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スザンヌ・ヴェガ 『ペンタクルの女王の物語』 インタビュー

スザンヌ・ヴェガ 『テイルズ・フロム・ザ・レルム・オブ・ザ・クイーン・オブ・ペンタクルズ』
インタビュー

 力強くも、包み込むような優しさのあるアコースティック・サウンドと透明感溢れるヴォーカル、また児童虐待を取り上げた代表曲「Luka」など社会派シンガーソングライターとしても知られるスザンヌ・ヴェガ。自身の過去の作品をセルフ・カヴァーする『クローズ・アップ』シリーズを経て、新たな創造意欲を培った彼女が長年の音楽パートナーのジェリー・レナードを起用し、作り上げた約7年ぶりとなる新作『ペンタクル女王の物語』では、“ウォール街を占拠せよ”運動やヴァーツラフ・ハヴェルを取り上げるなど、変わらぬ感性の鋭さを保ちつつも、サンプリングやストリングスを起用するなど、彼女の新たな姿が垣間見れる力作となっている。新作はもちろん、ファンを公言するヒップホップ、さらに歌を通じて伝えたいメッセージなどじっくり語ってくれた。

(『クローズ・アップ』シリーズの制作を通じて)
新しい作品を作る喜びを再確認した

「アルバム・トレイラー」
▲ 『クローズ・アップ Vol.1』EPK

??最新作『ペンタクルの女王の物語』は、約7年ぶりとなる新作ですが、2010年から過去の作品とテーマごとに向き合ったセルフカヴァー・シリーズの制作が新作に与えた影響は?

スザンヌ・ヴェガ:影響があったとすれば、また新しい音楽を手がけることにワクワクさせられたということじゃないかしら。昔の作品と向き合う作業は楽しかったけれども、60~70曲もやれば、早く新しい音楽を作りたいという思いが強くなったわ。新しい作品を作る喜びを再確認した。曲作りは継続してずっとやっていたわ。ちょっとした考え事やアイディアの断片は常に書き溜めているの。だから一旦始めてしまった『クローズ・アップ』シリーズをまず終わらせて、そこから直ぐにこのアルバムの制作に取りかかったわ。

??プロデューサーには、2000年からスザンヌの作品に携わっているジェリー・レナードを起用していますが、彼に依頼した理由は?

スザンヌ:すぐ近くに居た、ということはさておき(笑)、彼とはずっと一緒にツアーやライブを行ってきたわけだからね。最初は彼にプロデュースを依頼するか決めていなかったの。他にも候補を何人か考えていた。彼には初めデモを手伝って貰えないか依頼をしたの。そしたら、最初に彼が手がけたデモが「I Never Wear White」だったんだけど、あまりにその出来が良かったの。そのデモでいろいろな人に興味があるか売り込みを掛けるよりも、最終的に彼に「このデモが凄くいいサウンドなので、アルバム全部のプロデュースをやって貰えないかしら」と言ったの。彼も凄く意欲的だったから、即答で引き受けてくれて、作業も凄く早かったわ。

??一緒にツアーやライブも行っている彼が、これまで関わった他のプロデューサーと違うところは?

スザンヌ:一番大きな違いは、ジェリーは音楽に対してアーティスト的な視点を持っていること。だから時には、私が何か歌かメロディーを書いてきて、彼にアレンジをお願いした際、私が彼のやったことを気に入らないと言うと、自分の考えの正当性を主張してくることがあるわ。「僕も一人のアーティストとしてこれを手がけて、凄くいいものだと思っている。君はこの良さをまだちゃんと理解していない」と言ってね。他のプロデューサー、例えばルパート・ハインやミッチェル・フルームだったら、「わかった。君が気に入らないなら変えよう」とすんなり引き下がるところを。だから、他のプロデューサーよりも、彼のほうが自分の意見を強く主張してきた。彼自身アーティストとして作曲を行っているから、いちアーティストとしての視点で物事をとらえるの。それが一番の違いかしら。その他に関しては、他のプロデューサーとさほど違いはないわ。

??彼が自分の意見を主張してくることがアルバムにいい結果をもたらしたと思いますか?

スザンヌ:そうだと思う。彼がアレンジした曲を後で改めて聴き返してみると凄く美しくていいと思ったわ。そういうちょっとした意見の衝突があるのは制作過程において健全だと思うし、今作の場合、それが音楽をさらに強化したと思うわ。

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    語っているメッセージに凄く刺激を受けた
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(マックルモアの)流れるような言葉の使い方や
語っているメッセージに凄く刺激を受けた

「アルバム・トレイラー」
▲ 『ペンタクルの女王の物語』アルバム・トレイラー

??NYの街角でアイデアが浮かび、iPhoneに録っていったとのことですが、他の街との違いは?

スザンヌ:とにかく人が密集した狭苦しい場所でしょ。人が密集しているという点では東京には敵わないかもしれないけど(笑)。東京は世界で一番人口が密集している都市だもの。でも、私は東京を居心地がいいと感じる。そんな人が多くて、密集して住んでいるという状況だからこそ生まれるユーモアがあると思っているわ。その一方で、知らない他人に囲まれて生きているという一種の淋しさもある。あとNYには多種多様な人が住んでいる。貧しい人も、裕福な人も、一旗揚げてやろうと世界中からやってきた野心的な人たちもいる。そこから生まれる熱気やエネルギーがNYにはある。それが私の感じるNYならではのところじゃないかしら。

??出来上がった曲は、ライブで演奏することで熟成させていったそうですが、中でも一番大きな変化を遂げた曲について教えてください。

スザンヌ:たぶん「Don't Uncork What You Can't Contain」じゃないかしら。キーを変えたり、ヴァースを短くしてみたり、ヴァースを長くしてみたり、ブリッジを短くしてみたり、メロディーを変えてみたり、とにかくいろいろ試し尽くしたわ。長い試行錯誤を経て、アルバムのバージョンに行き着いた曲よ。

??こうした試みから新たな発見はありましたか?

スザンヌ:そうね。毎回できたらいいと思ったわ。何よりもレコーディング作業が凄く楽になるから。何度かライブで実演することで、どう演奏するのがベストか把握できるから、後はスタジオに入った時にそれを完璧に演奏すればいいだけ。スタジオで練習に何時間も掛けずに済む。レコーディングするのに凄くいい方法だと思ったわ。

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「Candy Shop」
▲ 「Candy Shop ft. Olivia」 / 50 Cent

??アルバムからのリード・トラックともなっている「Don't Uncork~」は、ストリングスを起用したオリエンタルな雰囲気が漂うサウンドや、ちょっとラップぽい早口なヴォーカルだったり、スザンヌの新たな魅力が溢れている1曲だと感じるのですが、この曲のインスピレーションとなったものは?

スザンヌ:この曲を書くきっかけになったのは…、サビの“Don't Uncork What You Can't Contain”というフレーズが最初に思い浮かんだんだの。ある日パッと思いついて、最初は古いアイルランドの諺か何かかと思ったわ。で、Google検索してみるとアイルランドの諺ではないどころか、誰も使ったことのないフレーズだってわかったの(笑)。でも、いい曲になりそうなフレーズだと思った。3番目のヴァースはマックルモア&ライアン・ルイスの「Thrift Shop」がインスピレーションよ。彼は最高だと思うわ。ちょうど曲作りをしていた1年前にラジオでずっと掛かっていた曲で、大好きになったわ。彼の流れるような言葉の使い方や語っているメッセージに凄く刺激を受けた。特に曲の後半にその影響が出ているわ。

??同曲では、50セントの「Candy Shop」をサンプリングしていますね。この曲をサンプリングした意図は?

スザンヌ:デモの製作中、ジェリーにたくさん音楽を聞かせていたの。私は普段からよくヒップホップを聞いているから彼にもショーン・ポールや50セントやメアリーJ・ブライジといった人の作品を聞かせたの。逆に彼も私にお気に入りのアルバムを聞かせてくれたわ。アーケイド・ファイアーや当時彼がハマって聞いていたデヴィッド・ボウイの新作とかね。そうやって常にお互いの音楽的なアイディアを交換した。で、彼が「Candy Shop」を気に入って、「いっその事、ストリングスのパートを拝借しちゃえば?わざわざ一から作るよりもサンプリングしちゃおうよ」と提案してきたの。私も大胆で面白いアイディアだと思ったわ。で、実際彼がトラックを作って聞かせてくれたら、凄くいい感じだったからそのまま採用することにしたの。

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    私たちの興味をたぐり寄せるものだと
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地平線(境界)は未来を象徴していると昔から思っていた
私たちの興味をたぐり寄せるものだと

「Daddy's Little Girl」
▲ 「Daddy's Little Girl」 / Nikki D.

??これまで他のアーティストが自身の楽曲をサンプリングした曲で、斬新だなと感じたものや気に入っているものはありますか?

スザンヌ:そうね…、ニッキーDという女性アーティストがいて、彼女の「Daddy’s Little Girl」という曲があったんだけど、最高だと思ったわ。彼女の使い方は遊び心もあって面白いと思ったわ。望んでいない妊娠についての歌だったの。そういうテーマを取り上げる彼女は凄く勇気があると思ったし、(「Tom’s Diner」の)使われ方も面白くて気に入っているわ。他にもあって、ミシガン&スマイリーというジャマイカ出身の2人組がいて、彼らが凄く面白いアップビートな使い方をしたわ。最近だと、デンジャー・マウスが、「Tom’s Diner」と50セントの「In The Club」をマッシュアップしたミックスがあって、それもなかなか良く出きていると思ったわ。というのが個人的に気に入っているものかしら。

??また、オーガニックで温かみのある作品づくりに定評があるスザンヌにとってサンプリングをするという行為の魅力は?

スザンヌ:今回のサンプリングに関して言えば、凄くさりげない形でやっているから、言われなきゃわからない人も多いと思うわ。「Candy Shop」を良く知っている人じゃなきゃサンプリングだって気付かないでしょう。もちろんラジオで大ヒットした曲だから、若い世代の人だったら気付く人も多いかもしれないわね。でも、他の音と上手く馴染むようなやり方をとっているから、大きな問題になるとは思わないわ。
 ただ、今後積極的に取り入れていくかと聞かれたら、それはないと思うわ。私らしくないから。今回は実験的な要素として「面白いじゃない」と思って取り入れたけど。もし曲に必要だと思ったらまた取り入れるけど、基本的にはギターで曲作りするのが好きだから今後もそれは変わらない。もし自分でいいアイディアが出てこないなら、ジェリーに来てもらってギターのパートを考えてもらう。それに、音楽を聞く時に、何か拝借できないかって考えながら聴くことはしないわ。そういう音楽の聴き方は私はしない。誰かの曲を聞いて「このフレーズ使わせて貰おう」と考えることはないわ。「なんて綺麗な曲なの。こういう雰囲気を私も作ってみたいわ」と思うことはあっても。だから、サンプリングを前提で曲を書くことは今後もないわ。もしかしたらもっと歳をとったら気が変わるかもしれないけど、それもきっとないわ。

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「Suzanne Vega sings for Vaclav Havel」
▲ Suzanne Vega sings for Vaclav Havel

??そしてアルバムのラストの曲は、ヴァーツラフ・ハヴェルについて歌ったものですが、彼が歩んだ人生のどのような部分に惹かれたのですか?

スザンヌ:彼が長い間投獄されていたことに惹かれたの。これはネルソン・マンデラにも当てはまるわ。長い獄中生活で彼は自分の限界を超える肉体労働を強いられ、その苦しみはその後の人生にも影響をもたらしたわ。確か彼は投獄中、石を持ち上げなくてはいけなかったの。そんな中、正気を保つために彼は妻に手紙を獄中から書いた。その手紙に深く感動したわ。そして釈放された後、彼は品格とたっぷりのユーモアでもって母国を自由へと導いたと私は思っている。彼は芸術にも力を注ぎ、国民にとって愛に溢れた指導者だった。ネルソン・マンデラもそう。釈放された後、憎悪や復習心を一切持たず、愛と自由でもって前に進む思いだけだった。そこに私はいたく感動して、曲にしたいと思ったの。

??元々劇作家の彼は、数々の名言を残していますが、中でも印象に残っているものがあれば教えてください。

スザンヌ:特に印象に残っているものが一つあって、それは投獄中に彼が書いた「God is the horizon」(境界こそが神)という言葉よ。ずっと頭の中で反芻したわ。彼は獄中でこの言葉に行き着いた。私自身もずっと地平線(境界)に凄く興味を持っていた。地平線(境界)は未来を象徴していると昔から思っていた。私たちの興味をたぐり寄せるものだと。地平線の向こうには何があるのだろうと思わせる部分に惹かれ、それはつまり、往々にして未来だったりする。彼が「境界こそが神」と言った時のことを想像すると、彼は牢獄にいたわけで、牢獄での「境界」は本当に狭い。自分の目の前にある床でしかない。だから彼は自由を強く切望していたに違いない。だから「境界こそが神」と言ったんじゃないかしら。というのが、私の心に残っている彼の言葉よ。

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歌うことで人を癒し、この世界で自分の居場所が
あるのだと感じてもらいたい

「Jacob and the Angel」
▲ 「Jacob and the Angel」 Live

??以前からヒップホップ好きを公言していますが、先ほど少し話してくれましたが「Don't Uncork~」の詞にはマックルモア&ライアン・ルイスの名前も登場しますね。最近のヒップホップやラップは、社会問題に言及したメッセージ性があるものが少なくなったと感じますが、スザンヌが自身の曲を通じて伝えたいことは?

スザンヌ:聴き手になんらかの希望を与えることができればいいと思っている。何か悩みを抱えている人であれば、私の音楽を聞いて励まされる、或は自分自身を投影できると感じて貰いたい。あと、人を癒す何かがあるんじゃないかと思っている。私の声が人の心を癒すみたい。歌い始めた頃は、妹や弟によく歌を歌ったわ。私は4人兄弟の一番上だったから、妹を寝かしつけるのに歌を歌ったわ。それが今の仕事にも?がっている。歌うことで人を癒し、この世界で自分の居場所があるのだと感じてもらいたい。

??デビューから30年近く経ちますが、歌詞や曲作りのプロセス、そして作品ごとに目指すゴールに大きな変化はありましたか?

スザンヌ:昔よりも今のほうが野心的になったと思う。30年前は自分のアイディアで十分満足していた。当時のアイディアと言えば、音楽的に単純なものが多く、何かいいアイディアを思いついたら、それを3回繰り返せばそれでいいと思っていた。でも今はよりいいメロディーを書きたいと思うし、よりいい歌にしたいと思う。より聴き手に楽しんで貰いたいと思うし、思い浮かんだイメージをより的確に表現しようと思う。より完璧な歌を書きたいと常に思っている。

??スザンヌを今でもそこまで突き動かす原動力となっているものは?

スザンヌ:ステージに立った時に感じる、観客との一体感かしら。人前で歌うのは大好きよ。幸せを感じる瞬間であり、自分の天職だと思っているから、もっと成長したい。それに尽きるかしら。

??新作を聴く限り、バンド・セットでも是非観たいな、と思うのですが、4月の来日公演は、どのような内容になりそうですか?

スザンヌ:私とジェリー、2人だけのライブになるわ。ちょうど今ドイツのツアーを行っているんだけど、新作からはほぼ全曲2人で演奏している。ジェリーはエフェクターをいろいろ駆使して、何でも弾けるから、2人だけで十分に機能しているわ。日本のライブに関してドラマーを入れる予定は今のところなく、2人で行くことになると思う。凄く手応えを感じているし、バンドがいないことに対する文句も出ていないから(笑)。新作からかなり演奏する予定で、もちろんみんなが聞きたいと思っている曲もやる予定よ。

??今日はどうもありがとうございました。4月の公演を楽しみにしています。

スザンヌ:ありがとう。

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