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L.A. サラーミ初来日記念特集~UKからの新星シンガーソングライターが提唱する“ポストモダン・ブルース”

LA Salami

 ジャンルの垣根を越えた自由で詩的な音楽スタイル=“ポストモダン・ブルース”を提唱する新星シンガーソングライター、L.A.サラーミの初来日公演が2017年4月19日にビルボードライブ東京で開催される。2014年にジェイク・バグやジェイムス・ベイもフィーチャーされたUKの登竜門的ショーケース「バーバリー・アコースティック」に選され話題の新人の仲間入りを果たし、2016年にはデビュー・アルバム『Dancing With Bad Grammar』をリリースし注目を集める異才、L.A. サラーミについて初来日を前におさらいしておこう。

唯一無二の“ポストモダン・ブルース”

 ナイジェリアをルーツに持つロンドン育ちのシンガーソングライター、L.A. サラーミ。このアーティスト名からアメリカのロサンゼルスを思い浮かべる人が多いかもしれないが、“L.A. サラーミ”は、本名のLookman Adekunle Salami(ルックマン・アデクンレ・サラーミ)の略称である。

 彼の幼少期は決して恵まれたものではなかった。生後2か月で里子に出されたサラーミは、生みの母と里親との間を行き来しながら育てられ、彼の10代~20代前半にかけては常に引っ越しを繰り返し、1つの場所に数か月以上留まることはない生活だったという。このライフスタイルは、彼に都市での生活やその日常におけるユニークな思考や捉え方を与え、自身のソングライティングや音楽のコンセプトにも影響していくことになる。また、ラジオで聞いたボブ・ディランの音楽をきっかけに、ブルースやフォーク・ミュージックを聴くようになったというサラーミ。彼のソングライティングはボブ・ディランの音楽からインスピレーションを受けている。



▲L.A. Salami - The City Nowadays


 しかし、10代のサラーミにギターを買う余裕はなく、21歳の誕生日に友達から貰ったギターで作曲を始めることができるようになる。2008年頃、ようやく手にしたギターと共に、3か月間の自己省察の試行錯誤の末、自身にとって初めての曲を完成させると、ロンドンでいくつかのギグも行うようになった。そして、2012年、女性シンガー・ソングラター、リアン・ラ・ハヴァスのツアーでサポート・アクトに抜擢されたことをきっかけに、彼の音楽性や洗練された佇まいが注目を集めるようになる。

 その個性的なパフォーマンスや、ファッションやルックスも含めたスタイリッシュさはファッション・ブランド、バーバリーのCEO兼チーフ・クリエイティブ・オフィサーのクリストファー・ベイリーの目に留まり、2014年には「バーバリー・アコースティック」に選出。「バーバリー・アコースティック」はファッションとアコースティックをテーマに、UKの才能ある若手アーティストを積極的に支援、起用する音楽プロジェクトで、2011年の春夏コレクション時にローンチ。UKの登竜門的ショーケースともいわれるこのプロジェクトには、過去にジェイク・バグやジェイムス・ベイもフィーチャーされている。このようにして、サラーミはアルバム・デビュー前に話題の新人の仲間入りを果たしたのだ。



▲'When The Poet Sings' by L.A. Salami - Burberry Acoustic


 2013年、彼自身にとって初めてのEP『Another Shade of Blue』をリリースすると、翌年2014年にもEP『The Prelude EP』リリースし、アーティストとしての活動の幅を広げ、その音楽性はニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ニック・ドレイクのようなアーティスト達を引き合いに、シンガーソングライターとしての評価を上げていった。

CD
▲『Dancing With Bad Grammar』

 そんなサラーミが2016年、ついに待望のデビュー・アルバム『Dancing With Bad Grammar』を、ロンドン出身のロック・バンド、キティー・デイジー&ルイスらを輩出したことで知られる<Sunday Best>からリリース。本作では、デヴィッド・ボウイを連想させる英国的でロマンチックなメロディー、ウェスタン調のギター、トライバルなドラム、まるでザ・クラッシュのようなシャウトなど、彼の音楽的才能が余すところなく発揮。プロデュースは、ジェイク・バグやフローレンス・アンド・ザ・マシーンらの作品にドラマーとして参加しているマット・イングラムが、またエンジニアは同じくフローレンス・アンド・ザ・マシーン、そしてサーストン・ムーアを手がけたダン・コックスが担当した。

 また、サラーミは、歌詞も独創的だ。アルバム収録曲の「Day To Day (for 6 days a week)」からの一節。

「バスに乗って、電車に乗って、仕事に出かけた、痛みに気付かないふりをして…ひどい雨の日、無愛想な人々の顔、あちこちたらい回しにされて、両目を閉じると、君の髪の香りがした、見回したけど、そこに君はいなかった。」

 まるで詩の詠むかのように唄いながらも、彼から見える現実をそのまま映し出すようなストレートな表現は、ロンドンに生きる自身を鏡とし、現代社会の混沌を描きながら、過去への敬意と未来への情熱を見事に映し出している。



▲L.A. Salami - Day To Day (for 6 days a week)


 収録楽曲はサウンド面でもそれぞれ個性が強い。アルバムのリリース前にミュージック・ビデオが公開された「The City Nowadays」では、パンク・ブルースなサウンドと言葉を、エネルギッシュにたたみかける。また、自身も自分流のパンク・ソングだと語る「I Wear This Because Life Is War!」と、ロンドンの日常とそこに生きる自分の思い――怒りや喜びが詰まった曲「Day To Day (for 6 days a week)」の2曲は、Red Bull【See. Hear. Now】シリーズの一環として、ショート・ドキュメンタリーと共にパフォーマンス映像も公開された。その他の収録曲も、彼自身のユニークさが表現され、その頭角を露わにした作品となっている。時代に流されない、クラシックな気風に溢れた異才がデビュー・アルバムを引っ提げ行うユニークな初来日公演は、一体どんなステージになるのだろうか。唯一無二の“ポストモダン・ブルース”の真価をいち早く目の当りに出来るチャンスを、見逃さないでほしい。




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