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「ポップ・ミュージックは常に変化している―そうあるべきなんだ」― イヤーズ&イヤーズ 来日インタビュー

Years & Years 来日インタビュー

 俳優としても知られるオリー、エムリ、マイキーの3人によるエレクトロ・ポップ・バンド、イヤーズ&イヤーズ。2010年に結成され、2012年にリリースした「I Wish I Knew」がフランスのレーベル<Kitsuné>の目に留まり、2013年に契約を果たす。翌年リリースされた「Real」で本格的にブレイクすると、ここ日本でもレーベル・ショーケースで初来日公演を行う。その後、<ポリドール>とメジャー契約をすると、サム・スミスやエリー・ゴールディングも選出された新人にとっての登竜門【BBC Sound of 2015 】で1位となり、2015年2月には中毒性の高いポップ・アンセム「King」で自身初の全英シングル・チャート1位に輝いた。同年7月には待望のデビュー・アルバム『コミュニオン』を発表し、見事全英アルバム・チャート1位の快挙を達成。そんな3人が初のジャパン・ツアーのために2016年2月に来日し、東京、大阪共にソールドアウトとなったライブでファンを大いに沸かせた。目まぐるしい来日スケジュールの中、Billboard JAPANは3人をキャッチ。デビュー作や現代のポップ・シーンについて質問を投げかけてみた。

TOP Photo: Kazumichi Kokei

自分たちが作りたいと思った作品に仕上げることにすべての力を注いだ

−−約2年ぶりの来日となりますが、前回の来日時とはバンドを取り巻く状況が大きく変わりました。2014年後半からデビュー・アルバム『コミュニオン』のリリースまで、相当なプレッシャーだったと思います。

オリー:ぶっちゃけ、僕はいつだってみんなの期待に応えられるか不安だよ(笑)。

−−とは言え、シングル&アルバムが全英1位に輝いて、ライブを行う会場の規模も大きくなり、“業界的”には成功しているので、ちゃんと応えてますよね。

オリー:そうだね。そう聞くと、なんだかそんな感じがする(笑)。みんながアルバムを気に入ってくれるかどうかは、まったく予想できないことだから、自分たちが作りたいと思った作品に仕上げることにすべての力を注いだ。思い描いたサウンドに沿ったアルバムを作ることで、作品を誇りに思えたんだ。

エムリ:考えすぎは禁物。よりいいパフォーマンス、よりいい作品…追求していくとキリがない。でも十分に誇りに思えるアルバムが完成したと思ってるよ。

−−2012年に5人組として発表したインディー・ロック・バンド・オリエンテッドな「I Wish I Knew」からのサウンドのシフトは何がきっかけだったのですか?

エムリ:「Real」じゃないかな。クールなサウンドに初めて辿り着いたと感じた曲で、プロセスも楽しめたから。あまり時間がかからず完成した曲でもある。それまで何年か一緒に活動していたけど、そんな中ですごく自然に形になった曲なんだ。ミュージック・ビデオの撮影も楽しかったしね。曲作りのプロセスがエキサイティングだ、って感じた。それがきっかけかな。

−−その際にエレクトロニック/シンセ・サウンドを意識的に取り入れようとしたのですか?

マイキー:そうだね、ちょうどシンセにハマりだした頃だから。

エムリ:暖かみのあるシンセ・サウンドね。



−−そういった試みをライブに反映するのに、手古摺ることはありましたか?

エムリ:うん、最初の頃はね。作った曲を可能な限り生で演奏したい、っていう願望があるから。

オリー:2人に機材について一生懸命学んでもらうプロセスが大変だったんだよね(笑)。それによって、知識が増えたことは、曲作りにも影響した。相乗効果ってところだね。

エムリ:色々なテクノロジーを駆使してるから、これまでライブ中に冷や汗をかいたことは何度もあるよ(笑)。今はちゃんと自信を持ってプレイできるようになったけど。

−−わかりました。サウンドやプロダクションにおいて、個々の役割は決まっているのですか?

オリー:エムリがメイン・プロデューサーという感じで、他のバンドはどうやってるかよくわからないけど…8時間ぶっ通しでドラム・ビートを聴き続けたり(笑)。

マイキー:僕らは聴いてるけど(笑)。

オリー:そうなんだ。

マイキー:オリーは、なんとしても完璧なハイハットを録りたいタチだからね(笑)。

エムリ:イコライザーに対してだったり…とにかく色々要求が多い(笑)。

オリー:大切な“ベイビー”だから、どの瞬間にも立ち会いたいんだ。

エムリ:そういえば、オリーはこれまでピアノで曲やメロディを書くことが多かったけど、最近はコンピューターで書くようになったよね。

オリー:そうそう。

エムリ:で、僕は常に細々とした作業をしていて、マイキーは新しく発見したシンセサイザーのことメールしてくる(笑)。そんなこんなで、曲が徐々に形になっていくんだ。

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音楽で一番大切なのは、メッセージ性があって、パーソナルであるということ

−−アルバム・タイトル『コミュニオン』や「Worship」など、宗教的ニュアンスを持つ言葉をラブ・ソングに用いるのには、どのような意図があるですか?

オリー:示唆に富む表現だからかな。僕的には無意識だったんだ。今パッと考えた中で、同じことをしているビッグなアーティストはマドンナだよね。宗教深いわけでもない…スピリチュアリティには少し興味があるけど。愛や失恋などについて歌う時、その感情を昂ぶらせるために効果的という感じかな。とても詩的で、同時に大胆でもあるから。

−−「Memo」や「Real」で男性代名詞を使い、同性愛について歌ったことが大きな反響を得たことについて教えてください。

オリー:書いた当初は、そのことについてあまり考えてなかったんだ。3人で相談して男性代名詞を使おう、って決めたわけでもなくて、僕が何曲かに書き入れただけのことだったから。



−−オリー自身、曲や詞を書き始めた頃から男性代名詞を使っていたのですか?

オリー:ノー。だって、普段耳にする曲やポップ・ミュージックで男性代名詞を使っているものはないから。だから最初は使っていなかったんだけど、次第に使うことで自信が湧いてきたんだ。僕が尊敬するアーティストは、愛やセックスについて、とてもダイレクトに表現する人々ばかりだから、自分もそれをやってみたいと思って。そういう経緯で男性代名詞を使うようになったんだけど、みんなに指摘されるまで、そこまで意味のあることだとは考えてなかった。

エムリ:そう、3人で「使おう!」ってミーティングをして決めたわけではないよ(笑)。

オリー:この件に関して、みんなからの反響が素晴らしくて、ビックリしてるんだ。こういう視点で曲を書くアーティストを待っていた人も多くいたみたいで、すごくクールなことだと思ってる。

−−多くのリスナーの共感を生んでいることを受けて、音楽を作る理由に変化はありますか?自分の感情を吐き出す、単純に楽しいからなど、理由はたくさんあると思いますが。

オリー:両方だね。クリエイティヴな波に乗って、ただ楽しいから作りたい時もあるし。逆に詞を書く時は、自分の感情を意味のある形で表現したいわけで、それは僕にとってパーソナルで、特別な意味があることだから。

−−主にラジオでプレイされるようなエレクトロニック・ベースの音楽はプロダクション重視で中身のないものが大半ですが、そんな中でイヤーズ&イヤーズのように“ハート&ソウル”を持つ音楽を提示していく重要性とは?

エムリ:とても重要だよ。僕らは、幼い頃から深みのある音楽を聴いて育ったから、薄っぺらな音楽を作るのは考えられない。パーティー・ミュージックだけじゃなくて、中には“ハート&ソウル”を持つ、良質な音楽も存在する。探す場所次第だと思う。音楽で一番大切なのは、メッセージ性があって、パーソナルであるということ。成功例のポップ・ミュージックは、パーソナルさを持ち合わせている。

写真
2016.02.08 Years & Years @ AKASAKA BLITZ / Photo: Kazumichi Kokei

−−加えて、普遍性も持ち合わせている。

エムリ:そうだね。曲を聴いている時に、「このバンドは最高だ」って思わせてくれるもの。たとえ、その場限りであっても聴いている時に、それが「真実だ」と感じさせてくれる音楽。どこかしら感銘を受けるものがあること。

−−では、3人にとって、いい“ポップ・ソング”の定義とは?

エムリ:泣けて、笑えるような曲?

オリー:イケてる詞とフックを1つずつ。いや、フックは1個以上ないとダメか~、以上!特に決まりはないと思うよ。

エムリ:「Tiny Dancer」は当てはまるんじゃない。

オリー:場合によるよね。従来のポップ・フォーマットから逸れる人はそうそういないし。

マイキー:いや、「Tiny Dancer」のコーラスが入ってくる部分は革命的だよ(笑)。

オリー:まぁ、そうだね(苦笑)。従来のフォーマットに、どれだけ新鮮味を加えられるかっていうのがキーになってくるんじゃないかな。決まったフォーマットにしてしまうと、みんながそれを真似して、新しいものが生まれなくなってしまうし。

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ポップ・ミュージックは常に変化している―そうあるべきなんだ

−−考えさせられたり、従来のステレオタイプに挑戦するようなポップ・ミュージックは有り得ると思いますか?

エムリ:もちろんだよ。僕がポップ・ミュージックという言葉から連想するのは、体制に挑戦するようなものだから…デヴィッド・ボウイとか、いい例だよね。彼はポップ・アイコンであるけれど、一般的な“ポップさ”とはかけ離れた部分も多い。彼こそポピュラー・カルチャーに革命をもたらした人物だよね。

−−最近のアーティストでそういった精神が伺えるアーティストはどうでしょう?

オリー:レディー・ガガは、意見が割れるアーティストではあるけれど、ポピュラー・カルチャーに多大なる影響を与えたのは間違いない。トランスジェンダーの人々についての楽曲で、ポップ・チャートで1位になったりね。だから、だんだん人々の概念は変わってきていると思うよ。

−−彼女のような存在に触発され、一段とポップ・シーンが先進的になっているようには感じますか?

オリー:う~ん。今ビッグなアーティスト…ビヨンセ、ドレイクとかリアーナは、最近あまり“シングル”に比重を置いていないよね。だから、サプライズでアルバムをリリースしたりすることが可能だ。アーティストとして、そういうことを率先してやっている部分では先進的だと言えるんじゃないかな。

エムリ:ジャンル的にみても、従来ポップ・ミュージックと呼んでいたものは、今のポップ・ミュージックとは違うよね。以前に比べて、とても流動的で、たとえば、ケンドリック・ラマーがテイラー・スウィフトの曲にフィーチャーされたりする時代だ。ポップ・ミュージックは常に変化している―そうあるべきなんだ。



−−話は変わって、4月のウェンブリー・アリーナでの単独公演やエリー・ゴールディングのUSツアーのオープニング・アクトなど、エキサイティングな出来事が色々控えていますね。

オリー:そう!

マイキー:エリーに懇願したんだ(笑)。

オリー:彼女は僕らのことを誰も知らない、駆け出しの頃からサポートしてくれてる。それに同じレーベルに所属してるから、「一緒に連れってって!」って頼んだんだ(笑)。

エムリ:過去に、同じドラマーに叩いてもらってた縁もあるし。

オリー:そういえば、そうだね。で、彼女に訊いたら快諾してくれた。

マネージャー:いいえ、違うわ。彼女の方からオファーがあったのよ。

オリー:クール!彼女に打診されたんだって、嬉しいな。

−−わかりました。最後に、今回のジャパン・ツアーで楽しみしていることを教えてください。

マイキー:明日、新幹線に乗るのを楽しみにしてる。

エムリ:あと、今夜カラオケに行くかも。

−−では、3人の持ち歌を教えて下さい。

エムリ:僕は、イヤーズ&イヤーズの「King」。

−−自分たちの曲じゃないですか~。

マイキー:(笑)。『リトル・マーメイド』の「Under The Sea」!

オリー:僕は、デスティニーズ・チャイルドの曲、全部(笑)。どの曲でも歌える自信があるよ!

イヤーズ&イヤーズ「コミュニオン」

コミュニオン

2015/12/04 RELEASE
UICP-1170 ¥ 2,420(税込)

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Disc01
  1. 01.ファウンデーション
  2. 02.リアル
  3. 03.シャイン
  4. 04.テイク・シェルター
  5. 05.ワーシップ
  6. 06.アイズ・シャット
  7. 07.タイズ
  8. 08.キング
  9. 09.デザイア
  10. 10.ゴールド
  11. 11.ウィズアウト
  12. 12.ボーダー
  13. 13.メモ
  14. 14.1977 (日本盤 & 海外デラックス・エディション・ボーナス・トラック)
  15. 15.レディ・フォー・ユー (アコースティック) (日本盤 & 海外デラックス・エディション・ボーナス・トラック)
  16. 16.アイ・ウォント・トゥ・ラヴ (日本盤 & 海外デラックス・エディション・ボーナス・トラック)
  17. 17.キング (アコースティック) (日本盤 & 海外デラックス・エディション・ボーナス・トラック)
  18. 18.ブリーズ (日本盤 & 海外デラックス・エディション・ボーナス・トラック)
  19. 19.デザイア (グリフィン・リミックス) (日本盤ボーナス・トラック)

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