北村:型にはめられたくないというのは私もあるかも。でも私は「シンガーソングライター」と言われることが一番多くて、それはジャンルではないから、「まあ、そうだよな」と思う。曲を書いて歌っているという点では、間違いなくシンガーソングライターだし(笑)。ただ、その中でもいろいろやりたいのは確かです。






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型にとらわれず、新たな表現へ挑み続ける二人

――楽器も同様ですよね。昔は、演奏家としてひとつの専門としている楽器があって、それを極めていく傾向が強かった。でもお二人は、専門外の楽器を初心者ということを隠さずにどんどん演奏されていて、それが新鮮で。

梅井:「上手くできるかな」という不安はありますけどね。でも私は高校生ぐらいの時から、自分の専門ではない楽器を演奏している人の演奏が好きなんです。例えば石若駿さんが弾くピアノとか。あとブライアン・ブレイドとノラ・ジョーンズがデュオで演奏する動画がYouTubeにあがってて、ブライアン・ブレイドが歌ってギターを弾いているんですけど、めっちゃかっこいいんですよ。ノラ・ジョーンズのドラムも、本当に「ドッタン」ぐらいなのにかっこいい。私はピアノが一番身体に近い楽器だと思っているんですけど、できるからこそ選択肢が無限にあるんです。だからいっぱい弾いちゃって、アイデアがあり余りすぎる瞬間がどうしてもある。でも、本職じゃない楽器になると、演奏できることが少ないぶん、ちょっとシンプルになる。タッチが揃っていないとか、そういうことも含めて好きなんです。自分が本職じゃないものをやったとしても、本職の人には出せない良さもきっとあるのではないかと考えられるようになってからは、自分でも色んな楽器を演奏するようになりました。




――°pbdbのビジュアルについても聞かせてください。そもそも「°pbdb」という表記からして、グラフィックとしての見え方をかなり意識していますよね。

北村:そうですね。文字の並びと、音的にも可愛い響きの方がいいよね、というところから入りました。

――今回のEPでは、北村さんがアートディレクションを担当されています。

北村:Utaeさんというフォトグラファーの方に写真を撮っていただいて、ジャケットのテキストは私が作りました。アー写のグラフィックはUtaeさんが作ってくれて。元々、梅井ちゃんと「顔をアップで撮りたい」と話していて、そこから「だったらこういう感じがいいんじゃない?」と広がっていったので、私が全部決定したという感じではないんですけどね。


1st EP『qpep°1』


――前作のシングル以上に、今回はお二人が左右真っ二つに配置されていて、ニコイチ感が増したように見えます。今回のビジュアルでは、事前にどういったイメージを共有していたんですか?

梅井:「お互い普段は着ない服を着てみよう」というアイデアがありました。私は普段スカートを一切履かないんですけど、今回アー写でミニスカートを履いて。逆に蕗ちゃんは、普段よりちょっと大人っぽい格好をしてる。

北村:ジャケットを着て、スーツっぽい感じにしました。

梅井:服も二人で選びました。原宿に繰り出して(笑)。

北村:そうそう、一緒に原宿行った(笑)。私がいろいろリファレンスを集めて、「こういうのどう?」と見せた中に、少し制服っぽいモノトーンのがあって。ユニット感が出るのでいいんじゃないか、という話になった。

――9月22日にはビルボードライブ横浜でライブもされますね。それぞれソロで演奏して、そこから°pbdbへつながっていくような構成?


梅井:大まかにはそうですね。一人でやり切ってもいいし、途中からもう一人が入っていってもいいよね、みたいな。ユニットを組む前にも何回か二人でライブをしていて、その時もそういうことがあったので、あまり抵抗なくできると思う。

北村:ユニットを組む前に山形でライブした時には、梅井ちゃんの曲を私がカバーするのも何回かやったんですよ。最近はそういうのはやってないので、それはすごく楽しみです。

――°pbdbとしては、音源を同期させながらパフォーマンスするんでしょうか?

梅井:前作のシングルを出したあとのライブでは、蕗ちゃんが持ってきたリズムマシンに合わせて、その場で好きに弾く感じだったんですよ。当時はまだ2曲しかなかったから、30分のセットになると本当にガチ即興みたいになって。いい意味でも悪い意味でもまとまりがない感じだったんです。今回は、同期を使う曲と使わない曲があってもいいかもねって話してます。

――Abletonで作られた音楽が、ライブでフィジカルな演奏と一緒に鳴るのは楽しみです。

梅井:ピアノと歌だけの曲もあるので、音数の多い/少ない曲を行き来できる。お客さんにもちょうどいいバランスで聴いてもらえるんじゃないかな。あと、連弾もしたいです。ビルボードライブには、せっかくいいピアノがあるので(笑)。


――ビルボードライブは、普段のライブハウスやクラブとは少し違って、じっくり音楽を観たり聴いたりできる場所でもあります。お客さんにはどんなふうに過ごしてもらいたいですか?

梅井:以前ソロでライブした時、MCで「あぐらをかいてもいいですし、ちょっと眠たくなっても大丈夫ですし、立って聴いてもいいですし」みたいなことを言った記憶があって。ビルボードライブであぐらはあまりいないと思うんですけど(笑)、要するに楽しみ方は人それぞれでいいってことを言いたかった。自分の好きな形で楽しんでもらえたら嬉しいです。

――ちなみに、お二人が初めてビルボードライブに行かれたのはいつですか?

梅井:高校生の時にロバート・グラスパーをビルボードライブ大阪へ観に行ったのが最初ですね。未成年だったので一人では行けなくて、知り合いについてきてもらって。放課後に学校が終わって、そのまま大阪に行ったんです。高校生なんていないかもと思って、すごくドキドキしました。着いて演奏を聴いたらすごく高揚感があって。でも、その日ちょっとグラスパーが機嫌悪かったんですけど(笑)。

――そうなんだ(笑)。

梅井:そう。でも、それも含めてすごく楽しかった。「そうだよな、グラスパーにだって機嫌が悪い日はある」と思って、忘れられない一日になりました。

北村:私は冨田ラボさんのライブに出演した時が初めてだったんです。出演する側にとっても、ライブハウスとは違う雰囲気だしいつもと違う衣装を着たりするじゃないですか。いつものライブとは違った高揚感がありますよね。

――最後に、今後の°pbdbの展開について聞かせてください。

梅井:アルバムを作りたいね、とは話してます。でもEPを作るのに1年かかったので、アルバムは2年かな?(笑) それと、色んな作り方をしてみたくて。これは蕗ちゃんのアイデアなんですけど、譜面をコライトしていくとか面白そう。オーケストラまではいかなくても、弦カル(弦楽四重奏)の譜面を二人で書いて録音するとか。

北村:たぶん梅井ちゃんが書くものと私が書くものって全然違うと思うので、面白そうだよね。

――二人で、DAW制作だけじゃなく譜面も交互に書くと。それは楽しみですね。

梅井:面白そうですよね。あとは……なんだろう。そのうちシューゲイザーやるとか?

北村:うん、いつかやるかもしれない(笑)。


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