Billboard JAPAN


Special Contents

カマシ・ワシントン来日記念 rockin'on 渋谷陽一インタビュー

 現代的なブラック・ミュージックやロックとの邂逅を果たし、拡大と進化を続ける“新しいジャズ”。ケンドリック・ラマーやフライング・ロータス、デヴィッド・ボウイなど、現代の最重要アーティストの作品にもジャズ・ミュージシャンが度々に起用され、その注目度は日に日に高まっている。

 日本でもその潮流は変わらない。その象徴とも言えたのが、今年のフジロック3日目での、ロバート・グラスパー・エクスペリメントとカマシ・ワシントンの出演だろう。かねてからルーツ色の強いアーティストが数多く出演し、ファンの信頼も厚いフジロックとは言え、今年の注目度の高さはやはり格別だった。そして、そのカマシ・ワシントンは早くも12月に再来日、東阪にて公演を行う。

 今回は、その再来日を前に、ロッキング・オン・グループの経営者である渋谷陽一氏にインタビュー。長年ロックの音楽評論家としても知られてきた渋谷氏だが、前述の【フジロック】でのグラスパーやカマシの演奏への感銘や、後者の実質的ファースト・アルバムである『エピック』の愛聴を公言する一人でもある。長きに渡り洋楽シーンを見てきた渋谷氏に、現在の新しいジャズの潮流はどのように見えているのか。聞き手は『Jazz The New Chapter』の柳樂光隆氏。

カマシ・ワシントンとロバート・グラスパーの“立ち位置”

渋谷:僕はロックの音楽評論家を長くやっていて、ジャズは聴かないわけではなかったけど長年距離がありました。だから、ここ最近のロバート・グラスパーを中心とした新しい形でのジャズと、ヒップホップやロックといった一連の音楽の接近について、逆に事情を聞きたいなあと思ってます。

 単純にカマシ・ワシントンとロバート・グラスパーでも、その立ち位置はかなり違いますよね。【フジロック】で両方を観ることが出来たのですが、ケンドリック・ラマーとかフライング・ロータスとか、その触媒になるような(ポップスの)アーティストは同じなんですけど、ジャズの表出の度合いはすごく違う。今のこのシーンにおける、ロバート・グラスパーとカマシ・ワシントンは、具体的にどんな立ち位置なんですか?

柳樂:まず(活動拠点が)NYとLAというのがやはり大きく違います。ロバート・グラスパーはNYで、ブラック・ミュージック全般のシーンに関わってきて、現代的なジャズのシーンから出てきた。一方、カマシ・ワシントンはLAで、ジャズの中では、どちらかというとフュージョンのシーンから出てきた人ですね。

渋谷:ただ、カマシもヴォーカルのバックや、ヒップホップのバックもやっていて、ポップ・フィールドでの仕事もやってはいるんですよね?

柳樂:そうですね。LAはNYと違って大きいジャズ・シーンが無くて、色んな仕事をしながらやっていくのがジャズ・ミュージシャンのスタンダードみたいです。そういう意味では、ライアン・アダムスやクアンティックと一緒にやったり、カマシは仕事の幅はすごく広いですね。だから、カマシはスタジオミュージシャン的な側面もありますね。逆にNYはジャズだけでもなんとか食えちゃうんですよ。


▲Ryan Adams - New York, New York


▲マイルス・デイビス&ロバート
・グラスパー『エヴリシングス・
ビューティフル』

渋谷:ただ、ソロ・アーティストとしては、ものすごく単純に言うと、カマシの方がジャズを前面に押し出している。もっとシンプルに言ってしまうと、佇まいも含めて非常にコルトレーンっぽい。例えば、ロバート・グラスパーが(『エヴリシングス・ビューティフル』で)マイルス・デイヴィスをああいう風に批評的に切るスタンスと、カマシ・ワシントンの吹きまくる吹きまくるみたいなスタンス。本質的には同じだと思うんだけど、なぜ、このようなスタイルの差が出てくるんでしょうか?(参考:マイルス・デイヴィス&ロバート・グラスパー特集対談

柳樂:カマシに関しては、LAコミュニティの地域性がすごく強いですね。【フジロック】でも連れて来てましたけど、彼のお父さんがいたパン・アフリカン・ピープル・オーケストラ(Pan Afrikan Peoples Arkestra)という、ホレス・タプスコットがやっていたコミュニティ/レーベル/グループからの音楽性の影響も強いですし、『エピック』にも参加しているドワイト・トリブルというボーカリストや、ピアニストのネイト・モーガンなど、70年代からスピリチュアル・ジャズをやっていた人たちがそのままコミュニティに残って指導者になっていて、彼らからの教育や共演の経験もすごく大きかったみたいです。逆に、ロバート・グラスパーはニュー・スクールでジャズを学んで、その後、テレンス・ブランチャードとケニー・ギャレットというシーンの大物に起用されて出て来たという、NYのジャズ・シーンのよくある感じですね。

渋谷:彼らの音楽的な差異も面白くて、この新しいジャズのアプローチも多様だな思うのですが、その中でも、彼らにとって“ジャズ”がどういう風に位置付いているのかっていうのが、僕が一番知りたいところです。ロバート・グラスパーもカマシ・ワシントンもすごく面白いけど、それぞれの面白さの質、そして向かっている方向性みたいなものが、今のジャズがポップ・ミュージックとの良い関係性を保ちながら、新しいスタイルを作り続けられるか、という可能性に関係している。つまり「どこまで行けるのか?」ということのキーになる感じがするんです。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. インプロヴィゼーションのトラップ
  3. Next >
インプロヴィゼーションのトラップ


▲カマシ・ワシントン『エピック』

渋谷:柳樂さんは『エピック』のライナーノーツで「スピリチュアル」ということをおっしゃっていましたが、あれはどういうニュアンスなんですか? 一般用語として使われてるわけですよね?

柳樂:たぶん、ジャズ用語でもあると思うんですけど、基本的にはジョン・コルトレーン・フォロワーっていうことですね。それと同時にブラック・ミュージック用語でもあって、アフロ・フューチャリズムというか、アフリカ回帰みたいなニュアンスもあります。

渋谷:その「スピリチュアル」っていう表現がまず面白いなと思いました。ロバート・グラスパーも、フジでの演奏はめちゃくちゃスピリチュアルだったけど、そうは言われない。要するにコルトレーンとの位置関係だと思うんですよ。大して聴いてないのに音楽評論家だから言っちゃうけど、僕はジャズを聴くときに、コルトレーンの立ち位置が一番重要だという気がします。より踏み込んで言うと、良い意味でも悪い意味でも。神様に「良い意味/悪い意味」なんて、ロックのシーンでジミヘンに「良い意味/悪い意味」なんて言ったら大変なことになっちゃうんだけど(笑) でも、そう思うんです。

 自分自身が、なぜロックほどジャズにのめり込まなかったのか、自己分析的に考えると、インプロヴィゼーションという概念をどう捉えるのかが重要な気がします。まさに、ジャズの中における「スピリチュアル」な側面を純粋培養して、極限まで推し進めたのがインプロヴィゼーションで、その神がコルトレーンであると。でも、そこに行ったがゆえに、ジャズは凄いものになったけど、同時に袋小路に入ってしまった。そういう側面があると思うんです。

柳樂:はい。

渋谷:だから、インプロヴィゼーションという概念と、どう向き合うかというのが、ジャズというスタイルにとって常に重要だと思う。インプロヴィゼーションの呪縛に捕らえられた時に、また同じ袋小路に入る。そこが危険なんです。で、ロバート・グラスパーはそのリスクは無さそうだとして、カマシは分からなかったんですが、【フジロック】のライブや、特に『エピック』を聴いた時に「ああ、この人は大丈夫だな」と感じました。だから、僕がカマシを聴く時に重要なのは、この人はスピリチュアル・ジャズであり、コルトレーン・フォロワーでありながら、なぜインプロヴィゼーションのトラップにはまらずにサバイバルしているのか?ということなんです。音楽評論家っぽいでしょ。

柳樂:ハハハ(笑)

渋谷:ジャズ畑にはあんまりそういう発想の人がいないみたいなんだけど、僕なんかが見てるとそういうところがポイントなのかなと。いま、今日的なジャズというのが有効であり、市場性を持っているのは、結局そのインプロヴィゼーションのトラップと上手く距離を保っているから。そのための装置がヒップホップだったりロックだったり、という感じがすごくしますね。


▲ジョン・コルトレーン
『至上の愛』

柳樂:コルトレーンは、特に『至上の愛』の後、どんどんフリージャズ的な方向に進んで、まさにインプロヴィゼーションのトラップというか、とにかく吹きまくるサウンドになっていきました。「神(聖者)になりたい」みたいな発言もあったり、自分探しというか、自分じゃなくなることで新たな自分を発見するためにインプロヴィゼーションをしているようなところがあるとも言えたと思うんです。60-70年代のフリージャズの人は結構そういう人が多いですね。

 カマシ・ワシントンに関しては、表面的にはそういう部分があるように見えるんですけど、演奏しているのを観るとものすごく冷静で、自分を見失うことがまず無い。例えばすごく激しく吹いて、ブロウして音色が段々と歪んでいったりしても、それをコントロールしてますよね。


▲Kamasi Washington live - Sunfall Night Session

渋谷:ポップ・ミュージックって普遍ってことなんですよ。ポップ・アートでもそうですけど、“ポップ”というのは全て「どう普遍化されるのか?」っていう概念なんです。で、スピリチュアルというか、インプロヴィゼーションというのは絶対ということで。個別的な絶対化、まさに神になるということですね。もちろん神になんかなれっこないんですけど、その境地に立ったら最終的には“死”と向き合って、その戦いの中で異常に辛い局面に立たざるを得ない。まあ、優れたミュージシャンはみんなそうなるんですが。でも、カマシはそこには居ない感じがする。「スピリチュアル」と言われるし、なんか変な格好してるじゃないですか?

柳樂:そうですね(笑)

渋谷:でも、インプロヴィゼーションのトラップにはまっていない。それは21世紀という時代が数多くのことをポップ・ミュージックの中で学んで、その基本的な教養があるから、反射神経で出来ているんだと思うんです。じゃあ、なぜ今ジャズなのか? スピリチュアル・ジャズなのか? そして、なぜヒップホップやロックのアーティストがジャズに興味を持っているのか? 別の角度から見ていくと今度はそれがすごく面白い。

 二律背反のようですが、スピリチュアル・ミュージックだからこそ持ったジャズの表現のフォームというのが、やっぱりすごく素晴らしいんです(笑) コルトレーンは言うまでもなく、神のように偉大なわけで、どこをサンプリングしても神の音が鳴っている。そういう、すごく絶対化された音楽が生み出した、限りなく洗練され高度な表現フォームを、どう普遍的な新しい音楽のフォームの中に組み入れていくか。そういうスタンスが、フライング・ロータスやケンドリック・ラマーの有り様だと思うんです。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. ジャズ・ジャーナリズムの困惑
  3. Next >
ジャズ・ジャーナリズムの困惑

渋谷:じゃあ、その生産者であるカマシやロバート・グラスパーはどういうスタンスでやっているのか、というのが今度は気になる。ロバート・グラスパーはポップ・ミュージシャン寄りの視線を持ってるみたいだけど、カマシはそれとも違いそうだ、と。その微妙な立ち位置の差が面白い。この人の仲間みたいな人は一杯いるんですか?

柳樂:アルバムに参加してるメンバーも含めて、周辺にミュージシャンはいっぱい居ます(参考:2016年4月、カマシも参加したブランドン・コールマン公演レポート対談)。でも、はっきり言って、カマシがこのスタイルの音楽で出てきて、世界的にジャズ・ジャーナリズムは困惑していましたね(苦笑) ロバート・グラスパーの新しさは分かり易いですよね。ヒップホップを内面化しているというか。でも、カマシは、聴く人よってはコルトレーンやファラオ・サンダースの焼き直しにも聴こえる。でも、何かが違うという。あれだけ売れて、話題にもなっているのにあの『ダウン・ビート』も表紙にしたり、大きく扱うまで1年ぐらい掛かりました。グラミーでもノミネートすらしなかった。

渋谷:やっぱり、そういうもんなんだ…ということはやっぱり素晴らしいですよね(笑) 既存のジャズの価値観の中において、何がしかの揺らぎを与える存在なのかどうなのか?というのが、僕はインサイダーじゃないから分からなかったんだけど、そうであるなら素晴らしいと思います。

柳樂:アーティストの中でも賛否両論があって、ロバート・グラスパーよりも遥かに大きい戸惑いがあったと思います。それこそ、ジャズの形をしてるがゆえの。

渋谷:ロバート・グラスパーよりも過激なことのように思います。本人にとっては自然なことなんだろうけど。すごく良いラジカリズムですね。

柳樂:あと、彼が戸惑いを与えてしまった原因の一つに、すごく即興性の高いものをやっていて表面的には荒々しいのに、ジャズのビッグ・バンドにいたり、ヒップホップの仕事をしていた経験を活かしてアレンジメントやミックスのディテールに繊細さがあって、アンサンブルとしても優れている、という点があったと思います。

 荒々しさとアンサンブルがここまで一緒になっているものって、ここまでのジャズの中でもなかなか無くて。例えば、黒人性の強く出たもので、ウィントン・マルサリスがそういうことをやってはいたんですけど、ただ彼は、本人の演奏がすごく端正なのもあって、ものすごく洗練の方に傾いてしまった。だからカマシはウィントンの持ってなかったものを持っている感じがしますね。


▲Wynton Marsalis Band(1982/AVRO's Jazzarchief)

渋谷:すごく難しいと思うんですよ。ジャズっていうのは音楽的に豊かなものだから色々な調理の仕方があって、右に振り切っちゃうと気の利いたカフェ・ミュージックにもなってしまう。しかも、そのカフェ・ミュージッックとしての商品性も高い。その対極にスピリチュアルなカマシ・ワシントンが、モジャモジャでいるわけです。でも、よくよく見ると「え、こいつ気の利いたカフェ・ミュージックもやってるじゃん!」みたいな(笑)

柳樂:そうなんですよね。

渋谷:コルトレーンは気の利いたカフェ・ミュージックは死んでもやれなかったのに、カマシはやれてしまうし、そこが素晴らしいんですよね。だから彼の評価はどっちかに振れちゃいけない気がします。仰っているように、両方あるがゆえの面白さだし、大きく言えば、今のジャズの動きというのが、一過性の気の利いたアートフォームの提供ではなくて、一種の普遍的で強力なジャンルとして、これからサバイブしていくかどうかっていう境目なのかなあという気がしますね。

柳樂:まさにそうですね。


▲ジョニ・ミッチェル
『ドンファンのじゃじゃ馬娘』

渋谷:この手のことって、これまでに全く無かったわけでもなくて。例えば、僕はジョニ・ミッチェルがすごく好きなんだけど、彼女はウェザー・リポートとものすごく接近した時期があった。まあ単にジャコ・パストリアスが恋人だった部分も大きいんだろうけど、ウェイン・ショーター達とやった『ドンファンのじゃじゃ馬娘』っていうアルバムも素晴らしいし、あの当時のライブっていうのは、ポップ・ミュージックとジャズの幸福な、そしてすごくエキサイティングな共存が存在していて、限りなく21世紀型の、今の状況に近い。

 そういうものは、ある通過する風景としてあるにはあった。でも、今は明らかに固定化して、目の前に展開する街の風景として存在している。しかも、ジャズの側からの積極的な自己回復があって。ジョニ・ミッチェルにとって、ジャコ・パストリアスやウェイン・ショーターすごく刺激的な存在で、彼らとやることでジョニ自身も大きな幅を持ったんだけど、じゃあ、ウェイン・ショーターが変わったか?というと、それは微妙なところかなと。

 ところが、今はジャズの側が変わっている。そういう状況がすごく重要ですよね。だから、これからカマシがどうなって行くのか、すごく興味深い。ロバート・グラスパーは間違いなく上手くやっていくだろうって気がするけど(笑)

柳樂:完全に上手くやってますよね。この間もホワイトハウスでコモンと一緒にやってましたし。でも、本当にジョニ・ミッチェルもそうですし、スティングとかもありましたけど、あくまで使われる側でしたもんね。ケンドリック・ラマーとのアルバムの話を聞いても、曲やアルバム全体に(グラスパーとカマシも)ものすごく関与してますし、彼らもその影響を自分の活動に持ち帰っています。グラスパーの一連の活動は、これまで共演してきたモス・デフやコモン、Qティップからのフィードバックも大きいですよね。


▲Common At The White House: NPR Music Tiny Desk Concert

渋谷:ポップ・ミュージックからジャズへのリスペクトは昔からものすごくあったけど、ジャズの側からはポップ・ミュージックにどう関与して良いか分からない、悪い意味じゃなく「本当に俺たちの仕事なんだろうか?」という戸惑いがあったと思うんです。彼らはジャズが好きで、ジャズを演奏することが生きがいで、世界がジャズで構成されていた。だけど、ロバート・グラスパーもカマシ・ワシントンも、明らかにジャズだけで人生は構成されてない。自分のDNAの中にヒップホップもロックもポップ・ミュージックもなんでもある。そして、そうなるためには、これだけの時間が必要だったんじゃないかなと思いますね。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. カマシは「コルトレーンの衣装を被ったジミヘン」??
  3. Next >
カマシは「コルトレーンの衣装を被ったジミヘン」??

柳樂:あともう一つの変化として、ゴスペル育ちのミュージシャンが多く出てきているというのがあります。ほとんどR&B、ヒップホップ化したゴスペルが、黒人ミュージシャン全体のある種の憧れの音楽になっているという、ゴスペル自体の変化もあると思うんですけど。

渋谷:ゴスペルは面白くて、要するに一種の高揚感の装置なわけじゃないですか。だからすごくスピリチュアルであると同時に、ものすごくプラグマティックな音楽なわけですよ。装置としての有効性みたいなところで音楽を追求するから、限りなく自由なんですよね。ゴスペルのアーティストとして実は結構ヘヴィ・メタルがいるんですよ(笑)

柳樂:まさにおっしゃる通りで、賛美歌や黒人宗教歌の曲を演奏さえすれば、スタイルや中身はなんでも良い。高揚させるためのメタルにおけるエレキ・ギター的な快楽も導入できちゃうんですよね。カマシ・ワシントンのサックスは、まさにそういうエレキ・ギター的なものかも知れません。

渋谷:すんごい頭の悪い音楽評論家的なことを言うなら「これはコルトレーンの衣装を被ったジミヘンだ」みたいな(笑) 音楽雑誌的に使えそうなフレーズですけど。

柳樂:(笑)。カマシ・ワシントンを最初に観たときに、サックス・ソロに自分を投影してない感じがすごくあって、それはロバート・グラスパーのピアノ・ソロもそうですけど、本当にその瞬間を盛り上げるための装置としての歪んだ音であったり長いソロであったり、でしかなんですよね。ある意味で、すごくドライなんですよね。


▲Kamasi Washinton - The Rhythm Changes(LIVE/2016)

柳樂:ロバート・グラスパーも、ケンドリック・ラマーのアルバムでプロデューサーのテラス・マーティンからから「マッコイ・タイナーみたいに弾け」って言われて、言われた通りにやっていて(参考:テラス・マーティン インタビュー)。いまやりたい、もしくは、いま求められていることをやるだけで、そこでの演奏にどうやって自分を反映するか、みたいなのがそんなにないっていうのは、やっぱり新しいですよね。

渋谷:やっぱり、ジャズが伝統の中で積み重ねてきた技術的な、あるいは方法論的な遺産はものすごく偉大なもので、みんなそれに気付いた。それを演奏しながら対象化出来るアーティストたちが出てきているっていうことが、今の新しいジャズの隆盛を支えているのかなと思います。

柳樂:僕は結構、取材もしてるんですけど、皆すごく礼儀正しくて賢いんですよ。ある世代より前の人になると、とりあえずちゃんと喋ってくれなくて、言いたいことだけを言う、まさにレジェンドっていう感じなんですけど、グラスパーたちはちゃんと聞かれたことをわかりやすく喋ってくれる。音楽教育をきちんと受けてきたエリートっていう感じがしますね。

渋谷:ポップ・ミュージックの基本的なスタンスは、ある一点に気付けるか気付けないかが重要で、それは、なりたい自分になるのか、求められている自分になるのか、という二択なんです。レジェンドの人たちというのは、なりたい自分になることによって色々なものを得た人たちで、だからなりたい自分になっていれば良い。ところが、ポップ・スターはそんなことは言ってられない。だから態度においても、考え方においても、世間に求められている自分になるためにはどうすれば良いのか、という訓練を積む。求められている自分となりたい自分の衝突が起きた時に、求められている方を選ぶというのはものすごく辛いことなんだけど、それを超えられるとタフなポップ・スターになることができる。その訓練が出来ている、新しいジャズのスターがロバート・グラスパーだったり、カマシだったりするのかなと思います。


▲デヴィッド・ボウイ『★』

柳樂:デヴィッド・ボウイの『★』のバンドもそうですけど、求められていることを完璧に、ないしそれ以上の回答でやるっていうモチベーションがすごく高いですね。

渋谷:やっぱり産業として、非常に厳しい局面にジャズが立った、っていう状況を見ている世代だったっていうのも、僕は大きいような気がしますけどね。

柳樂:そうですね。それはみんな言いますね、やっぱり。

渋谷:70年代にニューヨークに行った時に、僕がアメックスを使ってたら、「おー。ソニー・ロリンズが審査に落ちたアメックス」って言われたんですよ(笑)

柳樂:ハハハ(笑) ちなみに渋谷さんがカマシ・ワシントンを聴くようになったきっかけは何だったんですか?

渋谷:それはやっぱりケンドリック・ラマーであったり、フライング・ロータスであったりですね。

柳樂:じゃあ、『ユー・アー・デッド』が大きかった?


▲Flying Lotus - Live Show Preview

渋谷:大きかったですね。でも、フライング・ロータスのライブもなんだかよく分んない、面白いもんでしたけどね。(フライング・ロータスが)酔っ払っちゃって、ベロンベロンなんだ。

柳樂:ハハハ(笑) でも、前に一回取材した時は真面目そうでしたよ。羽目を外すためにあえて飲んでるんじゃないですかね?

渋谷:僕なんか「『ユー・アー・デッド』には思想における絶望が~深い絶望が~」とか書いてるのに、出てきたら酔っ払って「俺は酔っぱらっている。お前らは死んでいる!」ってお笑いじゃん!「シリアスに書いた俺の立場はどうなるんだ?」っていう(笑)

カマシ・ワシントン 対談プレイリスト

対談に出てきた曲/アーティストをもとにプレイリストを作成。現代に至るまでの、ジャズとポップ・シーンの交流を物語るような一編。

スロットル・エレベーター・ミュージック/カマシ・ワシントン Matt Montgomery Gregory Howe Mike Hughes Erik Jekabson「スロットル・エレベーター・ミュージック・フォー フィーチャリング・カマシ・ワシントン」

スロットル・エレベーター・ミュージック・フォー フィーチャリング・カマシ・ワシントン

2016/09/08 RELEASE
AGIP-3581 ¥ 2,376(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Gibralter Road (feat. Kamasi Washington)
  2. 02.Rocovery (feat. Kamasi Washington)
  3. 03.We Can Work with That (feat. Kamasi Washington)
  4. 04.Back to Form (feat. Kamasi Washington)
  5. 05.Bridging the Barrier (feat. Kamasi Washington)
  6. 06.Throwing the Switch (feat. Kamasi Washington)
  7. 07.Way out of Line (feat. Kamasi Washington)
  8. 08.Sweet Spot (feat. Kamasi Washington)
  9. 09.Bridging the Barrier II (feat. Kamasi Washington)
  10. 10.No One to Vote For (feat. Kamasi Washington)
  11. 11.Boeseke Trail (feat. Kamasi Washington)
  12. 12.Retuen to Form <日本盤ボーナストラック>

関連キーワード

TAG

アップライジング
マイルス・モズレー カマシ・ワシントン トニー・オースティン キャメロン・グレイヴス ブランドン・コールマン「アップライジング」
2017/06/02
[CD]
¥2,700(税込)
購入画面へ
トライアンフ
ロナルド・ブルーナーJr. サンダーキャット カマシ・ワシントン ジョージ・デューク マック・ミラー ブランドン・コールマン マイルス・モーズリー トニー・オースティン「トライアンフ」
2017/04/19
[CD]
¥2,300(税込)
購入画面へ
アップライジング
マイルス・モーズリー カマシ・ワシントン ブランドン・コールマン トニー・オースティン「アップライジング」
2017/02/22
[CD]
¥2,300(税込)
購入画面へ

Special Contentsmore

Calmera(カルメラ)×やついいちろう『JAZZY GOLD CHAIR』対談インタビュー
Calmera(カルメラ)×やついいちろう『JAZZY GOLD CHAIR』対談インタビュー
かねてより親交の深い2組の対談インタビューがここに実現!
ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ『フー・ビルト・ザ・ムーン?』発売記念特集
ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ『フー・ビルト・ザ・ムーン?』発売記念特集
50歳を迎えたノエル・ギャラガーが、ソロ3作目で完成させたキャリア史上もっとも美しいアルバムの背景を紐解く
AKB48 50thシングル「11月のアンクレット」インタビュー
AKB48 50thシングル「11月のアンクレット」インタビュー
渡辺麻友のラストシングル『11月のアンクレット』。渡辺麻友、柏木由紀、向井地美音、小栗有以がその想いを語る。
T.O シングル『BURNING』インタビュー
T.O シングル『BURNING』インタビュー
従業員400名の会社を経営する青年実業家がDJシーンに殴り込む理由とは?
カケハシ・レコード presents PFM来日記念特集~ユーロ・プログレの最初の道標となったレジェンド・バンド~
カケハシ・レコード presents PFM来日記念特集~ユーロ・プログレの最初の道標となったレジェンド・バンド~
プログレCD専門店、カケハシ・レコードがレジェンド・バンドを解説。
ミト(クラムボン)×徳澤青弦 スペシャル・インタビュー
ミト(クラムボン)×徳澤青弦 スペシャル・インタビュー
飲み仲間であり盟友でもある二人に、これまでの歩みを訊く
スタイリスティックス 来日記念特集~結成50周年を迎えるベテラン・グループの魅力と歩み
スタイリスティックス 来日記念特集~結成50周年を迎えるベテラン・グループの魅力と歩み
黄金時代~再評価、そして変わりゆく変わらないグループの魅力。
ウォーク・ザ・ムーン『ホワット・イフ・ナッシング』発売記念特集 ~天と地を見たシンセ・ポップ・バンドの復活を辿る
ウォーク・ザ・ムーン『ホワット・イフ・ナッシング』発売記念特集 ~天と地を見たシンセ・ポップ・バンドの復活を辿る
彼らに訪れた試練と復活とは?

Chartsmore