Special
ガガやジャスティン4年ぶりTV歌唱、“アパトゥ”大合唱にディアンジェロ追悼…【第68回グラミー賞授賞式®】名場面を振り返る

Text: Mariko Ikitake
Photos: Getty Images
ブルーノ・マーズにジャスティン・ビーバー、レディー・ガガ、ビリー・アイリッシュといった日本でも絶大な人気を誇るアーティストから、まさに今、スターダムを駆け上がっている新人勢、そしてローリン・ヒルにケンドリック・ラマー、ジョニ・ミッチェルなど、表舞台に出るのが稀な大物など、【第68回グラミー賞授賞式®】は、今年も豪華なゲストの顔ぶれと記録的な瞬間に世界中が釘付けになった。この音楽の祭典は2026年5月2日(土)23:59までWOWOWオンデマンドでアーカイブ配信されており、感動的なシーンやこの日限りのパフォーマンスが期間内で何度でも観られる。見逃した方から、もう一度見たいと思っている方のために、先代から次世代へ引き継がれるもの、コミュニティ、結束を特に感じさせた今年の【グラミー】の見どころを、パフォーマンスを中心に振り返る。


Frazer Harrison Getty Images
スタートを切ったのは、“アパトゥ旋風”を巻き起こしたロゼ&ブルーノ・マーズの「APT.」。ブルーノの専属バンドによる演奏をバックに、クロップトップにネクタイ姿の金髪ボブヘアのロゼはノー・ダウト時代のグウェン・ステファニーや2000年代初期のアヴリル・ラヴィーンを思わせた。ブルーノはバンダナスタイルがここ最近のお気に入りの様子。アメリカにおけるK-POPの歴史を塗り替えた本曲はロックver.にアレンジされ、会場そして視聴者の心を掴んだ。ビリーとフィニアス兄妹が“アパトゥ”と口ずさむ様子もキャッチ。ビリーの隣には恋人と噂されている俳優ナット・ウルフが座っており、そちらもファンの間で話題に。


〈最優秀アルバム賞〉など主要を含めた6部門でノミネートされていたポップアイコン、サブリナ・カーペンターは、機長に扮して「Manchild」をパフォーマンスキュートなルックスとは裏腹に毒っ気のある歌詞で人気の彼女が、男性キャストばかりのステージで「Stupid(おバカ)」「Useless(役立たず)」と叫ぶ場面は、なんとも辛辣だった。昨年はシネマチックな演出でハリウッド黄金期を思わせたが、今年は鳩が飛び出るマジックも飛び出し、遊び心はいささかも失われていなかった。
The Marías: Kevin Winter Getty Images for The Recording Academy
※アディソン・レイは写真なし
昨年から始まった新人賞ノミニーたちのメドレーも目玉のひとつだ。ザ・マリアスは紅一点ボーカルのマリア・ザルドヤの麗しい歌声と憂いあるバンド演奏。TikTokクリエイターからポップシンガーへと華麗に転身したアディソン・レイの舞。高難度ダンスと中毒性のあるサウンドが唯一無二のKATSEYEの存在感。「MUTT」の絶妙なグルーブと虜になるレオン・トーマスの甘い歌声。米ビルボード“Hot 100”のNo.1常連曲「Ordinary」を生み出したアレックス・ウォーレンのスター性。不器用な自分は自分だけじゃないと勇気づけてくれるローラ・ヤング。今まさにチャートを駆けあがる、世界に愛される英歌姫オリヴィア・ディーンのソウルフルでタイムレスな歌声。そして、ミラーボールさながらのギラついたムードをまとったソンバーが放つ挑戦的でセクシーなロックナンバー。新人とはいえ、世界中の大舞台を経験してきた彼らが、この日、この場所に立った理由がはっきりと証明された。そして彼らをベテラン勢が優しく見守る、なんと温かな光景だっただろうか。

31歳ながらキャリア15年以上のジャスティン・ビーバーは、15年前に同賞にノミネートされた経験を持つ。実に4年ぶりのテレビパフォーマンスとなったこの日、ボクサーパンツに靴下だけという驚きの姿で登場した(イヤモニには自身のアパレルブランド「Skylrk」のロゴを入れて、ちゃっかりアピール)。前回歌った「Peaches」は妻ヘイリーに捧げた曲だったが、今回も彼女にしか眼中にないと言わんばかりの「YUKON」を、観客はまるで彼の自宅を覗いているような、必要なものだけを残したミニマルな編成で届けた。

Kevin Winter Getty Images for The Recording Academy

Kevin Mazur Getty Images for The Recording Academy
東京からロサンゼルス入りしたレディー・ガガは、大好評だった来日公演中にリトルモンスターたちへ何度も叫んでいた「Put your paws up!(両手をあげて!)」を合図に、「Abracadabra」を披露。ひとつのカメラが機械的にアングルを変えていくという斬新な演出の中で、どの角度から撮られても一切視線を外さない、その眼差しの強さが際立っていた。大掛かりなツアーセットから一転、ミニマムながらひとつでも間違えたら大失敗になるこのアングルワークを短期間で覚えた彼女の集中力に拍手を贈りたい。

Kevin Mazur Getty Images for The Recording Academy

10年ぶりのアルバム『The Romantic』を2月27日にリリースするブルーノ・マーズは、情熱的な赤いスーツに身を包み、大きな♡を背にして、先行シングル「I Just Might」をパフォーマンス。“リスナーが聞いていて気持ちがいいものを届ける精神”は健在で、ライブに定評のあるバンドメンバーたちとともに、ファンキーに、ロマンティックに、ポップにステージを彩った。


米ビルボードが今年のベストアクトに選んだのが、タイラー・ザ・クリエイターのパフォーマンス。『CHROMAKOPIA』のアートワークで見せるルックで行進するように登場したタイラーはダイナマイトを手に「Like Him」「Thought I Was Dead」をプレイ。途中、オスカー女優のレジーナ・キングに「もし過去の場所に引き戻されそうになったら、先に壊しなさい。そうしないと先にあなたが壊されてしまうから」と諭された別の彼は赤いスポーツカーに乗り込み、『CHROMAKOPIA』の自分に突進。『Don’t Tap the Glass』からの「Sugar On My Tongue」で前身にさよならした。そんな彼もダイナマイトで自らを危険にさらし、最後は階段を転がりながらぶっ倒れて終了。セットを派手にぶっ壊すのが好きな、なんとも彼らしい一幕だった。

故人とその遺した偉業をたたえる追悼コーナーも、観る者の涙を誘った。現地時間2025年7月22日に76歳で亡くなったオジー・オズボーンのレガシーは、ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュ(Gt.)とダフ・マッケイガン(B.)、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス(Dr.)、オジーの最後の2作『Ordinary Man』と『Patient Number 9』、そしてレディー・ガガのアルバム『MAYHEM』も手がけたアンドリュー・ワット(Gt.)、ポスト・マローン(Vo.)による「War Pigs」に乗って世界へ。長年付き添った妻シャロンと娘ケリー、息子ジャックが涙を浮かべながら演奏を見守る姿や、ヘヴィメタの帝王を敬愛するヤングブラッドがメロディに体を委ねる姿も映し出された。

Kevin Mazur Getty Images for The Recording Academy
同年10月14日に51歳で逝去したディアンジェロは、90年代後期に現代ソウル・ミュージックの革命を起こした重要人物。彼がいなければ、私たちが今聴いている音楽は生まれなかったと言える。「Nothing Even Matters」(1998)で共演したローリン・ヒルが舵を取り、ラファエル・サディーク、ジョン・バティステ、レオン・トーマス、ビラルらが、彼の代表曲をThe Vanguardの演奏とともにカバーした。なお、ラファエルは同年3月にトニ-・トニ-・トニ-の兄ドゥエイン・ウィギンスを亡くしている。ステージにはディアンジェロが愛用していたであろうローズピアノが静かに置かれ、彼の存在がそこにあるかのようだった。

Kevin Winter Getty Images for The Recording Academy
フージーズでカバーした「Killing Me Softly With His Song」(1996)でその名を広めたローリンはこの日、オリジナル歌手であるロバータ・フラック(享年88)への追悼も行った。バティステ、リオン・ブリッジズ、オクトーバー・ロンドン、レイラ・ハサウェイが集い、マーカス・ミラーのベースに加えて、ジョン・レジェンドとチャカ・カーンもステージに上がった。終盤にはフージーズの相棒ワイクリフ・ジョンが客席から登場し、前述曲をエモーショナルながら盛大に演奏。この日最多となるステージメンバーで永遠の歌姫を見送った。

ほかにもザ・ビーチ・ボーイズのリーダーで米国史上最高の作曲家の一人として広く認められるブライアン・ウィルソン、グレイトフル・デッドの創始者ボブ・ウィアー、KISSのリードギタリストで何度も来日公演を行った“スペースマン”ことエース・フレーリー、1962年の「可愛いベイビー」が昨年バイラルヒットしたコニー・フランシス、ジャンルの垣根を越えて新たな音楽の地平を切り開いたスライ&ザ・ファミリー・ストーンのスライ・ストーン、ファレル・ウィリアムスが最も影響を受けたアーティストの一人として挙げる“ネオソウルのゴッドファーザー”ロイ・エアーズ、レゲエを世界へ広めた立役者ジミー・クリフなど、現在の音楽シーンに多大な影響を与えた著名なアーティストたちが、惜しくもこの世を去った。彼らの功績を振り返るこのセクションは、音楽の歴史とその連なりを実感させる、深い余韻を残した。

生きる伝説と呼ぶには少々早すぎるファレル・ウィリアムスは、シンガー、プロデューサー、ファッションデザイナーなど、ブラックミュージックやカルチャーに与える影響を讃えられ、〈ドクター・ドレー・グローバル・インパクト賞〉を受賞した。この日、彼は16年ぶりにカムバックした旧友クリプスのアルバム『Let God Sort ’Em Out』から「So Far Ahead」をパフォーマンス。ラップとゴスペルというブラックコミュニティを支える音楽を、長年の仲間と大舞台で披露したのだが、彼らが築き進化させてきた音楽を聴いて育った次世代アーティストたちが、今まさに音楽シーンのトップを走っている(例えばタイラー・ザ・クリエイター)、奇跡のような音楽の循環を感じさせる瞬間だった。
〈最優秀スコア・アルバム賞〉(ルドウィグ・ゴランソン)と〈最優秀コンピレーション・サウンドトラック賞〉を受賞した映画『罪人たち』は、ブルースからヒップホップ、ロック、ファンク、ソウルまで、あらゆるジャンルを横断するシーンが映画のハイライトとなった。今年の【グラミー賞】では、ブラックコミュニティから生まれた音楽の根源や、ミュージシャンたちが代々受け継いできたスピリットが現代音楽に今もなお生き続けていることがあらためて実感できる。

歴史的快挙を成し遂げたバッド・バニー
Kevin Winter Getty Images for The Recording Academy

ICE OUTバッジを付けるビリー(右)
Kevin Winter Getty Images for The Recording Academy
また、「ICE OUT(ICEは出て行け)」のバッジを身につけ、トランプ政権および米移民・税関執行局(ICE)による暴力的な取り締まりに抗議の声を上げるアーティストや音楽関係者が多く見られた。一方で【グラミー賞】およびレコーディング・アカデミーは「困難な状況の中でも音楽は止まることなく、人を癒し、私たちを前へと進める偉大な力を持っている」と表明。スペイン語アルバム『DeBI TiRAR MaS FOToS』で史上初となる〈年間最優秀アルバム賞〉を含む3部門を受賞したプエルトリコ出身のバッド・バニーも「憎しみが広がりやすい時代だからこそ、憎悪は憎悪を呼ぶだけで、本当に強いのは愛だ」「もし闘う必要があるのなら、憎しみではなく愛をもって行ってほしい」と呼びかけたように、私たち一人ひとりが愛とやさしさ、そして相互理解をもって向き合うことの大切さを、あらためて考える機会になればいいと思う。
リリース情報

『第68回グラミー賞授賞式®』(字幕版)
2026年3月7日(土)20:00~、WOWOWライブで放送/WOWOWオンデマンドで配信
※二カ国語版(同時通訳)・字幕版は、2026年5月2日(土)23:59までアーカイブ配信中
詳細はこちら
GRAMMY,(R) GRAMMY Awards(R) and the gramophone logo are registered trademarks of the Recording Academy(R) and are used under license. (C)2025 The Recording Academy

























