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ACIDMAN 『A beautiful greed』 インタビュー

ACIDMAN 『A beautiful greed』 インタビュー

 前アルバム『LIFE』で「ひとつ決着が付いた感がすごくある」と大木伸夫(vo,g)が語るほどの、ひとつの到達点へと登り詰めたACIDMAN。世界の終末を突き付け、そこからの再生を匂わせてエンディングを迎えたあのストーリーの先には一体どんな表現が生まれるのか?

 それは世界の終末と誕生のループを終わらせるかの如く、全編終末思想を根付かせた楽曲群、すべての終焉=グランドフィナーレには“我々の理想郷があってほしい”という願いで構築されていた。果たしてその表現の背景にはどんな衝動や想いがあるのだろうか。ACIDMAN史上最大のスケールでお届けされるニューアルバム『A beautiful greed』について、詳しく話を訊かせてもらった。

結局は「欲望すらも美しいんだな」って

--アルバム『A beautiful greed』、まず自分たちでは仕上がりにどんな印象や感想を持たれているか聞かせてもらえますか?

大木伸夫:かなり満足してますね。完成してから聴き直すと大概「もっとこうしておけば」っていうのが出てくるんだけど、今回はほとんどなくて。完成してからあんまり時間を置いていないのに、もうすでに客観的に聴ける。あっと言う間に手元から離れて「あ、次はこの曲か」「これ、良い曲だな」って思いながら聴けるアルバムなので、多分感覚的に満足いってるんだろうなって。もう絞り出しきって「これ以上はないモノが出来た」っていう感じではないし、まだまだやれることは溢れているけど、聴いていると素直に「良いアルバムだな」って思える。こういう感覚は意外と初めてかな。

浦山一悟:すごく濃いアルバムだと思います。個性的なプレイヤーが集まってひとつのチームになっているような。で、チームとしても超強いみたいな。それぐらいの勢いと広がりと深さ、そういうのが全部詰まったアルバムだなぁと思いますね。

佐藤雅俊:今回は否応なしにリスナーの耳をガッと掴んで、作品の中のACIDMANの世界に引き込むパワーに満ちてる。で、引き込んで、ストーリーに乗せて、最後には良い感動が得られる。そういうアルバムになったんじゃないかと思います。

--大木さんは前作『LIFE』リリース時のインタビューで「ひとつ決着が付いた感がすごくある」と言っていたんですが、そのある種の達成感から今回のアルバムの世界や熱量を生み出すまでには、どんな流れがあったんでしょう?

大木伸夫:自分の中でひとつのピリオドが『LIFE』で付いてて、なんかスッキリしたんですよ。で、次は果たして何がやりたいか?となったときに、すげぇ純粋でシンプルな考えになって、とにかくエグいことがやりたくなったんです。「レタスばっかり食ってたけど、ゴーヤもやっぱ食べたいな」みたいな(笑)。そういうパンチのあるモノがやりたくなっている気持ちに今回は準じようと思って。どれだけ自分がやりたいことをとことん追求して、ワガママ放題できるか?それをちょっとしたテーマにしてて。で、タイトルに“greed”って付いてますけど、非情に見えるまでの強欲さを表現することに。

--その発想に辿りついたのはいつ頃?

大木伸夫:結局『I stand free』までは『LIFE』の流れなんですよ、気持ち的に。だから『I stand free』を録り終わったぐらいかな。本当にすっきりしちゃってて、他の空白の部分がどんどん広がってきて「こっち埋めてねぇな」って。エグいところを埋めたくなってきて、そこからスウィッチが切り替わった。

--そこに至るまでの、いくつかトピックをピンポイントで振り返りたいんですが、『LIFE』リリースタイミングで久しぶりに「ミュージックステーション」出演。『式日』の披露がありました。

大木伸夫:急に決まったんだよね。「1週間後に出演決まりました」「えぇ!?」って。それで気合い入れてやろうって。ただ、もう単純に「良い番組だから出よう」っていう感じでしたね。聴かせたいし、広めたいし、もちろん出られるのは嬉しいんだけど、どの程度の効果があるのかまでは分からないんですよ。露出すること=世に広まることって感じがしなくて。だからとても良い番組だから出たい、純粋にそれだけ。変な見られ方をしようが気にしないし、そこには覚悟があるから。

佐藤雅俊:番組の内容ですよね。「ミュージックステーション」は音楽を大事にしてくれているのがすごく分かるし、「トップランナー」だってそうだし。そういう場所に出て自分らの音楽を伝えられたら嬉しいっていう。もちろん世の中に迎合する気なんて全くないから、ウチのスタンスは崩さないんですけど。そういう意味では音楽をバラエティ化しているような番組とかは、音楽に対する姿勢としてちょっと違うと思うからあんまり出たくない。絶対ダメっていう訳ではないけれども、自分たちの音楽を伝えるのであれば「ミュージックステーション」や「トップランナー」のような番組が良いっていう感じですね。

--そんなメディア露出もありつつ『LIFE』を引っ提げた全国ツアー【ACIDMAN LIVE TOUR "LIFE"】へ。僕はファイナルの幕張メッセ国際展示場公演を観させて頂いたのですが、自身ではあの日の公演にはどんな印象や想いがありますか?

大木伸夫:自分の精神的な弱さなのか分かんないけど、空調アレルギーでツアーの序盤から咳が止まんなくなっちゃって。騙し騙しにやったツアーで結構しんどかったんですよ。気持ち的にもいっぱいいっぱいで、張り詰めてて。で、幕張のときは更に酷くて。ただ、結果として「すげぇ良いライブだったんだな」っていうのを後々から気付いて。頑張ってるって言ったら軽くなっちゃうかもしれないんだけど、本当に頑張ってたから。記憶もないぐらいだし。決して良いライブが出来たとは思わないけど、熱量はすごくあったし、すごくファンに助けられたし、前年の武道館のときの倍ぐらいのアンケートが集まって「すげぇ良かった」ってみんな言ってくれて。ストレートに意見を言ってくる友達とかも「武道館のときより全然良かった」って言ってくれて。そこで「音楽をやってて良かった」って思いました。いつも信念として持っていた「気持ちを伝えることが大事だ」っていうことが、自分のハプニングによってより実感できたんで、とても有意義なツアーになりました。

--個人的には『LIFE』の、世界が終末を迎えるまでの流れを、より強く体感できたライブで。特に終盤の『world symphony』『ある証明』があっての『UNFOLD』『TO THE WORLD'S END』という流れは、懸命に生命を爆発させて生きようとしているのに無情にも世界が終わる、という状況に対しての悲しみや悔しさをオーディエンスに感じさせたと思います。大木さんが声を詰まらして、オーディエンスがそこをカバーするように必死に『ある証明』を歌い叫んで、僕が知る限りでは、初めて大木さんが涙を流す場面がありましたし。

大木伸夫:あの涙は悔しさでしたね。悔しさと不甲斐なさ、それしかあの瞬間にはなかった。それまで張り詰めていたから何とか感情を音楽だけに乗せることが出来たんだけど、ついMCで「体調悪くて」とか言っちゃったから一瞬気が緩んじゃって。そのときにもう全部弾けちゃって、伝えるとかじゃなくなった。どんなに歌をうたってても悲しみの方が強くなってしまって「こんなんじゃ歌えねぇや!」みたいな気持ちの涙でしたね。

--それがこちら側からすると、世界が終わることに対する悔しさとして映りこんで。

大木伸夫:そうですね。そことリンクしたと思うんですね。張り詰めているときの緊張感からホッとした瞬間に涙が出るじゃないですか、人間って。ライブじゃなくても、日常の中での戦いの中でも、一歩緊張感の外に出た瞬間に感動の涙なのか悲しみの涙なのか分かんないけど、感情が溢れ出るじゃないですか。それがリアルな自分の体験としても楽曲の世界としても、あの瞬間にやってきてリンクした。それはDVDを観てて思いました。「上手くできてるな」って。

--そんな前代未聞の表現を『LIFE』とそのツアーで形にしてみせたACIDMANが、『A beautiful greed』ではどんな表現をするのか。注目していた人も多かったと思うんですが、まずこのアルバムタイトルに込めた意味や想いを聞かせてもらえますか?

大木伸夫:タイトルは最後の最後に付けたんですけど“greed”っていうキーワードだけが最初からあったんです。で、10曲ぐらい曲が録れていって、だんだん曲順を決めたり各楽曲のタイトルを決めたり、その全体像を包むパッケージを考えるときに「俺は一体何が言いたかったんだろうな?」って。“greed”をキーワードに突き進んでいろいろ描いてきたけど、結局最後の方はすごく美しくまとまっていて。これはただの“greed”じゃ収まんないなって。とても美しいモノが出来たから、もう単純にそれで“beautiful”だと。

で、そこから発展するんですよ。人間の欲望って物凄くエグくて汚くてドロドロしてて残酷だけど、でも世界ってとっても美しいじゃないですか。人間だけじゃなく、あらゆる生き物は本当にえげつなくて、生存本能のままに残酷なことをしていて。でも全体像を見ると物凄く美しい世界であり、人間が力を合わせてやることってとても素晴らしく、意義があることだったりする。そう思うとひとつの“greed”っていうのは単なる汚いモノではなくて、大きな美しいモノを作るために必要なモノであり、結局は「欲望すらも美しいんだな」って自分で認識を変えたんです。

ジャケットもそのときにアイデアがちょうど生まれて。これが全宇宙を占める空間だとして、全宇宙っていうのは三次元の宇宙だけじゃなく、パラレルワールドも含める全ての存在だとして、そこの一点にひとつの宇宙があるとする。これはキリム絨毯っていうトルコの絨毯で、すっごい緻密に細かく縫われているんだけど、そこに居たら自分が何なのか分からないんですね。ぎっちぎちに絡まり合いながら存在しているから。でも意識を一瞬高次元に持っていくと、とっても美しい模様を描いている。俺らはいろんな絡まり合いの中に生きていて、その一部でしかないんだけど、とっても美しいモノの一部を担っているんだなって。それで最後の最後に『A beautiful greed』に。最初は『beautiful greed』だったんだけど響き的に「ビューティフルサンデー」みたいで嫌だなと思って“A”を(笑)。

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--では、その『A beautiful greed』の収録曲について触れていきたいんですが、まず序曲としてストリングスと鍵盤を取り入れたインストが聞こえてきます。あの鍵盤は誰が弾いてるの?

大木伸夫:俺です(笑)。いつもいつも最初にインストを付けていたから、今回はインスト始まりは止めようと思っていたんだけど、あまりにも楽曲がドラマティックだったから、やっぱりインストのイントロダクションが欲しいなと思って。で、ネタはあったんですよ。好きなコードのギターフレーズがあって、いつかインストにしようと思っていたモノがあったんです。それでアルバムタイトルが出来たのと同じぐらいに「これは『A beautiful greed』感があるな」と思って。それをピアノで弾いてみたんですよ。ギターだとあまりにも普通だから。で、そこからどんどんどんどん発展させて、美しいモノにはなったんです。でも“greed”が足らないと。それで何回も繰り返し聴いていたら、リズムのイメージがポッと出てきて。想像を超える欲望が溢れ出てしまう瞬間をドラムで表現することに。

浦山一悟:完全に大木の中でイメージがあったんで、それを体現、実現していって。「こうか?」「いや、こうだ」「あ、はい」ってやりとりをしながら(笑)。

--ゆっくりと時が刻み出して、一度始まった世界はもう動き続けるしかなくて、その抗いようのない感じがあの曲からはイメージできたんですが、自分の中ではいかがですか?

大木伸夫:作ったときは感覚でしかなかったけど、今思うと、エデンの園でアダムとイヴが平和に暮らしていて、禁断の果実を食った瞬間に欲望がブワって弾けるようなリズムが生まれ出す。そのたったゼロコンマ何秒の瞬間に世界が一変する。で、それは決して汚いモノではない、っていうのをアルバムの最後に表現してるんです。最初はえげつなく始まって、前半戦はグロテスクなモノで攻め続けるんだけど、最後はそれすらひとつの美しいモノであるとまとまっていく。

--続いて『±0』。前作『LIFE』ではアルバム1枚を掛けて世界の始まりから終わりまでを体感させましたが、今回はいきなり冒頭の1曲でそのすべてを表現しています。

大木伸夫:最初に『±0』って提示してしまいたくて。その先にある希望を描くっていうよりは、その先に希望も何もない残酷なところをまず提示したかったんです。先にある希望じゃなくて、今ある希望というか、今包まれているこの瞬間が幸せみたいな。それがやっぱり大事で。「いつか美しくなるんだ」じゃなくて「この瞬間がすでに美しいんだ」っていうところを提示するには、最初に残酷なところから問題提議していこうかなと思って。どんな戦争が起きようが、どんな世界になろうが、結局みんな終わっていく訳で。地球も無くなるし、宇宙も無くなっていくっていうのは誰でも考えれば分かる。その中で「人は果たして未来のために、地球のためにエコをするのか?」って考えたら「それは違うな」と思って。やっぱり今この瞬間瞬間を味わうために俺らは生きている訳で、それを楽しまなくてもいいし、楽しめなくてもいいんだけど「ちゃんと“生きているんだ”っていう瞬間を感じるんだ」っていうことだけは考えなきゃいけない部分。それが結果的に未来に繋がっていくんじゃないかと思うし。

--そして『CARVE WITH THE SENSE』へ。この冒頭の流れは曲の内容もさることながら、すべての音が破壊的過ぎて、かなり怖いですね。音楽なのに肉体的なダメージを負うんじゃねーかと思うぐらいの。演奏も命懸けだったんじゃないですか?

大木伸夫:そのヒリヒリ感を出すために一番時間を掛けました。

佐藤雅俊:音がちゃんとハマったりとか、各々の音がちゃんと刺さらないとやっぱりこの雰囲気、攻めてる感じとか抉る感じっていうのは出ない。あとはちゃんと居なきゃいけないところにベースとドラムが居ないと、どうしても叫びを持ち上げられない。そういう瞬発的に攻めていかなきゃいけない部分はすごく詰めていきましたね。

浦山一悟:キャベツの千切りみたいなもんですよね。ひとつでも緩いとちゃんと切れないで、中途半端にくっついちゃってるみたいな。

佐藤雅俊:なるほど。

一同:(笑)

佐藤雅俊:頭じゃなくて感覚でパシッと合ってガッと行けるのが一番ベストなんですけど、そこがなかなか骨が折れる作業で。

浦山一悟:でも『CARVE WITH THE SENSE』みたいな曲はそうやって向かっていかないと、曲がまったりしちゃって格好悪くなってしまう。なので相当時間を掛けましたね。

--で、今作は続く『Who are you?』も『Under the rain』も、ほとんどの楽曲が世界を終わるということを明確に提示した上で、それをどう受け止めるかがテーマとなった曲になっています。こうした流れになったのは?

大木伸夫:後々気付いたことではあるんですけど、俺はアルバムの全体像を見ずに1曲1曲の詩を書くんですよ。っていうことは、そういうことを歌いたい人間なんですよ。もしかしたら好きなのかもしれない、終末思想みたいなモノが。最初に感覚的に書いて「これは何が言いたいんだろう?」って考えたときに、世界が終わるということを知ってる人間と、知らないでただ生きている人間とでは、熱量の差が半端ないと思うんですよ。俺らってどんどん失っていくし、衰えていくし、あと何十年かしたらヨボヨボになって「元気だった頃に何とかしておけば」って、みんな後悔する訳で。それは俺も絶対そうなんだけど、でもそれが分かってるから今やれることを完全にやっておかなきゃいけないし、生き生きしなきゃいけないし、ワクワクすることを忘れちゃいけないし。結局終わることを前提として美しいモノを形にしていきたいんですね。だから常に“終わる”という感覚が好きなのかもしれなくて。それを「分かってほしいんだよ!」と思って書くというよりは、まず好き。俺はこの何とも言えない儚さに胸がきゅんきゅんする訳で。で、それを曲にしてるってことは、きっと伝えたいってことなんだろうなっていう。

--個人的に僕はそうした楽曲群の中で『Who are you?』の、世界はもうすぐ終わってしまうから、君の事を教えてほしい。っていうのが、なんだかとてもリアルで共感できて好きなんですが。サウンドは全然違いますが『季節の灯』的なアプローチだなとか思って。自身ではこの曲にどんな印象を?

大木伸夫:今『季節の灯』って出ましたけど、俺もその感覚とちょっと近いかもしれないですね。名前を呼ぶというか、認識する瞬間にモノって生まれる訳で。ここにあるタバコをタバコとして認識しなくて「タバコ」という名前も呼ばなかったら、俺にとってはタバコは存在しないんですよ。「タバコ」と呼ぶからコイツはタバコで在り続けることができている訳で。そうしないと、ただそこにある風景と一緒。まぁ認識したところで結局世界はいつか終わっちゃうんだけどね。でも例えば、10秒後にコイツが消えるとしても、誰かが認識しておいたことで「タバコであった」ってなる。そのタバコであった瞬間があれば、とても美しいと思うんですね、俺は。「俺は俺であった瞬間が確かにそこに在った」「君は君であった瞬間が確かにそこに在ったんだよ」みたいな。そういう部分を表現したかったんですよね。曖昧なモノが溢れているんだけど、そこでたった1人との出逢いでもいいし、何百人との出逢いでもいいけど、いろんな出逢いによって「そこに確かに在った」という確実性が生まれる。不確定な世界が確定的なモノになる瞬間を描きたかった。

--また、終末を提示するからと言って今作はすべてシリアスなサウンドで展開されていく訳ではなく『ファンタジア』のような優しく響く曲もあります。ミュージックビデオも観させて頂きましたが、この曲で表現しようと思ったモノは?

大木伸夫:あれはまぁファンタジーの世界で、とある青い星が終わってしまった未来なのか過去なのか分からないけど、そこに全知全能の何もかもを知っている人がいて。さっきの『Who are you?』とちょっとリンクはするんですけど、その世界の人たちに「自分たちは一体何なんだ?教えて欲しい」と。「自分はここにいていいのだろうか?いるべきなのだろうか?」って思いながら、でもその人が名前を呼んでくれるだけで「ここに確かに俺は居たんだ」っていうのが実体化される。それをとてもファンタジーな世界で、俺はそこの住人じゃないんだけど、一瞬だけそこに居る設定で作った曲です。

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時が過ぎ 最後の日 また出逢えるように

--僕はこの曲のサウンドに新しさを感じているんですが、どういうイメージから生まれたモノなんですか?

大木伸夫:まず一悟が全然違う形の曲で持ってきたメロディがあったんですよ。そのときにちょうど「芸術的な曲をやりたいな」と思っていたんです。で、一悟がポップなダンスビートチューンを持ってきていたんですけど、サビがすごく良かったんですよ。それで「これは今自分がやりたいこととリンクするな」と思って「これ料理していい?」ってそのメロディだけ頂いて、作っていった感じ。

--『HUM』、こちらも異空間に漂わせる前代未聞のサウンドスケープだなと感じたんですが。

大木伸夫:この曲は本当にイメージはなかったんですけど、ギターのワンフレーズから広がっていった曲ですね。そのフレーズから何かが生まれそうな予感っていうのはあって、そのままメロディも決めずに「何か出来そうな予感があるから、ドラム叩いてくれ。8ビートでいいから」と。で、ベースは「とことんコードを追って添えておいてくれ」って言って、俺は考えるというよりは音に身を任せて歌ってみて。もうその瞬間にすべてが出来た。たった10分ぐらいで。だから自分で作った感じではない。何か違うモノが自分を通して出ている感じ。でもすごく満足感はありましたね。

--この曲では「The world still goes on」世界は続いてゆくと歌っています。

大木伸夫:その“世界”っていうのは今ここにある終わっていく世界ではなくて、世界ってプラスマイナスゼロで生まれて消えて、生まれて消えてを永遠に繰り返していく。その意味の“世界”。結局物事っていうのは全部終わるんだけど、また始まる。そこで「世界は終わってゆく」だと、悲しさが浅いんですよね。俺はそこで「世界は続いてゆく」にすることによって、もっと打ちのめされる感じを出したかったんです。この感じがずーっと永遠に繰り返されているんだって。それはもう何億の単位じゃなく、何兆の単位でもなく、自分たちの概念を超えるぐらいの流れの中で続いていくという。

--そしてこの曲と続く『ucess (inst.)』を境に今作は光のある方へと向いていきます。『Bright & Right』では「Everything will be all right」なんていう、やや楽観的にも感じ取れるフレーズも飛び出したりしますが、ここにはどのような意図が?

大木伸夫:これは本当に楽曲に任せて作った曲で、底抜けに明るい時期だったから底抜けに明るい曲にしようと思って。もう全体像とか関係なしに。だから最後の最後まで「この曲は今回のアルバムには合わないだろうなぁ」って。でも並べて聴いてみたら物凄く心地良かったんです。今回のアルバムは最初を激しくして後半を明るくしようなんて考えてなかったんだけど、でも並べてみると必要なモノになっていて「すごく良いな」って。

--その後に『I stand free』を聴いて感じたのは、今回はすべてこの曲がルーツになっているような印象を受けて。実際のところはどう?

大木伸夫:『LIFE』に付いている考え方の曲ではあるんだけど、この流れで聴くと、なぜか分からないけど全部をちゃんと考えた上の1曲のように聞こえてきたんですよ。それも本当良かったなって。結果論なんですけどね。

浦山一悟:シングルで単体で聴くのとは全然印象が違う。アルバム全体に対して開いている感じがある。

--そしてラスト『OVER』。いつもならここでとんでもない大作を用意して、しばらく放心状態にさせるのがACIDMANなんですが(笑)なぜに今回はこんなにもキャッチーで優しいサウンド、そしてこんなにも分かりやすく、まるで隣にいる誰かに届けるような歌詩になっているんでしょう?

大木伸夫:結構前に作ったんですよ、この曲は。なぜ入れようと思ったか?って言うと、極端にただ入れたかったからであって。で、この曲の経緯を説明すると、アルバムレコーディングの最初の方に録って、歌も入れて、ミックスまで終わったんだけど、なんか納得がいかなくて、ボツ作品にしていたんですよ。でもアルバムの完成間近にディレクターとかが「入れた方が良いんじゃないか」って言ってくれて。それで歌詩を変えて、歌も歌い直してみたらすごく良くて。この曲が最後に来ると何でか分からないけど締まるなと。客観的に分析すると、今までのアルバムはいろんな曲をやりながら最後の最後に出せなかった膿を吐き出していたんだと思うんです。それは物足りなさと言ってもいいんだけど。でも今回は最初から膿を出してるから、最後にはとっても肯定的な、大きな器のようなモノが待っているっていう。

--この『OVER』もそうですし、例えば『星のひとひら』もそうですけど、世界や時間を客観的に描くのとは違い、個人の想いとして、日常の中で溢れる想いとしての歌。そんな印象を受けたんですが。

大木伸夫:そうだと思いますね。でもそれも曲ありき。曲がそうさせている感じがします。『OVER』っていう曲は結構前からメロディだけは自分の中にあって、何十通りの言葉を書いてるんですよ。何回も何回も書いてどこも合わなくて、なかなか合わなくて、それで苦労していたんだけど、今回やっと決着をつけることになったら、壮大なモノじゃなくて、本当に身近な気持ちが一番マッチして。更にネガティブな方の要素よりもポジティブな方が絶対に合うと気付くことができて。

--「時が過ぎ 最後の日 また出逢えるように」というフレーズは、大木さんの願いでもありますか?

大木伸夫:その“最後の日”にはいろんな含みがあって、さっき話した終末思想における、この地球が終わる日に出逢わなくてもいいんですよ。永遠のように続いていく“世界”がグランドフィナーレを迎えることがあるのだとしたら、そこに全部の人たちが平等で、みんな幸せである瞬間が来るのではないかと。本当に最後の日、世界の終わる日じゃなくて、もうあらゆる存在が終わってしまう日にやっとみんながひとつに繋がれるのかなと。

--なんでそう思ったんですか?

大木伸夫:なんかね、そこは「そうじゃないとやってられない」みたいな。最後の最後、どういう形になるか分かんないけど、もう物質もきっと無いだろうし、感覚の、意識の世界だと思うし、意識すらも無いのかもしれないけど、きっと繋がり合っていてほしい。「俺、何千億年前のアイツだったんだぜ」「お、おまえだったんだ!」みたいな瞬間があってほしい。そういう出逢いも含め“また出逢えるように”って歌ってる。もちろん一般的な日常の中における「時が過ぎ 最後の日 また出逢えるように」っていう意味も含めているけど。本当にワクワクするのは、最初に言った方で。

--で、今回のアルバム『A beautiful greed』を引っ提げたツアーがもう決まっていて。しかも最後は2度目の武道館。去年は「武道があるから」と断られた(笑)武道館が決まっております。

大木伸夫:1回目のときは楽しくはあったけど、ちょっと冷静になりすぎたので、もっと興奮の中にいて、あっと言う間に終われるようなライブにしたいですね。あとツアー全体に対して思ってることなんですけど、いろんな人の意見をいっぱい聞いて、いっぱい参考にしたい。今までは「俺が!俺が!」でやってきたけど、それの限界というか、しんど過ぎる感じを去年のツアーで感じたので。だから今回はいろんな人からいろんな意見を頂いて、それを本当に素直に昇華して、みんなでチーム一丸となって廻るツアーにしたいですね。

佐藤雅俊:僕は前回の武道館楽しすぎて、ちょっと浮かれていた感もあるので(笑)。まぁそれはそれで自分的にパフォーマンスも良かったしアリなんですけど、今回は2回目なのでもうちょい地に足を付けて、しっかり音楽とACIDMANの世界を表現して、お互いに陶酔して、良いステージを、良い世界を、良い空間を創りたいなと意気込んでます。

浦山一悟:僕は前回ガチ緊張だったので、今回はそのリベンジも含め、楽しく、激しく、明るい……プロレス。

--なるほど。前回は……

浦山一悟:すみません!僕、今、プロレスって言ったんですけど!

--(笑)。……で、プロレスが何なんでしょう?

一同:(爆笑)

浦山一悟:嘘です!もういいです。……心折れました。

--楽しみにしています(笑)。

ACIDMAN「A beautiful greed」

A beautiful greed

2009/07/29 RELEASE
TOCT-26841 ¥ 2,934(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.A beautiful greed (introduction)
  2. 02.±0
  3. 03.CARVE WITH THE SENSE
  4. 04.Who are you?
  5. 05.Under the rain
  6. 06.ファンタジア
  7. 07.星のひとひら
  8. 08.HUM
  9. 09.ucess (inst.)
  10. 10.Bright & Right
  11. 11.I stand free
  12. 12.OVER

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