2026/09/11 18:30
「実はさ」とネイト・エイモスは、マルボロを一服し、ゼロシュガーのモンスター・エナジーを一口飲みながら言う。「スリップノット世代のど真ん中なんだよね。なのに、メタルにハマったのは20代後半になってからだった」
蒸し暑い7月下旬の午後、ディス・イズ・ローレライの中心人物でシンガーソングライターのエイモス(35歳)は、マンハッタンのイースト・ヴィレッジにあるバーの裏庭のベンチに腰掛けていた。黒のスリップノットのTシャツをだらしなく着ながら、ヘッドフォンを首にかけている。ぼさぼさの茶色い髪と、指の関節に彫られたタトゥーも相まって、見た目はすっかり“スリップノット・キッズ”だ。しかし会話をしてみると、エイモスが幅広いジャンルに深い敬意を払っていることが分かる。多感な時期に夢中になったのは、フライング・ロータスに代表される実験的エレクトロニック・ミュージック=IDM(「あれはマジで貪るように聴いた」)、レディオヘッド(「今でも『キッドA』と『アムニージアック』は聖書だと思ってる」)、そしてザ・ビーチ・ボーイズ(「『ペット・サウンズ』には、ポップ・ミュージック史上でも屈指の美しさを持つ瞬間がある」)だった。
【ニューポート・フォーク・フェスティバル】への出演を終えたばかりの彼は、ルシンダ・ウィリアムズやメアリー・チェイピン・カーペンターといったアメリカーナの名手たちの名前も挙げる。こうしたルーツが、ディス・イズ・ローレライを、拡大を続けるオルタナ・カントリー系のサブジャンルの中でも屈指の評価を受けるアクトへと押し上げてきた。9月11日に、<マタドール>からリリースされた新作『ザ・シンガー・イン・マイ・バンド』は、ワクサハッチーのケイティ・クラッチフィールドやギースのキャメロン・ウィンターにもカバーされてきたこのミュージシャンにとって、作曲面での新たな到達点であると同時に、2024年のブレイク作『Box for Buddy, Box for Star』で人気を確立した、飾らないアメリカーナ的インディーロック・サウンドの深化でもある。それでも、創作意欲が尽きることのないエイモスは、すでに次の一手に目を向けている。
米バーモント州ノースイースト・キングダムで育ったエイモスは、きょうだいのサラとともに、ブルーグラス・ミュージシャンである父ボブ・エイモスとセッションを重ねてきた。「うちの親父、Pro Toolsを持ってたんだよ」とエイモスは振り返る。「実質、親父のスタジオ・アシスタントみたいな存在でね。やり方を全部教えてもらった。まだ本当に小さい頃から、フェーダーを触らせてもらったりしてた」
2010年代初頭、米シカゴのコロンビア・カレッジで“オーディオ関連”を学んでいたエイモスは、意欲的にスタジオの仕事に就き、経験を積んでいった。バーモントに帰省する休みの間には、その時間を使って自宅録音のプロジェクトを始め、それにディス・イズ・ローレライと名付けた。2014年の元日、Bandcampにセルフ・タイトルの第1作を投稿。やがてその実験精神はノースイースト・キングダムだけに収まらなくなり、シカゴではルームメイトたちと「どれだけ多くの曲を作れるか」を競い合うようになった。「ライターとしての日々の生活の中に、ローレライを否応なく組み込んでいくような、そんな性急さがあった」と彼は言う。とはいえ「もともと本格的なプロジェクトとして設計されたものじゃなかった」と彼は続けた。
エイモスは、ローレライを他の音楽的な探求のための“砂場のような実験室”として使っていた。その一つが、2016年にシカゴでレイチェル・ブラウンと結成したアートロック・バンド、ウォーター・フロム・ユア・アイズだ。すぐに成功をつかんだわけではなかったが、2021年のアルバム『Structure』をきっかけに名門インディー・レーベルの<マタドール>がバンドと契約。続く2023年の『Everyone's Crushed』、2025年の『It's a Beautiful Place』で、エイモスとブラウンはインディーロック界屈指の注目株としての地位を確立した。
その間もエイモスは、ローレラという砂場での“遊び”を続け、2014年から2023年にかけて、Bandcampに30作近いミックステープやEPを発表してきた。そして、ローレライ名義としては初の本格アルバムとなる『Box for Buddy, Box for Star』が、このプロジェクトを知らしめる存在へと押し上げた。セルフ・リリースしてきたローレライの作品群が数多くのジャンルを横断していたのに対し、ウォーター・フロム・ユア・アイズはサイケデリックとシューゲイザー、ダンス・パンクが交わる領域に軸足を置いていた。一方『Box for Buddy』の率直でツイン・ギターの利いたインディーポップ・サウンドは、瞬く間にファンの心をつかんだ。
「ローレライは、伝統や既存の音楽をできる限り受け入れようとする試み。ウォーターは、それをできる限り無視しようとする試みなんだ」と彼は言う。「ウォーターはパズルを作るような感覚に近くて、ローレライは、余計な前提条件をできるだけ取り除いて、感情に直接触れることを目指している。この二つは対極にあるものだけど、自分の中では同じくらい大切な関心事なんだ。ある種の共生関係だね」
ローレライの評判が口コミで広がるにつれ、エイモスは急速に注目を集める2つのアクトを同時に抱える存在になった。ウォーター・フロム・ユア・アイズとしてはインターポールやヘイリー・ウィリアムスの、ディス・イズ・ローレライとしてはグリズリー・ベアやブリーチャーズのオープニングを務めている。今年発表された『Box for Buddy』の拡張版には、MJレンダーマンやウィリアムスによるカバーも収録された。「ライターとして望むのはまさにそういうことなんだ。曲がもう自分を必要としないくらい、しっかりと自分の足で立てるようになること」とエイモスは語る。
2025年後半、エイモスはBandcampのバックカタログから再録した楽曲を集めたコンピレーション『Holo Boy』をリリースした。これは同時に、『ザ・シンガー・イン・マイ・バンド』(このタイトルは、ウォーター・フロム・ユア・アイズではエイモス自身が歌わない、という事実へのちょっとした目配せでもある)のための“試験的なレコーディング・プロセス”でもあった。新作は基本的に内輪だけで作られた作品で、他に参加した演奏者はタイトル曲でバンジョーを担当したエイモスの父のみだ。ボーカルには、エイモスのきょうだいサラと、婚約者であるアル・ナルド(ローレライとウォーター・フロム・ユア・アイズ双方のツアー・メンバー)が参加している。これまでのエイモスは主に自宅で曲作りをしてきたが、今作は6か月にわたるツアーの道中で、「頭の中でアイデアを集めながら、ぼんやりと空想を巡らせる」ようにして作り上げられたという。『Box for Buddy』の“第2弾”にはしたくなかった、とエイモスは強調する。そのために意識したのが、前作の言葉数の多さを削ぎ落とすことだった。「言葉数が少なくなればなるほど、その一つひとつの言葉が高価になる」。そう語る彼は、具体的な情景描写を効果的に散りばめることで、「物語そのものを説明してしまうことなく、聴き手の無意識の中で、曲の残りの部分を組み立てさせる」ことを目指したという。
彼はまた、自身のブルーグラス的なルーツにも深く踏み込んだ。“オルタナ・カントリー”はこの10年でインディーロックの主流の一つとなり、しばしば単に“スティールギターが入っている”程度の意味で使われる言葉になってしまっている。しかし『ザ・シンガー・イン・マイ・バンド』は、このサブジャンルをさらに拡張し、その先へと進んでいく。軽やかなインストゥルメンタル曲「Nitro」は正真正銘のルーツ・ミュージックで、ブルーリッジ山脈に朝日が昇るような響きを持つ一方、ジャングルポップ的なシングル「Billy Came Back」は、失われた80年代のR.E.M.のナンバーのような手触りがある。本格的なブルーグラス・チューンである「Watching Heaven Fall」やタイトル曲を含め、アルバム全体を通じて、エイモスはアメリカーナの偉大な吟遊詩人たちに通じるリリシズムを発揮している。
とはいえ、いまディス・イズ・ローレライというフィールドで“ゾーン”に入っているように見えても、エイフェックス・ツインについてもブライアン・ウィルソンについても同じように熱弁できる彼が、この特定のレーンにいつまでも留まると期待しない方がいい。「自分にはいくつかのフェーズがあって、行ったり来たりする性質があるって、自分自身よく分かってるんだ」と彼は言う。「今回のアルバムは、あるフェーズの中心地点だと思う。このアルバムのあとは、たぶんまた別のどこかへ動き出すはずだよ」
By: Eric Renner Brown / 2026年8月24日Billboard.com掲載
◎リリース情報
アルバム『ザ・シンガー・イン・マイ・バンド』
2026/9/11 RELEASE
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像