Billboard JAPAN


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<コラム>驚異の速さで2億回再生、優里の音楽が“大拡散”している二つの要因



コラム

“楽曲としての認知”と“アーティストとしての認知”

 「ドライフラワー」が2021年を代表する大ヒット曲になっている優里。前人未到の記録を更新し続けている理由と、そこから見える優里の強さを探っていこう。



優里 『ドライフラワー』 Official Music Video -ディレクターズカットver.-


 Billboard JAPANのストリーミング・ソング・チャート“Streaming Songs”で「ドライフラワー」は累計2億回再生を突破、「かくれんぼ」は累計1億回再生を突破。メジャー・デビュー8か月で2曲が1億回再生を突破することは史上初だ。1億回再生は定量的指標として重要ではあるが、問題はそのスピード。何週目での達成か?

 「ドライフラワー」はなんとチャートイン13週目で累計1億回再生、21週目で2億回再生を突破。これはBillboard JAPANのチャート史上、LiSA「炎」とBTS「Dynamite」に次ぐ歴代3位の速さという快挙となる。

 今年に入ってからは週間再生回数1,000万回を常に維持し、3月31日発表のチャートではついに10連覇を達成した。

 また、世界に目を向けると、Chartmetric社が発表した2020年下半期のCPPランク(同社が制定するSNS数/リスナー数/チャンネル登録者数横断の独自ポイント)の伸び率ランクで、優里は堂々の世界6位。しかも、Piper Rockelle、SpotemGottemといったTikTokやYouTubeで一気に人気を博した2020年を代表する面々に名を連ねているのだ。つまり、急激にリスナー数とソーシャル・メディア・フォロワーを増やした証といえる。



Chartmetric's 6MO: Overall Popularity Growth in H2 2020




※Spotifyもマンスリー・リスナー数は1年前1,500人だったのが250万人弱まで成長



 では、このヒットはどこからやって来たのか。そしてなぜこれほど強いのか。周知の通り、「かくれんぼ」「ドライフラワー」ともにTikTokを中心に数々の動画で曲が使われ、“楽曲としての認知”がされたわけだが、それだけではない。

 2019年夏から本人が自身のSNSで歌唱動画を頻繁に投稿し続けている通り、その圧倒的な歌唱力が並行して話題になった。つまり、“楽曲としての認知”と“アーティストとしての認知”の両方が、1年半という時間をかけて上手く進んだ例になるのだ。

 曲だけバズって誰の曲か認知されないヒット曲、というわけでもなく、そもそもスタートから歌の力を持つアーティストとしての認知がなされてきたのが優里の特徴。そして、これこそが最大の特徴だ。

 自身のSNSのアカウントは時間とともにより強大になり、多くの人々のタイムラインを制し、「ドライフラワー」のリリースの際には自分の弾き語りを含む様々な投稿を発信、ファンと積み上げてきたTikTok、Instagram、Twitterが認知拡大する“ホーム”として機能したのである。

 アーティスト発信軸でUGC(ユーザーやファンによって投稿される楽曲を使った二次創作的なユーザー作成コンテンツ)が広がり、歌詞の世界観や曲の良さがオーガニックにひとり歩きしてさらにUGCが広がる。ここから知った人々がYouTubeに派生し、折を見て人気YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』の出演からの認知と流入、そしてストリーミング各サービスで聴かれるようになり、追いかけてカラオケでの利用が伸び始め、最後にラジオが伸びて、一気にストリーミング週間1,000万回まで到達したのである。



「ドライフラワー」Billboard JAPAN HOT 100のチャートインサイト。ストリーミング(青)とラジオ(緑)とカラオケ(深緑)各指標の相関性(2021年4月4日時点)



 では、その強みと言える“アーティストとしての認知”をもう少し掘り下げる。

 優里は『優里ちゃんねる【公式】』と『優里 Official YouTube Channel』の二つのYouTubeチャンネルが存在し、最近は前者がほぼ毎日更新。投稿開始から1 年ですでに148本以上の動画コンテンツが存在する。様々なアーティストの楽曲をカバーした動画がメインで、これをきっかけにアーティスト同士が相互でカバーしあう。呼応されるように優里の楽曲のUGCが多数生み出される。

 さらにInstagramやTikTokでも高い頻度で投稿を行っており、ほぼ毎日、必ずファンにコンテンツを届けている形になっている。


誰かの“好き”を裏切らない魅力

 では、なぜそれが1億回再生、2億回再生に繋がるのか?

 1点目は“インプレッションとタイムラインフィードをどう制するか”。

 自分の音楽を聴いてもらいたい人々は、何のアプリで多くの時間を過ごしているか? YouTube、TikTok、Instagramを多くの人が挙げるだろう。であれば、それぞれのタイムラインに表示されるようにすべき。必要なものは表示されるためのコンテンツ、そしてエンゲージメント。

 優里のYouTube、TikTok、Instagramでの投稿は“アーティストとしての認知”活動に確実につながっている。

 友達の“好き”があなたへのインプレッションに影響する。あなたの“好き”がタイムラインに影響する。

 TikTokのUGCが増えるにつれ、YouTubeのコメント数が増え、視聴時間が伸びるにつれ、ストリーミング数が増え、カラオケやラジオ指標が伸びるにつれ、Instagramのフォロワーロケーションデータ(都市別)の“東京”が占める割合が減る(=地方にファンが増える)、そして、自身のYouTubeチャンネルの投稿、SNSの投稿、UGCが増えるにつれ、ファン、ファンの友達、ライトユーザーのタイムライン、おすすめフィードに多くの優里に関連したコンテンツが表示される。

 その表示されたインプレッションを裏切らないコンテンツの良さ=全年代で受け入れられやすい絶対的な楽曲の素晴らしさ。

 みんなの“好き”を最大化するためにアーティストのSNSがタイムラインを制し、誰かの“好き”を裏切らない優里の楽曲の素晴らしさ。

 そして、日々のアーティストからの投稿がもう一つ大きなモノを生み出す。それが2点目。“SNSの投稿はアーティストのストーリーの軌跡になる”ということ。

 1年以上前のInstagramの投稿を見ると、そこにはマカロニえんぴつの曲が大好きで、カラオケで歌う優里の動画投稿がある。では、現在はどうだろうか? 大好きだったマカロニえんぴつと今では『ミュージックステーション』で共演し、そして、メンバーのはっとり(Vo/Gt)と一緒にSSTV×TikTokで公式番組までやっているのだ。


@spaceshowertv

優里さんへのバースデーサプライズ🎂お誕生日おめでとうございます🎊 ##優里 ##マカロニえんぴつ ##はっとり @yuuri_music_official @macaroniempitsu

♬ オリジナル楽曲 - スペースシャワーTV


 長く追いかけているファンは優里の夢を叶えるストーリーを一緒に歩み、今から優里のファンになった人も過去の投稿を見て、追いかけることができる。

 「ピーターパン」「かごめ」で何を想い、何を歌っていたか。それは今からでも投稿が見れて、曲はストリーミングで聴ける。「桜晴」をどんな想いで作ったか、YouTubeに投稿されており、これはきっと来年の春にも見たくなる。来年また「桜晴」をストーリーと合わせて聴きたくなるだろう。

 記録づくしの「ドライフラワー」に目が行きがちだが、TV歌唱、SNS上のキャンペーン、SNSの投稿そのものからも、「ドライフラワー」だけにフォーカスを置いていないことが見てとれる。「かくれんぼ」「インフィニティ」「ピーターパン」「桜晴」「かごめ」と、「ドライフラワー」だけではない優里としての良さを伝え続けているのだ。メジャー・デビュー・シングル「ピーターパン」がオリンピックにも出場し、マラソン3000m、5000mの日本記録保持者である大迫傑選手が出演するディップ株式会社の新企業CM曲に決定したことも、優里の歌声が届いていることの大きな証だろう。



優里 『ピーターパン』Official Music Video(フル)


 そして、それは前段の話の通り、今に始まったわけではなく、ずっとそうなのだ。

 TikTokで気軽に投稿できる、そんな全国のクリーエーターたちのおかげで、単曲の特大ヒットが生まれやすくなった時代だからこそ、あえて先回りして単曲だけではなく、これまでの楽曲、アーティストの歌声、世界観、アーティスト“優里”という存在をしっかりと丁寧に伝え続けているのが見てとれる。

 だが、ここまでに書いた内容は、あくまで音楽のマーケティング的な側面で見たときの話。SNSの投稿数が多いのは単に“ファンを愛しているから”なのだろう。そして、それを自然にやっている姿が優里の魅力。

 なにより楽曲の素晴らしさが優里の最強の武器であることは間違いないだろう。

 あなたのタイムラインに表示される優里の曲。曲を再生した瞬間に空気が張り詰め、引き込まれる魅力。どの世代の人も「あっ、これ良い曲...」となってしまう力。それこそが優里の最大の強みであることは間違いない。

 「ドライフラワー」と「かくれんぼ」だけではない、これまでの楽曲「インフィニティ」「ピーターパン」「桜晴」「かごめ」も聴いてみることをお勧めする。なぜならその一つひとつにストーリーがあって、それらがすべて優里のSNSから見えてくるから。



優里 『桜晴』Lyric Music Video(1コーラスver.)


Text by 松島功(株式会社arne)

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