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特集:マイルス・デイヴィス&ロバート・グラスパー『エヴリシングス・ビューティフル』 村井康司×柳樂光隆がマイルス&グラスパー新作を語る

 いよいよ7月に来日公演を行うロバート・グラスパー・エクスペリメント。ビルボードライブでの公演に加えて、今回は【FUJI ROCK FESTIVAL 2016】への出演も決まっており、現代音楽シーンの最先端とも言えるそのライブ・パフォーマンスに一層の注目が集まっている。

 その中心人物でピアニスト、ロバート・グラスパーが5月にリリースしたアルバム『エヴリシングス・ビューティフル』は、あのマイルス・デイヴィスの生誕90周年に合わせて、マイルスが残した音源を元にグラスパーが再構築/再クリエイトした1枚。エリカ・バドゥやハイエイタス・カイヨーテら、一枚を通して豪華なゲストも参加し、全く新しいマイルス解釈の作品として大きな反響を呼んでいる。今回は、そんな『エヴリシングス・ビューティフル』について、ジャズ評論家の村井康司氏と柳樂光隆氏の対談を企画。同作を通して見えてくるロバート・グラスパーの現代性、そして、マイルスというジャズ/音楽の巨人について、改めて語り合ってもらった。その対話からは、過去と現在をつなぎ、深く広く拡がるジャズの世界の奥行きが感じられる。

マイルスのトリビュート盤はちょっとした罰ゲーム

村井:聴く前はもうちょっとシンプルなリミックスだと思ってたんだよ。前のビル・ラズウェルの『パンサラッサ』みたいな、リミックス盤の最新バージョンかなと。だから結構驚いた(笑)。どちらかというと、マイルスのリミックスというより、マイルスにインスパイアされて自分の音楽を作ったという感じで、そこが素晴らしいなと思いましたね。

 個々の演奏やトラックにも面白いものが色々あって、マイルスが持ってる様々な要素のうち、例えば、メロディアスでメロウな部分をストレートに出してる気がしたね。

柳樂:そうですね。

村井:70年代のマイルスは、すごく綺麗な曲をわざと汚い音で録音したりするじゃない。「マイシャ」とかまさにそうなんだけど。それをマイルスのトランペット部分だけ元の音にして、あとは今の美しい音にしてるっていう。そういうギャップ感みたいなものを上手く使ってるのが面白いなと思った。

Miles Davis, Robert Glasper - Maiysha (So Long) Extended Version ft. Erykah Badu


村井:あと、『ライヴ・イヴル』の短い曲を2曲もやってるというのも結構驚いたね。あれはエルメート・パスコアールが絡んでるやつだよね。「マイシャ」もそうだけど、ブラジルっぽい感じをあえて意図的に出してるのかなって思いました。どうですか、柳樂先生は?

柳樂:そうですね…。マイルスのトリビュート盤やらされるのって、ちょっとした罰ゲームみたいなものじゃないですか?

(一同笑)

村井:やりたくないと思う(笑)。だいたい褒められないよね。

柳樂:僕の本(『MILES:REIMAGINED 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド』)もそうだと思うんですけど、絶対に何をやっても褒められない(笑)。それをやるのがグラスパーの良いところなのかなって。しかも、それを特に怒られるような形でやるっていうのが個人的には一番面白かった気がします。

 いま村井さんが話してくれたように、音楽的にはすごく良いんですよ。でも、マイルス・ファンが怒りそうなことをあえてやる。そのふてぶてしさというか。そもそもマイルスもふてぶてしいですよね。

村井:こういうので一番良くないのは中途半端にやることだよね。自分も気持ち悪いし、誰にも褒められない。でも、徹底してどっちかに行くと、批判する人もいるけど、それについてくる人もいるわけじゃない。やる方も「ここまでやったら良いや」って思えるから、これが正解なんだよ、態度としては明らかに。

柳樂:多分、そのほうが結果もついてきますよね。

村井:ここに登場している人たちって、今までのグラスパーの人脈の人が多いわけだけど、例えばハイエイタス・カイヨーテなんかは、グラスパーは人選しているだけでしょ?「あとは好きに料理して下さい」みたいな。そういうところもこの人は面白い。

柳樂:結局、グラスパー自身の名前は出てるから責任は取らなきゃいけないんだけど、あんまり頓着してないっていう。やっぱりね、グラスパーってちょっとバカっぽいんですよ(笑)。

(一同笑)

柳樂:率直に言うと(笑)。でも、そこが良いところなんですよね。とはいえ、かなり計算しているようなところもあるし、そういうのを演じてるのかもしれませんが。

村井:もちろん素晴らしいピアニストでミュージシャンなんだけど、自分が演奏することに執着心がないよね。

柳樂:無いですねぇ。

村井:全く自分が何もしてなくてもOKみたいな部分もあったりして。ルーレットでいうと、この人選に全額ベットする感覚っていうかさ。

柳樂:でも、その人選も絶妙なんですよ。例えばフォンテってラッパーが参加してるんですが、彼はフォーリン・エクスチェンジっていうヒップホップ・グループをやってたりする人で、生バンドと一緒にライブをやったりしているんです。だから、ライブが出来る人、ライブに定評のある人っていうのにはこだわって選んでるのかなと思いましたね。

村井:なるほどね。

The Foreign Exchange: NPR Music Tiny Desk Concert


柳樂:あと、どこまで考えてるか分からないけど、ビジネス的な上手さもある。例えばDJスピナにハウスっぽいトラックを作らせたり、ジョージア・アン・マルドロウにいかにもアンダーグラウンドっぽいヒップホップをやらせてみたり。で、インタビューでも言ってましたけど、「なんでマイルスと共演したやつを入れないんだ」って絶対に言われるだろうから(ジョン・スコフィールドを)入れたとか。

村井:なるほど(笑)。でも、確かにそういう、“いま”の話題性とか受け入れられ易さに対するセンスはすごくあるよね。そういう関わり方が、ミュージシャン的というよりはプロデューサー的。よく先人でいうとハンコックとか、クインシー・ジョーンズみたいだって言われるよね。クインシーも、本人のプロデュースってことになってるけど実は何にもしてませんってトラックが山のようにあるわけで。

柳樂:そうなんですよね。やっぱりプロデューサーっぽくて、自分が何をどこでやったか、インタビューでもロクに言わないんですよ。あんまり関心が無いんだと思う(笑)。自分がどこで何を弾いたかに全然関心がないジャズ・ミュージシャンなんてなかなかいないですよね。

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モダン・ジャズの終わり

村井:このアルバムもピアノ・ソロは「マイルストーンズ」だけ。あと、さっきも言ったけど、選曲の不思議さはあるよね。

柳樂:いわゆる“マイルス・ファン”だったら選ばない曲が多いですよね。もちろん、マスターテープを自由に聴けたからっていうのはあると思うけど、だからって「ゲットー・ウォーキン」は普通選ばないですよね。

村井:『イン・ザ・サイレント・ウェイ』のボックスセットでしか聴けない未発表曲で、しかもやたら長い。普通だったら飛ばすだろうみたいな(笑)。

柳樂:誰も喜ばない(笑)。

村井:そういうマニアックなものなんだけど、ポップでキャッチーに仕上げてて、料理の仕方がすごく面白いよね。

Miles Davis, Robert Glasper - Ghetto Walkin'


柳樂:変な話、『ビッチズ・ブリュー』に入ってる有名な曲を入れたほうが良いわけじゃないですか?

村井:「スパニッシュ・キー」とか。

柳樂:そう。あとは『カインド・オブ・ブルー』に入ってる有名な曲とか。そういうのが全然入って無いんですよ。

村井:あと、面白いなと思ったのが、ソニーのマスターテープなら、『ユー・アンダー・アレスト』くらいまでの音源は自由に使えたはずなんだけど、80年代の音源は一個も使ってないよね。

柳樂:そうですね。

村井:これも意図的にやってる感があるよね。80年代マイルスは、エレクトリックかつポップに、ある程度形が出来ちゃってて、下手にいじるとダサい、使いにくいみたいなのはあったのかも知れないけど。逆に、素材的にごくごく古いものっていうのは「ヴァイオレッツ」が「ブルー・イン・グリーン」、あとは「マイルストーンズ」くらいかな?

Miles Davis, Robert Glasper - Violets ft. Phonte


柳樂:あと「ライト・オン・ブラザ」で「ネフェルティティ」を使ってますね。

村井:スティービーがハーモニカで出てくる曲ね。俺はスティービーって永遠のアイドルなんだけど、あの瞬間は「別に今ここでそれをなさらなくても…」っていう気持ちになったよね(笑)。

柳樂:(笑)。でも、スティービーがあんなに長尺でソロを吹いてるのも珍しいですよね。それをやらせたのはすごいと思いました。そういう意味では、ライブ・ミュージシャンとしてのスティービーっていう感じなのかなと。

 あと、今回のアルバムを聴いていても思ったんですけど、“モダン・ジャズの終わり”感がすごいんですよね。一番思ったのは、松井秀喜が長嶋茂雄に対するリスペクトみたいなのと、グラスパーがマイルスに対するリスペクトが近い気がしたんです。長嶋って松井から見たら、ぶっちゃけ面白いおじちゃんでしかないわけじゃないですか。

(一同笑)

柳樂:長島一茂を置き忘れて家に帰っちゃった話とか、あとは変な英語を使う人みたいな(笑)。グラスパーにとってもマイルスってそれくらいの距離感なんじゃないかと思うんです。

村井:なるほど。たしかに、マイルスとグラスパーは53歳違いで、グラスパーが小学校の高学年くらいの時にマイルスは死んでる。グラスパーのことだから名前くらいは知ってたと思うけど、 同時代に憧れてたわけでは無いだろうからね。


▲ビル・ラズウェル
『パンサラッサ』(1998年)

柳樂:僕もグラスパーと同世代なんだけど、マイルスが死んだのなんてもちろん記憶に無いし、90年代の再評価はあったけど、昔の人って感じがする。だからやっぱりビル・ラズウェルが90年代にやったリミックスとの違いがすごいですよね。ビル・ラズウェルは、ものすごく気を遣って、マイルスの音源のバランスを崩さないようにやったのに、結局、悪口は言われるけど誰にも褒められない。そういうのが一つ前の世代だったんです。

村井:ビルは1955年生まれだから、一番リアルタイムでマイルスを尊敬してる世代。音楽を聴き始めた時に60年代とか70年代、マイルスが一番輝いていた頃だからね。僕もそうなんだけどね。

柳樂:『アガルタ』『パンゲア』の頃が一番好きだったみたいですね。だからビルがやるとやっぱりその頃の感じになるじゃないですか。

村井:なるね。

柳樂:すごく思い入れのある感じというか。それに対して、『エヴリシングス・ビューティフル』の思い入れの無さはすごい。

村井:偶像的な、ある種、腫れ物に触るように崇拝するマイルス観とはかなり違うということだね。

柳樂:全然違いますね。なかなか今までこういうものはなかった。というか、マイルスのトリビュートもので褒められたものってほぼ無かったじゃないですか? 唯一思い浮かぶのがキース(・ジャレット)の『バイ・バイ・ブラックバード』ですけど、あれもゆかりの曲をスタンダードにやっただけで、マイルスはほとんど関係無いですよね。

村井:ウォレス・ルーニーとハンコックのやったやつとか、色々あったよね。ほぼ酷評みたいな感じだけど。

柳樂:だからやっぱり罰ゲームですよ。「あのトリビュートのあれは良かった!」みたいなレベルのものさえほとんどない。

村井:橋本一子の『Miles Away』は良かったよ!

柳樂:ああ、そうですね! あれもエルメートの曲をやってますよね。

村井:そう考えると橋本一子は只者じゃ無いよね!

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内田裕也≒マイルス説

村井:柳樂くんはこのアルバムについて、グラスパーにインタビューしたんだよね? 何か特筆すべきことは言ってましたか?

柳樂:特筆すべきことというか、リスペクトの形が違うなって思ったのは、普通、音源を聴いたら「ドラムがすごかった」みたいな話をするじゃないですか? でも、「マイルスのしゃっべてるところが聞けて良かった」って話をしていて。

村井:なるほどなるほど。一曲目もそうだもんね。

柳樂:タイトルもマイルスの言葉の引用で、もちろん本当に感動したんだろうけど、そういうのばっかりなんですよね。今回、グラスパーがマイルスのトランペットについて喋ってるインタビューとかって多分無いんじゃないかな? 「トランペットが聴きたかったらマイルスのオリジナル・アルバムを聴け」って言ってましたもん。

Miles Davis & Robert Glasper - Everything's Beautiful (Mini Documentary)


村井:それはそうだよね。全体的に元のトラックの残し方がすごく微妙というか、よく分かんない。下手すりゃ一個も使ってないんじゃないの? みたいな曲もあるし。そう考えると「マイルスのアイコンは声だ」っていう主張がなんとなく伝わってくるよね。

柳樂:なんかそれも長島のモノマネと同じ意味って感じがするんですよ(笑)。

村井:そう言えば、昔から不思議に思うのがさ、マイルスがこう言ったって話をすると、みんなマイルスの声色を真似して話すでしょ? あれは一体何なの?っていう(笑)。

柳樂:(アントニオ)猪木とかと同じで、もうちょっとしたギャグなんですよね(笑)。この間もテラス・マーティンが来た時に、ピアニスト(テイバー・ゲーブル)がジュリアード出身で、「ジュリアードってことはマイルスと同じだぜ!」って完全にネタにされてて…。

村井:マイルスって変なおじさんってイメージが強いのかな? まあそうだろうな。

柳樂:完全にそうじゃないですか? グラスパーが言うには、マイルスは「ウォーキング・ミドルフィンガー=常に中指を立てながら歩いてるようなやつ」で、ヒップホップのやつらはそれを真似したんだって。

村井:なるほどね。そういうアティチュードをね。

柳樂:ヒップホップの人も、もちろんギャングだからって部分もあるだろうけど、ある種のパロディみたいな部分もあるじゃないですか。グラスパーからはそういう風に見えるんだなって。

村井:あのさ、日本でいうと内田裕也みたいな感じじゃないの? めちゃくちゃ音楽的才能のある内田裕也。

柳樂:あ~なるほど(笑)。裕也さんの「ロックンロール!」がマイルスの口癖の「ソー・ホワット」と同じみたいな。

村井:そうそうそうそう。なんかあのコワい感じも似てるよね。「裕也さん≒マイルス」説が出来てしまった(笑)。でもさ、いま話していて思ったんだけど、この『エヴリシングス・ビューティフル』は、マイルス自身の声で始まって、ほとんどのトラックに人の声が入ってるよね。とにかく声、声っていう。

柳樂:グラスパーはとにかく「歌を入れないと広く届かない」っていうのがあるみたいですね。そこは割り切ってる感じがします。

村井:たしかに。『ブラック・レディオ』も完全にそれを狙って見事に大成功したもんね。

柳樂:でも、マイルスもレコーディングとライブで完全に分けてやってたじゃないですか? レコーディングではソロを全部切られちゃって、不満タラタラのミュージシャンが、ライブではガンガンやらせてもらえるっていう。そういう部分ではグラスパーもライブではガンガン即興演奏をするけど、アルバムではソロを極力入れなかったりするし、ライブと録音に対する考え方はマイルスと近いかも知れない。

村井:マイルスも当然、冷静な部分はあるんだけど、やっぱりキャラが濃いからそっちが見えてしまうんだよね。だから中途半端なトリビュートとかリミックスは許されない。そういう意味で、グラスパーも本当はものすごくクールでかっこいい人なんじゃないの?(笑)

柳樂:どうなのかなぁ…。もちろん賢い部分もあるとは思いますけどね…。あと、今作は、マッドリブが2000年代に出した『ブルーノート帝国への侵略』があったから出来てるという気がします。マッドリブがブルーノートのトラックを再構築して作ったアルバムで、それがある程度成功したから、同じように音源を使い放題の再構築アルバムをコロンビアが企画したのかなと思いますね。

 でも、あれも今思うと、ちゃんとドナルド・バードの「シンク・トゥワイス」だって分かる形で再構築していたり、かなりブルーノートに気を遣っているんですよね。もちろん、マッドリブがそういうレア・グルーヴ的なものが好きで、わりとそのままネタを使いたいって人だってこともあるのかも知れないけど、あれから10年以上経って、その間にジャズへの認識がすごく変わったのかも知れないとも思いますね。

Madlib - Slim's Return


村井:なるほどね。最近はグラスパーはどんな活動をしてるの?

柳樂:色々と新作の準備をしてるみたいです。あと、オバマ夫妻が主催のホワイトハウスでのコンサートにも出てましたね。

村井:段々とセレブ感が出てきたね(笑)。

柳樂:でも、Facebookとか見てるとセレブ感全く無いですよ。ジャズ・ミュージシャンって本当に不思議で、グラスパーも最初に会った時が一番扱い辛かったんですよ。だんだんと扱い易くなってて、最近は冗談ばっかり言うんですよね。

村井:それは気持ちに余裕が出てきたんじゃないの? ハービー・ハンコックもすごい気さくな人じゃない? 経済的な余裕が出てくると、気持ちにも余裕が出てくるんだろうね(笑)。グラスパーも、今はプロデューサーとしてのオファーもいっぱい来てるんだろうし、そうなると自分たちの演奏だけとは全然違って影響力も大きくなってくるよね。

柳樂:そうですね。あと、友達でシーンが動いてるみたいなところもあるじゃないですか。テラス・マーティンがまさにそうだけど。そういう意味では楽しくてしょうがないだろうなって思います。ケンドリック・ラマーも売れてるし、フライング・ロータスもすごいし。

村井:それによって音楽自体のシーンが活性化して、新しいミュージシャンも出てきて、彼にとってはすごく良い状態だろうね。

Prince Tribute - International Jazz Day 2016 feat. Aretha Franklin & HerbieHancock


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神社にお参りに行く、みたいな感じ

村井:マイルスって、ジャズの世界では超メジャーな人だったわけだけど、音楽自体を虚心に聴くと、決してメジャーな音楽ではない。むしろ、ものすごくアンダーグラウンドな音楽だよね。特に70年代のマイルスは。『エヴリシングス・ビューティフル』は、その時代の音楽を意識的に取り上げて、そのアンダーグラウンドさをどうやって払拭するか。そんな風に考えたアルバムにも聴こえましたね。

柳樂:ポップに寄ってた時期のマイルスは全然使ってないですからね。

村井:そうなんだよ。それが面白い。でも結局、マイルスの場合、ポップなサウンドになったからって、アンダーグラウンドな作風だった頃から飛躍的に売上が伸びたって感じではないみたいだね。

柳樂:グラスパーってハンコックのことをものすごく尊敬しているんですけど、『フューチャー・ショック』とか『サンライト』が彼らの出発点だったとすると、マイルスはその“前史”の人という感じなんだと思います。でも、その距離感ゆえの面白いインスパイア・アルバムになったのかなと。

村井:そうだね。初めてこのアルバムでマイルスを知った人が元を辿って「じゃあ、俺もマイルス聴いてみるか」って言って、例えば「ゲットー・ウォーキン」の原曲を聴いたら「え?!」ってなるよね。原点に戻ると驚愕するって意味ではすごいアルバムだよ、これは(笑)。

柳樂:罠みたいな(笑)。

Miles Davis Live in Vienna(1973)


村井:もちろん、テクノロジーとか演奏テクニックとかは、マイルスたちが築いてきたものの上にグラスパーがいるから、ある意味で先人より上のレベルにいるわけですよね。それは当然のことだけど、そこまで持ってきてくれたことに対するリスペクトもすごくあると思う。冷静に考えて、いまの若いトランペッターが、マイルスと吹き比べしたら、皆「マイルスね。ふんふん、なかなか良いフィーリングだよね。」くらいの感じなんだよ(笑)。

 でも、例えばマイルスにとってのルイ・アームストロング。ルイは1901年生まれですから、マイルスより25歳年上なんだけど、もの凄く尊敬してたんだよね。「ルイがジャズを作った」って言っていて、まさにその通りなんだけどさ。でも、ルイ・アームストロングにはモードは吹けないわけで(笑)。

柳樂:『カインド・オブ・ブルー』は出来ないですよね。

村井:そう。でも、自分たちがやってることの元を作った人、っていう意味での尊敬はすごくあるわけ。でも、自分たちのやってる最新の演奏を彼らが出来るかって言ったらそれも出来ないわけで。そういう意味では、歳が離れてくると、直接の師匠とか先生って感じじゃなくて、何というか、神社にお参りに行く、みたいな感じなんだよね(笑)。

 一方で、ハンコックやショーターは未だに現役で何をやらかすか良く分からんって人たち。だからグラスパーや今の人たちにしても、神社じゃなくて、自分たちと同じフィールドのライバル、みたいな感じがあるんだろうね。

柳樂:まだ戦わなくちゃいけない感じがしますよね。

村井:まあ、ロバート・グラスパーも今に下の人たちに追われる立場になるんだけどさ。もうなってるのかな?

柳樂:「ジャズを始めた頃からずっとあなたの演奏を聴いてきました」みたいな一回りくらい下のやつが握手を求めてきて、「ファック!! 」って思うって言ってましたよ(笑)。「俺も年取ったな」って。

村井:いま36、7歳だから、一回りくらい下のやつはいっぱいいるでしょうね。

柳樂:でも、このアルバムがあって、マイルスがいかに特殊な立ち位置か? どう位置付けて良いか分からなかったものを考えるきっかけになった気はしますね。今のトランペッターってみんな演奏がすごくて、尋常じゃないやつがいっぱいいるじゃないですか? そういうのが好きな人からしたら、マイルスってあんまり興味が無いんじゃないかな?って思ってたんですよ。

村井:そうなんだよね。ただ、マイルスって細かい部分のニュアンスのつけ方が天才的にすごいわけですよ。そこは本当になかなか真似が出来ないところで。バラードとか、50年代の遅めのテンポのブルースとか聴くと、信じられないくらい細かく楽器をコントロールしてる。ちょっとした音程の違いとか、音色のコントロールを、本当に気を遣ってやってるってことが分かるんだけど、それを一生懸命真似してやっても「ああ、お前、マイルスに似てるね」って言われるだけ(笑)。もちろんそれはそれで上手いんだけど、完全に“味で勝負”の人だからね。今のミュージシャンはテクニシャンであることが最低条件になっちゃったからさ。

Miles Davis - So What


柳樂:最低条件がすごい上がっちゃったんですよね。本当に大変だと思う(苦笑)。ちょっと前だったらバカテクって言われてたものが今は最低レベルだから。

村井:スポーツの世界と一緒ですよね。何十年か前ならオリンピック・クラスだったことが今は高校生でも出来ます、みたいな。結局「今のミュージシャンは大変だ」って話で終わっちゃうけど(笑)。

柳樂:でも、グラスパーはその“バカテク”級の最低限の基準をクリアしてて、それでもなお弾かないわけだから、やっぱりすごく変わった人ですよね。見せればみんなが喜ぶことを持ってるはずなのに、意地でも見せないというか。それがそういう侘び寂びなのか、天然なのかは分からないですけどね(笑)。

Robert Glasper Experiment - Smells Like Teen Spirit(Live)


マイルス・デイビス&ロバート・グラスパー ビラル イラ・J エリカ・バドゥ フォンテ ハイエイタス・カイヨーテ ローラ・マヴーラ キング「エヴリシングス・ビューティフル」

エヴリシングス・ビューティフル

2016/05/25 RELEASE
SICJ-117 ¥ 2,376(税込)

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Disc01
  1. 01.トーキング・シット
  2. 02.ゲットー・ウォーキン (feat.ビラル)
  3. 03.ゼイ・キャント・ホールド・ミー・ダウン (feat.イラ・J)
  4. 04.マイシャ(ソー・ロング) (feat.エリカ・バドゥ)
  5. 05.ヴァイオレッツ (feat.フォンテ)
  6. 06.リトル・チャーチ (feat.ハイエイタス・カイヨーテ)
  7. 07.サイレンス・イズ・ザ・ウェイ (feat.ローラ・マヴーラ)
  8. 08.ソング・フォー・セリム (feat.キング)
  9. 09.マイルストーンズ (feat.ジョージア・アン・マルドロウ)
  10. 10.アイム・リーヴィング・ユー (feat.ジョン・スコフィールド&レディシ)
  11. 11.ライト・オン・ブラザ (feat.スティーヴィー・ワンダー)
ウィー・アー・キング
キング「ウィー・アー・キング」
2016/03/02
[CD]
¥2,592(税込)
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トーク・トマホーク +3
ハイエイタス・カイヨーテ「トーク・トマホーク +3」
2016/01/27
[CD]
¥2,592(税込)
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ジャズ・ナウ2016
(V.A.) ダイアナ・クラール ロバート・グラスパー グレゴリー・ポーター&ジュリー・ロンドン 原田知世 小林桂 モニカ・ゼタールンド&ビル・エヴァンス・トリオ グラント・グリーン「ジャズ・ナウ2016」
2016/01/20
[CD]
¥2,160(税込)
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ライヴ
エリカ・バドゥ「ライヴ」
2015/11/11
[CD]
¥1,512(税込)
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バドゥイズム
エリカ・バドゥ「バドゥイズム」
2015/11/11
[CD]
¥1,512(税込)
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オーラ
マイルス・デイビス ジョン・マクラフリン ヴィンセント・ウィルバーン トーマス・クローゼン オーレ・コック・ハンセン ケネス・クヌーセン ビャルネ・ルーペ パレ・ミケルボルグ「オーラ」
2015/11/11
[CD]
¥1,080(税込)
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デコイ
マイルス・デイビス ビル・エヴァンス ブランフォード・マルサリス ロバート・アーヴィングⅢ ジョン・スコフィールド ダリル・ジョーンズ アル・フォスター ミノ・シネル「デコイ」
2015/11/11
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スター・ピープル
マイルス・デイビス ミノ・シネル ビル・エヴァンス ジョン・スコフィールド マイク・スターン マーカス・ミラー トム・バーニー アル・フォスター「スター・ピープル」
2015/11/11
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¥1,080(税込)
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ジャズとは何か
レナード・バーンスタイン ルイ・アームストロング マイルス・デイビス デイヴ・ブルーベック ニューヨーク・フィルハーモニック バック・クレイトン ベッシー・スミス デイヴ・ブルーベック・カルテット「ジャズとは何か」
2015/10/14
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ダブル・ブックド
ロバート・グラスパー ロバート・グラスパー・トリオ ロバート・グラスパー・エクスペリメント ビラル ケイシー・ベンジャミン ヴィセンテ・アーチャー デリック・ホッジ クリス・デイヴ「ダブル・ブックド」
2015/06/10
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イン・マイ・エレメント
ロバート・グラスパー ヴィセンテ・アーチャー ダミオン・リード「イン・マイ・エレメント」
2015/06/10
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キャンヴァス
ロバート・グラスパー ヴィセンテ・アーチャー ダミオン・リード マーク・ターナー ビラル「キャンヴァス」
2015/06/10
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ユア・アンダー・アレスト
マイルス・デイビス ボブ・バーグ ジョン・スコフィールド ジョン・マクラフリン ロバート・アーヴィングⅢ ダリル・ジョーンズ アル・フォスター スティング「ユア・アンダー・アレスト」
2013/10/09
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ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン
マイルス・デイビス ビル・エヴァンス ロバート・アーヴィングⅢ マイク・スターン ランディ・ホール バリー・フィナティ マーカス・ミラー フェルトン・クルーズ「ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン」
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パンゲア
マイルス・デイビス ソニー・フォーチュン ピート・コージー マイケル・ヘンダーソン レジー・ルーカス アル・フォスター エムトゥーメ「パンゲア」
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アガルタ
マイルス・デイビス ソニー・フォーチュン ピート・コージー レジー・ルーカス マイケル・ヘンダーソン アル・フォスター エムトゥーメ「アガルタ」
2013/10/09
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ジャック・ジョンソン
マイルス・デイビス スティーヴ・グロスマン ハービー・ハンコック ジョン・マクラフリン ベニー・モウピン ソニー・シャーロック マイケル・ヘンダーソン デイヴ・ホランド「ジャック・ジョンソン」
2013/10/09
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ゲット・アップ・ウィズ・イット
マイルス・デイビス デイヴ・リーブマン ピート・コージー レジー・ルーカス ドミニク・ガモー マイケル・ヘンダーソン アル・フォスター エムトゥーメ「ゲット・アップ・ウィズ・イット」
2013/10/09
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オン・ザ・コーナー
マイルス・デイビス デイヴ・リーブマン カルロス・ガーネット ベニー・モーピン ジョン・マクラフリン デヴィッド・クリーマー ハービー・ハンコック チック・コリア「オン・ザ・コーナー」
2013/10/09
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ビッチェズ・ブリュー +1
マイルス・デイビス ウェイン・ショーター ベニー・モーピン ジョー・ザビヌル チック・コリア ジョン・マクラフリン デイヴ・ホランド ハーベイ・ブルックス「ビッチェズ・ブリュー +1」
2013/10/09
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イン・ア・サイレント・ウェイ
マイルス・デイビス ウェイン・ショーター チック・コリア ハービー・ハンコック ジョー・ザビヌル ジョン・マクラフリン デイヴ・ホランド トニー・ウィリアムス「イン・ア・サイレント・ウェイ」
2013/10/09
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ネフェルティティ +4
マイルス・デイビス ウェイン・ショーター ハービー・ハンコック ロン・カーター トニー・ウィリアムス「ネフェルティティ +4」
2013/10/09
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ソーサラー +2
マイルス・デイビス ウェイン・ショーター ハービー・ハンコック ロン・カーター トニー・ウィリアムス バスター・ウィリアムス フランク・リハク ボブ・ドロー「ソーサラー +2」
2013/10/09
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マイルス・スマイルズ
マイルス・デイビス ウェイン・ショーター ハービー・ハンコック ロン・カーター トニー・ウィリアムス「マイルス・スマイルズ」
2013/10/09
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ポーギー&ベス +2
マイルス・デイビス ギル・エヴァンス アーニー・ロイヤル バーニー・グロウ ジョニー・コールズ ルイ・ムッチ ディック・ヒクソン フランク・リハク「ポーギー&ベス +2」
2013/09/11
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フォア&モア
マイルス・デイビス トニー・ウィリアムス ジョージ・コールマン ハービー・ハンコック ロン・カーター「フォア&モア」
2013/09/11
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スケッチ・オブ・スペイン +3
マイルス・デイビス ギル・エヴァンス ポール・チェンバース ジミー・コブ エルビン・ジョーンズ アーニー・ロイヤル バーニー・グロウ ルイ・ムッチ「スケッチ・オブ・スペイン +3」
2013/09/11
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マイルス・デイビス ジョン・コルトレーン ハンク・モブレイ ウィントン・ケリー ポール・チェンバース ジミー・コブ フィリー・ジョー・ジョーンズ「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム +2」
2013/09/11
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カインド・オブ・ブルー +1
マイルス・デイビス ジョン・コルトレーン ビル・エヴァンス キャノンボール・アダレイ ウィントン・ケリー ポール・チェンバース ジミー・コブ「カインド・オブ・ブルー +1」
2013/09/11
[CD]
¥1,944(税込)
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E.S.P.
マイルス・デイビス ウェイン・ショーター ハービー・ハンコック ロン・カーター トニー・ウィリアムス「E.S.P.」
2013/09/11
[CD]
¥1,944(税込)
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