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<インタビュー>結成10周年を迎えたLucky Kilimanjaro、体と心で踊れるEPを連続リリース

インタビューバナー

Text:高橋梓

 2024年に結成10周年を迎えた、6人組バンド・Lucky Kilimanjaro。10周年イヤーとなる今年も楽曲リリース、イベントやフェスへの出演など精力的な活動を見せている。そんな中、“心と体の両面を踊らせるデジタルEP”として、7月24日に“体で踊れるEP”『Dancers Friendly』、10月30日に“心で踊れるEP”『Soul Friendly』をリリース。これらの作品を作っていく上でどんな気づきがあったのか、どんな思いで作品を制作していったのか、作詞作曲を手掛けるボーカル・熊木幸丸にじっくり話を聞いた。

「この2つは表裏一体で、同じものだった」

――『Dancers Friendly』がリリースされて約3か月経ちました。反響はいかがですか?

熊木幸丸:今回、僕らの音楽をあえて「体で踊れる要素」と「心で踊れる要素」と分けて、『Dancers Friendly』と『Soul Friendly』という作品にしました。『Dancers Friendly』は体で踊れる要素を抽出したので、お客さんが踊ってくれるだろうという信頼がありつつも「どうなるかな」とは思っていたのですが、実際フェスなどで演奏すると初めて聴いたであろう人たちも楽しそうに踊ってくれていて。まずは一安心でしたね。僕が意図した……、いやそれ以上だったと思います。新曲は浸透するまでに時間がかかるものですが、それを超えて楽しそうにしてくれていたので良かったです。


――直感的にノれる楽曲も多かったですもんね。ちなみに、心で踊れる要素、体で踊れる要素を分けようと思ったのはなぜだったのでしょうか。

熊木:結成10周年ということもあり、「自分が表現していることを分解するとどうなるんだろう」と思ったのがスタートでした。2020年以降は毎年春にアルバムを出すのがルーティンになっていたので、そこに対して新しい取り組みがしたいという気持ちもあって。アルバムって、基本的に1つのコンセプトに対して楽曲を構成してくのが僕の作り方なんですね。でもそれだと1つのアイデアしか出せないんです。でも1つのコンセプトを分解してみると2作品作れるな、と。それに、10年間やってきた「僕のやりたいこと」って何なんだろうという振り返りのような部分もありました。


――以前、一つの作品を作り終えた時に「もう何もでない」という状態になると仰っていたのを拝見したことがあったので、その流れもあったのかと思っていたのですがそうではないのですね。

熊木:そうですね。どちらかというと自分の興味から生まれた取り組みでした。あとは、10年後にどんな音楽がやりたいのかを自分でしっかり見つけておきたいな、と。解像度をあげておこうと思って分けたというのもあります。





Dancers Friendly [Official Visualiser]


――心で踊る、体で踊るの違いはどう捉えられていたのですか?

熊木:そういう分け方をしたのですが、2作品作って最終的にわかったのは「この2つは表裏一体で、同じものだった」ということなんですよね。踊り方の違いはあるかもしれませんが、分けられるものではなかったというか。心に反応して体が踊るし、体に反応して心が踊るし。不可分なものを分けようとしていたと気がつきました。今回、『Dancers Friendly』を作り終えてから、『Soul Friendly』を作り始めたんです。でも『Dancers Friendly』を作り終えた時点で、「これ、分けられないかも」という感覚があって。「まあ、1回やってみよう」と『Soul Friendly』に手を付け始めましたが、最初の方で「あ、やっぱ違かったな」と思いました(笑)。


――一つのものを視点を変えて見た、というイメージですね。とはいえ、分けて考えて制作を進められたと思うのですが、制作方法に違いが出たり?

熊木:サウンド感や歌詞のイメージは漠然と分けたはずなんですけど、結局分けられないものだったので、自分でも「どうやって分けたんだろう」と思っています(笑)。作る手法的には大きく変えていないかなと思います。サウンドのイメージが違うので、楽器の内容を変えるなど少し調整した部分はありますが、基本的な僕が思う音楽の美しさや楽しさ、作る時の気持ちは変わらなかったです。



――この2作品の制作期間はどれくらい離れていたのですか?

熊木:『Dancers Friendly』のマスタリングが終わってすぐ、『Soul Friendly』の制作に入りました。でも、『Dancers Friendly』の制作期間中にもアイデアの断片みたいなものはありましたね。『Dancers Friendly』を作り終えて、「違うモードに入りたいな」と思っていたので準備はできていました。


――たしかに『Dancers Friendly』が終わった時点で「4つ打ちの曲はもう作りたくない」と仰っていたインタビューを拝見しました(笑)。

熊木:そうなんです(笑)! 作りたくないと思っていたんですけど、いざやってみると作りたくなったんですよね。そこがやはり不可分なんだな、と。一番最初だけ「4つ打ちの曲は作らない」という制限を設けようと思ったのですが、すぐに止めました。それって本質的に作品を作ることではないですし、自分が思う『Soul Friendly』を作ろうと思って。『Dancers Friendly』を意識しないで作りましたね。


――出来上がった『Soul Friendly』には6曲収録されていますが、この6曲はどういう基準でチョイスされたのでしょうか。

熊木:メンバーの気まぐれです(笑)。あとは、メンバーが強く反応したものを選ぼうとしましたね。うちは曲を決める時に採点方式なんですね。メンバーに「全然よくない」、「まあまあ」、「めっちゃいい」で選んでもらって。「まあまあ」が多いのはだれの心にも響いてないってことなので、よくないよね、と。なので、「めっちゃいい」がしっかりとあるものを選びました。その中にはメンバー何人かが「全然よくない」と評価したものもありますけど、みんなが「まあまあ」を選んだ曲よりも人の心に刺さっているという判断です。一部、僕のゴリ押しで入れた曲もありますけどね(笑)。


――「全然よくない」と思うメンバーの方がいるのに、聴くとちゃんとラッキリの音楽になっているのが不思議です。

熊木:全体のディレクションは僕がやりますしね。でも、最初はわけがわからないですよ(笑)。「あれ、俺が思ってんのと全然違うな」、みたいな。そこから話しながら直していって完成させています。


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  1. “心で踊れるEP”『Soul Friendly』
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“心で踊れるEP”『Soul Friendly』

――そして、今作のリード曲「メロディライン」はダンスミュージックらしいリフレインで構成されています。このアプローチになった理由はなんだったのでしょうか。

熊木:アプローチ自体が面白いと思ったというより、このメロディとビート感を活かすにはそれしか取り得なかったというか。必然性があって、結果として同じメロディをループすることがこの曲にとってベストだったという形です。メンバー間でも「これが今のラッキリらしいね」、「面白いね」という結論でした。なので、自分たちが今一番提示したい音楽である「メロディライン」をリード曲にしました。


――そして、1曲目の「LIGHTHOUSE」はこのEPの幕開けを感じさせるような1曲です。

熊木:ライブハウスやクラブで踊っている時、その空間の一つとして自分が存在していいと思える瞬間がって。その瞬間って愛に溢れているんですね。そういう「愛を感じられる空間」をLucky Kilimanjaroも作っていきたいと思っていますし、それがダンスミュージックの魅力だと思っていて。そういったことと僕の考えが融合されたメッセージが、シンプルにこの曲に詰まっています。


――2曲目の「フロリアス」は、健康を大切にしているラッキリらしい曲というか。

熊木:僕らは健康大事バンドですからね(笑)。そもそも、みんな寝なさすぎ、食べなさすぎ、SNSをやり過ぎなんです。しっかりと寝て、食べて、SNSは程々にして、お風呂に入ることが大事だ、と。あたり前のことなのに見過ごされている感じがあって、納得いっていないんです。なので、「もっと普通にお風呂に入って、ご飯を食べて、寝な!」ということを歌にしました。これは“フロの精霊”こと、メンバーでもありパートナーでもある大瀧真央さんに歌ってもらっていますが、最初から歌ってもらおうとは思っていなくて。作っていくうちに「これは俺が歌わないほうがいい」となって歌ってもらいました。その方がみんなの心にお風呂の重要性が届くんだろうなって。



――3曲目の「恋あおあおと」は恋愛がテーマなのでしょうか? こちらはどういった経緯で出来た曲なのですか?

熊木:まず僕の中で恋愛に限らず、恋と愛はかなり違うもので。恋は何かに惹かれて求め続けること。愛はお互いを認め合うこと。その前提のもと、「恋あおあおと」は自分に突然生まれた「何かを求めたい」という気持ちや心の揺れなどをすべて肯定して楽しむものだ、ということを歌っています。なので、このEPの中だと少し異質ではあるんですよね。『Dancers Friendly』寄りの、“求める”曲というか。ただ、「心の動きを認める」という意味では『Soul Friendly』にも合うと思って収録しましたね。


――とりわけ「踊る恋をあるがまま」というリフレインが印象的ですが、どんな意味が込められているのでしょうか。

熊木:例えば好きなことをやる時に、世間体や自分のキャラなど何か弊害が起きて、止めてしまうこともあると思うんです。そうやって恋することーー何かを求めることを中断したり、質量を減らしてしまうことってすごく嫌だなって。「そういうのやめませんか?」という意味で、〈あるがまま〉と書きました。「コスパとかタイパとか将来とかいいから、恋してるなら恋しろや」という意味を込めています(笑)。


――なるほど。次の「いつもの魔法」はスローナンバーです。「踊る」にどうアプローチしようと思われたのでしょうか。

熊木:一般的なお客さんはこういったタイプの曲は「ダンスしないミュージック」だと思っているかもしれないですね。でも、僕の中ではハウスミュージックやテクノミュージック、ダンスミュージックが踊れる音楽というわけではないんです。どんな音楽でも踊れると思っていて、踊るという言葉をかなり広い定義で捉えているんですよね。そういう前提のもと、「いつもの魔法」のような曲でどう踊らせていくかということを考えています。こういった日常の幸せに触れて笑顔になることもダンスだよね、という感覚で作りました。


――続く「コーヒー・セイブス・ミー」は、個人的に一番「心で踊る」ということが伝わってきました。

熊木:あー、なるほどです。僕、誕生日プレゼントを人にあげる文化がなかったんですよ。無駄だなと思っていて、ずっとやってこなかったんです。でも、軽はずみな勢いであげ始めたんですね。そうしたら、あげるという行動そのものが良くて。行動そのものに光を感じるってすごいな、と。これって何でなんだろうと、いろいろな書籍を読んでみると「誰かに何かを差し上げる」という考え方そのものが愛だと気がつきました。コーヒーを誰かに淹れてあげる、奢ってあげるということが愛の完全な形だと思うようになったことから着想を得ました。


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「誰がいてもいい状態、全員自由に踊っていい状態」

――ちょっとした気づきをめちゃくちゃ深堀りされている……。もともとそういうタイプなのですか?

熊木:違いますよ(笑)。でも、作品をクリエイトしていく中で、心の動きに対して歌詞を書くことが多いんですよね。なので、自分の思っていた価値観ってなんだったんだろう、行動の外側に何かエネルギーがあるのかなと気になってしまって。とりあえず本を読んでいます。でも、それは僕自身がわかっていないからなのかも。わかっている方からすると「何を今さら!?」って思うかもしれない。でも、それも僕らしいかなとは思っていますけどね(笑)。


――素敵な考えです! そして11月からは【Lucky Kilimanjaro presents. TOUR “YAMAODORI 2024 to 2025”】がスタートします。これまでも【YAMAODORI】ツアーは行なわれていますが、今年はどうなりそうでしょうか。

熊木:去年の【YAMAODORI】は僕の中で「コロナ禍が明けましたね。みなさん、1回体で喜びを表現してみませんか?」というイメージだったんですよ。今年は『Soul Friendly』があるので、心の傷つきやモヤモヤが癒える感覚、誰かが一緒にいてくれる感覚 というダンスミュージックの一番素晴らしいところを出しつつ、『Dancers Friendly』のマッシヴな部分も出しつつ、心と体が表裏一体だったというところまでデザインしたものを届けたいです。でもお客さんはそんなことを考えず、来た曲に対して自分の心を開放してもらえればいいかなって 。


――ラッキリは大きなフェスにもたくさん出演されていますよね。「Burning Friday Night」のバズりもあって、オーディエンスに変化を感じていたりもするのでは?

熊木:いろいろなお客さんが入ってきたなとは感じるようになりましたね。それは僕が思う形というか。年齢も関係ないですし、「ダンスミュージックなんて知らんがな」という人、逆にダンスをやっていた人と、誰がいてもいい状態、全員自由に踊っていい状態を良しと思っているんです。なので、今後も皆様のご来場をお待ちしております(笑)。



――これまで行っていなかったアーティストのライブに行くって、ちょっとしたハードルを感じてしまう人もいると思うんですね。そういう方にひと言ください!

熊木:それって、僕らの仕事なんですよ。お客さんが楽しいと思えるようにするのって、演者の仕事なので、こっちの仕事を奪わないでほしい(笑)。勝手に解決しないで! 不安な気持ちを持っていても、「曲を知らないけどいいのかな」と思っていても、いいんです。


――仰るとおり! 自己解決をするな、と(笑)。ラッキリは10年間「踊りましょう」というメッセージを発信してきているので、それを理解してくれているお客さんは自由に踊っていそうですね。

熊木:そうですね。「ダンスは自由です」とライブで言い続けてきた意味がありました。これだけお客さんが好きなように楽しめるようになったのは、続けてきたからなのかな、と。


――【YAMAODORI】でも自由に踊るオーディエンスの姿が楽しみですね。では最後に、今後の目標や展望を教えてください。

熊木:やはりダンスミュージックが誰かの居場所、安心して楽しめる場所、社会の中で傷付いたら戻ってこれる場所にしたいですね。そのためのダンスミュージックを書き続けていきたいです。僕個人は……何でもいいかな(笑)。ずっと言っているのですが、自分がやっていることに飽きない、人生に飽きないようにするだけですね。


――飽きないようにするために何かされていたり?

熊木:やりたいことを全部メモっています。例えば「この展覧会行きたい」と思ったらメモる。「このホテルの景色がきれいだな」と思ったらメモる。そうやってやりたいことを貯めて、日々お風呂に入って、ご飯を食べて、寝る。これに尽きます。


――お手本のような生活ですね。熊木さんって、オフの日は何をされているんですか?

熊木:奥さんとご飯を食べに行って、ベロベロに酔っ払って帰ってくるのが一番多いです(笑)。大瀧さんは行動的なので、行きたいところをいっぱい投げてくれるんですよね。それ以外だとゲーム。『Balatro』というポーカーゲームにハマっています。……今、ポーカーって聞いて「ちょっと私違うかも」って思いましたよね?


――はい(笑)。

熊木:めちゃくちゃ面白いんです! ローグライクポーカーというジャンルなんですけど、皆さんにぜひやっていただきたい。クリアするための得点を目指していく中でカードの構成を変えられるんですよ。極端に言えば、全部キングにも変えられるし、ファイブカードとか本来ない役も作れるし。


――え、面白そう。

熊木:ですよね? こっちが勝手に役を作れるからすごく面白いんですよ。


――でも、頭を使いそうなゲームですね。

熊木:そういうゲームが好きですね。昔はFPSゲームをやっていたんですが、あれはスポーツができる人が得意なゲームなんですよね。だから僕には向いていなくて。やっていて楽しいのですが、「俺、これをうまくなるためには音楽辞めないとダメだ」って思ってしまって(笑)。


――それはまずい(笑)! でもお好きなゲームを聞いて、なんとなく楽曲の構成の仕方に繋がっている気がしました。

熊木:そうかもしれないです。「こうやったら一番面白くなるんじゃないか」と考えるのが好きなんですよね。そこが作品づくりにも繋がっているのかもしれません。皆さんにはぜひラッキリの新作を聴きながら、『Balatro』をやっていただきたいですね(笑)。


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