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ジェイソン・イズベル来日記念特集 ~南部音楽の聖地・マッスル・ショールズ育ち、アメリカン・ロックのエース・シンガー・ソングライター、そのキャリアと音楽性を紐解く

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 ヒップホップとポップがヒット・チャートを支配する現在のアメリカの音楽界において、ロックの中心はどこにあるのだろうか? 僕の答えは、ジェイソン・イズベルだ。
 いや、彼はロックの中心にいるだけではない。17年のアルバム『ザ・ナッシュヴィル・サウンド』はロック、インディペンデント、フォーク、カントリーと、なんと4つものチャートで首位を獲得した。ジャンルやスタイルを超え、彼はアメリカの音楽界でそれほどに重要な存在となっている。
 ジェイソンはブルーズ、ソウルからカントリーまでを背景に持つサザン・ロッカーであり、自体験を反映した私的な曲も庶民の人生を描く物語歌も書ける傑出したシンガー・ソングライターである。そして凄腕ギタリストとして知られ、豪快なロックから繊細なフォークまでを説得力たっぷりに歌い演奏する百戦錬磨のパフォーマーでもある。今やアメリカン・ロックのエースと呼んでもいい。
 そのジェイソン・イズベルが新年早々に初めて日本にやってくる。これはまさに事件ではないか!(Text:五十嵐正)

人間の逆境力を信じ、聴き手の心を高揚させる美しさや力強さ

 2014年に日本公開された映画『黄金のメロディ~マッスル・ショールズ~』をご覧になった音楽ファンも多いだろう。アラバマ州北部の田舎町マッスル・ショールズは、1960年代にサザン・ソウルの名作の数々を産み出し、70年代にストーンズからディランまでのロックのスーパースターたちがこぞって録音に訪れた南部音楽の聖地だ。ジェイソン・イズベルはこの地域で、ソウルとカントリーの交差するサウンドを吸収して育った。10代半ばからバンドを始め、地元の伝説的ミュージシャンたちに可愛がられ、21歳でかのFAMEスタジオとソングライター契約を交わす。


▲ 映画『黄金のメロディ~マッスル・ショールズ~』予告編

 01年に同郷の人気サザン・ロック・バンド、ドライヴ=バイ・トラッカーズに加入。リーダーのパターソン・フッドは回想する。「僕らは金鉱を掘り当てた。この丸ぽちゃのガキ ――22歳だったけど、15歳に見えた―― は僕らの時代の最高のソングライターのひとりになっていった」。その言葉通り、03年のアルバム『Decoration Day』で、童顔の新入りはさっそく表題曲と「アウトフィット」という今も人気の2曲を書き、バンドの誇るシンガー/ソングライター/ギタリスト・トリオの一翼を担うことになった。ザ・バンドに捧げた04年の「ダンコ/マニュエル」などの名曲を書き、ギタリストとしては、スライドを得意としており、デイヴィッド・リンドリーに影響されたという、よく歌う演奏を聞かせた。


▲ Austin City Limits Web Exclusive: Jason Isbell "Danko/Manuel"

 だが、07年にジェイソンは突然トラッカーズを脱退。表向きは「友好的な」別れと説明されたが、実はジェイソンの酒やドラッグへの耽溺がひどく、愛想をつかされたのだった。彼はロックンロール人生の落とし穴にはまり、荒れた日々を送っていた。

 それでもジェイソンはアラバマ州出身の腕利きを集めたザ・400ユニットを結成し、09年の『ジェイソン・イズベル&ザ・400ユニット』と11年の『ヒア・ウィ・レスト』で、ソロ・アーティストとしての評価を確立する。彼の音楽は、ブルーズ、サザン・ソウル、カントリーといった南部のルーツ・サウンドに、ニール・ヤングやトム・ペティなどの先輩ロッカーからの影響を取りこみ、自分の個性を培ってきたものだ。

 彼のアルバムには、南部の小さな町で生きる庶民の物語が並ぶ。人生に失望を感じ、悲嘆に暮れ、孤独に生きる人たちのスケッチだ。ただし、音楽にはそんな状況にも負けない人間の逆境力を信じ、聴き手の心を高揚させる美しさや力強さがある。それが時に「南部のスプリングスティーン」とも呼ばれる所以だ。『ヒア・ウィ・レスト』の幕を開ける「アラバマ・パインズ」も故郷に帰れぬ孤独な男が主人公だが、そんな境遇の描写に南部の地理を巧みに生かした詩作と魅惑的なメロディーで、アメリカーナ音楽賞の最優秀楽曲に輝いた。



▲ Jason Isbell, The 400 Unit - Alabama Pines

 だが、順調に見えた活動の舞台裏で、ジェイソンは悪習から抜け出せなかった。アルバムに毎回参加し、11年から交際も始めたアマンダ・シャイアズがその惨状を見かね、12年にジェイソンをなんとか説得して更生施設に入れ、遂に酒とドラッグを断たせたのである。この苦闘の日々が、彼の人生とキャリアを大きく変えるアルバムをもたらす。

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現在のナッシュヴィルのあるべき音楽なんだという声明

CD
▲『サウスイースタン』

 13年に発表されたソロ名義の『サウスイースタン』はその人生の決定的な転換を反映した内容で、彼がずば抜けたアーティストであると世に知らしめた大傑作である。間違いなく10年代のベスト・アルバムの1枚だ。大半がアコースティック・ギター中心のサウンドで、ジェイソンの情感たっぷりの歌唱が心を打つ。幕開けの〈カヴァー・ミー・アップ〉やアマンダがフィドルとハーモニーをつける「トラヴェリング・アローン」は、その数年の体験を背景にした告白調の曲だが、得意としてきた物語を語る作品にも、自分の味わった感情の揺れ動きを織り込んでいる。


▲Jason Isbell - Traveling Alone (Official Video)

 このアルバムは絶賛を浴び、ジェイソンは一躍注目の存在となる。翌年のアメリカーナ音楽賞では、主要3部門を独占した。そして自分を支え続けてくれたアマンダと結婚し、夫妻はナッシュヴィルに活動の拠点を移す。

 15年の『サムシング・モア・ザン・フリー』も前作に負けぬ素晴らしいアルバムだ。再びソロ名義だが、400ユニットも参加して、アコースティック・ギター中心のサウンドにも前作とは異なる色彩を控え目に加えた。娘の誕生間近だったこともあって、父母や夫婦、家族関係についての曲が増え、人間としての成長が歌の世界を広げていた。このアルバムで初めてグラミー賞を2部門で受賞する。

CD
▲ザ・ナッシュビル・サウンド

 そして、17年の『ザ・ナッシュヴィル・サウンド』は久々のザ・400ユニットとのアルバムとなった。ロックする曲とアコースティックなサウンドが共存する内容で、現在のジェイソン・イズベルの全体像が表現されている。表題の「ナッシュヴィル・サウンド」は一般的には洗練されたポップ・カントリーを指す用語だ。サザン・ロック・バンドが自分たちの音楽をあえてそう呼ぶのは、そういった旧来のナッシュヴィル、さらには南部の音楽を進化させていきたい、これが僕らの考えるところの現在のナッシュヴィルのあるべき音楽なんだという声明なのだろう。

 その姿勢は音楽性にとどまらない。ジェイソンの曲には南部社会とそこに住む人びとの現状を歌い、社会の改善、彼らのより良い未来を願うメッセージがある。サザン・ロックというと、南軍旗を誇らしげに掲げるレーナード・スキナードなどから保守的という印象を持たれがちだが、ジェイソンはナッシュヴィルでは少数派の民主党支持のリベラルであり、「ホワイト・マンズ・ワールド」では、はっきりと政治的な意見を表明する。幼い娘の将来のためにも、その負の歴史から目をそらさず、人種や性別で不公平のない南部を、合衆国を築かねばならないという強いメッセージをこめたのだ。トランプが大統領になってから、過去の遺物のはずだった南部の白人至上主義の台頭がニュースを騒がすようになった今、切実な訴えである。

 『ザ・ナッシュヴィル・サウンド』はジェイソンにとって最大のヒット作となり、18年のグラミー賞では再び2部門を獲得した。スタジオ・アルバムはこれが現時点の最新作だが、17年のツアーで6日間を売り切ったナッシュヴィルの由緒あるライアン・オーディトリアムでのコンサートを収録した『Live From the Ryman』が18年に発表されている。また、同年には、レディ・ガガの主演映画『アリー / スター誕生』に乞われて曲を書き下ろしたことも話題を呼んだ。


▲Jason Isbell and the 400 Unit - "Cover Me Up" (Live at the Ryman Auditorium - 10/18/19)

 なお、最新ニュースによると、ニュー・アルバムがほぼ完成したという。20年前半の発表が予定されており、日本の舞台でも新曲が披露されるかもしれない。録音の終盤には、ジェイソンの大ファンを自認し、近年しばしば共演してきたデイヴィッド・クロスビーがスタジオを訪れ、イズベル夫妻と一緒に歌った。そう聞くとアルバムがますます楽しみになるが、何はともあれ、まずは来日公演に必ず駆け付けなければいけない。

 今回の来日では、妻のアマンダ・シャイアズが一緒に舞台に立つ。テキサス州出身のアマンダは7枚のアルバムを発表しているシンガー・ソングライター。15歳でウェスタン・スウィングの名門テキサス・プレイボーイズに加入したフィドルの神童であり、若い頃から、オルタナ・カントリー系のバンドやテキサスのシンガー・ソングライターの伴奏でも活躍してきたが、最新アルバムがロック色濃い作品だったように、カントリー~フォークにとどまらぬ音楽性の持ち主でもある。



▲Amanda Shires on Austin City Limits "Wasted and Rollin'"

 実のところ、アマンダは2019年を代表する顔のひとりだ。というのは、大きな話題を呼ぶスーパーグループ、ハイウィメンの一員で、そもそもの発案者なのだから。グラミー賞3冠で時の人となったブランディ・カーライルに、マレン・モリス、ナタリー・ヘンビー、そしてアマンダという4人の女性が、ウィリー・ネルソンや故ジョニー・キャッシュらによるアウトロー・カントリーのスーパーグループだったハイウェイメンのジェンダーをひっくり返したのが、ハイウィメンだ。女性の視点からのメッセージをこめた作品は、カントリー音楽だけにとどまらず、音楽界全体で大きな反響を呼んでいる。

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