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<対談インタビュー>由紀さおり×Shiho、コンサート【魅惑のジャズ・ヴォーカル】を開催 歌手としての在り方を語る



9月17日から11月14日まで、川崎市全域で開催中のジャズ・フェス【かわさきジャズ2021】の一環として、コンサート【魅惑のジャズ・ヴォーカル】が11月3日にカルッツかわさきで開催される。阿川泰子、Shiho、May J.、由紀さおりの4人のシンガーを中心に、ゲスト・シンガーとして藤澤ノリマサと牧野竜太郎を迎え、演奏は佐山こうた(ピアノ)、三好”3吉”功郎(ギター)、井上陽介(ベース)、大坂昌彦(ドラムス)という日本を代表するジャズ・ミュージシャンが担当する。

出演者の由紀さおりとShihoのお二人に、音楽やジャズとの関わりからステージでの心構え、歌手としての信条、そしてコンサートの展望などをたっぷり語ってもらった。

ジャズやポップスの出会いと向き合い方

▲左から:由紀さおり、Shiho

――まずは、お二方と音楽、ジャズやポップスとの出会いについてお伺いしたいと思います。

由紀さおり:父の仕事の関係で横浜の鶴見という町に引っ越しました。そしたら、私たちの家の前の小学校で「ひばり児童合唱団」がオペレッタのお稽古をしていたんです。それがきっかけでまず、姉(安田祥子)が合唱団に入り、その後私も合唱団に入って、中学三年まで在籍していました。そして「ひばり児童合唱団」がコロムビア・レコードからキング・レコードに移籍するときに“大人の歌い手になりたいのなら道筋をつけるから一緒に移籍しないか”と言われて私もキングに移ったんです。それで“どんな歌い手になりたいか”と訊かれたとき“ポールとポーラとかコニー・フランシスとか、アメリカン・ポップを日本語で歌うことをしたい”と答えました。そしたら“今までは合唱団で日本の歌ばかり歌ってたんだから、アフタービートを覚えなくちゃだめだ”ということでジャズのお稽古に通うようになったんです。それがジャズとの最初の関わりですね。

――それは中学生から高校生のころですね?

由紀:そうですね。まず、曲を覚えなくちゃというんで、「センイチ(1001)」というジャズの曲がたくさん載っている曲集を手に入れてね、「A」のところから覚えていきました。最初に覚えたのは「オール・オブ・ミー」という曲です。1年ぐらいお稽古に行って、30曲ぐらい歌えるようになったのかな。そしたら先生が“ジャズというのは僕のところで歌っても上手くならないんだよ、客前で歌って体に曲を入れていくのがジャズなんだよ”とおっしゃったんですね。それで、浜水俊朗さんがリーダーだったゲイ・スターズが入っていた銀座のキャバレーで、ダンスもできるお店に出るようになりました。高校生になるかならないかのころで、6時半からと7時半からのステージがあって、8時にはお店を出なくちゃいけなかったんですけどね。4曲ぐらいしかフルバンドの譜面がなくって、ダンスを踊りたいお客さんがいらっしゃる時にはフルバンドの曲をやらなくちゃいけないんですが、そうじゃないときは自分のメモリー帳に書いた、例えば「ティー・フォー・ツー」や「アフター・ユーヴ・ゴーン」をやらせてもらえたんです。そのとき、イントロは4小節だとか、サックスのソロの後にサビから入るとか、ステージの上でどんどん変わっていくんですね。それがほんとに怖かったけど、ずっと後でピンク・マルティーニと共演したときに、その頃の経験がすごく生きたんです。

――ではShihoさんの音楽との出会いは?

Shiho:レコードがたくさんあった家で、歌うのは大好きだったんですけど、歌手になろうとは思ってなかったですし、音楽との出会いはピアノだったのかもしれませんね。家にはピアノがなかったんですけど、祖母の家にピアノがあって、それを弾くのが大好きでした。通りに面した部屋にピアノがあって、習ったこともないからめちゃくちゃ弾くわけですよ。それで、私は家にあった電話が載っているワゴンをピアノに見立てて“家にピアノがあるからおいでよ”って友達を誘ったらしいんです。その友達が来て“どこにピアノがあるの?”と訊いたら、私が“そこにあるじゃん!”て答えたのを親が見ていて“こいつはピアノを習わせないとまずい”と思ったみたいなんですね(笑)。最初はヤマハ音楽教室に行ったんですが、譜面通りに弾くのが嫌だったんですね。それを知ったクラシックの先生が“あなたはジャズをやった方がいいかもしれない”と言ってくれたんです。中学生か高校生ぐらいだったかな。それで知り合いのつてで、ブルー・コメッツのキーボードの小田啓義さんに習うことになりました。それでね、小田先生が“歌やったら?”とおっしゃったのが、私が歌を始めたきっかけなんです。19歳のときでした。

――ジャズのボーカルを、プロになった最初からやったわけですね。

Shiho:そうなんです。初めて会う恐ろしいジャズのおじさまたちと共演するわけですよね。わざとわからないように難しいイントロを弾く人とか。今はそういう人はいなくなりましたけど、ぶっつけ本番でそういう感じだったので鍛えられましたね。初めて会う怖い人といきなり本番で泣いて帰る、ということもよくありました(笑)。

――ジャズの現場っていうのは、いきなりやらなくてはいけないということが多いんですね。

由紀:入念にリハーサルをして積み上げていく、ということではなく、フレキシブルな自由な感覚というのかしらね。オレゴン州ポートランドのピンク・マルティーニと共演しましたけど、リーダーのトーマス・ローダーデールというピアニストはクラシックのピアノから始めて、ポートランドの市長になろうとして政治学を専攻したけど、つまらなくなって芸術専攻の人たちと一緒に音楽をやってワイワイ騒いで、政治学の寄宿舎には一度も戻らなかったらしいんですね。トーマスも、自由にその場の雰囲気に合わせて音楽をやる、というのが生きがいなんです。

――ピンク・マルティーニとのステージはどんな感じでしたか?

由紀:ピンク・マルティーニと一緒のツアーでは、始まる30分ぐらい前に今日はこれをやりますよ、ってセットリストが出るんだけども、そのとおりにやったことがないんですよ(笑)。彼の頭の中の構成にお客さんが付いてこないと思ったら、その場でテンポも変えるし曲順も変えるし。メンバーの誰も譜面を見ていないし、ドンカマ(リズム・ボックス)をヘッドフォンで聴いてリズムを合わせて、なんてことももちろんしていません。ピンク・マルティーニは一度ツアーに出ると6か月ぐらい世界を回って寝食を共にしているから、トーマスの一挙手一投足で、彼が何を今やりたいかが全員分かるんですね。例えば二曲をMCなしで繋げるときの、拍手をもらって次の曲が出る時のタイミングがものすごくいいの。トーマスはお客さんの様子を見てテンポ感やタイミングを変えるのがすごく上手いんです。“音楽ってやっぱりこれだな”って私はすごく思いました。

日本で今のバックバンドで始めたときに“譜面を暗譜してね、ドンカマは使わないわよ”と伝えましたが、みんな緊張しちゃってだめなんですね。なので“譜面は見ていいけどドンカマは使わない、そして始まる前のドラムの「ワン・ツー」というカウントもやらない、拍手を切って曲を始める場合のタイミングを研究してほしい”ということを、私はものすごく言いました。今はいろんなことが便利になっていますけど、やっぱり舞台上でアイコンタクトでその場を変えていく、ということが大事なんだということを、ピンク・マルティーニと共演して改めて思いましたね。

――Shihoさんはステージづくりで心がけていることはありますか?

Shiho:事前リハをみっちりやってショーを作って、ということを私がやっているライブではあまりないので、その場での出来事を楽しむ、ということになりますよね。その中で、由紀さんがおっしゃったように、ひとつのステージの流れというのがすごく大事なんですね。サポート・メンバーというのは一緒にショーを作り上げていくという感覚が少ないので、与えられた曲をやる、ということになりがちだと思うんです。拍手をもらうタイミングを考える、というような由紀さんのお話を聞きますと、バンドの方々はすごくいい経験をなさっていると思います。私の場合はその日に起きたハプニングを楽しんで、それを、ステージを盛り上げるのにどう使うかということを心がけていますね。

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【魅惑のジャズ・ヴォーカル】への思い

――ここで、当日お二人が歌う曲について教えてください。

由紀:「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥー」は、ピンク・マルティーニとの『1969』のあとに、ジャズを日本語で歌うという企画のアルバム『スマイル』を出した時の曲です。私はずっと日本語で歌ってきていて、日本語ということにこだわっているので“この曲はこういう意味なのよ”ということを日本語で歌うことでお伝えしたいと思っています。「恋に落ちないように」は、フランシス・レイが私のために書いてくれた曲です。「爪」は、平岡精二さんというヴィブラフォンの方がペギー葉山さんのためにお書きになった曲で、ペギーさんのお別れの会のときに“先輩の歌を歌っていいですか?”とマネージャーさんに聞いて“ペギーが喜びます”と言っていただけた曲です。「愛は花、君はその種子」は、ベット・ミドラー主演の映画『ローズ』の主題歌です。この曲はジブリの映画『おもひでぽろぽろ』の主題歌にもなって、監督の亡くなられた高畑勲さんが訳詞をなさったんです。それを、ご了解をいただいて歌わせていただいて、今は自分のレパートリーとして歌わせていただいています。若い世代の人たちへのメッセージとして、この曲の歌詞はとてもふさわしいのではとも思っていますね。

――Shihoさんは選曲についていかがでしょう?

Shiho:一曲はみなさんが知っているジャズ・スタンダードをということで「テイク・ファイヴ」をやることにしました。「Happy Song」は、私とギラ・ジルカというシンガーとが一緒に書いたオリジナルで、セカンド・ラインのリズムがとても楽しいので入れてみました。「Lawns」は私の大好きなピアニスト、カーラ・ブレイの書いたインスト曲なんですけど、歌詞があればいいのにと思っていたら、友だちのシャンティというシンガーが英語の歌詞を付けてくれたんです。それで許諾を取るためにいろいろあって、つてをたどってカーラさんご本人に聴いていただいたらすごく気にいってくださって“「Lawns」に新しい命を吹き込んでくれてありがとう”というメッセージをいただきました。

――さて、第二部はデュエットという企画ですが、藤澤ノリマサさんと由紀さんのご縁は?

由紀:仲いいですよ。まず、耳鼻科の先生が一緒ということがあります(笑)。あと、彼が悩んでいるのかなと思ったことがあって、高い声を喉に無理をかけて歌うと、聴く方も辛くなるので“必要があるときだけそうすれば”と、耳鼻科の先生と二人でアドバイスしたことがあります。ものすごく一生懸命で、ポップ・オペラというのかな、誰もしていない新しいことに挑戦していますね。

――Shihoさんのデュエットのお相手は牧野竜太郎さんですね。

Shiho:牧野くんとは一回しかお会いしてないんですよ。ステージをご一緒するのは今度が初めてで。シンガー同士って共演する機会が少ないし、私は男性歌手とは、TOKUとはよく一緒にやってますが、デュエットで歌ったことがほとんどないんですよ。ですので、とても楽しみにしています。

――ではコンサートに向けて、お客様にメッセージをお願いします。

由紀:いろんな人達とコラボしてステージを作り上げていく、ということがこの頃少ないので、1+1が10にも20にもなるような魅力的なコラボレーションになるようにしたいと思っています。参加するこちらにとっても、とても楽しいステージになると思いますので、お客様はもっと楽しんでいただけると思っています。そして、ジャズって堅苦しい音楽ではなく、みんなが楽しめる大人の音楽ですので、ぜひお出かけいただければと思っております。

Shiho:6人ものシンガーが一緒にやるジャズフェスの企画ってほとんどないので、私もとても楽しみです。今回は佐山こうたくんが音楽監督で、事前にいろいろな構成を考えてあるんですが、ジャズフェスでこういうことってまずないんですよね。ジャズフェスってバンドのライブがたくさんあるという感じですけど、今回はまさにコンサートですよね。あと、いつもはお客様に歌っていただくのが好きなんですが、今はそうもいかない時期なので、その代わりに盛り上がったらいつもの十倍ぐらい(笑)拍手してください! お客様の盛り上がりがステージの上では励みになりますので、よろしくお願いします。

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