2026/10/15 18:00
いろいろな意味で、まさに“歴史的”なライブだった。
ずっと真夜中でいいのに。が、2026年10月10日と11日に奈良・平城宮跡歴史公園にて単独ライブ【特別公演祭 LEGACY ZOMBIE LABO「文禍伝雷」奈良・平城京】を開催した。
2日間で計6万5千枚のチケットが完売したこのライブは、ずっと真夜中でいいのに。にとってキャリア最大規模のライブ。そして平城宮跡でこれだけの規模の野外ライブが行われるのは史上初の試みだ。奈良県・奈良市の全面協力のもと行われた催しは、単なるワンマンライブという枠組みを超え、その場所に根付いた伝統や文化と結びついた、唯一無二の体験に結実していた。
筆者は10日の公演に訪れた。会場に到着したのは昼過ぎだ。だだっ広い平城宮跡歴史公園に、晴れ渡った青空が広がる。日差しが強く、まるで夏のような陽気だ。ライブエリアに併設されたフリー入場の「祭Area」には、すでに沢山の人たちが集まっていた。櫓の上からは太鼓の音が響き、フェスや夏祭りのようなムードが漂う。フードエリアやグッズ販売だけでなく、木簡づくりなどのワークショップ、射的や卓球などのミニゲームも展開。地産の酒や料理が並ぶ屋台、奈良ゆかりの企業や作家とコラボした特製グッズを展示販売する物産展エリアからは、地元との深い結びつきが伝わる。
サイドステージ“昼ノ宴”では、土壌学者の藤井一至のソロトークを聞くこともできた。「土が積み重なって、そこに歴史が残る」という藤井先生の話はとても示唆的なものだった。
会場全体を「奈良時代とつながった異空間」にする、設営や空間演出のこだわりも印象的だった。道には灯籠のようなライトが並び、スタッフは烏帽子をかぶって「官人」と背中に記された和装を身にまとっている。ライブエリアの中央区朝堂院跡に足を踏み入れると、大極門と並んだ特設ステージが目に入る。この場を訪れ、この土地に触れるところからライブ体験が始まっている。そういうことを実感した。
開演は17時半。「今宵は、ここ平城京で百鬼夜行を開催します」と告げたACAねのナレーションに続き、テスラコイルが放電し稲妻のような電子音が鳴り響く。雅楽隊の厳かな演奏と共に、仮面をつけたACAねと、同じく仮面をつけた和装のバンドメンバーたちが歩いてステージに向かう映像がビジョンに映し出される。荘厳かつ異様なオープニングだ。
ステージは大極門を模した造りで、3階建ての多段構造に柱や欄干も設けられた本格的なセットだ。その中央にACAねが立つ。ドラム、ベース、パーカッション、ギター、キーボードに加えて、サックス、トランペット、トロンボーンのホーン隊、ブラウン管テレビドラムと2台のオープンリールという大編成のバンドメンバーが立体的に並ぶ。ライブは「地球存在しない説」でスタート。「ずっと真夜中でいいのに。です」とACAねが告げ、大歓声が応える。
ずとまよのライブの魅力は、「発明」とも言うべき豊かなアンサンブルにある。グルーヴィーなリズム、巧みな演奏で、高揚感あふれるナンバーの数々を鳴らす。変幻自在のライブアレンジを聴かせる。ACAねの透明感ある歌声がその中で伸びやかに響く。
特に序盤で大きな盛り上がりを生んだのは、ファンキーなナンバーの数々だ。「秒針を噛む」では「歌える?」というACAねの呼びかけに応えて「このまま奪って 隠して 忘れたい」というフレーズを3万人以上が合唱。「TAIDADA」では赤く染まった夕暮れの空に華やかな祝祭感が広がる。
曲が進むうちに、空は徐々に暗くなってゆく。大極門がライトアップされ、レーザーが飛び交い、ライティングの光が舞う。派手な演出の数々は、歴史と未来を織り合わせた唯一無二のタペストリーのようなカラフルなムードを生み出していた。
三味線と楽琵琶が加わった編成、この日ならではの和のアレンジも印象的だった。「海馬成長痛」の曲中では三味線のソロも披露した。演出だけでなく、演奏や音楽そのものにも、この場所でライブをすることを踏まえた特別な趣向が凝らされていた。
中盤では、セグウェイに乗ったACAねがフィールド外周を移動し、後方のセンターステージに登場した。オーディエンスがしゃもじを打ち鳴らす中、祭囃子のようなリズムと節回しにアレンジされた「機械油」を披露。曲が終わると、会場後方から花火が打ち上がった。
続く「正しくなれない」では、三味線と楽琵琶と共に、ACAねが静かに、丁寧に歌声を響かせる。「サターン」も、ステージに座ったACAねがアコースティックギターを奏で、シンプルな歌と演奏で惹き込んでいく。数万人の真ん中で奏でたのが、一体感でなく、孤独で繊細なメロディだったのも、ずとまよらしい瞬間だと感じた。
再びセグウェイに乗ってACAねがメインステージに移動し、後半はソウルフルなダンスナンバーの「MILABO」からグッとテンションを上げていく。「猫リセット」では、曲の途中でACAねが「せんとくーん」とコール、リフターに乗った奈良県の公式マスコットキャラクター・せんとくんがステージに登場し、ご当地ソング「せんとくんなら知っている」に突入するという、目を丸くするような展開だ。「平城京 平城京」とACAねがキュートに歌い、せんとくんはひとしきりステージを歩き回り独特のダンスを見せる。そして「猫リセット」に戻ると、せんとくんはリフターに乗ってステージ下に消えていく。さっき見てたのはうなされた時の夢だったのか? と一瞬思うくらいのカオスである。かと思いきや、せんとくんは続く「ultra魂」でも「もう一回!」のコールに応えて再登場し喝采を浴びていた。この素っ頓狂なユーモアもずとまよのライブの醍醐味の一つだろう。
ACAねがライフル銃のようなミラーシューターを手に歌った「ミラーチューン」では、ホーン隊がモーニング娘。「LOVEマシーン」のフレーズを差し込む。まるで遊園地のアトラクションのような、3万人以上を楽しさの渦の中に巻き込んでいくパフォーマンスだ。
奈良時代に思いを馳せるACAねのナレーションに続いては、三味線とベース、ドラムのセッションから始まった「綺羅キラー」。終盤もグルーヴィーでハイテンションな楽曲を続ける展開だ。曲後半ではACAねが扇風琴のソロを披露し、続く「メディアノーチェ」は高速和風ファンクとも言うべきアレンジで畳み掛ける。「あいつら全員同窓会」ではオーディエンスが一斉にジャンプ。会場全体が巨大な熱狂に包まれる。そして「暗く黒く」はピアノと歌から始まり、バンド全体で絶頂へと上り詰めていくようなパフォーマンス。この日のクライマックスとも言える興奮をもたらした。
歌い終えると、ACAねは「私は言葉が嫌になることもあります」と語り始める。言葉で思いを伝えることの難しさや、それが時に災いになることに触れ、「だからこそ、言葉じゃなくて、同じ時代に同じ時間、同じ経験値があるっていうことはすごく尊いことで。それが今、この場所だったらすごく嬉しいなと思います」と話した。
続けて「ずっと真夜中でいいのに。とは、来ない夜明けも肯定すること。私は常に海の底、土の底で話を聞くよ。誰かの背中に触れられていたら、今日の意味がありました」と声を震わせる。
そして、涙ぐむような声で「我らは土の上に立っている。誰かの過去の上に立っている。今日も、この土の下には、誰かの思いが眠っている」と告げた。
その言葉に続いて歌ったのは「lowmotion algae」。今年3月にリリースされた最新アルバム『形藻土』のラストトラックで、10分を超える大曲だ。その「大丈夫 僕らのかけらは 気泡に 刻まれてく」という歌詞は、「地層に 刻まれてく」と変えて歌われた。
そのエモーショナルな歌声を聴きながら、なぜずとまよが平城京でライブをやったのか、そこにどんな意味合いがあるのかが、最後にわかった気がした。サイドステージのトークで藤井先生が語っていた「過去からの積層の上に自分たちは生きている」という言葉も、ちゃんとライブ本編の伏線になっていた。
1300年の歴史を持つ場でライブをやるということは、それだけ昔から人々が暮らしを営み、その長い時間が積み重なった地層の上に立つ、ということ。それに思いを馳せるということだ。
それはアルバム『形藻土』で描かれたこと、「lowmotion algae」で歌われている「沈殿する感情の澱が長い時間を経て堆積して化石になる」というテーマと、真っ直ぐに結びつく。だからこそ、ACAねを中心とするチームは、この場所で何を鳴らし、何を見せるのか、丁寧に、綿密に考えてきたのだと思う。
最後に披露したのは、10月8日に配信リリースされた新曲「あかねさす頃」。この公演に合わせて制作されたナンバーだ。
「どこか遠くへ、近くへ。はるか先の誰かに、君に。伝雷させたい。聴こえたい。私たち自身が、みんなが、雷になれるんだと思う。それで私は生き返れるんだと思う。最後の記録、そしてこれからの記録です」
そうACAねは告げて歌った。メンバーそれぞれがソロを披露し、最後には「ずれた季節ごと 渡れ 渡れ 渡れ 君へ」という歌詞を全員で歌う。
全ての演奏が終わると、夜空には花火が打ち上がった。夢から醒めたような帰り道。しかし2日間でここに集まった6万5千人は、それぞれが見た光景や受け取った音楽を、大切な記憶として抱き続けるのではないだろうか。そんな余韻が残った。
Text by 柴那典
Photo by 鳥居洋介
◎公演情報
【LEGACY ZOMBIE LABO「文禍伝雷」奈良・平城京】
2026年10月10日(土)、11日(日)
奈良・平城宮跡歴史公園 中央区朝堂院 特設野外会場
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