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楽園おんがく Vol.16: BLACK WAXの魅力に迫る

楽園おんがく Vol.15:世界一の音楽大国ブラジルの最新音楽シーン

 旅と音楽をこよなく愛する、沖縄在住ライター 栗本 斉による連載企画。第16回は、世界中どこを見渡しても類似するグループが見あたらないほど、独特の雰囲気を持つ唯一無二のバンド、BLACK WAXに迫る。

 沖縄と一言でいっても、非常に広い。一般的には県庁所在地である那覇市がある沖縄本島を思い出すだろうが、無人島も含めると363もの島で成り立っているし、当然のごとく島によって言葉や習慣など文化が違う。もちろん音楽にも当てはまる。例えば、本島を中心とする文化圏から生まれた琉球民謡と、石垣島周辺の八重山諸島における八重山民謡では、言葉もメロディもまた違う。

 これまで一般的にはさほど知られていなかったが、宮古島も個性的な音楽が生み出されるエリアのひとつだ。ここ近年の流れとして、旅する音楽家・久保田麻琴による数々の発掘と再評価が特筆に値する。消滅しようとしている宮古の古謡や神歌を音源化したり、ドキュメンタリー映画が製作されるなど、これまで知られていなかった宮古の音楽にスポットが当てられることになった。

 こういった一連の流れと微妙にリンクしながら、久保田麻琴が見い出したグループが、今回紹介するBLACK WAXだ。表面的には4人組のジャズ/ファンク・バンドということになるのだろうが、世界中どこを見渡しても類似するグループが見あたらないほど、独特の雰囲気を持っている。とりたてて沖縄色を押し出しているわけでもないのに、不思議としかいいようのない空気感に溢れているのだ。この感覚は今では徐々に評論家や音楽ファンに浸透し、大きな評価と人気を得始めている。ここでは、彼らへの取材をもとに、BLACK WAXという唯一無二のバンドに迫ってみたい。


写真

BLACK WAXの歴史は、リーダーでもあるドラマー、奥平幹郎の個人的な音楽活動からスタートする。もともと幹郎はギタリストだった。宮古島というのは非常に特殊で、なぜか昔からロカビリーが盛ん。当然のように彼もロカビリーをメインにバンド活動にいそしんでいたという。高校卒業後は沖縄本島で本格的に音楽に打ち込むが、24歳の時に宮古に戻った。そして、自宅の離れをスタジオに改造し、ひとりで宅録による楽曲制作を始める。

コツコツと地道にセルフ・レコーディングに打ち込んでいるうちに、幹郎のプロジェクトは少しずつ周りのミュージシャン仲間にも広がっていく。その中のひとりが、オギノ88テツヤだった。テツヤの経歴も非常にユニークだ。大阪出身で中学生の頃からブルースハープを吹き始めた。そして、高校生の時に訪れた宮古島に魅せられ、そのまま宮古の高校へと転校。宮古を代表するシンガー・ソングライターの下地暁を始め、様々なミュージシャンと関わっていく。そして幹郎の宅録ソロに参加しているうちに、BLACK WAXの母体ができていった。バンドではベーシストだが、ウクレレ教室を主宰するなど、幹郎同様にマルチ・ミュージシャンでもある。

この二人に引き寄せられていったのが、サックス奏者の池村真理野だ。高校卒業後は宮古島を出て、岡山県の音楽学校で勉強し、その後関西で演奏活動を始めた。しかし、宮古に戻ってきて幹郎、テツヤとセッションするうちに、BLACK WAXのフロントを担当するようになっていく。


▲ 『ナークニー / Naak-Nee』

こうして少しずつプロジェクトが固まりつつあった頃、出会ったのが先述の久保田麻琴だ。幹郎の宅録音源を聴いて気に入った久保田は、彼らにバンドとしてレコーディングを促すことになる。そして、幹郎、テツヤ、真理野の3人に、20年も前に東京から宮古に移住していた先輩格のギタリスト、Jun-Sunを加え、2011年にデビュー・アルバム『ナークニー / Naak-Nee』を発表した。

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BLACK WAXのバリューを高めた1st & 2nd アルバム

「Mercy Mercy Mercy」
▲ 「Mercy Mercy Mercy」 MV

『ナークニー / Naak-Nee』では、すでにBLACK WAX特有のアイランド・グルーヴとでもいうべき空気感がみなぎっている。まずはミーターズの「Cissy Strut」を、粘っこいグルーヴはそのままに隙間の多いアンサンブルで固めていく。続くキャノンボール・アダレイの名演で知られる「Mercy, Mercy, Mercy」も、揺らぎの多い演奏が生々しい。特徴的なのはラテン・テイストもふんだんに取り入れているところ。「Garota de Ipanema」や「Brazil」などで見事なクイーカを聴かせてくれるのは、宮古に移り住んだ伝説的なブラジル人サンビスタ、ダミアォン・ゴメス・デ・ソウザ。こういったブラジルやラテンの雰囲気もバンドの持ち味になっている。オリジナル曲は幹郎による「Shakin' Your Hands」と「海で逢えたら」の2曲のみだが、前者はスペイシーでコズミックなジャズ・ファンク、後者はパンチの効いたダブ処理のレゲエ・ナンバーに仕上がっており、カヴァーにはない濃度を感じられるだろう。以後、この持ち味がさらに強調されていくことになる。

「海で逢えたら(Dub Mix)」
▲ 「海で逢えたら(Dub Mix)」

ファースト・アルバム発表後に参加したのが、真理野の姉である池原綾野。彼女も音楽学校でピアノを学んだ後、関西を中心にキーボーディストとして活動してきた。しかし、妹の後を追うようにして宮古島に戻り、自然とBLACK WAXの一員に迎えられる。ギターのJun-Sunが脱退し、ドラム、ベース、キーボード、サックスというカルテット編成で落ち着いてから完成させたのが、セカンド・アルバム『バンガムリ / Bang-A-Muli』(2013年)だ。

『バンガムリ / Bang-A-Muli』 トレイラー
▲ 『バンガムリ / Bang-A-Muli』 トレイラー

『バンガムリ / Bang-A-Muli』は、さらにBLACK WAXに音楽に深みを与えた傑作となった。冒頭におかれた彼らのテーマ曲とでもいうべき真理野のオリジナル「Black Works」は、ダブから4ビートへと展開する瞬間がとにかくスリリング。この曲を含む数曲で強烈なダブ処理を行っているのは、イスラエルのジャズ・ファンク・バンド、ジ・アップルズでエンジニアを務めるミックスモンスター。プロデューサーの久保田麻琴によって引き合わされたこの組み合わせは、意外ながらも見事にはまっている。他にもヴィブラフォンの音色をフィーチャーしてクールに仕上げた幹郎の「Starting Love」や、全員の名前がクレジットされたどこか中東的な旋律が躍動するラスト・ナンバー「Imagination」など、オリジナルが占める割合が増えクオリティも格段に上がっている。また、リズム&ブルースの有名曲をファンキーに仕上げた「Just a little bit」や、アントニオ・カルロス・ジョビンを驚きのスカ・ビートでコーティングした爽やかな「Wave」、レアグルーヴ臭をぷんぷん醸し出しているハービー・ハンコックの「Chameleon」など、相変わらずカヴァーのセンスも抜群。なかでも極めつけは、宮古島では知らない人はいないという子守唄をレゲエにアレンジした「Bang-a-muli」。ピースフルな雰囲気は、まさに島の空気を盛り込んだ名演といっていいだろう。


▲ 『バンガムリ / Bang-A-Muli』

この2作目が、彼らのバリューを高めたことは間違いない。ピーター・バラカン氏を筆頭に数々の評論家、メディア、ショップなどで絶賛され、宮古島内や沖縄県内だけでなく本土でもライヴを行うようになる。活動が活発になることで、さらに評価が高まり、ジャズやワールド・ミュージックなどを好む音楽ファンのなかでも、もっとも注目されるアーティストに数えられるようになった。こうした気運の流れに乗って新たな一歩を踏み出したのが、サード・アルバム『ヴドゥ・イー / Vudu-Eee』(2014年)である。

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彼らのアンサンブルでしかできない曲ばかりの
3rdアルバム『ヴドゥ・イー / Vudu-Eee

『ヴドゥ・イー / Vudu-Eee』 トレイラー
▲ 『ヴドゥ・イー / Vudu-Eee』 サンプラー

『ヴドゥ・イー / Vudu-Eee』も、これまで通り、久保田麻琴がプロデュースを担当している。とはいえ、彼の役割はあくまでもまとめ役であり、基本的にはアドバイザーに徹しているそうだ。レコーディングの手順は非常にラフで、まずは幹郎のスタジオでセッションすることから始める。まったく何もないところから作り上げることもあれば、ある程度メロディやリズムを決めてから肉付けしていくものまで様々。ただ、必ずメンバー全員の意志が加えられることで楽曲が広がり、発展していくことに変わりない。


▲ 『ヴドゥ・イー / Vudu-Eee』

今作の特徴は、なんといってもメンバー全員がソングライターとしてクレジットされていることだろう。タイトルそのままに気怠いリズムと、エキサイティングなワウ・ギターが響き渡る幹郎の「Loose Groove」、ドイツ語で“ビールをください”という意味のタイトルを付け、クラブ・ジャズを意識したクールな雰囲気を持つ綾野の「Eins Bier Bitte」、ギロのリズムがラテン気分を盛り上げるテツヤの「TROPICALISMO」、真理野が宮古の男をイメージして作ったという、レゲエとサルサが合体した「Myah-Man」と、メンバーそれぞれの個性もほんのりと浮かび上がってくる。全員の名義による2曲も興味深い。ファラオ・サンダースを彷彿とさせる冒頭の「Confusion」のようなスピリチュアルな世界観は、新しいBLACK WAXの魅力になり得たといってもいいし、オリエンタルなメロディがサーフ・ギター風の音色(実は三線)やレゲエのリズムに絡みとられていく「Golden Time」のごった煮感覚は圧巻だ。

今回ももちろん、興味深いカヴァー曲をセレクトしている。しかし、いずれも原曲のイメージを覆すようなアレンジを施しているのが面白い。ホレス・シルヴァーの「Song for my father」は、うねるビートとエキセントリックなシンセがP-FUNKを思い起こさせるし、ジャズのスタンダードとして知られる「On Green Dolphin St.」は、ジャズ・ファンクとレゲエとスウィングを組み合わせたような不思議なリズムが支配する。ラストを飾る「Moliend Cafe」は、日本では「コーヒー・ルンバ」と知られるラテンの名曲だが、クンビアをベースに無国籍な雰囲気を作り上げている。こういった選曲はよほど思い入れがあるのかと思えば、ほとんどが思い付きレベルらしく、時にはジャズの楽譜集を適当に開いて選ぶこともあるという。幹郎にいたっては、レコーディングが終わるまで原曲を聴いたことがないものも多数あるらしい。しかし、そのことがかえって固定観念を植え付けずに斬新なアレンジを施すことができるのだろう。実際、カヴァーだけでなくオリジナルも含め、ジャズやファンクのセオリーに縛られず、彼らのアンサンブルでしかできない作品ばかりだ。

加えて、前作に続き、イスラエルのミックスモンスターが参加。ダブ処理を含む全編のミックスを担当し、彼らの録音を独自の音響処理で料理している。さすがに上がってきた音を最初に聴いたときは、違和感を感じる部分もあったというが、それだけ強烈な印象を残すことで、ある意味“5番目のメンバー”というほどの存在に感じられるという。

『ヴドゥ・イー / Vudu-Eee』リリース後は前作にも増してライヴ活動を行い、全国ツアーだけでなく各地でのイベントにも数多く招かれるようになっている。実際、彼らのライヴは、ディスクに収められた音像とはまた違うグルーヴやテンションを感じられる。CDを聴くと同時にライヴを体感するというのが、彼らの魅力を知るには不可欠だ。

BLACK WAXはまだまだ発展途上のバンドだけに、何が出てくるかわからない面白さに満ちている。グローバル化されていく音楽シーンとはまったく違う新しい潮流として、彼らの動向に今後も注目してもらいたい。

BLACK WAX「VUDU-EEE」

VUDU-EEE

2014/06/22 RELEASE
ABY-13 ¥ 2,547(税込)

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