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カジヒデキ特集~ソロ・デビュー20周年を迎えた、ポップ・ミュージック職人

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 1990年代に巻き起こった渋谷系ムーヴメント。ピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターなどともにシーンを牽引していった主役のひとりが、カジヒデキだ。ブリッジからソロにいたる活動は、そのままキラキラと輝く渋谷系の歴史であると同時に、今もなお当時の香りを感じさせてくれる貴重な存在だ。同時代のアーティストたちが、どんどん方向性を転換させていったのに対して、彼は素直に作品を作り続けているという印象が強い。ここでは、デビュー20周年を迎えたカジヒデキのヒストリーを追ってみよう。

 1967年に千葉県で生まれたカジヒデキ(加地秀基)は、1983年に結成されたNeurotic Dollというバンドにベーシストとして1年ほど参加。今の印象とはまったく違うが、白塗りの顔と黒ずくめの衣装で身を固め、ゴシック・ロック系のダークな世界観を追求していったという。しかし、1987年にロリポップ・ソニック(後のフリッパーズ・ギター)と出会って、ネオアコに開眼。1989年にブリッジを結成する。ブリッジでもカジはベースを担当し、メインのソングライターとしてもその才能を伸ばしていく。なお、ブリッジには、後にCHICAGO BASSなどで活動する大友真美がメイン・ヴォーカルとして在籍。コーネリアスのサポートなどで活躍することになる清水弘貴や大橋伸行も参加していた。


 フリッパーズ・チルドレンともいえるブリッジは、小山田圭吾がポリスター・レコード内に立ち上げたトラットリア・レーベルと契約。1992年にシングル「WINDY AFTERNOON」で華々しくメジャー・デビューを飾る。小山田圭吾がプロデュースしたファースト・アルバム『Spring Hill Fair』(1993年)をリリースした後、フランス・ギャルの「夢見るシャンソン人形」をカヴァーしてCMで使われるなど徐々に認知度もアップ。ファースト・アルバムは全編英語詞だったが、翌1994年のセカンド・アルバム『Preppy Kicks』では日本語にトライする。この変化具合もフリッパーズ・ギターを連想させるが、結局はその影響から脱することができず、1995年には解散してしまう。


 トラットリアでソロ・アーティストとして再出発したカジヒデキは、1996年に「Siesta~君のハートのナチュラル」という曲を書き、キューピーのCMに起用される。そして、「muscat」もドコモのポケベルのCMソングに抜擢され、これらの曲を含む「Muscat E.P」でソロ・デビュー。翌年には、心酔していたスウェディッシュ・ポップの影響を受け、トーレ・ヨハンソンやエッグストーンとのコラボレーションを含む初のフル・アルバム『Mini Skirt』を発表。ポップな楽曲センスと新鮮なイメージで大ヒットを記録した。1998年にはセカンド・アルバム『Tea』、1999年には3作目『15 Angry Men』と3.5作目『the fireworks candy&puppydog store』を立て続けに発表。これらもスウェーデンのタンバリン・スタジオでレコーディングし、“カジヒデキ=スウェディッシュ・ポップ”というイメージを確立した。

 2000年に入ると、ネオアコやギター・ポップの原点に戻ったかのような4作目『You will Love me』。その後も、『A LONG WEEK-END』(2002年)、『lov song』(2004年)、『NEW PRETTY』(2006年)、『Towns and Streets』(2007年)とコンスタントに作品を発表していく。アルバムによっては、再び北欧に戻ったり、ダンス・ミュージックからの影響を全面に出したり、オルタナティヴな雰囲気を取り込むなど多様ではあるが、彼独特のポップなメロディは不変だ。


 2008年には、映画『デトロイト・メタル・シティ』で、主題歌である「甘い恋人」を初始め4曲を書き下ろしただけでなく出演も果たし、 渋谷系を知らない世代にもカジヒデキの存在を知らしめることになった。また、この年に発表したアルバム『lolipop』では、小山田圭吾、かせきさいだぁ、小島麻由美といったゲストを多数迎え、これまでにないカラフルなアルバムに仕上げている。『STRAWBERRIES AND CREAM』(2009年)を挟んで発表したコラボレーション・アルバム『TEENS FILM』は、当時注目を集めつつあったリディムサウンターとタッグを組んで大きな話題を呼んだ。変化の大きいこの2,3年は、カジにとっていわゆる転換期だったのではないだろうか。


 ブリッジでメジャー・デビューして20年経った2012年には、それまで行ってきたイベントと同じ名前のレーベル、BLUE BOYS CLUBを設立。『BLUE HEART』(2012年)、『SWEET SWEDISH WINTER』(2013年)と、精力的にリリースを続けていく。2014年には、野宮真貴、坂本美雨、KEISHI TANAKA(ex-リディムサウンター)などを迎えた15作目のアルバム『ICE CREAM MAN』を発表し、渋谷系の流れを新しい形で体現してみせた。


 こうして振り返ってみても、カジヒデキの活動は、なんらぶれることはない。もちろん、その時々で起伏はあるが、自身のルーツであるUKのニューウェイヴ、ギター・ポップ、ネオアコといったテイストを軸にし、スウェディッシュ・ポップやオルタナティヴ・ロックのスパイスをまぶしつつ、日本人ならではの音楽を作り続けている。彼が目先の流行りにとらわれるのではなく、バンド・サウンドを大切にし、ロック・スピリットを忘れず、誰にでも親しめる極上ポップ・チューンを生み出しているのはさすがだ。渋谷系の看板を背負っても気負うわけでもなくマイペースなところも、他の渋谷系アーティストにはないフットワークの軽さを感じられる。

 折しも、ソロ・デビューして20周年を迎えた今年は、気の置けない仲間と制作した15枚目のオリジナル・アルバム『THE BLUE BOY』を5月に発表する。そして、6月には初のビルボードライブ・ツアーも決定している。節目の年だといいながらも、おそらくいつもの通り飄々とした雰囲気でカジヒデキ・ワールドを展開していくのだろう。渋谷系のリアルタイム世代も後追い世代も、彼の笑顔とともに奏でられるポップ・ミュージックを、この機会に楽しんでもらいたい。

 

カジヒデキ「The Blue Boy」

The Blue Boy

2016/05/25 RELEASE
DDCB-12088 ¥ 3,080(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.メロディ
  2. 02.ヒーローは君と僕
  3. 03.東京 CITY セレナーデ
  4. 04.なつやすみを待っている
  5. 05.キケンなサマーブリーズ
  6. 06.サマー・ディサイプルズ
  7. 07.5時の渋谷で!
  8. 08.はじめての初夏の恋
  9. 09.ブルーボーイの場合 パート3
  10. 10.恋はLOVE ME DO ~ すべてのことが起こることを信じる君に
  11. 11.真夜中のカフェ・ブリュ

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