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<インタビュー>遊びと仕事の間に――chilldspot比喩根&小﨑の読書と音楽創作【WITH BOOKS】

Interview & Text:上野三樹
Photo:橋本若奈
書籍や文筆と縁深いアーティスト、また音楽と縁深い作家へ、自身の書籍や音楽との関わりについて訊くインタビュー企画【WITH BOOKS】。今回は東京出身の3人組バンド、chilldspotから比喩根(Vo. / Gt.)と小﨑(Ba.)が登場。メンバー全員2002年生まれで、多様なジャンルの音楽をシームレスに吸収してきたZ世代。R&B/ソウルをベースに独自の感性で新たな色彩に満ちた作品を生み出し続けている。音楽のみならず、本もカルチャーとしてジャンルレスに楽しんでいるという彼らに、日常的にどのように読書をしているか、それをどのように音楽に落とし込んでいるかを聞いてみた。
本にハマるきっかけとなった一冊
――お二人はバンド内でも本好きとのことですが、どんなジャンルの本を読みますか。
小﨑:ジャンルはかなりバラバラですね。音楽と同じで、その時の気分で選ぶことが多いです。一時期は「モキュメンタリー(ドキュメンタリー風のフィクション作品)」をよく読んでいました。『近畿地方のある場所について』(著者:背筋)のような、モキュメンタリーのホラー小説や都市伝説系の作品とか。ほんわかしたエッセイとかも好きですし、『方舟』(著者:夕木春央)や『爆弾』(著者:呉勝浩)といったミステリーとかサスペンスも。音楽と同じで、特定のジャンルに縛られずに読むのが好きなんです。
比喩根:私は小説も読みますが、自分で探して読むには少し敷居が高いと感じていて。どちらかというと漫画が好きでよく読んでいます。
――いいエピソードですね。漫画は紙で読まれますか?
比喩根:今は電子派です。以前は実家に400〜500冊くらい漫画があったんですけど。一人暮らしを始めて引っ越す際、段ボール箱のあまりの重さに「これは腰を痛めてしまうな」と(笑)。今はそこから厳選した100冊くらいに絞って、あとはスマホの漫画アプリをフル活用しています。移動中に何百作品も並行して読めるのは、電子ならではの利便性ですよね。
――比喩根さんは漫画を常に何作品も並行して読んでいるんですね。
比喩根:そうですね。学生時代は週1とか定期的に本屋に足を運んでジャケ買いしたり、持ってるお小遣いでいかに漫画をたくさん買うかということをしていましたけど。今は漫画サブスクのアプリをスマホにたくさん入れていて、読むのは移動中が多いんですけど、気になった作品を試し読みしながら楽しんでいます。最新話が更新される曜日がサブスクによって違うので、いくつか使い分けることで毎日のように好きな作品の最新話が読める状態になっています。みんなが日常的にSNSを開くような感覚で、私は漫画アプリを開いているので、飽きずにいくらでも読み続けられます(笑)。漫画サブスクによっては初回無料、全話無料というものもあるので、面白かった作品は本を買ったり電子を買ったりしています。
――無料で読めたとしても、好きな作品にはちゃんとクリエイターに返したいと。
比喩根:そうですね。無料で読める漫画アプリは便利ですが、本当に応援したい作品や気に入った作品は、後からあらためて電子や単行本で購入し、クリエイティブに対して返したいという想いが強いです。
――では、お二人が本にのめり込むきっかけとなった1冊を教えてください。
小﨑:僕は綾辻行人さんの『十角館の殺人』です。初めて読んだ時、「本でしかできない演出、本ならではのトリック」があることに衝撃を受けました。そこからミステリーというジャンルの面白さに目覚めた気がします。僕は犯人を自分で見抜きたいというより、わからないまま読み進めて純粋に衝撃を味わいたいタイプ。ドラマ化もされましたが実写不可能と言われていた作品だったので、どう再現されるのか気になってすぐに観てしまいました。
――今回、お持ちいただいた本はまた全然違うジャンルなんですね。
小﨑:はい。これは最近、カバーのデザインが可愛くて手に取った『ねこ構文アレルギー』(著者:余暇ユメ)というエッセイ集なんですけど。中身も面白くて、冒頭で「猫と本を組み合わせるという風潮が、おしゃれを醸し出すチート感があって気に入らない」とバッサリ書かれていて(笑)。そういうちょっと捻くれた視点が綴られているのがライトで読みやすくて、寝る前に少しずつ読むのにぴったりでした。
――一方、比喩根さんも本にハマったきっかけはサスペンス小説だそうですね。
比喩根:はい、私は宮部みゆきさんの『レベル7』です。圧倒的な分厚さなのに、最後まで飽きさせない技巧が凄すぎて。小説ならではの没入感を教えてくれた作品で、そこから宮部さんの他の作品もいくつか読みました。
――漫画にのめり込むきっかけとなった1冊は?
比喩根:『あげくの果てのカノン』(著者:米代恭)です。初版が2016年なので私は13歳、中学生の時にジャケ買いしたんですけど。SF×恋愛みたいな物語で、エイリアンと戦っているヒーローのような戦闘員がいるんですけど、その戦闘員は体の一部を失っても「修繕」という機能で体が元に戻るんです。ただ、その反動で思考とか行動がちょっとずつ変わっていっちゃうという影響があって、その戦闘員である高校の先輩にずっと片想いしているメンヘラ女子が主人公なんです。自分に見向きもしなかった先輩が戦闘によりどんどん変わっていっちゃって、この人は本当に憧れていた先輩なのかわからなくなるんですけど、好きで恋心が止められなくて、でも実は奥さんがいて……というドロドロ具合なんですけど。全5巻で話がまとまっていて飽きないので、多分、人生で一番、繰り返し読んでいる漫画です。大人になった今読んでも、このドロドロ具合を大衆が読めるギリギリのラインで書くのが上手いなと思いますね。自分の好みだけを詰め込みすぎちゃうと売れなくなるけど、そこに理性を入れることで誰が聴いても良い音楽になるみたいなことに似ている気がします。
- 「読書が音楽制作に与える影響は?」
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読書が音楽制作に与える影響は?

――その後もたくさん漫画を読まれていますが、好きな作品に共通していることって何かありますか。
比喩根:漫画でも小説でも、惹かれる作品に共通しているのは「主人公たちの思考がはっきりしていること」なんですね。例えば、キャラクター同士がぶつかった時に、単なる力勝負ではなく「この人はこういう理念のもとに動いているんだという背景や哲学が見えてくるような。そんな芯のある人たちの物語が好きなんです。以前読んでいた『ブルーロック』(原作:金城宗幸/作画:ノ村優介)も、それぞれの戦い方の哲学や脳内の思考が描かれている点に惹かれていました。
――なるほど。そうした読書体験がchilldspotの楽曲制作に影響を与えることはありますか。
小﨑:僕は、音楽は音楽からしか影響を受けないタイプなので、読書はあくまで純粋な楽しみ、遊びとして切り離しています。仕事に繋がると思って読むと苦しくなっちゃうので(笑)。
比喩根:私は漫画や小説の中で出会った素敵な表現や言い回しを、スマホのメモ帳にストックしています。例えば「薄いコートのような疲労を纏い」という一文を見つけて「これいいな」とメモしたり。直接的にその言葉を使うわけではないですが、そこから自分の中の語彙や表現の引き出しが増えるのが純粋に嬉しいんです。難しい単語を一つ使ってみたくなったり、歌詞の風景描写のヒントにしたりと、細かい部分で影響を受けていると思います。
――chilldspotと漫画との関わりで言うと、鳥飼茜先生の「サターンリターン」とのコラボレーション楽曲「ひるねの国」の制作も大きな経験だったのではないでしょうか。
比喩根:元々、鳥飼先生の作品が大好きだったので、このお話をいただいた時は本当に嬉しかったです。いつも以上に作品に深く入り込んで読み込みました。歌詞は、漫画に比べると圧倒的に文字数が少ないので、この世界観の核って何なんだろうということを、すごく考えました。この制作を通して、鳥飼先生と対談させていただいたり、その後でご飯にも行かせていただいたりして、自分の解釈を先生に伝えて答え合わせができたのは、ファンとして最高に幸せな体験でした。先生は非常に知的な方ですが、漫画家さんらしい独特の感性も持っていて、お話ししていて本当に刺激的でした。
chilldspot - ひるねの国(Music Video) | 漫画『サターンリターン』MMV
――比喩根さんは他のアーティストに楽曲提供される時も、その方に合った物語を生み出されていると感じますが、楽曲提供の際に大切にされていることは?
比喩根:adieu(上白石萌歌)さんや坂本真綾さんに楽曲提供させていただいたんですが、その方のイメージや、直接お会いした時に感じた雰囲気を大切にします。坂本さんの「Anything you wanna be」は歌詞はご自身で書かれていますが、基本的には「この人にはこんなことを歌って欲しい」と言う私自身の願望も含めて、一から物語を紡いでいく作業です。こうした作詞の時も、スマホに書き留めているメモが活躍しています。
――chilldspotの楽曲は、歌詞とメロディも世界観を作る大事な要素ですが、イントロで最初の音が鳴った瞬間から、その物語に入り込むような感覚があります。最近では、制作方法に少し変化があったそうですね。
比喩根:はい、以前は私が中心となって楽曲を作っていましたが、昨年出したアルバム『handmade』あたりから、メンバー全員が作曲や編曲に深く関わるようになりました。プロデューサーを入れずに自分たちだけで舵を取るセルフディレクションの期間を経て、今はよりメンバー中心の、職人集団のような体制に移行しています。
――「Unbound」では小﨑さんのラップが入っていたり、『handmade』はアルバム全体としても攻めた内容になってるなと感じました。
比喩根:バンド内コンペのような手法で曲作りをしたんです。例えば小﨑くんが作ったトラックに対して、メンバー3人がそれぞれメロディを乗せて提出し、誰のが一番あっているかを聴き比べたり。「Unbound」では小﨑くんが書いたラップ部分を、私と玲山(ギター)が「声が良いから自分でやってよ」とお願いしたり。良いものは誰のアイデアでも取り入れるスタイルでやっています。でも最終的にはchilldspotのカラーに落ち着く。それはこれまでの活動で培われた信頼感があるからだと思います。
chilldspot – Unbound (Music Video)
――日々、本を読む習慣があるお二人が、Billboard JAPANの書籍チャートをご覧になって、いかがですか。
比喩根:昭和・平成・令和と年代別のランキングがあるのが、本当に素晴らしいと思いました。情報が多すぎる現代において、何を読めばいいか迷ってる人にとって「まずはこれ」と言う名作を提示してくれる、令和に優しいチャートだなと。見ているだけで「これ、タイトルが気になるな」とアンテナに引っかかる作品がたくさんありました。
小﨑:ジャンル別のランキングがあるのも助かりますね。自分好みの本を見つけやすいし、タイトルだけで引き込まれる作品も多くて。また新しい本を読みたくなりました。
――最後に今後のchilldspotの展望について教えてください。
比喩根:私たちは、熱血というより職人気質な集団だと思っています。いつ、どんなきっかけでバズったり売れたりしてもいいように、常に曲の質、ライブの質を高め続けていきたい。どこに出しても恥ずかしくない、誠実な音楽を作っていくだけです。
小﨑:僕はこれからも、やりたいことをやりたいようにやっていきたい。遊びや趣味の延長にある自由なクリエイティビティを大切にしていきたいです。
比喩根:5月20日には、メンバーによるセルフリミックスを含む新作EPもリリースしますし、これからも新しい音の物語を追求していきます。
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