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2023/02/03

<ライブレポート>ずっと真夜中でいいのに。 時代も次元も超えて踊り明かした“ボーナスステージ”

 ずっと真夜中でいいのに。というバンドが持つ、キュートでキッチュにラッピングされた“得体の知れない自由さ”と“人間らしさ”が大好きだ。1月14日および15日、東京・国立代々木競技場 第一体育館にて開催された【ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~】を観て、そんな思いが私の中でより確実なものになった。

 最寄駅である原宿駅から会場へ向かって歩き出すと、すでに名物グッズ“しゃもじ”を首からぶらさげている人の多さに驚く。冷静に見るとなかなかに異様な光景だが、ずとまよと同じくキュートでキッチュな原宿という街には、妙に馴染んで見えるから不思議だ。すでに昨年【ZUTOMAYO FACTORY「鷹は飢えても踊り忘れず」】でさいたまスーパーアリーナ公演を成功させているずとまよにとっては、今回のキャパもなんてことはないのだろうけれど、この馴染み具合を見てしまうと、今回の会場が代々木第一体育館であったことに深い納得感をおぼえる。

 この公演は、直前まで開催されていた全国ツアー【GAME CENTER TOUR『テクノプア』】とコンセプトを同じくする追加公演であり特別公演、ACAねの表現を借りるなら“ボーナスステージ”と位置付けられている。新しく付け加えられた「叢雲のつるぎ」とは、日本神話においてスサノオノミコトがヤマタノオロチを退治した際に、オロチの尾から見つかったとされる神剣・天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)からきている言葉だろう。三種の神器のひとつに数えられる神聖なものだが、「ROAD GAME」とつけると絶妙なRPGっぽさをはらむのが面白い。さらに、ステージにはおどろおどろしい大きな「つるぎ」が昭和レトロなゲームセンターに突き刺さるような構造になっていたのだが、日本的な刀剣の形を模しているそれを、RPGのアイテムで想像されるようなサーベルのように用いているのが、あくまでもこれはゲームの世界観における(レベル高めの)“和風”ステージ――ゆえに「何が飛び出してくるかわからない」のだ、ということを感じさせる。

 そしてこの“和風”コンセプトを体現し、今回のバンドセットで特に存在感を放っていたのが、小山豊が奏でる津軽三味線だった。すでに【CLEANING LABO「温れ落ち度」】から生披露されている「機械油」でもそのマッチングは証明済みだが、開演とともに響き渡る三味線の凛とした音に、「なるほど!」と息をのんだのは私だけではないはずだ。書道パフォーマンスで「叢雲開幕」が告げられたのち、バンドセット(ギター、ドラム、キーボードはツイン体制)、ブラス、ストリングス、オープンリールにTVドラム、そして津軽三味線という超編成で繰り出される極厚サウンドは、ただただ贅沢のひとことに尽きる。この爆音を、時に“専用武器”扇風琴を手に取り乗りこなしていく、ACAねの柔らかく澄んだ声とのバランスも心地よかった。曲の合間にはゲーム要素のスパイスとして、8bit風シンセサウンドで名作ゲームのBGMをオマージュしたメロディが流れ、観客を沸かせる遊び心たっぷりの演出も。

 また、ずとまよのライブではバンドメンバーは顔を布で覆い隠すのが定番なのだが、今回のコンセプトを通してその姿を見ると、能や狂言のような「顔を隠す」日本の伝統芸能とも通ずるものを感じた。とはいえ、目から首までを布で覆い隠すその姿は、ステレオタイプなヤンキー像にも見える。ここにも、ずとまよの持ち味である(和洋新旧ごちゃ混ぜの)ダブル・ミーニングが表れているように思う。

 ずとまよの楽曲や演出にはダブル・ミーニングが非常に多い。歌詞を文字で読んで、さらに深読みしてはじめて気づくギミックもたくさんある。これを、私はACAねの「簡単には意図を明かさない」という意志のように感じていたが、今回のツアータイトル「テクノプア」を彼女が「人と交わるからこその歯痒さ」と説明していたのを聴いて、ACAねはここに人の感情の難しさ/複雑さをめいっぱい表現していたのかも、とはっとさせられた。実際、ずとまよの詞はそのほとんどが“感情の吐露”であるし、それを歌うACAねの声と振る舞いも、表情は見えなくとも非常に雄弁で、胸が苦しくなるほどエモーショナルだ。自分の気持ちを工夫して言い換えて、時にごまかして、やっぱりうまく伝わらなくて……という誰しもが持つ“歯痒さ”がちりばめられているから、それに気づいたときにまるで「自分自身」をわかってもらえたかのような嬉しさがあるのかもしれない。

 ライブ終盤には、最新曲「綺羅キラー」でコラボを果たしたVTuber・Mori Calliopeがセットのブラウン管から登場するサプライズがあったが、ACAねもMori Calliopeも同じくらい“非実在感”をまとう存在だから、この生共演も驚くほど自然だった。でも、ふたりは確かにそこにいて、観客を煽って飛び跳ねさせ、しゃもじを叩かせ、一緒にこのひとときを楽しもうとしていた。次元すらも飛び越えるステージを自然に楽しめたのは、「ゲーム」を前提にした遊び心たっぷりの世界観と、彼女たちの“体温”が伝わってくるからだろう。

 どこまでも匿名で得体の知れない、だからこそ生々しいほどの人間の体温と息づかいを感じられる。ずとまよはそんなバンドだから、ライブに足を運ぶ人はその(時に情報過多な)音楽とユーモアに魅了され、夢中になってしゃもじを叩いてしまうのだと思う。4月からは、ボーカル、ピアノ、ギターのみの過去最小・アコースティック編成でまわるZTMY PREMIUM会員限定Zeppツアー【元素どろ団子TOUR】の開催も告知されている。これまで見せなかったミニマムな音で、今度はどんな面を見せてくれるのだろうか。ずとまよが突き進む次のステージに、期待しかない。


Text by Maiko Murata
Photo by 鳥居洋介

◎公演情報
【ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~】
2023年1月14日(土)、15日(日) 東京・国立代々木競技場 第一体育館

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