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ルーマー 来日記念特集

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 2010年、30歳でデビューしてから早5年。11歳の時に両親が離婚、さらに母が乳がんを患ってしまい、車で生活しながらあらゆる仕事をして生計を立ててきた…と、数奇な人生を歩んできたルーマー。そんな中でも彼女は歌い続け、デビューのきっかけとなった「Slow」の大ヒットから始まり、2011年にはイギリス最大の音楽賞、ブリットアワードで2部門にノミネートされるなど、遅咲きではあったが、見事に大輪の花を咲かせてみせた。今回はバート・バカラックをも虜にしたそのエバーグリーンな歌声と楽曲にスポットを当てながら、彼女の魅力に迫っていきたい。

空気を一瞬で変える魔法の歌声

CD

 はじめてルーマーの歌声に触れたとき、辺りの空気が一瞬で変わったのをおぼえている。それはまるで上質なシーツに包まれるような至福の感覚だった。やさしい包容力に満ちあふれ、心の奥底まで染みわたるほど叙情的で、久しぶりに思わずじっと耳を傾けてしまう体験だった。「一体、何者なんだろう・・・」、これが当時の正直な感想。60年代や70年代のシンガー・ソングライターやソフトロック、映画音楽が何よりも好物である自分にとって、まさしくど真ん中ストライクであったと言わざるを得ない。こんな素敵な体験をもたらしてくれたのは、2007年に彼女がイギリスのマイナー・レーベルからひっそりと発表した、「Come To Me High」という7インチであり、オレンジ色がまぶしいジャケットにはルーマー&デニアルズというアーティスト・クレジットが書かれていた。そしてゆるやかでメロウなサウンド・メイキングには、70年代のA&Mに残されたラニ・ホールの『Sun Down Lady』のようなフォーキーな趣が感じとれた。しかしこの数年後、彼女がまさか名門アトランティックからメジャー・デビューを果たし、多くの音楽ファンを虜にしてしまうほどの存在になるとは、その時には夢にも思わなかったが、既に原石となる輝きはここにあった。そう、誰もが振り返るような唯一無二の魅力を確かに放っていたのだ。

原石が強い輝きを放ったデビュー作

CD
▲ 『Seasons of My Soul』

 2010年に届けられたデビュー作『Seasons of My Soul』は圧巻の仕上がりだった。アコースティック楽器の質感を活かしたメロウなアンサンブルに、贅沢なストリングス施したアレンジメントは、まさに60年代や70年代のポップスの黄金期を彷彿とさせた。かのバート・バカラックも賛辞を寄せたというファースト・シングル「Slow」をはじめ、どの曲にもルーマーのソングライターとしての才能が遺憾なく発揮され、流麗なメロディを堪能できる名曲揃いの一枚でもあった。そんな完璧なバック・サウンドに圧倒されることなく、ルーマーの歌声にもさらに磨きがかかり、もはやデビュー作とは思えぬ十分ともいえる貫禄をただよわせていた。中でも、個人的にも思い入れの深い「Come To Me High」が、新たなヴァージョンで再録されていたことは感慨深い。きっと彼女にとって、あの1枚は重要な出発点だったのだろう。



「Rumer-Slow」


深い敬意とシンパシーが溢れる傑作カヴァー・アルバム

CD
▲ 『Boys Don’t Cry』

 2012年に発表された2作目『Boys Don’t Cry』はカヴァー・アルバムだった。彼女が影響を強く受けたという男性アーティストの楽曲を取りあげた内容であるが、意外性はなく見事なまでの企画であった。ジミー・ウェッブ、リッチー・ヘヴンス、トッド・ラングレン、ポール・ウィリアムス、スティーブン・ビショップ、ホール&オーツ、タウンズ・ヴァン・ザント、クリフォード・T・ウォード、ロン・ウッド&ロニー・レイン、テリー・レイド、ギルヴァート・オサリヴァン、ティム・ハーディン、レオン・ラッセル、ニール・ヤング、ヴァン・モリソン(国内盤のみ)といった嬉しい名前が並んでいる。皆、ポップスやフォークの時代を代表するビッグネームであるが、根底にはソウルやジャズのエッセンスが流れている。つまりルーマーの音楽と強く共振するアーティストばかりで、このセレクションに彼女なりの深い敬意とシンパシーを見出すことができる。


「Rumer - P.F. Sloan [Live At Rivoli Ballroom]」


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2年ぶりの最新作でみせた本物の証

Into Colour
▲ 「Into Colour」


 そして昨年末に、2年ぶりとなる待望の最新作『Into Colour』が届けられた。今作は全てオリジナル曲で構成されてシンガー・ソングライター的な表情が色濃く出ている。穏やかなピアノのイントロとゆったりとした語り口の冒頭曲の「Intro (Return of Blackbird)」から一転して、グルーヴィーなAORナンバーの「Dangerous」、そしてバカラックへのオマージュだと思われるグッド・ポップな「Reach Out」などなど好曲揃いで、3枚目にしてここまでクオリティを保つことができるのは本物の証であり、じっくりと聴きこめば、緻密で繊細な音作りなど、細かい部分にまで彼女のこだわりが詰めこまれていることに気付くはずだ。そしてますます、彼女の音楽に夢中になるはず。あとつい先日、ミューザック・レーベルからルーマーがメジャー・デビュー前に、イタリアのオルガン奏者ロリー・モアと組んでいたラウンジ・ユニット、ステレオ・ヴィーナスの唯一の作品『Close To The Sun』が復刻されたばかりなので、ぜひチェックしていただきたい。



「Rumer - Dangerous - Later... with Jools Holland - BBC TwoP」


ルーマーの存在

 しかし、この21世紀にルーマーと比較されるヴォーカリストやシンガー・ソングライターが他にいるだろうか?いや、彼女ほどまっすぐに過去の良質な音楽に向き合い、咀嚼し、表現しているアーティストはいないと思う。彼女の歌や音には、キャロル・キング、ジョニ・ミッチェル、ローラ・ニーロ、カレン・カーペンターといった、偉大なるアーティストたちの片鱗が見え隠れしているが、なんら違和感だったり気負いは感じられない。実に素直に、伸びやかに等身大の目線で表現している。そして時代という流れにもそっと寄り添いながら、多くの音楽に確実に届いている。そういえば、最近、古い音楽を愛するレコーズ・コレクターの知人に会った際、ルーマーに関しては一目を置く存在として興奮気味に話していた。この気持ちよくわかる。僕も、昨年末にシンコーミュージックから上梓したディスクガイド「クワイエット・コーナー~心を静める音楽集」の中で、芳醇な香りただようメロウな音楽を紹介する“In A Mellow Tone”という章で、彼女の『Seasons of My Soul』を掲載した。

 そんなルーマーが再び来日公演を行うというニュースが舞い込んできた。あの“特別な歌声”を生で聴けるというから貴重な機会になるはずだ。そして本物の証を、その耳で目で体験していただきたい。きっと最新作の収録曲も歌ってくれるはずだろう、もしかしてファーストやセカンドの曲もレパートリーに入っているかもしれない。今はじっくりと彼女の作品を聴きながら、その公演日を楽しみに待っていたい。

ルーマー「イントゥ・カラー」

イントゥ・カラー

2014/11/12 RELEASE
WPCR-16125 ¥ 2,420(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.イントロ(リターン・オブ・ブラックバード)
  2. 02.デンジャラス
  3. 03.リーチ・アウト
  4. 04.ユー・ジャスト・ドント・ノウ・ピープル
  5. 05.ベイビー、カム・バック・トゥ・ベッド
  6. 06.プレイ・ユア・ギター
  7. 07.サム
  8. 08.ベター・プレイス
  9. 09.ピッツァ・アンド・ピンボール
  10. 10.バタフライ
  11. 11.アイ・アム・ブレスト
  12. 12.ハスブルック・ハイツ <日本盤用ボーナス・トラック>
  13. 13.セイリング <日本盤用ボーナス・トラック>

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