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2017/12/22

ヒップホップ/R&Bが2017年に全米で最も消費されたジャンルに その成功の背景にあるストリーミングとの関係性

 2015年夏にリリースしたデビュー曲「ホワイト・アイバーソン」の大ヒットにより、ウィズ・カリファやマック・ミラーに気に入られ、ジャスティン・ビーバーのツアーに同行するまでになったポスト・マローンだが、2016年の年末を目前に既に一発屋になる恐れがあった。2016年5月にはEP盤『8月26日』をリリースし、12月9日にデビュー・アルバム『ストーニー』もリリースされる予定だったが、「ホワイト・アイバーソン」ほどリスナーに響くヒットに恵まれず、先行きが不透明だったのだ。

 ところがいざ『ストーニー』が発売されると、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で初登場6位を記録、同アルバムからの5thシングル「コングラチュレイションズfeat.クエヴォ」は1月にリリースされた途端に爆発的にストリーミングされた。同曲は2017年7月の時点で米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で8位にまで上り詰め、あらゆるストリーミング・サービスで10億回以上再生されていた。これによりポスト・マローンはヒップホップ界における正統な一勢力としての足場を固め、リリース間近のニュー・アルバム『ビアボングス&ベントレーズ』(Beerbongs & Bentleys)からの1stシングル「ロックスターfeat.21サヴェージ」は“Hot 100”で1位を8週キープした。

 「未来はストリーミングだ」とマローンは断言し、「現代のミレニアル世代はあの簡単で早いアクセスを楽しいと感じるんだよ。ストリーミングは彼らが求めているものを提供してるんだ」と分析している。

 2017年は、ニールセンが1991年に販売情報の追跡を開始してから初めてR&Bとヒップホップが米音楽業界のトップ・ジャンルになった年だった。消費量全体の25.1%を占め、オンデマンド・オーディオ・ストリーミングでは全体の30.3%を占めた。第2位のロックは18.1%だった。20年ぶりに米音楽業界が二桁%の増収となったのもストリーミングのおかげで、ニールセンによると、全米で最もストリーミングされた楽曲TOP10の内7曲がラップで、82億回に及ぶオンデマンド・ストリーミング全体の65%を同ジャンルが占めていた。

 ヒップホップのストリーミングにおける成功は複数の新たなスーパースターも生み出している。カーディ・Bの「ボーダック・イエロー(マネー・ムーブス)」は単独女性ラッパーとして19年ぶりの全米No.1になった。21サヴェージのデビュー・アルバム『ISSA Album』はアルバム・チャートで2位を記録し、リル・パンプ(Lil Pump)の「グッチ・ギャング」はソング・チャートで3位、リル・ウージー・ヴァートの「XO Tour Llif3」は7位を獲得している。リル・パンプやリル・ウージー・ヴァートのような型破りなアーティストにはラジオよりもストリーミングの方が相性が良く、リスナーが気軽に検索して試聴しやすくなったことが成功の背景にあるようだ。

 当然ながらベテラン勢もその勢いが止まらない。2017年にアルバムが最もストリーミングされた週のTOP5を占めていたのがドレイクとケンドリック・ラマーで、ドレイクの『モア・ライフ』は初動の約半数をストリーミングが占め、発売初週に3億8,480万回再生されて同一アルバムからの楽曲のストリーミング再生数の記録を塗り替えた。ラマーの『DAMN.』も3億4,060万回再生されている。

 ヒップホップとR&Bは長らくストリーミングで大量に消費されてきたが、Apple Music Beats 1のゼイン・ロウは、「以前はストリーミングと従来のヒットの間にもっと大きな乖離があった。だから2017年はストリーミングが本当に成功した年だって言ってるんだ」と述べている。

 ヒップホップには以前よりラッパーの人気を左右する無料オンライン・ミックステープの文化があり、2006年の時点でアメリカレコード協会(RIAA)はミックステープ経済が年間3,000万から5,000万セールスに上っていると推定していた。ストリーミング・サービス大手Spotifyのヒップホップのグローバル・プログラミングを統括するトゥマ・バサは、「文化としてヒップホップが長年優勢だったが、ストリーミングがそれを測るのに役立っていた。隠れていたマーケットの多くが表面化しているのではないか」と話す。

 現在メインストリームで成功している多くのラップ・アーティスト同様、ポスト・マローンもサウンドクラウドに音楽を投稿することからキャリアをスタートさせた。「キッズはネット上で生きてるから、スタートするのはそれが一番いい方法だって分かっていた。無料だしね」と彼は言う。サウンドクラウドのCEOケリー・トレイノーは、ヒップホップ・カルチャーが“サウンドクラウド・ラップ”を産出したのは、「ファンにダイレクトに届けられるという、ものすごい大衆化に他ならない」と話している。

 ゼイン・ロウは、「アーティストの素早い動きについて行ける配信プラットフォームが確立された」と言い、「何でもありだ。そして何でもありの未来に対処できるのは今のところストリーミングが最適だということだ」と分析している。

 2018年もストリーミングにおけるヒップホップの存在感を維持し続けるには各サービスでフレッシュな発想と努力の継続が必要になるだろう。Spotifyでは今夏にRapCaviarコンサート・シリーズを発足、グッチ・メイン、リル・ウージー・ヴァート、プレイボーイ・カルティなどのトップ・アーティストによるパフォーマンスをアメリカで主催した。タイダルは10月にニューヨーク・ブルックリンのバークレイズ・センターで大規模な支援ライブを主宰し、新人アーティストだけに特化したステージも設けた。Spotifyのバサの言葉を借りると、「流行りにうまく乗っかることが全て」ということに集約されるのだろう。

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