あのライブは実質上の解散発表だった

－－今年の1月22日、解散発表の直前に開催されたモバイルファンクラブの限定ライブで、最後に今回の新作のラストトラック「Dear My Cru」を披露していました。

Diggy-MO'：これは1月22日という日にライブをやることも含めてずっと考えていたことで、みんなとの間に築いてきた大切な物だったり、自分たちが表現してきたコアな部分、核となる部分の示しから外れない楽曲をセットリストに組むことは決めていて。それで「ALIVE」から始まって「Dear My Cru」で終わる形になったんだけど。
やっぱり解散コメントとか、オフィシャリーになるとスクリーンから文字面だけが出てくるわけじゃないですか。そういう物じゃない、俺らから直接伝えることが礼節も含めたスジというか、ルールの中で表明できない代わりに、自分の中で誠意を持ってスジを通せないかをずっと考えてて。ただまあ、あのライブは実質上の解散発表だったよね。わかった人もいただろうし。

－－確かに終わった後のファンの表情は様々でしたね。

Diggy-MO'：とはいえ平日の最中には足を運べなかった人もいるだろうし、そういう人たちにはウェブ上での発表になってしまったことは、とても心苦しいんだけどね。そこが後手になっちゃったのは。

－－ただ、確かに解散というのは大きなトピックなんですが、今回のインタビューでまず訊きたいのはそこではないんですよね。というのもこの『To From』というニューアルバムが、とにかく素晴らしい！ いわゆる解散アルバム的な作品ではないじゃないですか。

Diggy-MO'：ありがとうございます。

－－本作に収録されている楽曲は、解散が決定する前に作られたのでしょうか。それとも決まってから制作されたのでしょうか。

Diggy-MO'：どっちもですね。当然、「Dear My Cru」なんかは後になってくるんだけど、「MARTIAN MARTIAN」とか「Sweet Grrl パイセン」とかは意外と（解散が）決定してからなんだよね。

－－それが意外じゃないのがDiggy-MO'さんなんですよ。

Diggy-MO'：この辺の妙を理解していただけてると、「とはいえ後にも先にも俺という人間は音楽人なんだ」というということを理解されてるのかなって、ありがたい気持ちになるんだよね。

「やっぱりそういうのやるんだね」って言われた

－－「Sweet Grrl パイセン」は凄い曲ですよ。タイトルのライトな感じとか、Shinnosukeさんの持っている武器を最大限に使ったキャッチーなテイストがありつつ、音色のひとつひとつがとことんまで突き詰められていて。

Diggy-MO'：まぁ、ね……。ありがたいッス（笑）。

▲最優秀レコード賞を受賞したDaft Punk「Get Lucky」

－－この曲は、グラミーを5部門制覇したダフト・パンクの『ランダム・アクセス・メモリーズ』や、現在空前のヒットとなっているファレル・ウィリアムス『ガール』に通じるサウンドだとも感じるんですが、たとえばファルセットで歌い切るサビメロなどは、ソロの時の「バンビ」などでもトライしてたましたよね。

Diggy-MO'：まさにまさに。でも、今言った2作って本当に良い作品だったよね。

－－それらがこの曲に与えた影響はありますか？

Diggy-MO'：でもカッティング系のサウンドってSOUL'd OUTは昔からやってるんだよね、ブラックミュージックのカッティングギターの系譜っていうのはずっと。結局、カテゴリの枠をどこかでブレイクしたい、ジャンルとは違う次元で変換、アウトプットしていきたいっていう想いがあるから、最終的にはひとつに収まらずに表現することを楽しくやっているんだけど。

－－そういう深みや探究心が音になっているのがSOUL'd OUTの面白い所であり、同時に「何故もっと伝わらないんだ」と憤りを感じる部分でもあるんですよ。

Diggy-MO'：アッハッハッハ！

－－「もっと気づいて！音楽マニア！」って毎回思うんですよ。

Diggy-MO'：「何故もっと伝わらないんだ」って面白いなあ（笑）。

▲2011年4月リリース『and 7』

－－だって「Sticky 69」を配信リリースするグループって、単純に面白いじゃないですか。これはかつての復活第一弾が「and 7」だったことにも繋がるんですが、日本のトップフィールドでこの曲を推し曲にする面白さ。近年、ジャズとダンスミュージックの融合は珍しくありませんが、最近アメリカ西海岸のトラックメイカーにその辺りを奇妙に融合させている人たちがけっこういて、彼らのサウンドとも通ずる部分があるんですよ。

Diggy-MO'：「Sticky 69」はね、本当はプロデュース曲にしようと思ってたんだよね。曲を作る時、最初の段階では何に使うかとかは考えてなくて、後々になって決まっていくんだけど、女の子が歌うと面白いと思ってて、実は。女性の持っているブルーズと合致すると、よりグロくなる（笑）。女の子はさ、なんだかんだその性でさ、生まれながらにブルーズを知ってるじゃないですか。そこに自分の書いた歌詞が合致すると、グロくも生々しい刺激的な楽曲になるかなって。まぁ自分が歌うならこういう風に泳げるっていうイメージも無くは無かったので、結果的にそっちになびいていったというか。

－－終盤、ランニングベースのジャズっぽいアプローチが導入されていくアレンジはシビれました。

Diggy-MO'：前に「Wardrobe #6」とかで一緒にやってたArs Wizard C-VEのスタジオで、いつも楽曲デモとか打ち込んだり、プリプロのボーカルRECとかやってるんだけど、「やっぱりそういうのやるんだね」って言われた（笑）。まああのままエレクトロで終わってもかっこよくはできるだろうし、よりシャープにできるだろうけど、……思いついちゃったんだよね（笑）。

好きでやってたらこうなっちゃったんだよ

－－今作は、生音もふんだんに使われています。

Diggy-MO'：プレイヤーの人たちって実際にその楽器が好きで演奏して極めてきた人たちだから、ともすればもっとも音楽を純粋に好きな人かもって思ったりもしていて。プロの人でも3時間、高架下で練習してから帰る人とか、俺が知っている人でも全然いるからね。別にチャートアクションを起こしたりブレイクしたりするわけではないけど、そういう人たちって本当に音楽が好きなんだなって思ったりする。結局、若い奴らでもプレイヤーってそういう想いが強いような気がしてて、よく世代だなんだと言われるけど、そこではくくられない音楽人がいるっていうのは嬉しかったね。

－－ベースのRock Sakuraiさんはソロのときもベースを担当していましたよね。

Diggy-MO'：Rockは音楽が好きですよ、とても。昔の、スタジオに入ってみんなでジャムをやろうよみたいな感覚を持ってるんですよ、Rockは。そういう心構えでやってるからフットワークも軽いんだよね。彼の本当の音楽人としての軽快さはすごくリスペクトしてる。まぁ、本来それって、それでこそな所なわけじゃん。

－－でも、それが当たり前じゃない状況が、まるで常識のように語られているのが現状ですよね。それこそ『To From』って、“純粋の音楽をやっていたらこうなるよね”っていう作品じゃないですか。

Diggy-MO'：そうそう、好きでやってたらこうなっちゃったんだよ（笑）。

－－8曲目の「Hoochie Coo Baby」の間奏でホーンセクションから続くDiggy-MO'さんのピアノソロなども、譜面通りに……っていうサウンドとは違う音楽の楽しさがありますよね。

Diggy-MO'：あんまり考えずにやってみたら、なんか色んな国を行ったり来たりする感じになっちゃった（笑）。一通りまとめた後で「いいのかな？」とか思いながら、そのまま帳尻を合わさないで完成させた曲なんですよ。でも、そういうのって重要だと思うんだよね。

－－たとえば「SUCK MY ART」のギターフレーズも、使い方を間違えるともの凄く安っぽい曲になっちゃうじゃないですか。

Diggy-MO'：わかる、それ。

－－それをどうやって他の曲と同じだけのレベルまで高めていけるか。

Diggy-MO'：さっきまで生音の話をしてきたけどさ、打ち込みのギターでも良かったらそれでいいんだよね。打ち込みのギターってあんまり良いイメージないけど、デモレベルで着地点を見つけた後で生に差し替えてみても違和感があったりするんだよ。そういうトライは今まで何回もあったんだよね。

「いや～、ダサい！」って噛み締めて欲しい

－－生音の可能性と打ち込みやシンセなどの可能性をそれぞれに突き詰めて、一番良い音をチョイスしていく方法って、バンドでもトラックメイカーでも難しい所があるじゃないですか。だから、どんどんジャンルで語り難い作品になっていくんですよね、SOUL'd OUTって。

Diggy-MO'：そうだね。

－－ただ、それを“ジャンルはSOUL'd OUT”みたいに表現するのも違うというか、もっと様々な可能性を経て、ここに辿り着いてるんだってことは伝えたいんですよね。

Diggy-MO'：面白いね、その話。「ジャンルはSOUL'd OUT」ってよく聞く。あれもけっこう……、もちろんしょうがない時はあるよ。でも、「言ってもSOUL'd OUTってことですかね、やっぱり」とか言われると、まあね（笑）。

－－ただ、その一方で6曲目の「Twilight Twilight」などはある種、SOUL'd OUTを聴き続けてきた人なら想像できる音だと思うんですよ。だからこそ他の10曲と双肩するレベルまで高めるために必要な作業、単調になりかねない楽曲にどうやって耐久力を持たせるかという、難しいトライですよね。

Diggy-MO'：そうそうそうそう。……本当に良く聴いてるなぁ（笑）。こういう王道、スタンダードなポップソングってダメだと本当にどうしようもない曲になっちゃうから。でも、こういうベタを扱いながら工夫していくことはすごい好きで、ある種、もっとも挑戦というか。ソウルにとかジャジーにとかって、かっこいいに決まってるよね（笑）。
絶妙な所を見つけながら試行錯誤していくのがすごい楽しいんだよね。もちろんジャズは好きだしかっこいいけど、自分の表現、アートの収めどころとして、クリエイティブに触発されていくのは、それだけじゃ終われないんだよね。……だからさ、「いや～、ダサい！」って噛み締めて欲しいよね！（笑）

－－アッハッハ！ でも、そういうチャレンジも続けている所がすごいんですよ。「Sticky 69」のような楽曲を突き詰めているミュージシャンは他にもいると思うんですよ。ただ、同じアルバムに「Twilight Twilight」のような楽曲が同じ熱量で入っている。これがSOUL'd OUTの驚嘆すべき所で。

Diggy-MO'：うん、うん。

－－だから今回は解散について訊かなければいけないんですけど、まずもってこのアルバムが超楽しいから、何よりそこについて訊かざるを得ないというか。

Diggy-MO'：音楽の更新版っていうことなだけっていえばそれだけだからね、結局。変わらずに。

最後じゃなかったらやらない

－－ただ、それでも最後に収録された「one man cast alone」「scribbles」「Dear My Cru」の3曲は、今までと違うと思いました。

Diggy-MO'：「scribbles」は、11年間のメモなんだよね。タイトル通りに走り書きでバーッて綴られているノートの断片、デビュー当時から現在までの断片で。これまで発表してきた楽曲の歌詞に上がらなかった物も、上がった物もあるんだけど、今必要だと思える言葉。11年間思ったり考えたり、単純に感じたりしてきた物を、あまり整合性や帳尻を考えずに……。所詮人間なんて複合的な物だからさ。

－－散文的に。

Diggy-MO'：まさにscribblesがscribblesなように、っていう歌詞。ただ、これは今まで歌詞に上げにくかった物でもある。感情が行き過ぎてて伝わりにくいというか。もちろん中にはSOUL'd OUTやソロ、今回のアルバムで使った歌詞もあるけど、こういう物を上げたのはやっぱり最後だからっていうのもあるよね。最後じゃなかったらやらないと思う。

－－この曲は英語詞ですが、歌詞カードに対訳が載っているのも意外でした。

Diggy-MO'：和訳も最初はどうしようかなって思ってたんだけど…………、まあね。届けたいとかわかってもらいたいっていう気持ちが強いから表現しているんだけど、とはいえ別アングルで考えるとさ、それをわかってもらいたいと思うこともおこがましい、自分勝手だったりするわけで。……まあ難しい所だな。

－－この曲は歌も含めて非常に強烈なサウンドじゃないですか。最初に歌詞を読まずに聴いて衝撃を受けて、その後に対訳をなぞりながら聴くことで、自分の中で少し変わってしまった所は確かにありました。

Diggy-MO'：そうだね。……そうだよね、わかる。

－－その次が最後の「Dear My Cru」ということも含め。

Diggy-MO'：……近くにいる人たちの中に日本語の訳を載せるべきだっていう意見もあってさ、「これはちゃんとに表明して欲しい。みんなに届いて欲しい」って言ってくれる仲間内とかもいて。……まあ、これは和訳まで読む人だったり、わかってくれようとする人たちとの答え合わせみたいな物だからさ。その人が今いる人生との答え合わせじゃん、結局。そんなことを言ったら全部がそうなんだけど。……だからさ、良いんだよ。最終的に「何言ってんだコイツは？」っていう感想でありがたいッス（笑）。

その感覚がおそらく答え

－－そして最後に「Dear My Cru」が収録されている。こうした作品を完成させた今、最後に訊きたいのは、やっぱり今後のDiggy-MO'はどうなっていくのか、ということで。

Diggy-MO'：うん。

－－以前、活動休止から各々のソロ活動を経て復活という流れがあっただけに、今回もそれではダメだったのか、という気持ちもやっぱりあるんですよ。これだけすごいアルバムを作れるチームじゃないですか。ただ、やっぱりそうではないんだよなっていう想いがあります。

Diggy-MO'：うん。「……そうではないんだよなって想いがあります」っていうのが何となくわかっていただける人ならば、それで正解に近いんじゃないかなって、その感覚がおそらく答えですよって気がしますね。そう思ってくれる人は、今後も付き合える人かなって気はするし、……まあ思えないと付き合えないわけじゃないんだけど（笑）。

－－確かに「このアルバムを作ったんだから、次もすごいよね」という揺るぎない信頼はあります。

Diggy-MO'：だからやっぱさ、音楽マニアは当然そういう温度でいて欲しいし、………………まあね。うん。「Sweet Grrl パイセン」みたいな曲を書くと同時にさ、「scribbles 」や「Dear My Cru」みたいな側面もあるわけで、ヒューマニズムをヒューマニズムのまま置いていくか、音楽というアートの中に閉じ込めて変換していくか。
ヒューマニズムがとても先行する場合っていうのもあるじゃない？ 頭に話した1月22日に誠意やスジを通すべきだとかって、正直アートとか音楽とかが究極に置き去りにされている瞬間でもある。ただ、人間だからヒューマニズムは多分にあるわけで、……ある種みんなで思い込んで創り上げてきた歴史でもあるから、「無くなると寂しいじゃん？」っていうのがあるんじゃない？（笑） 自分らも含めてだけど、それが無い人間はいないじゃん、たぶん。

－－そうですね。

Diggy-MO'：でも、とはいえ次の音楽に期待できるって考えてくれている人は、やっぱりそういう温度感であって欲しいし、それが解散が決まってからでも「Sweet Grrl パイセン」が書けるっていう所と繋がってくるわけで。やっぱり俺はお涙頂戴でやってないからさ、音楽を。そんな馬鹿げた話はないからさ。

－－ベスト盤のインタビューで僕が「10周年っぽい曲は作らないんですか？」って訊いて、「そんなの作らないよ！」って爆笑された話ですよね（笑）。

Diggy-MO'：そうそう。ただ、結果的に涙々の……になったとしてもまったく否定しないけどね、「いいじゃん、人間なんだから」って感じだよ。

－－そういうDiggy-MO'さんだからこそ、ラストツアーがどうなるのか本当に楽しみです。

Diggy-MO'：ウス。