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【Live Music Hackasong 参加企業インタビュー】Napster

LIVE MUSIC HACKASONG 企業インタビュー

 現在、「Napster」ブランドで、世界中で音楽配信サービスを展開しているRhapsody。米調査会社Statistaの2016年4月の調査で、有料加入者数がSpotify、Apple Music、Pandoraに次ぐ4位の加入者数を誇るRhapsody+Napsterが目指すものは何なのか。日本への進出はあり得るのか。そして、2017年1月に最終審査が行われるハッカソン【Live Music Hackasong】に期待するものとは?Rhapsodyでレーベルリレーションズのヘッドを務めるDaniel Shumate(ダニエル・シューメイト)と、Napster JAPANチームに話を聞いた。

昔も今も変わらないのは「音楽はもっと価値があるものだ」ということ

−−Napsterは「ファイル共有サービス」として1999年にスタートし、いくつかの企業による買収を経て、現在Rhapsodyが「Napster」ブランドを運営しています。1999年から現在に至るまでの経緯を教えていただけますか。

ダニエル・シューメイト:Rhapsodyは「レコード会社やアーティストと一緒に音楽ビジネスを作っていく」というスタンスで、定額制音楽配信サービスの先駆けとして2001年に創業しました。そして、2011年にNapsterのブランドおよび定額制音楽配信サービス事業およびNapsterのユーザーを買収し、現在は全世界でのサービス名を「Napster」に統一して展開しています。

−−現在、提供されている国は何か国ですか?

ダニエル:北米やヨーロッパ、ラテンアメリカを含めて34カ国です。今まで海外での事業展開で重要視してきたことの一つが、必ず現地のパートナー企業を見つけるということです。例えば、ドイツでは携帯キャリアのE-Plus、O2やカーメーカーのアウディ、BMW、その他にはスーパーマーケットチェーンのAldi、ルフトハンザと提携をしています。ドイツはNapsterを買収した当時のユーザー数は10万人程度でしたが、現在では100万人を超え、国内シェアのトップを争うまでに成長しました。

−−Napsterのサービス面で、他社と違う点は何でしょう?

ダニエル:機能と素晴らしいパートナーシップですね。当社のサービスに組み込まれている機能の1つには「ミュージック・マッチ」というものがあります。リスナーの聴取履歴やプレイリストの内容や、「イイネ」の履歴やリスナーのフォローしている履歴などのプロフィールデータを照合して、どのくらい好きな音楽の種類が近いかというのを1対1で数値化するサービスを展開しています。例えばAというユーザーが、Bというユーザーのプロフィールページを見ると、マッチ度が「70%」といったように、それぞれの好きな音楽がどのくらい近いのかを1~100%で見ることができるんです。新しい音楽を発見できる楽しい方法です。

−−面白いですね。

ダニエル:Napsterは、自社で楽曲のメタデータとレコメンドのシステムを保有しているので、音楽のジャンルやテンポを分析して音楽の特性を照合してマッチ度を導き出しています。自分の聴取履歴と他のリスナーの聴取履歴を照合し、そのリスナーとのマッチ度を見て、よりマッチ度の高いリスナーのプロフィールの中から、また新しい自分の好きな曲と出会うことができるというサイクルになっていますので、簡単に自分の好きな曲と出会うことができます。他に、人気のあるサービスは「トラックマッチ」です。街中で聞いて気になる曲があると、モバイル端末を音源にかざせば楽曲名を検索して保存することができます。アプリの中にはインターネットラジオもあるんですが、ラジオの再生中に「トラックマッチ」で曲名を検索することも可能です。

−−最近リリースした機能などはありますか?

ダニエル:レコード会社やアーティストの公式プロフィールも設置しています。ユーザーがそれらのプロフィールページやプレイリストをフォローすると、スマートフォンのプッシュ通知を通じて最新情報が通達されるので、レコード会社やアーティストが直接リスナーと繋がることができます。我々は今後も、音楽配信のみならずアーティストとファンのプラットフォームになれるようなサービスを展開していく予定です。アメリカの市場調査によると、当社のサービスはサービス満足度で2位、アクティブに使用されているかという調査では1位を獲得しています。

−−現在、定額制音楽配信サービスは各社、価格の定価や楽曲数の充実化など、それぞれサービス向上に努めています。Napsterが、事業を展開していく上での考え方の根底にあるものは何でしょうか。

ダニエル:私達の中で、昔も今も変わらないのは「音楽はもっと価値があるものだ」ということです。現時点で、定額制音楽配信サービスの使用料は各国 月額約10ドルというのが妥当だと考えられています。なので私達にできることは、その10ドルにどれだけの価値を込められるかということ。例えば、日本ではCDは1枚2,000円ほどですが、Napsterでは月額10ドルで4,000万曲を無制限に聴くことができます。この音楽体験というものを、どれだけ価値あるものにするのかということを常に考えています。

−−日本は、2015年から定額制音楽配信サービスがいくつかスタートしました。ただ、それ以前にYouTubeなど無料で音楽を聴けるサービスが浸透したことや、自分が所有するわけではない音楽に対して使用料を払うという考え方が、まだ浸透しきれていないように思います。

ダニエル:アメリカでも、YouTubeを始めとした無料ストリーミングサービスの人気にともない同様の問題を抱えています。音楽配信業界の中でも、どのようにリスナーの意識を変えていくのかというのが課題になっています。ただ、RIAA(全米レコード協会)による発表で、2016年の上期(1~6月)における米国の音楽売上高が1990年代後半以降最高の8.1%増を記録し、その要因は定額制音楽配信サービスであるという喜ばしいニュースもありました。例えば、ライブを聴くためには数十ドルのチケット代がかかりますよね?日頃、無料でしか音楽を聴いていない人にとって、その金額は非常に高く感じるかもしれません。でも、ライブという素晴らしい体験を自ら制限してしまうのは、人生において非常にもったいないことです。一方、月額10ドルを払う気のある人にとっては、音楽にお金を支払うことは当然のことで、そこまでハードルは高くないでしょう。今後、定額制音楽配信サービスは、より主流になっていくでしょうし、今はまだそのための“産みの苦しみ”のような期間なのではと思っています。

−−4,000万曲という楽曲数は非常に膨大な数で、定額制音楽配信サービスを使うことによって、生きている間に全て聴けないほどの多くの音楽と出会うことができます。だからと言って、これ以上新しい音楽やアーティストが誕生しなくて良いのかと思うと、そうではありません。新しいアーティストや音楽が誕生することによって、文化芸術は育ち、豊かになっていくからです。ですので、これらのサービスを通じて、リスナーの人生が豊かになるだけでなく、きちんとアーティストに収益が還元され、新しい作品作りにもっと取り組んでいけるような土台を作れたらなと思います。

ダニエル:私も同感です。私はレコード探しが好きなので、このインタビューの後は中古レコードショップに行く予定です。レコード屋やCDショップで知らない曲を探すのは、とてもワクワクする体験ではありますが、全ての作品が置いているわけではないし、どんな曲が入っているのか家に持ち帰るまで分からないので、宝くじを買うような気分です。ですが定額制音楽配信サービスだと、そんな心配もなく、気になる曲全てにトライすることができますし、気に入ったらCDも買いに行けばいいのです。常に最新のヒット曲を聴きたい人は「ヒットチャート」のプレイリストを聴けば、いつでも最新の曲を聴くことができますし、リスナーによって様々な探し方ができます。どんなリスナーにとっても、自由に音楽を探せるようになったということ。これは、大きな変化だと思っています。

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−−今後、日本への進出はどのように考えていますか?

ダニエル:日本の定額制音楽配信市場はまだまだ小さいですが、可能性を感じています。なので現在 市場調査、事業開発そしてパートナー探しを進めているところです。サービス開始時期は未定で、一番フィットするパートナーを見つけるというのが、私達の現状の目標です。そのために最も大事なことは、日本のマーケットを熟知する必要があると思っています。音楽は世界共通の言語ですが、音楽の聴き方は国や地域によって大きく異なります。日本は特にそうですよね。なので、日本の市場を熟知した上で、日本のリスナーの皆さんに向けてサービスを展開できればと考えています。

−−今回、「ライブ体験の拡張」をテーマにしたハッカソン【Live Music Hackasong】に参加していただくことになりました。音楽配信とライブ体験を、どのように繋げようと考えてらっしゃいますか?

Napster JAPAN:以前からライブ体験との連携はすごく重要視していて、数か月前に「Napster VR」(http://us.napster.com/vr)という無料のアプリを公開しました。360度カメラで撮影した動画によって、ライブのバーチャルリアリティ体験ができるというものです。アプリをダウンロードして、スマートフォンを動かすと360度、色んな角度からライブを見ることができますし、Google Cardboard VR viewerを使うと本格的なVR体験も可能です。こういうサービスは、音楽体験として非常に重要だと捉えているので、今後ももっと開拓していきたいと思っています。:

−−今回のハッカソンで提供していただく技術内容を教えていただけますでしょうか。

Napster JAPAN:まずは、楽曲の再生や楽曲のメタデータ、ユーザーのプロフィール情報にアクセスできるなど、Napsterのサービス機能を一通り呼び出すことができるAPIを公開致します。また、今回はコネクテッド家電メーカーのCerevoさんにご協力いただき、Cerevoさんの製品(https://www.cerevo.com/ja/product_list.html)をお借りできることになりました。

−−どんな製品があるのでしょうか?

Napster JAPAN:例えば、現在YouTubeなどで配信されている人達の中でデファクトスダンダードと言っても過言ではないくらいのLiveShellという映像機器があります。最新のLiveShell Xは、複数のサービスに同時配信できたり、録画することができるというデバイスなので、例えばこれらを使って、ライブ会場以外のところでライブの疑似体験をするというサービスも考えられるかもしれません。

−−御社は既にライブのVR体験ができるアプリをリリースされているので、Cerevoさんとのコラボはぴったりですね。

Napster JAPAN:他には、環境音を常に録音してクラウドにUPし、音と連動してLEDライトの色を変えたり光らせたりすることができるListnrという製品もあります。APIやSDKが公開されているので、ユーザーが好きなように使えるようになっているんですが、例えば赤ちゃんの声をモニタリングして、赤ちゃんの感情を分析してそれに合った色に光らせることもできるようです。また、BlueNinjaという9軸センサー付きのBluetoothのボードは、リアルタイムモーションキャプチャーに使えるかもしれませんね。Cerevoさんは、製品の提供だけでなく技術的なサポートもしていただくことになっているので、一見 関わりがなさそうなNapsterとCerevoがうまくマッシュアップできればなと思っています。

−−ライブの感動を拡張することによって、音楽好きな人が増え、ついては音楽業界全体の活性化に繋がればと思っています。

Napster JAPAN:音楽を楽しむという体験の中には、ライブもあれば、移動中にスマートフォンで聴いたりCDを買ったりなど、様々なものがあります。それらが常にサイクルのように回っているのがベストの状態ですよね。そのサイクルを活性化させるため、VR体験の次に考えているのは投げ銭システムです。

−−特に好きなアーティストには、課金ができるということでしょうか?

Napster JAPAN:音楽の価値への対価には、色んなチャンネルがあっても良いと思いますので、投げ銭と定額制音楽配信サービスが共存するようなサービスもありえるかなと思っています。なので、ライブ体験を通じて、アーティストにも還元できる新たなマネタイズや、アーティストと双方向のコミュニケーションが取れるようなサービスなど、ハッカソンでも色んなことが考えられるなと私達も楽しみにしています。

ダニエル:Rhapsodyは、今までも色々なプロダクトと自社のサービスを繋ぎこむというチャレンジを続けていて、業界でもNo.1だと思っています。2年前、ストリーミングと製品を結びつけるアイディアから、音楽とエスプレッソ・マシーンを繋げればと考えたこともありました。その時は、「音楽とカフェだから、抜群のコンビネーションじゃないか」って思いましたが、今から考えると全然合わない組み合わせですよね(笑)。でも、どんなデバイスとも連携できる可能性を探るというのは、私達の精神の1つでもあります。

−−まだローンチしていない日本で、こういうチャレンジをするというのは面白い取り組みですね。

Napster JAPAN:そうですね。なので、シアトル本社のメンバーも、予想もしなかったような切り口の成果物が生まれるのではないかと、今回のハッカソンにとても期待をしています。ハッカソンのためにシアトルでもプロジェクトメンバーを用意しましたので、開発者の皆さんは是非シアトルのメンバーと直接コミュニケーションしてみてください。そして面白いサービスが生まれれば世界のNapsterのサービスに、取り入れていきたいと思っています。

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