Billboard JAPAN


Special

スティック・メン来日記念特集 supported by EURO-ROCK PRESS &ビデオメッセージ



インタビュー

 キング・クリムゾンの現ベーシスト、トニー・レヴィン、同じくクリムゾンのドラマー、パット・マステロット、そしてスティック奏者の第一人者、マーカス・ロイターの3人からなる超絶プログレ・トリオ=スティック・メンがメル・コリンズとともにいよいよ来日する。今回は最新アルバム『Prog Noir』を携え、1stと2ndステージで異なるセットリストを披露するとのことで期待が高まる中、前回来日時にEURO-ROCK PRESSでインタビューとライブレポートを行い、彼らの魅力を目の当たりにした浅野淳氏に今回の公演の見どころを語ってもらった。

 また、EURO-ROCK PRESSの協力のもと、デヴィッド・クロスを引き連れた前回の来日公演のライブレポートとインタビューをウェブ公開。来日前に是非ご一読いただきたい。さらに、公演会場では『Prog Noir』の国内盤『プログ・ノワール~暗黒への進化~』とベスト・アルバム『アンソロジー2010-2014』が先行発売されるので、ファンにとってこの機会を逃さないでほしい。

 スティック・メンが昨年秋にリリースされた新譜「Prog Noir」を携えて来日する。2015年にBilboard Liveで行なわれた、元キング・クリムゾンのヴァイオリニスト=デヴィッド・クロスをゲストに招いたライヴにおける鮮烈な印象も記憶に新しいだろう。

 現代においても、その言葉通りの意味であるプログレッシヴ・ロックを体現しているであろう両巨頭=キング・クリムゾンとピーター・ガブリエル・バンドの長年に渡るレギュラー・メンバーであり、名プロデューサー=ボブ・エズリンの基、アリス・クーパーやルー・リードを始めとした数々の名盤に参加、その後もポール・サイモンからジョン・レノンにデヴィッド・ボウイ等の名作・傑作群に名を連ね、兄であるピート・レヴィンや音楽学校時代からの盟友、スティーヴ・ガッドとの共演も重ねたりと、多岐のジャンルに渡るファースト・コール・ベーシストとしてその名を知られるトニー・レヴィン率いるバンドがスティック・メンである。レヴィンは両手でタッピングして演奏する、ベースとギターを掛け合わせたようなチャップマン・スティックという特殊楽器の存在を広く知らしめたことでも有名だが、そのスティックをフィーチャリングしたバンドこそがスティック・メンなのである。

 そしてミスター・ミスターからXTCやシュガーキューブス等でのセッションを重ね、シルヴィアン/フリップを経て'90年代にダブル・トリオ期のキング・クリムゾンに参加以降、エレクトロニクスを交えたドラム&パーカッションから多彩な音を繰り出すパット・マステロット(もちろん彼が手にするのはドラム・“スティック”だ)。ドイツ出身でcentrozoonやマステロットとのデュオ=Tunerで知られ、ロバート・フリップのギター・クラフト出身でもあるマーカス・ロイター。スティックの展開型楽器であり、ロイター自身が開発にも携わったタッチ・ギターの多彩なサウンドは生で接すると一層その威力に納得させられるだろう。

 各種スティックを手にする彼ら3人が紡ぐ音楽はキング・クリムゾンとも関係が深く、メカニカル且つミニマル系フレーズによるポリリズム的な絡み合いやキング・クリムゾンが追求したヌーヴォー・メタル的迫力も交えた音楽性を持っていると言えるだろう。そして今回は、過去と現在、双方のキング・クリムゾンで重要な役割を担って来た管楽器奏者=メル・コリンズを迎えての公演になるという。このような特別編成でどのような演奏を繰り広げてくれるのか楽しみだ。

Text: 浅野 淳(音楽ライター)

ビデオメッセージ from トニー・レヴィン & パット・マステロット

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スティック・メン with デヴィッド・クロス 2015年来日公演レポート


 新メンバーにマーカス・ロイターを迎えた編成のSTICK MENとしては、初の単独公演となる今回、スペシャル・ゲストとしてロバート・フリップとの新譜をリリースしたデヴィッド・クロスが参加という、時期的には重ならないもののKING CRIMSON(以下 KC)の新旧メンバー3人が並ぶ特別編成であり、ファンにはお馴染みのKCナンバーをクライマックスに置きながらも、STICK MENのナンバーや多彩なインプロヴィゼーションにおいて、キャリアを感じさせる見事な反応や応酬の掛け合いを披露し、観客を楽しませてくれた。

 また、STICK MENのナンバー、“Hide The Trees” と “Cusp” では、曲中通してまではいかないもののクロスも中間部で登場、積極的にソロやアンサンブルを構築して、STICK MENのみでの演奏とは異なる共演場面を作ってパフォーマンス面含めて盛り上げてくれたのはひとつの見所だったと思う。3曲目に披露されたインプロヴィゼーションも、クロスがピチカートでミドル・テンポのリズムを提示すると、STICK MEN側も即座に対応、ロック寄りのリズムでクロスのソロをもり立ててゆく。この演奏が始まった際、筆者は初めて聴くきちんと構成された曲だと思ったものだった。この辺りはアルバムからライヴやツアーでインプロヴィゼーションを積極的に導入してきたSTICK MENならではの実力だとも言えるのだろう。



 やがて残響的に響きあう演奏の中、リズムがスロー・ダウンして、ロング・トーンとドローンの応酬が続いてゆくと、突如 “Industry” のフレーズが突き刺さるように挿入、元々KC時代から即興色の強いナンバーだし、現KC組にとってはお手の物だったのだろうが、ここでも邪悪系フレーズをユニゾンでキメつつ緊張感溢れる盛り上がりで聴き手を魅了してくれたし、(現KCでも採り上げている)“Starless” の旋律を導入したクロス側からのインプロも、旋律の様々な提示からスロー・テンポでのフレーズの応酬で聴かせるという、このメンバーならではのスペシャルな演奏になったと思う。紙数が尽きたので流すようで申し訳ないが、ラストのKC2曲メドレーは、多彩なソロを弾きまくったクロス参加ならではのサービスと言えるし、会場が大盛り上がりだったのは改めて記すまでもないだろう。


STICK MEN
with special guest David Cross


10th April, 2015 (1st Stage) Billboard Live Tokyo

Personnel
Tony Levin (stick, voice)
Markus Reuter (touch guitar, kbd)
Pat Mastelotto (dr, perc)
David Cross (el-vln, kbd)

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  2. トニー・レヴィン インタビュー
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「インプロヴィゼーションが曲作りの一環になる場合があることは間違いない。コントラストが好きなんだ。全てのパートが完璧に作り込まれた曲もあれば、次の曲はインプロヴィゼーションが入っている、というのが好きなんだよ」

 共に「KING CRIMSONの音楽的細胞が深く体に刻み込まれている」と言えるであろうSTICK MENとデヴィッド・クロスがライヴを行ない初共演を果たした。STICK MENの活動を積極的に行ないながら、兄=ピートとのLEVIN BROTHERSも立ち上げ、相変わらず様々な作品にも引っ張りだこなトニー・レヴィンに、インプロヴィゼーションに対する取り組み方や新編成となったKING CRIMSON、そしてフリップとの出会い等、存分に語ってもらった。

−−昨日の大阪のライヴはいかがでしたか?

トニー・レヴィン:とても良かった。私達には大きな驚きだったけど、気に入ったよ。今回初めてデヴィッド・クロスと一緒にプレイしたんだけど、リハーサルなど全くしなかったし、サウンド・チェックもかなり短かったんで、かなりエキサイティングなものだった。長年のうちに、私は初めの頃の相手との音楽の関わり方が好きになって来たんだ。ちょっとナーヴァスになっていて、何が起こるかわからないけど、その後一緒にツアーをたくさんこなすようになると、別のクオリティが生まれて来て、何が起こるかわかるようになって来る。それもまたいいけど、私はどうしても最初の数回のショウが忘れられない。そして昨日は、その手のショウだったんだ。今夜も似たようなものになるが、ドキドキは減るね。

−−あなた個人にとっても、デヴィッドとの共演は初めてだったのですか?

トニー:そうだよ。彼と会ったのは、今回が初めてだった。そして、私達のショウはインプロヴィゼーションが主体だ。でも、その意味合いは人によってまちまちだから、彼らが何をプレイするのかわからない。「KING CRIMSONの “Red” をやろう」というのとはわけが違うんだ。KING CRIMSONの曲も多少はやったけど、それ以外は「最初の曲はインプロヴァイズでやってみよう。何をやるのかわからないよ」という感じだった。だから、クリエイティヴィティ、チャレンジ、サプライズの余地がかなりあったね。その結果、とても良いものになった。デヴィッドは素晴らしいプレイヤーだ。昨日それを確信したよ。



−−STICK MENのライヴやアルバムには、インプロヴィゼーションが入っています。作曲された曲とインプロヴィゼーションとのバランスについてどのようにお考えですか?

トニー:1つには、これはKING CRIMSONを彷彿させる。KING CRIMSONでは必ず、作曲された曲と、インプロヴィゼーションの側面が多少なりともあった。でも、STICK MENの3人はインプロヴィゼーションが好きなんで、ライヴでかなりやっている。だが、比率については何とも言えないな。ツアー毎にセット・リストが違うからね。でも、1セット中2曲は完璧なインプロヴィゼーションだ。さっきも言ったけど、一口で「インプロヴァイズ」と言っても、その意味合いは人によってまちまちだ。ロック・プレイヤーの中には、ドラマーがビートを叩き始めて、ベーシストがビートを見つけて、誰かがその上にソロを被せることがインプロヴァイズだと思っている人達がいる。でも、私達の場合はそうじゃない。ビートはあってもなくてもいい。ベーシストが始めてもいいし、何も決まらないこともあれば、最初から決まることもある。必ず成功するとは言わないけど、できるだけ範囲を広げておくよう心がけている。そうすれば可能性が生まれるんだ。1分で消えてしまうこともあれば、すごく強力になって10分間続くこともある。私達はラッキーで、ファンがそれを容認してくれる。これは、バンドだけでなく、リスナーにとってもチャレンジなんだ。そして、これはあくまでも私の意見だが、ああいった音楽のリスクをオーディエンスと共に負うと、その見返りはかなりなものになる。「あの音楽はどこから来たんだ?」それは誰にもわからない。インプロヴァイズしたものがとても良いスペシャルなものになる場合もあるけど、それはオーディエンスにも伝わるよ。私の中では、オーディエンスもその一部なんだ。大阪では同じアイディアではなかったけど、違いはオーディエンスと会場とその瞬間にあったからだよ。というわけで、スペシャルなものが生まれるチャンスがあるんだ。

 私は、テリー・ボジオとアラン・ホールズワースと一緒に、全体が完璧なインプロヴィゼーションで行なわれたショウのツアーに出たことがある。それもいいけど、オーディエンスのためには、そして私自身のためにさえ、ショウ全体をインプロヴィゼーションにしないことがフェアだと思う。全部をインプロヴィゼーションでやるのは大きなチャレンジだからね。STICK MENでは、オーディエンスにチャレンジするのも好きだけど、彼らに私達の楽曲も提供したい。新曲も提供したいし、もちろん、KING CRIMSONの曲だってプレイしたい。私達は普通、それで知られているんだからね。



−−日本人の、特にプログレ・ファンの中には「インプロヴィゼーション」と聞くと苦手意識を持っている人がいると私は思っているのですが、STICK MENのインプロヴィゼーションはヴァリエーションが色々あって、曲に発展するようなアイディアも含まれているように感じられます。

トニー:そういうことはあったよ。しばらくないけどね!(笑)でも、以前はインプロヴィゼーションが曲になったことがある。他のバンドでもあったよ。ある晩、とあるバンドで行なったインプロヴィゼーションがあまりにもスペシャルだったんで、これは素晴らしい曲になることが私にはわかった。ところが、サウンド・エンジニアのレコーダーが壊れていたんで、私はネットに書き込んだんだ。’90年代初めのことだったんで、まだネット初期の頃だったけど、「このコンサートをブートレッグで録った人がいたら、ぜひ送って下さい!」と書き込みをしたところ、1人だけ送って来た。私が彼を騙そうとしていると思ったんだろうね、彼は怖がっていたよ。でも私は「いや、そうじゃなくて、ただあのプレイを覚えたいんだ。そうすれば曲になるから」と言った。あれは、BRUFORD LEVIN UPPER EXTREMITIESというバンドでね、実際に曲になってタイトルもつけて覚えたんだよ。随分前のことだから曲名は憶えていないけどね。STICK MENでもそういうことが起こったが、今は常に曲をレコーディングしているから、ちゃんとわかる。3人で曲作りをする時だって、私が思いついたちょっとしたインプロヴィゼーションのアイディアをマーカス(・ロイター)のところに持って行って、彼が「なるほど」と言って、そこにメロディをつけたこともある。私はそのメロディがとても気に入ったんで、そこに歌詞をつけて歌った。そして、彼はそれに合わせてプレイした。私達はそんな感じで、(アイディアの)キャッチボールをしているんだよ。やり方は違うけど、インプロヴィゼーションが曲作りの一環になる場合があることは間違いない。私はコントラストが好きなんだ。すべてのパートを書いて行く完璧に作り込まれた曲もあれば、次の曲はインプロヴィゼーションがもっと入っている、というのが好きなんだよ。

−−マイケル・ベルニエが脱退した理由は? マーカスが参加した経緯についても教えて下さい。

トニー:マイケルとは、2〜3年間一緒にツアーしたと思う。素晴らしいスティック・プレイヤーで良かったんだけど、家庭の問題を抱えていたんで、パット(・マステロット)や私のようにツアーを続けることができなかった。それで私達は、バンドに関して苦渋の決断を迫られた。単なるレコーディング・バンドにしようかとも思ったけど、パットも私もライヴが大好きだという気持ちが強かったんで、悲しいけどマイケルの代わりを入れないといけなくなった。でも、これはいたって簡単だった。パットとマーカスは2人だけでTUNERというデュオをやっていたから、パットはすでにマーカスのことを知っていた。私はマーカスには会ったことがなかったから彼と一緒にプレイしたこともなかったけど、彼となら音楽的に上手くいくことがパットにはわかっていたんだ。私達ミュージシャンは、見抜くのが得意なんだよ。お互いよく知り合えば、上手くいかないこと、上手くいくことがわかる。だから、初めてみんなが集まった時、彼が加入することは明らかだった。そして、その週のうちに次のアルバムの曲をほぼすべてかなり楽に素早く書き上げることができた。だから、とても良かったよ。マーカスと僕は音楽的に、ある意味似通っているけど、とても違ってもいる。彼は、私がスティックであまり得意としないテクニカルなものが得意なんだ。そして、私には私の得意分野がある。だからこそ上手くいっているんだよ。

−−ツアーは頻繁にやっているんですか?

トニー:すごく頻繁にツアーしているよ(笑)。去年はパットと私にKING CRIMSONの大掛かりなツアーがあったから、それほどでもなかったけど、他のことがない時は必ずSTICK MENのライヴをやっている。THE CRIMSON PROJEKCTで日本に行った(2013年3月)後は、去年の春と夏にもう2つツアーをブッキングしたんだ。あのショウでSTICK MENは大きな部分を占めてはいるものの、私達としてはあれをSTICK MENのツアーだとは思っていない。でも、そのツアーの合間にオフがあれば、私達のためのショウをブッキングするんだ。私達はライヴをやるのが大好きだから、暇さえあればスケジュールを入れるようにしているんだよ。これは今後も続けて行くつもりだ。でも、THE CRIMSON PROJEKCTはしばらくやらないと思う。KING CRIMSONが活動しているさなかだと、ファンが混乱するからね。だから、KING CRIMSONが活動中は保留にしたいんだ。ややこしくなるからね。



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  2. 「もしも私が、“私がやりたいのはこういうことで、これだけやっていればそれで楽しいんだ”といったタイプのプレイヤーだったら、KING CRIMSONにいなかっただろうね。私はチャレンジが好きだから、いつもお呼びがかかるんだろう」
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「もしも私が、“私がやりたいのはこういうことで、これだけやっていればそれで楽しいんだ”といったタイプのプレイヤーだったら、KING CRIMSONにいなかっただろうね。私はチャレンジが好きだから、いつもお呼びがかかるんだろう」

−−LEVIN BROTHERSでもツアーをやっていますよね。

トニー:そうなんだ、つい先週と先々週もやっていた。ジャズをやっているんで、若い頃に戻った気分だよ。これまでにもジャズは多少やって来たけど、それほどにはやって来なかった。でも、アルバム「Levin Brothers」(’14)では、ジャズに専念したんだ。

−−アルバムではアップライト・ベースだけでなく、チェロも弾いているんですよね? チェロはいつ弾き始めたのですか?

トニー:そうなんだ。本格的に始めたのは4年くらい前だったかな。家で時間のある時はずっと練習していたんだ。最初はジャズを弾いていたんだが、何を練習したらいいかわからなくなって、子供の頃に聴いていたレコードのことを思い出したんだ。ベーシストのオスカー・ペティフォードがチェロも弾いていたからだよ。それで、それを弾き始めてね、兄のピートに連絡して、「あの曲を思い出したよ」と言ったんだ。50年振りに聴いたんだ。彼もまた思い出した。あの音楽がどれほどスペシャルであったことか。それで、50年経ってもそらで覚えていたんだ。あれは、私達の音楽感覚の一部なんだよ。そこで私は、「新曲を書こうよ、このスタイルで!」と思ったんだ。このアルバムを作った時も、まだチェロを弾く時ではないと思った。あと1年は練習したいと思ったけど、時が過ぎて行って、これだけツアーをしているんだから、あと1年待ったらまたあと1年、またあと1年、という風になってしまって、一生このアルバムが作れなくなる気がしたんで、ちゃんと弾けると思えるより前にアルバムを作ったんだ。チェロとベースは、似ていて非なるものだよ。特に私にとって、チェロはすごく小さい。長年ベースを弾いて来た私の指はすごく大きいんでね。でも、美しい楽器だし、ベースではあまり弾けなかったメロディが弾けるんだ。



−−ツアーでもチェロを弾くのですか?

トニー:弾くよ。メロディの大半はチェロだからね。ライヴでは2つの楽器の間を素早く行き来しないといけないんだ。すぐ隣に置いてあるんでね。チェロを弾いていて、誰かがソロを弾く時はベースを弾くんだよ。

−−お兄さんとの共演は、頻繁にされていたのですか?

トニー:ピートが私のバンド、TONY LEVIN BANDと共演したこともあるし、私がピート・レヴィンのアルバムに参加したこともある。2人とも同じ町、ニューヨーク州キングストンに住んでいるんで、ベネフィットのための音楽が必要な時は、いつも2人でプレイしている。だから、多少はやっているけど、いつも一緒にやっている連中ほどではないね。音楽を聴いて一緒に育ったのに、長年一緒にプレイしなくて、それが50年後に一緒にバンドをやってツアーしているなんて、興味深い話だよね。他の2〜3のバンドでちょこっと一緒にツアーしたし、一緒に参加したアルバムも10枚ぐらいはあると思う。ピートは時たまロックをやるジャズ・プレイヤーで、私は時たまジャズをやるロック・プレイヤーなんだ(笑)。でも、このバンド(LEVIN BROTHERS)では、2人ともジャズ・プレイヤーだよ。このアルバムにKING CRIMSONの曲 “Matte Kudasai” を1つだけ入れたのは、このアルバムを買う人の大半は、初めてジャズを聴くKING CRIMSONファンだと思ったんで、彼らの知っているものを少なくとも1曲は提供しようと思ったんだ。

−−KING CRIMSONには今、ドラムが3人いますが、複数のドラムがいるという状態に対して意識的にアプローチしていますか? 楽器が重なるダブル・トリオ期やSTICK MENとアプローチの違いはあるにせよ、同じ楽器があるわけですよね。例えば複数のドラムでリズムをズラした時等、どのようなことを心がけているんでしょうか?

トニー:とてもいい質問だ。すべて正しいよ。心がける部分もアプローチも違う。あと、KING CRIMSONの場合はすべてが常に他とは違っているんだ。それはロバート・フリップに負うところが大きいし、これは本当にユニークなバンドだし、バンドでプレイする状況もとてもユニークだ。それに加えて、編成が新しくなるたびに新たなチャレンジ、新たな体験なんだよ。もしも私が、「私がやりたいのはこういうことで、これだけやっていればそれで楽しいんだ」といったタイプのプレイヤーだったら、KING CRIMSONにいなかっただろうね。私はチャレンジが好きだから、いつもお呼びがかかるんだろう。ドラマー3人というのはとても興味深かったし、彼らがどんなプレイで臨んで来るかが楽しみだった。「果たしてベースが入る余地があるんだろうか」「どういったベースをプレイすればいいんだろうか」と思ったんだ。私は色々なスタイルのプレイができるけど、頭で考えるのではなく、耳で聴いてそのフィーリングに応えるんで、ドラマー達のなすがままだった。でも、幸いなことに、彼らは3人による素晴らしい新しい手法を編み出した。単に3人がカチャカチャ音を立てているのではなく、すごいパワーを感じる。でも、やたらと音数が多いわけでもなく、2人のドラマーで1つの音を叩くこともある。すごく慎重に練られているんだ。例えば、バスドラ・パターンを叩くのは1人だけだとかね。でも、これは単なる一例で、彼らは3人で上手くやるための多くのテクニックを編み出した。たとえ、1曲の中でもだ。全員でリハーサルを行なう前に、彼らだけでちゃんと考えていたんで、去年の春に私がリハーサルに参加した頃には、私が入る余地がちゃんとあったんだ。

 実は、前回KING CRIMSONにいた時よりも、私が入る余地がもう少しあったね。ドラムにはパワーがあるけど、私が入る余地がもっとあったんで、昔のヴィンテージ・ベースを持ちだして来て、’80年代に出していたサウンドを出そうと思ったんだ。あのサウンドを出したのは、当時以来だったんだよ。あと、私がいなかった’70年代KING CRIMSONの音にもちょっと近づけた。他の人達には重要なことでもなんでもないけど、これは私の音楽人生にとって重要なことなんだ。KING CRIMSONに足を踏み入れて、ああいったドラマー達と一緒にプレイするというチャレンジをさせられたんだからね。KING CRIMSONに戻れて、ああいったチャレンジを与えられたことに対してワクワクしているよ。そして、KING CRIMSONをやっていない時は、KING CRIMSONがいかに根気強く物事を正しくやろうとしているかを思い出させてくれたんだ。私達は何ヶ月もリハーサルを行なう。そして、膨大な金を使って曲に取り組むから、コンサートでプレイするだけの価値あるものが出来上がる。こんなことをするバンドなんて、他にいないよね(笑)。だから、私にとっては再び目覚めた感じで、バンドをやるための正しい方法を改めて思い知らされたよ。



−−STICK MENがロバート・フリップの「Exposure」(’79)から “Breathless” を取り上げているのが面白いと思います。どうしてこの曲をやることになったのですか?

トニー:あれはマーカスが提案したんだ。私はオリジナルでプレイしたけど、そのことを憶えていなかったんだ。何年も前に彼が、「すごくパワフルな曲があるんだけど、誰もやっていないんだ」と言ったんで、パットと聴いてみたら、素晴らしい曲だった。4人ではなく、3人でプレイするとかなり違うけど、マーカスが難しいロバートの役を見事にこなしているし、オーディエンスも気に入ってくれているから、ほとんど毎回ライヴでやっている。ロバート本人の感想は聞いていないけど、オーディエンスが気に入ってくれているんだから、とてもスペシャルだ。

−−ロバート・フリップと初めて会ったのは、ピーター・ガブリエルのレコーディングの時なんですよね?

トニー:その通り。あの日は私にとって、何という日だったんだろう。1976年のことで、プロデューサーのボブ・エズリンが「ピーター・ガブリエルのアルバムに参加してくれないか?」と頼んで来たんだ。それまでにボブと一緒にアルバムをたくさん作って来たけど、ピーターのことも、ロバートのことも知らなかった。ところが同じ日に2人に会ったんだ。そして今、私はいまだに2人と一緒にやっている。それって、かなりすごいことだよね。でも、あの時はそのありがたみに気づかなかったんだな。今はありがたいと思っているけどね。ピーターとの初めてのアルバムは楽しかった。「Peter Gabriel」(’77)というアルバムだった。そして、私はそこでロバートとのツアーを経験した。その後ほどなくして、彼は「Exposure」を作ったんだ。そのことがあったんで、彼はおそらく、KING CRIMSONに私を誘ったんだろう。私達は音楽的にとてもウマが合ったんだ。音楽的に相性がいいことを確認するためにしばらくかかることもあるし、多少の対立があるのが良いこともあるけど、ロバートとは音楽的な対立はない。彼が私にベース・パートを提案すると、私はそれが良いものになることがわかる。そして、私がそれを変えても彼は気にしない。彼は私のプレイをリスペクトしてくれているからだ。そして、私は彼の音楽センスをリスペクトしているから、彼が思いついたベース・パートが素晴らしいものになることがわかるんだよ。

−−ボブ・エズリンのセッションをやるようになったきっかけは?

トニー:憶えていないな。彼と一緒に作ったアルバムは憶えているけどね。有名なアルバムに、アリス・クーパーの「Welcome To My Nightmare」(’75)と、ルー・リードの「Berlin」(’73)がある。他にもあるけど、憶えていない。きっと、彼も憶えていないよ(笑)。1976年以前の話だからね。昨日、ライヴの後でサインをしていたら、誰かが初来日時の私の写真を見せてくれたんだ。ゲイリー・バートンと一緒に来たんだ。1970年か1971年だったと思う。その頃の私は髪の毛もあったし、髭もたくわえていた。あれには驚いたな。妻も、30歳になる娘も、私の髪の毛なんか一本も見たことがないんだ(笑)。

−−では最後に、今後の予定を教えて下さい。

トニー:まず国に戻って、それから南米に行くんだったかな。STICK MENは、5月と6月は結構ツアーがあるんだ。6月にはLEVIN BROTHERSのツアーがあり、7月にはKING CRIMSONのリハーサル、8月には『MUSIC CAMP』とKING CRIMSONのリハーサルがあるし、9月にはKING CRIMSONのツアーがある。10月にはKING CRIMSONが休むんで、翌日にはSTICK MENのツアーに出る。ヨーロッパにいるんで、STICK MENもそのままヨーロッパでやるんだ。11月以降は、KING CRIMSONがどんな予定を立てるのか待っているところだ。今年はそれくらいだね。



スティック・メン「スープ」

スープ

2010/05/26 RELEASE
NNCJ-1205 ¥ 2,860(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Soup
  2. 02.Hands (part 1)
  3. 03.Hands (part 2)
  4. 04.Hands (part 3)
  5. 05.Inside The Red Pyramid
  6. 06.Fugue
  7. 07.Sasquatch
  8. 08.Scarlet Wheel
  9. 09.Firebird (part 1)
  10. 10.Firebird (part 2)
  11. 11.Firebird (part 3)
  12. 12.Firebird (part 4)
  13. 13.Relentless
  14. 14.Tsunami Surfing
  15. 15.Scarlet’s Other Wheel (re-mix)

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