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<コラム>MILLENNIUM PARADE「Blue」が映す、型を超えた表現の最前線――常田大希とサヤ・グレー、ダニエル・シーザーとの必然の出会い



コラム

Text:柴那典

 MILLENNIUM PARADEが約2年ぶりとなる新曲「Blue」をデジタル・リリースした。

 TVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』のエンディング・テーマにも起用された新曲は、サヤ・グレーとダニエル・シーザーをフィーチャリング・ゲストに迎えた一曲。制作がスタートしたのは約3年前、2023年のことだという。

 常田大希はその頃から、新たな試みとして海外で様々なアーティストとのコラボレーションに携わってきた。いくつかの取材では、そのことについても明かしていた。雑誌『MUSICA』2023年5月号の表紙巻頭インタビューでは、LAとロンドンで約1か月にわたって様々なアーティストとセッションし制作してきたことについて語っている。筆者が行った雑誌『GINZA』2024年1月号の表紙巻頭インタビューでも海外での制作について触れていた。

 常田は、海外でのコラボレーションが自身にとってクリエイティブの新たな扉を開くような体験だったことを語っていた。それが、ようやく世に発表されることになる。


 「Blue」は常田大希とサヤ・グレーによる制作が開始され、そこからダニエル・シーザーが参加し完成したナンバーだ。楽曲はスペイシーで神秘的なアンビエントとピアノから始まる。ふたりの掛け合いのボーカルから、力強いビートが加わり、後半に向けて少しずつ熱量を上げ、約2分半という短い時間で様々なサウンドの表情を見せて展開していく。J-POPのAメロ、Bメロ、サビという曲構成でも、海外のポップ・ミュージックによくあるヴァースとコーラスからなる曲構成でもない。一筆書きのような構造になっている。とても挑戦的なプロダクションだ。この楽曲にどのようなケミストリーがあったのか、紐解いていきたい。

 サヤ・グレーは1995年、トロント生まれ。日本とカナダにルーツを持つシンガー・ソングライター/プロデューサー/マルチ・インストゥルメンタリストだ。The 1975、リナ・サワヤマ、ビーバドゥービーなどを擁するUKのレーベル「Dirty Hit」から2022年に初のプロジェクトとして『19 MASTERS』をリリースし名が知られるようになった彼女だが、そのミュージシャンとしてのキャリアは長い。10代の頃からベーシストとしてキャリアをスタートし、トロントのジャズ・シーンでの活動を経て19歳でロンドンに移住してからはプレイヤーとして頭角を現す。ウィロー・スミスの音楽監督、ダニエル・シーザーのツアーバンドのベーシストを務め、ワールドツアーにも帯同している。

 ダニエル・シーザーは1995年、トロント生まれの男性シンガー・ソングライター。現代のR&Bシーンを代表する才能のひとりだ。2017年のデビュー・アルバム『Freudian』でブレイクを果たし、H.E.R.をフィーチャリングした収録曲「Best Part」はグラミー賞で最優秀R&Bパフォーマンス賞を受賞。多くのアーティストとコラボレーションも繰り広げ、客演に参加したジャスティン・ビーバー「Peaches」では自身初の“Billboard Hot 100”首位、つまり全米No.1を記録している。現在はニューヨークを拠点に活動し、2025年10月にリリースした最新アルバム『Son of Spergy』は、ボン・イヴェールやサンファ、ブラッド・オレンジらが参加したゴスペル色の強い内省的な作品。パーソナルな主題のアルバムでありながら、評価だけでなくセールスも大きな成果を収め、米国BillboardではR&Bアルバム・チャートで1位、総合アルバム・チャートの“Billboard 200”でも4位となり、キャリア最高位を更新している。


Peaches ft. Daniel Caesar, Giveon / Justin Bieber


 それぞれの属するシーンや活動拠点は違うが、サヤ・グレーとダニエル・シーザーはともにカナダ・トロント出身、1995年生まれのミュージシャンであるというのもポイントだ。単なるツアーバンドのベーシストというだけでなく、同郷で同世代のアーティストとしての深い信頼関係で結ばれている。だからこそ、「Blue」の制作セッションでは、サヤ・グレーが常田大希とダニエル・シーザーを引き合わせる役割を果たしたわけだ。


 サヤ・グレーは、2023年から2024年にかけて実験的なスタイルによる二部作のEP『QWERTY』『QWERTY II』を、2025年にデビュー・アルバム『SAYA』をリリースしている。どちらかと言うとサウンド・コラージュ的な手法やベッドルーム・ポップの要素も強かったそれまでの作品に対して、『SAYA』はシンガー・ソングライターとしてのアイデンティティを強く打ち出した作品。音楽的な方向性もインディ・フォークが主軸になっている。彼女自身、インタビューでは制作にあたってジョニ・ミッチェルから多大な影響を受けたことも語っている。


 そして、彼女が重視したアイデンティティが、自らのルーツである日本の要素を掘り下げることだった。『SAYA』には箏も多用されている。アルバムのアートワークは歌舞伎の舞台に立ち、三味線や箏を奏でた曾祖母の存在からインスピレーションを受けているという。



H.B.W / Saya Gray


 母親の影響で日本のポップ・ミュージックを聴いて育ったサヤ・グレーは、もともと2022年の時点でmillennium paradeをフェイバリットの一組として挙げている。常田大希との出会いも必然的なものだったのだろう。様々な楽器を演奏するマルチ・インストゥルメンタリストであり、セルフプロデュース型のアーティストでもあるサヤ・グレー、ダニエル・シーザー、常田大希が互いに与えた影響も大きかったはずだ。


 振り返ってみれば、ダニエル・シーザーもサヤ・グレーも、2025年に自身と深く向き合い、パーソナルなアイデンティティを表現したアルバムをリリースしている。ダニエル・シーザーは商業的な成功、サヤ・グレーは批評的な評価とキャリアの転換点を手にした、意義深い作品となっている。


 両者の存在は、ジャンルの枠組みを超え、研ぎ澄まされた感性で内面を表現するポップの最前線の象徴と言ってもいい。MILLENNIUM PARADE「Blue」のコラボレーションからは、そんな音楽シーンの今を読み解くこともできる。


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