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ザ・ローリング・ストーンズ『オン・エア』発売記念特集



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 2016年の年末、若き日から愛するブルースをカヴァーしたアルバム『ブルー&ロンサム』を新作として発表したザ・ローリング・ストーンズ。今秋のヨーロッパ・ツアーを終えたタイミングで、今度は自分たちの“若き日”そのものを記録したアルバム『オン・エア』が発表された。1963年のデビュー当時から65年まで、約2年の間に母国イギリスの国営放送BBCに出演して披露したライヴ演奏から選曲したものだ。来年でデビュー55年目を迎える彼らが、今なぜ自らの最初期のライヴを発表したのか。そこに原点回帰しながらも未来を見据える彼らの姿勢が見えてくる。

 ザ・ローリング・ストーンズ、2017年秋のヨーロッパ・ツアー「ノー・フィルター・ツアー」が10月25日のパリ公演で終了した。9月9日のドイツ、ハンブルグを皮切りに、約1ヶ月半にわたる12会場(述べ14公演)のショー。今年の6月にロン・ウッドが70歳を迎えたことで、ついにメンバー全員が70代となったストーンズ。寄る年波に押されるどころか、ライヴをやることで彼らがロックンロールの未来を更新しているという事実を思い知らされる。

 もちろん、ストーンズのツアーを追いかける長年のファンだけでなく、ショーが行われる都市に暮らす人々にとっても、今や彼らのライヴは一大イベントだ。2016年3月には、キューバの首都ハバナで120万人にも及ぶ観衆を集めたフリー・コンサートが行われ(映像作品『ハバナ・ムーン ストーンズ・ライヴ・イン・キューバ2016』として発表)、文字通り、キューバの人々に一生に一度のすさまじいロック体験を提供したのも記憶に新しい。彼らがちょっとでも動けば、それはもはやひとつの伝説になるのだ。

 そんなストーンズから届いた最新リリースのニュースには驚かされた。タイトルは『オン・エア』。彼らがデビューした当時から折に触れて出演していたイギリスのラジオ局BBCの番組での貴重なライヴ音源を集めた作品だった。その期間は1963年から65年まで。もっと具体的に言うと、1965年にジャガー=リチャーズのオリジナル曲「サティスファクション」が全米ナンバー・ワンを獲得する65年7月10日までの彼らの姿と言っていいかもしれない。黒人音楽を愛し、大好きな曲をカヴァーすることで自分たちのソウルを、グルーヴをひたすら磨き、それが最初の頂点を迎えていたかけがえのない時間。それをパッケージした作品だ。

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 もちろん、『オン・エア』というタイトルは、これらの貴重な録音が当時いくつかの番組でイギリス中に放送(On Air)されていたという事実を表しているものだ。だが、あえてそこにもうひとつ意味を加えたいという気持ちが僕にはある。当時は、今のように情報があふれている時代ではない。そんな時代に、ラジオで流れた彼らの荒削りで若い感性のブルースやロックンロールが少年少女たちのハートをつかみ、その存在が街の噂になって空気を通じて伝わっていった熱量をドキュメンタリー的に提示したいという思いがあったのではないだろうか。

 また、こうして若き日のラジオ音源をアルバムとしてまとめるにあたっての伏線としては、2016年12月に発表されたブルース・カヴァー・アルバム『ブルー&ロンサム』の存在もあるだろう。原点回帰というよりも、今この年齢と経験だからこそやれるソリッドでぎらついた歌と演奏に、誰もが度肝を抜かれた。そして、わずか3日間で制作されたというスピード感も含めて、ブルースへの尽きない愛情を確認するとともに、若き日の彼らがライヴやスタジオで感じていた“現場感”に、もう一度目を向けるきっかけになったはずだ。

 過去に放送した番組の豊富なアーカイヴを持つBBCのライヴ音源に関しては、ザ・ビートルズも、キンクスも、ザ・フーも、レッド・ツェッペリンもすでに自分たちの作品として公式にリイシューを行なってきたが、じつはストーンズは今までオフィシャルにはここ(BBCでのセッション)に手をつけてこなかった。そういう意味でも、『ブルー&ロンサム』からの流れとして、今回のリリースはとても喜ばしい。もちろん、当時放送された音源なので熱心なファンの中には耳にしたことのある音源も多いだろうが、彼らの選曲と編集(と愛情)がここに加わる価値は大きい。

 発表されている収録曲は全32曲。CD1枚で発売されるスタンダード版は18曲、2枚組のデラックス版は14曲をボーナスで追加しての32曲。スタンダード版収録曲とボーナス曲に同一曲(別テイク)はない。当然、多いほうをと思うのがファン心理だが、スタンダード版にも「ここからストーンズを知る子供たちのために」という意図がきちんと込められているのも感じる。

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 まず、デビュー曲「カム・オン」で始めて、「サティスファクション」へと連なるスタートがいい。そして、カヴァー曲の中にジャガー=リチャーズのオリジナル曲3曲(「サティスファクション」「クモとハエ」「ラスト・タイム」)も、スタンダード版にすべて収まっている。アルバムやシングルでもレコーディングされたことがない曲がスタンダード版とデラックス版合わせて計8曲もある。彼らが愛すべき黒人音楽から何を吸収し、どのように演奏で消化し、どうやってそこからはみ出していったのかを知る上で、ここに提示された選曲は興味深い。また、結局ストーンズでは正式にレコーディングされなかった「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン」(ザ・ビートルズ)「ビューティフル・デライラ」(キンクス)など、同時代のライバルたちへの意識も垣間見える。


▲ 「Roll Over Beethoven (Saturday Club, 26th October 1963)」音源

 収録された楽曲を放送した番組は、全部で5つ。その中ではもっとも歴史がある番組が「Saturday Club」(1957年放送開始)で、1963年と65年の2回分から収録された。「カム・オン」など63年出演時の録音が、アルバム中でももっとも早い時期のものだ(63年の演奏はこの番組のみ)。50年代後半、イギリスの若者たちにとってのロックンロール代わりの役目を果たした音楽、スキッフルを積極的に紹介するなど、ロックの導火線的な役割を果たした番組だが、番組が放送されていたのは土曜日の朝10時から2時間だったというから驚く。国営放送であるBBCにとっては、やはりロックはあくまで“子供向け”という位置付けだったのかもしれない。


▲ 「 Come On (Saturday Club, 26th October 1963)」音源

 1964年、65年になると「Blues In Rhythm」「Rhythm and Blues」「The Joe Loss Pop Show」「Top Gear」が加わる。中でも「Top Gear」は、BBCを悩ませていた海賊ラジオ局や、若者向けのポップスを流していたラジオ・ルクセンブルグに対抗すべく開始された番組で、その後も積極的に刺激的なロック・バンドやシンガーを70年代まで紹介し続けた。「Top Gear」からは64年、65年の録音が収録されている。

 なお、ストーンズに限らず、まだこの時代には現代のようなアリーナやスタジアムでのライヴは行われていない。ストーンズが初期に主戦場としていたのは、ロンドンならマーキーやクロウダディといった今となっては伝説のクラブだが、キャパとしてはそれほど大きくはない。イギリス国内のツアーに出れば、地方の劇場や映画館でライヴを行うのが普通だった。当時は演奏も数十分、かつ1日2回公演が普通で、移動日もないほどの過密スケジュールでツアーは敢行されていたし、合間を縫ってレコーディングもこなさなくてはならなかった。


▲ 「 (I Can't Get No) Satisfaction' (Saturday Club, 18th September 1965)」音源

 だが、そうした狭さや緊密さが、逆に若いバンドにとっての糧となる部分があった。オリジナル・メンバー5人が常に行動を共にすることによって、「あの曲をやろうぜ」「この曲をこうしたらよくなる」といったやりとりが日常的になされ、ライヴの場ですぐに実践された。そして、音響設備もよいとは言えないライヴ会場での試行錯誤が血肉となり、毎日のライヴのワイルドさが削がれることなく、しっかりと整備された録音設備を持つBBCで記録された。そこにはレコードを作るためのレコーディングとは違う意味での、彼らの日常が落とし込まれていたのだと感じる。もっと言えば、BBCで演奏していた当時の彼らは、「この演奏が放送される」という意識こそすれ、「これが後世に残る」とは思ってもいなかったかもしれない。そこも、レコードとも違う生々しいスリルにもつながっている一因だろう。

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 そして、近年、明らかにライヴ・バンドであり続けていることに喜びを感じているストーンズにとって、こうして自分たちの原点に触れることは、同時に今のストーンズを先に動かす原動力にもなってゆくはずだ。

 アルバムに先行してyoutubeで公開されていた「カム・オン」は、まるで彼ら自身に対しても手招きをしているように聞こえる。この力強い音を聴きながら、ストーンズの面々は「まいったな、今度は、昔の自分たちがライバルかよ」って、苦笑いでもしてるだろうか。いや、55年目を迎える来年も、「また何かやろうぜ」って思ってるんじゃないかな。

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Text: 松永良平

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