安藤裕子の【15周年LIVE ～長くなるでしょうからお夕飯はお早めに～】が5月26日、東京・昭和女子大学 人見記念講堂にて開催され、トータル約3時間にも及ぶスペシャルな公演でデビュー15周年イヤー突入をファンとともに祝福した。

　“～長くなるでしょうからお夕飯はお早めに～”と、サブタイトルで長丁場になることが告げられていた本公演。安藤裕子初のリクエスト企画をTwitter上で実施し、ファンからの応募がランキング形式で発表されていた。発表済みの曲目を見るだけでも、彼女の15年間がこの公演に凝縮されていることが分かり、会場に行く前から胸に込み上げてくるものがあった。

　1年前の今頃、同会場で【夜明け前】と題し自身の歌に迷いがあることを吐き出すように歌っていた安藤裕子。この日のステージには、真ん中に船、周りには海原をイメージしたような装飾が施されており、ライブは爽快なイントロとともに1曲目「“I”novel.」で幕を開けた。弾けるような笑顔で登場した安藤が高らかに放った歌声は、夜を抜けた新たな旅の始まりを感じさせた。

　安藤を支えるバンドメンバーは、山本隆二（Pf)、設楽博臣（Gt）、沖山優司（Ba）、伊藤大地（Dr）、酒井由里絵（Cho）に、後関好宏（Sax）、村上基（Tp）、滝本尚史（Tb）というホーン隊が加わった豪華編成。ファン投票でも上位の「TEXAS」では観客のクラップに合わせて会場の空気が和らいでいき、「さみしがり屋の言葉達」まで一気に5曲を歌い上げると、「タイトル通り今日は長くなりますから、ぼんやり見ていてくださいね」と微笑みながら一言。そこから、伊藤のソリッドなドラミングで「黒い車」へとなだれ込み、「愛の日」ではエモーショナルな歌声を聴かせる。

　「愛の日」が初めて塚田耕司とデモを撮った曲だと話す安藤は、自身のことについて静かにこう語った。「デビューするまでの20年、私は皆さんがびっくりするぐらい心を閉ざした人間で、自分は誰の1番にもなれなくて透明人間のような気分で過ごしていました。音楽を始めたのも誰かに認めてもらいたかったから。だけど音楽を始めて、それまで自分が誰の手も取ろうとしていなかったんだと気づきました。今は、一緒に音楽をしてくれる仲間もできて、何より聴いてくれる皆さんがいる。本当にいつも、ありがとうございます。」この言葉の後に歌われた「海原の月」と「隣人に光が差すとき」は、ステージ上でたおやかな表情を浮かべる彼女にデビュー当時の姿を重ねて見ながら、ここでこうして誰かの“憧れ”になっている安藤裕子が一筋の光の中にいるように思えた。その後は、ピアノの演奏のみでしっとりと「蒔かれた種について」を歌い上げ第一部は静かに終了した。

　休憩を挟んだ第2部では、ステージの幕が明けると観客の前に星空と三日月のセットが登場。三日月に腰をかけた安藤が「六月十三日、強い雨。」を穏やかに歌いライブが再開した。疾走感のある「水色の調べ」「パラレル」を歌い終えると、ファンには何とも嬉しいサプライズが。昔は挑戦していたこともあるという弾き語りで、当時演奏していた未発表曲「太陽の嘘つき」「The moon and the sun」を披露し、「The moon and～」では安藤の合図からクラップとシングアロングが起こり、会場は心地よい一体感で溢れていた。そして、リクエスト1位を獲得した楽曲を披露する前に「次の曲はライブでずっとやっていなかったし、私が大人になっちゃったからこの歌に中々共感できなくて…この曲が1位なのか、腑に落ちない（笑）」と明かしながら歌い始めた「さよならと君、ハローと僕」で、彼女は涙を拭いながら歌っていた。そして、このライブで自身の“陰”も“陽”も出し切った彼女の想いをすべて包み込むかのような優しいバラード「歩く」で本編が幕を閉じた。

　アンコールでは、「よくアンコールでやる『問うてる』は今日やらないよ～」と言いつつ即興で1コーラスを演奏してファンを喜ばせると、ホーンのイントロから祝祭感漂うデビュー曲「サリー」、そしてリクエスト企画で「さよならと～」と同票1位を獲得した「聖者の行進」を全身全霊で歌い上げ15周年ライブを締めくくった。

　ライブ中に安藤のMCでとても印象に残った言葉がある。「昔、ある人が『大衆が夢を見るのがポップスだ』って言っててすごく共感しました。哀しくても楽しくても、聴いている人を映画の主人公にしてくれるのがポップスだと思います」。哀しくて切ない想いや、溢れるほどに誰かを想う気持ちも、彼女に教えてもらったことがたくさんある。この15年間、自分をさらけ出しながら紡ぎ上げてきた彼女の音楽で、主人公になれた人はたくさんいるはずだ。これから先も、安藤裕子の音楽を聴いていたいと改めて思わせてくれた一夜だった。

　なお、本公演の模様が7月14日にBSスカパー！でオンエアされることが決定。また、小編成ライブが8月に開催されることも発表され、8月25、26日にMotion BLUE YOKOHAMA、8月29日にNAGOYA Blue Note、8月31日にBillboard Live OSAKAでそれぞれ公演が行われる。是非、こちらにも足を運んでほしい。

Photo：Aki Ishii
text：神人未稀

◎【安藤裕子 15周年LIVE～長くなるでしょうからお夕飯はお早めに～】
2018年5月26日（土） 東京・昭和女子大学人見記念講堂
セットリスト：
01. “I”novel.
02. TEXAS
03. ドラマチックレコード
04. SUCRE HECACHA
05. さみしがり屋の言葉達
06. 黒い車
07. 雨月
08. 愛の日
09. 海原の月
10. 隣人に光が差すとき
11. 蒔かれた種について
12. 六月十三日、強い雨。
13. あなたと私にできる事
14. 水色の調べ
15. パラレル
16. 太陽の嘘つき
17. The moon and the sun
18. summer
19. Lost child,
20. さよならと君、ハローと僕
21. 唄い前夜
22. 歩く
＜アンコール＞
23. サリー
24. 聖者の行進

◎放送情報
『安藤裕子 15周年LIVE～長くなるでしょうからお夕飯はお早めに～』
2018年7月14日（土）21:00～
BSスカパー！にてオンエア

◎公演情報
2018年8月25日（土）、26日（日）
神奈川・Motion BLUE YOKOHAMA
2018年8月29日（水）
愛知・NAGOYA Blue Note
2018年8月31日（金）
大阪・Billboard Live OSAKA