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<コラム>米インスタでバズを起こしたSkoop On Somebody「90° feat. Full Of Harmony」その背景と曲の魅力に迫る

Text: 林 剛
こめかみに血管を浮き立たせて歌うようなストロング・スタイルのヴォーカル。聴き手であるこちらまでもが拳を握りたくなる日本のR&Bを聴いたのは、いつぶりだろう。Skoop On Somebody(以下S.O.S.)がFull Of Harmony(以下F.O.H)をフィーチャーし、今年8月12日に発表した「90°」は、濃厚なヴォーカルがぶつかり合う、“共演”というより“競演”としたくなるヴォーカル・バトルを繰り広げる骨太なスロウ・ジャムだ。
作詞・作曲・プロデュースを担ったのは[Meteor](メテオ)。それぞれ3名のメンバーからなる3組が三位一体となり、ボトムの効いたサウンド、分厚いハーモニーを纏いながら熱い咆哮を放つ。まるで90年代のR&Bヴォーカル・グループが現代に舞い降りたかのようで、R&Bの根本は歌にあるとでも言わんばかりだ。長年、アメリカのR&Bを聴いてきたリスナーであれば、ジョデシィ、ドゥルー・ヒル、シルク、ブラックストリート、ジャギド・エッジ、LSG(ジェラルド・リヴァート×キース・スウェット×ジョニー・ギル)、TGT(タイリース×ジニュワイン×タンク)といったヴォーカル・グループを思い浮かべるに違いない。S.O.S.たち3組は、そうした90年代(~00年代)のフィーリングにこだわり、J-POP的な文脈は考慮に入れず、遠慮なく牙を剥くようなスタイルで自分たちが好きなR&Bをやってのけた。クラシックなソウル/R&Bへの照射、コラボの妙という点では、ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークのシルク・ソニックが70年代ソウルを現代に蘇らせた時の驚きに近い感覚を覚える。

とはいえ、S.O.S.のTAKEにコラボの話を持ちかけられたF.O.Hは当初ためらいもあったという。[Meteor]と作ったデモを耳にしたF.O.Hのメンバーは、そこに自分たちが入る余地はあるのか、と(S.O.S.のオフィシャルYouTubeチャンネルで公開されたスペシャル・インタビューより)。ここまで直球なR&Bをやるのはデビュー時以来かもしれないというF.O.Hにとって、チャレンジングな企画だったことが窺える。だが、S.O.S.やF.O.Hの音楽を聴いて育った[Meteor]は、憧れの二組がガチンコでぶつかり合う姿を思い描き、その出来に確信を抱いていたのだろう。結果、見事な化学反応が起きた。そして、二組のファンやR&Bを好む国内のリスナーから称賛を浴びる。ここまでは想定内だった。
ところが、リリースから1か月半近く経った9月28日、S.O.S.の公式インスタグラムに投稿されたMVのリール(ショート動画)が米国を中心とした海外のユーザーたちの間で広まり、10月突入と同時にバズが起きる。TAKEとF.O.HのHIROのアドリブを中心とした、曲中で最もエモーショナルな部分が拡散され、日本にこうしたシンガーたちが存在することが驚きをもって迎えられたのだ。
ただし、その声は賛否に分かれた。今やアメリカのメインストリームが時代の流れとともに手放してしまったスタイルを日本のシンガーたちがやってみせたことへの賞賛、一方でそのことに対する反発。後者では「黒人文化の盗用だ」という書き込みも散見された。反発する声の中には、日本におけるR&B受容の歴史を知らない、あるいはステレオタイプで日本を捉えている人たちの認識の低さからくる意見もあった。AIだと疑う声もあり、90年代R&Bグループの名前をもじる大喜利も発生。そこに悪気はないのかもしれないが、曲の作り手でもないSNSユーザーが「自分たちの音楽だ」と所有を主張し、日本〜アジアのくせに……と見下して嘲笑する態度はいただけたものではない。とはいえ、ブラック・チャーチから発展した歌唱スタイルを部外者が取り込むことへの反発はわからなくもない。近づこうとすればするほど、ぶつかる壁がある。
やや事情は違うが、本国でも、黒人ルーツを持たないブルーノ・マーズが80〜90年代R&Bへのオマージュを込めたアルバム『24K・マジック』(2016)を出したとき、文化盗用をめぐる議論があった。古くは、“白い肌のソウルの女王”と呼ばれ、ブラック・コミュニティで絶大な支持を集めたティーナ・マリーでさえ、最初は反発を食らった。本国には黒人音楽や文化が主に白人によって搾取されてきた歴史があり、それに対してブラック・コミュニティは敏感だ。21世紀も四半世紀を過ぎた今、R&Bのスタイルは世界的に共有されて親しまれているとはいえ、そこには根深い歴史的背景と複雑で込み入ったデリケートな感情がある。そう思えば、彼らの意見を傲慢だとして片付けることもできない。
今回、一部で反発が起きたのは、「90°」の完成度ゆえである。実際に、曲や歌のクオリティに難癖をつける投稿はほとんど見当たらない。むしろ、YouTubeでは称賛のコメントが大半を占める。インスタグラムのコメント欄でも、米国のシンガーやプロデューサー、DJからも次々と称賛の声が上がっている。ジニュワイン、ショーン・ストックマン(ボーイズIIメン)、元キャラクターズのトロイ・テイラーなど、往時のUS R&Bを彩った面々が楽曲に対する支持を表明。その称賛は、米国だけでなくヨーロッパなどにも広まりつつある。
SNS全盛時代の今、バズ自体がありふれ、日本の音楽が世界規模で話題になる例は少なくない。いわゆるジャパニーズR&Bと呼ばれる音楽でも、DOUBLEや宇多田ヒカル、MISIAなどが、音楽的感度の高い海外のリスナーの間で話題になっている。一時期米国に活動拠点を置き、US原盤のアルバムを出した久保田利伸については言うまでもない。だが今回は、常にアンテナを張り巡らせている音楽ファンだけではなく、ラジオから日常の空気のようにR&Bが流れる環境で暮らす本国の人々、とりわけブラック・コミュニティの生活圏にストレートに入り込んでいった。SNS時代ならではの現象ではあるが、海外のリスナー/SNSユーザーに純国産のR&Bが、TikTokでのダンスチャレンジ動画などではない形で、曲自体が賛否を巻き起こして話題にされる例は初めてに近いのではないか。これまでも少なくない数の日本のアーティストが海外進出を試み、海外のアーティストとコラボするなど、話題作りに腐心してきた。しかし、曲が曲として聴かれ、議論の俎上に乗せられた例は数少ない。その点、今回の「90°」は、その高いハードルを越えたとも言える。そう考えれば、SNSにおける反発もひとつの勲章だろう。
「90°」は、S.O.S.が海外進出を謳って出した曲ではない。なにしろ曲名の読みからして“ナインティ・ディグリーズ”ではなく、“きゅうじゅうど(九十度)”なのだ。もっとも、読みに関しては受け手に委ねている部分もあるのだろう。F.O.HのARATAがディレクションしたMVに映るのは、日本で生活する成熟した大人たちが海の近くにありそうなダイナーに集い、再会を喜ぶような姿。そこには、見た目を黒人に似せ、雰囲気から入る、いわゆるワナビーの感覚はない。本国のR&Bシンガーに似せたいという欲望ではなく、シンプルに音楽としてR&Bに憧れ、歌い続けてきた人たちの矜持が感じられる。
S.O.S.は自分たちで歌や演奏をまかなうセルフ・コンテインド・バンドだ。本国のR&Bアーティストに例えると、トニー・トニー・トニーに近いと言えるかもしれない。ヴォーカルのTAKEは、S.O.S.結成前にニューヨークのハーレムなどでクラブに飛び入りして歌い、現地のオーディエンスの反応も知っている。キーボード担当でS.O.S.のサウンド・メイキングにおける頭脳であるKO-ICHIROにはゴスペルの基盤と作法がある。そして、2011年にグループを離れたものの2021年に復帰したドラムのKO-HEYは、グループ離脱中に大阪出身のソウル・バンド、Neighbors Complainの後見人的な役割を担うなど、音楽的嗅覚の鋭さにも定評がある。そんな3人が、30年ほど前、日本語では成立しづらいスロウ・ジャムを「Nice'n Slow」で国内に知らしめた功績は業界内でも語り草だ。
その「Nice'n Slow」がリリースされた97年に活動をスタートさせたのがF.O.Hだった。HIRO、ARATA、YUTAKAの3人は、R&Bの真髄を知り尽くした今井了介を制作ブレーンとして、ヒップホップの感性を持つ新しいヴォーカル・グループ像を打ち出し、後にNe-Yoやテディ・ライリーなどと組んだ曲も出している。そのスタイルはジョデシィとも比較され、3人組という点ではH-タウンやネクストなどに近い雰囲気もある。Mhiro(旧名義はMIHIRO〜マイロ)としてソロでも活動するHIROは、今回の「90°」でもTAKEとアドリブ合戦を繰り広げる重要なパートを担う。
そして今回、この二組のコラボを聴きたいという憧れを自分たちのプロデュースで実現させたのが[Meteor]である。Titan、LIBRA、Scorpiusの3名からなる彼らは、完全インディペンデントで、ヴォーカル、作詞・作曲、プロデュース、トークボックス、ミックスなど、すべてを自分たちでまかなう。ある意味、S.O.S.とF.O.H双方の美点を受け継いだのが[Meteor]だとも言える。2020年のデビュー・シングル「Crazy」の時点で今回の「90°」につながる90年代R&B的な音世界を提示しており、「90°」のMVでは「Crazy」リリース時のアートワークも一瞬映される。だが、彼らは顔を出さず、ミステリアスな存在として活動を続けてきた。よくも悪くも見た目やイメージで判断される時代に、純粋に音楽そのものを差し出そうとする姿勢は実に誠実で、バズを狙うような発想とは真逆にある。この6年近く、自分たちのシングルでは日本のR&Bを裏から支えてきた才人たちとも協働し、地道に歩みを進めてきたのだ。その先にあったのが今回の「90°」である。一朝一夕に出来上がったものではない。ここには彼らの才能、経験、センス、信念が詰まっている。
S.O.S.と[Meteor]のコラボは、今回が初めてではない。S.O.S.が5月にリリースした「Rise'n'Ride」も[Meteor]のプロデュースだった。同曲でも[Meteor]印の厚みのあるコーラス、ブラックストリート(テディ・ライリー)ばりのトークボックスが聴け、「Rise'n'Ride」というタイトルの字面からは「Nice'n Slow」へのオマージュのようなものも感じられた。さらに言えば、TAKEとはそれ以前から接点がある。TAKEがゴスペラーズの村上てつやと組んだマイペースなソウル・デュオ「武田と哲也」が今年1月に発表したミニ・アルバム『LOVE SHOT』で、「1.a.m.」と「Sick Of This Love」を手がけていたのが[Meteor]であった。S.O.S.とのつながりは、「武田と哲也」でのコラボが起点になっていると考えてよいだろう。
こうして誕生した「90°」。3組9人のソウルがぶつかり合った濃密なコラボは、主演のS.O.S.、客演のF.O.H、裏方の[Meteor]が、それぞれの持ち場をわきまえ、各々がその役割を見事に果たしているのが素晴らしい。曲の重心を支えるのは[Meteor]印のハーモニーとトラック、そして、KO-ICHIROの鍵盤とKO-HEYのドラム。トークボックスも交え、まさに「夜の奥深く沈む」ようなディープでエレガントな音空間が繰り広げられる。ファースト・ヴァースでリードを担当するTAKEの甘さと情熱が交錯する歌。そこにアドリブを交えるF.O.Hがリードを歌うセカンド・ヴァースでは、YUTAKAがシルキーな声で、ARATAがハスキーな声で抑制を効かせながら凄みを見せつける。TAKEがチャーリー・ウィルソンやジョニー・ギルばりのこぶしで唸りながら感情を昂らせていくなか、リフス・アンド・ランズで圧倒するHIROが徐々にヴォルテージを上げ、シャウトで切り込む瞬間はこの曲のクライマックスと言っていい。そのHIROのシャウトはドゥルー・ヒルのシスコやジョデシィのK-Ciヘイリーに迫る勢いで、ファイヴ・ブラインド・ボーイズ・オブ・ミシシッピのアーチー・ブラウンリーを起点とするハード・シャウターの系譜を見る思いだ。さらに、駄目押しのようにファルセットで駆け上がるTAKE。2分を超えたあたりで、TAKEがアドリブで〈Nice And Slow〉と歌い放つのも、S.O.S.を追い続けてきたファンにとってはたまらない瞬間だろう。
「90年代R&Bヴォーカル・グループのコスプレだ」と揶揄する声もあった。そして、「今さら30年前のR&Bをやるなんて……」というコメントもあった。しかし、そう言う人たちは、2010年代中盤あたりからメインストリームの音楽シーンで90年代R&Bの気分が共有されていることを知らない。近年、アメリカではWanMorや2BYGといった90年代マナーの若手ボーイバンドが登場し、R&Bヴォーカル・グループ復権の兆しもある。現在、「Don’t Mind」というスロウが本国の「Adult R&B Airplay」でヘヴィーローテーションとなっているセンチュリー(Sentury)もそんなひと組。その彼らが「90°」に対して称賛のコメントを寄せていたことも申し添えておきたい。
3人組の3チームが集った今回のコラボ。ボブ・ドローの曲名に由来する「Three is a Magic Number(3は魔法の数字)」という言葉があるが、今回の「90°」はまさに“3”が起こしたマジックだ。“ジャパニーズR&B” というカテゴリーにこの曲を置くとしたら、「90°」はその最高峰のひとつと言えるかもしれない。もっとも、この一曲がSNSでバズを起こしたからと言ってシーンが変わるとは思わないし、彼らのキャリアが書き換えられるわけでもない。ただ、これをきっかけに、新進気鋭のトレンドセッターを評価する一方で、キャリアを重ね成熟した大人たちにしかできない表現を評価し、定着させていくことも必要だと感じる。その意味で「90°」は、ジャパニーズR&Bを含めた日本の音楽を豊かにする曲として歴史に名を残すのではないかと考えている。
リリース情報

Skoop On Somebody feat. Full Of Harmony「90°」
2026/8/12 DIGITAL RELEASE
再生・ダウンロードはこちら
公演情報
【Skoop On Somebody「Christmas Live Tour 2026」】
11月29日(日)大阪・Zepp Namba
12月5日(土)北海道・共済ホール
12月19日(土)神奈川・関内ホール
12月20日(日)愛知・中日ホール
12月26日(土)福岡・電気ビルみらいホール
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