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<インタビュー>野口五郎、56周年フルオーケストラツアーに向けた覚悟と音楽への想いを語る

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Interview & Text:田中久勝 / Photo:石阪大輔


 1971年のデビュー以来、日本の音楽シーンのトップランナーとして半世紀以上もの間走り続けてきた野口五郎。初の単独フルオーケストラ公演として全国を巡った前回のツアーでは、圧倒的な声量を誇るボーカルと、魂を揺さぶるエレクトリック・ギターの響きがオーケストラの重厚なシンフォニーと真っ向から交差し、各地で熱狂と深い感動を巻き起こした。その熱烈な反響を受け、自身の名前にちなんだメモリアルイヤー“56(五郎)周年”の来年、フルオーケストラツアー第2弾【billboard classics 野口五郎 PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2027 Beyond the dream!!~夢のその先へ~】の開催が決定した。

 2027年1月より山形、東京、大阪、福岡の全4都市を巡り、各地の名門オーケストラと共に、ドラマティックな音を紡ぎ出す。2月23日の大阪公演は自身の誕生日当日をファンとともに迎える特別な一夜となる。音楽家、表現者として、そして研究者、一人の人間として、彼はいま何を想い、どんな未来を描いているのか。探究心と温かなユーモアに満ちたその肉声にじっくりと耳を傾けた。



「夢のその先へ」──古希を迎えて語る、歌い続ける覚悟とオーケストラとの一期一会


── 前回のツアータイトル【KEEP ON DREAMING】から、今回は【Beyond the dream!!~夢のその先へ~】へと歩みを進められました。


野口五郎: 前回のツアーが終わったとき、僕の中に自然と湧き上がってきたのが「その先を自分で見てみたい」という強い想いでした。【KEEP ON DREAMING】も自分で考えたタイトルでしたが、今回はあえて一歩前に踏み出して、その先へ行ってみたいと。古希を迎えて、生身の人間である以上、永遠に命があるわけではありません。いつまでも昔と同じように高い声を出して、ロングトーンをどこまでも伸ばしていられるかなんて、僕自身にもわからない。もしかしたら突然、キーを下げなければいけない日が来るかもしれない。でも、僕自身はそんなつもりは毛頭なくて、ずっと今の自分が永遠であるつもりで歌い続けていきたい。そうやって歌い続けることこそが自分の一生の課題だと決めて、気がつけば55年以上が過ぎていました。


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前回公演の模様(2025年6月5日 東京文化会館大ホール)



── そのストイックな姿勢と同時に、野口さんはインタビューなどで「これが最後かもしれない」という言葉を非常に誠実に語られていますね。


野口: 何も言わずに突然ステージから去ってしまうことほど、聴き手にとって残酷なことはありません。「あの時、行っておけばよかった」と後悔を残してしまうのが一番嫌なんです。実は僕自身、昨年母親を亡くしました。残された側というのは、「もっとこうしてあげればよかった」「ああしてやればよかった」という悔いがどうしても残ってしまう。旅立つ人間は、どうしてもそういう想いを遺してしまうものなんです。だから僕は、アーティストとして全部を皆さんに聴いておいてほしいし、「もうこれが最後かもしれないから、聴きに来てね」と正直に伝えたいんです。でもそれは決してネガティブな意味ではなくて、もし来年も元気でステージに立てたら、「なんだ、またできたじゃん!」って皆で一緒に笑って喜べたら、それほど幸せなことはないじゃないですか。毎回それだけの覚悟と身を削る思いでマイクを握っているということなんです。


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── 音楽ファン、あるいは「最近の野口五郎のステージをまだ観ていない」という方にも、その切実な覚悟は強く響くはずです。今回も指揮・編曲はマエストロの渡辺俊幸さんが務められますが、お二人の協働作業はどのように進んでいるのでしょうか。


野口: 昨年もお世話になりましたが本当に素晴らしい方です。音楽の知識や技術がずば抜けていらっしゃるのはもちろんですが、何よりも僕の言うことを面白がって、すべて吸収してくださる。僕にとっては、かつて楽曲を一緒に作ってくださった筒美京平先生と同じような感覚なんです。京平先生のときも僕は若造のくせに何でも遠慮なく言いたいことを言っていましたが、渡辺先生とも頻繁に連絡を取り合って、ものすごい密度で意見を交わしています。今回のアレンジにも僕のアイディアやこだわりを生かしていただいています。オーケストラと僕の歌やギターが真っ向から対峙するような“VS”の掛け合いや、普通では考えられないような音のぶつかり合いを形にしていくプロセスは、本当に愉快で贅沢な時間です。



── 前回のツアーでは、各地のオーケストラとの出会いも非常に大きな財産になったと伺いました。


野口: そうなんです! あれが本当に刺激的で楽しかった。地方公演に行くと、リハーサルの合間や終演後に、コンサートマスターをはじめ現地のミュージシャンの皆さんと色々な音楽の話をさせていただいたんです。オーケストラって、地域や楽団によって音の表情や空気感がまったく違うんです。弦の響きの柔らかさだったり、金管の力強い鳴り方だったり、その土地その楽団ならではの息づかいがある。そうした現地の皆さんと心を通わせながら音を重ねていく体験は、僕にとってかけがえのない喜びでした。彼らと対話を重ねる中で、「音ってなんて不思議で魅力的なんだろう」と改めて強く感じさせられましたし、そのときの経験が、いま僕が取り組んでいる音響研究にもダイレクトにつながっているんです。今回も山形交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、日本センチュリー交響楽団、九州交響楽団という素晴らしい名門楽団の皆さんとご一緒できるので、それぞれの街でどんな化学反応が起きるのか、今から楽しみで仕方がありません。


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音楽の枠を超えて広がる「音」への探求と愛娘との共演


── 音響研究といえば、野口さんが長年取り組まれている音の研究は、現在大学の医学部や工学部などアカデミックな場へと大きく広がっているそうですね。


野口: そうなんです、ありがたいことにどんどん広がっています。「音ってすごいんだよ」ということを、僕はどうしても伝えたいんです。漢字一文字の「音」ですけど、音は単に耳で聴いて心を癒やすだけではなくて、人を治してしまう力、人間の身体や細胞に直接働きかける可能性を秘めている。生演奏が持つ倍音や空気の豊かな振動の力というのは、研究の場でもほぼ証明されつつあるんです。だからこそ、フルオーケストラという生身の人間が約60人も集まって一斉に音を放つ空間は、とてつもないエネルギーを持った特別な場所なんです。



── 今回のツアーでも、ピアニストとして活躍されている愛娘の文音さんが出演されます。父と娘のステージ共演、そして音楽家同士としての共鳴についてはいかがですか。


野口: 文音との共演も本当に楽しみですね。今回はさらに踏み込んだ特別なセッションを構想しています。オーケストラの魅力って、全員が一体となった怒涛のような大音量だけではないんですよね。音の数を極限まで削ぎ落とした静寂の中で、一音のピアノの響きと歌声がどう寄り添い、どう溶け合っていくか、会場の皆さんにダイレクトに手渡しできたらと思っています。



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56(五郎)周年を彩る挑戦的なセットリストと原点回帰


── 現在準備されている仮のセットリストを拝見すると(取材は9月末)、オリジナル曲、洋楽の名曲、映画音楽、ミュージカルナンバーと、非常に多彩で挑戦的なラインナップが並んでいます。選曲の意図について教えてください。


野口: 僕は10代の頃から50年以上、ずっとセットリストのことばかり考えて生きてきました(笑)。今回の選曲で一番大切にしているのは、「僕がこれを歌いたい」という自己満足だけではなく、「お客様が野口五郎のオーケストラコンサートに何を求めてくださっているのか」というファンの皆さんの想いです。そこに寄り添いながら、フルオーケストラで演奏することで楽曲がどう生まれ変わるか、どう新しい表情を見せられるかという実験精神を詰め込んでいます。



── その中でも、前回のツアーでは歌われなかった、代表曲「青いリンゴ」が今回はセットリストに入っていますね。


野口: そうなんです。やっぱり“56(五郎)周年”ですから。僕の原点であり、ここから全てが始まった曲で、この記念のツアーでは絶対にやらなければいけないと思いました。実は「青いリンゴ」って、僕自身ここ何十年も生演奏ではほとんど歌ってこなかったんです。避けていたと言ってもいいくらいで。というのも、当時から生で歌うのがどうしても歌いづらくて、「なんでこんなにピッチが当たらないんだろう、気持ち悪いな」とずっと不思議に思っていたんです。それが数年前に、とんでもない勘違いに気づきました(笑)。



── 勘違い、ですか?


野口: 当時のレコード録音は「B♭マイナー(変ロ短調)」というキーで吹き込んでいたんです。ところがスタッフや制作陣が「地方公演で毎日歌うのは大変だろうから」と気を利かせて、譜面を半音下げたAマイナーで作ったんです。僕はそれを知らずに、「Aマイナーが原曲キーなんだ」と思い込んだまま何十年も過ごしていたんです。でも本来の自分の響きと半音違うから、どうにも歌いづらくて仕方がない。ある日、たまたま自分の曲を半音上げて歌っている人の音を聴いて、「あれ? こっちのほうが圧倒的に歌いやすいじゃん!」と気づいて、当時のマスター音源を聴き直したら「僕、ずっと違うキーで歌わされてたんだ!」と40年以上経ってようやく謎が解けたんです(笑)。B♭マイナーで演奏すると、イントロのバイオリンの駆け上がりも格段に難しくなってオーケストラの皆さんは大変なんですけど、今回は正真正銘、僕が15歳で歌ったオリジナルのキーで、華麗なストリングスとともにお届けします。僕自身も楽しみです。


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── 筒美京平さんの手による名曲「オレンジの雨」も候補曲として挙がっていますね。


野口: 京平先生のアレンジは本当に天才的で、情景描写から楽器の配置まで完璧なんです。「オレンジの雨」も、オリジナルに入っているストリングスとブラスの対旋律の絡み合いが絶妙で、これを本物のフルオーケストラで鳴らしたらどれほどドラマティックになるか。今だからこそ表現できる大人のバラードとして、じっくり聴かせたいです。もちろん、皆さんが聴きたいと思ってくださっているはずの、「私鉄沿線」「甘い生活」「君が美しすぎて」の3曲もしっかりお届けします。「君が美しすぎて」は8分の6拍子のグルーヴが肝で、フルオーケストラのスケール感と重なることで、楽曲が持つ哀愁と情熱が何倍にも増幅されるはずです。



── 野口さんの音楽的ルーツである洋楽ナンバーや、映画音楽、ミュージカルの楽曲が盛り込まれている点も、このコンサートの大きな見どころです。


野口: 10代の頃から海外レコーディングを熱望して、ロンドンやアメリカのミュージシャンと音を作ってきた僕にとって、洋楽のスタンダードは自分の血肉そのものです。今回、新編曲で挑む映画音楽の「ある愛の詩」は、哀愁を帯びたメロディをオーケストラでどこまで美しく響かせられるかという試みです。そして20歳のときに歌った「箱舟の帰還」。地球環境や異常気象に警鐘を鳴らすような深遠な歌詞を持った曲で、50年が経った今、世界中で大雨や自然災害が起きている現実を目の当たりにすると、歌っていて本当に身につまされるものがあります。若い時には表現しきれなかった深みを、今こそオーケストラとともに表現したいです。去年も歌ったエリック・カルメンの「All By Myself」も、19歳で初めて聴いたときにぶっ飛んで以来、ずっと歌い継いできた僕にとっての“未来の歌”です。指揮の渡辺先生と「どこまでロングトーンを伸ばすか」「どこでオケが爆発するか」という、呼吸の限界に挑むような真剣勝負のバトルを繰り広げたいと思っています。


── 昨年「この胸のときめきを」×ゲイリー・ムーアの「パリの散歩道」のマッシュアップでは、野口さんの泣きのギターが心に響きました。オーケストラをバックにエレキギターを弾き倒す姿は、まさに唯一無二です。


野口: クラシックのオーケストラの中に歪んだエレキギターが一本入るだけで、音楽の空間が一気に立体的に歪んで、ものすごい推進力が生まれるんです。単に名曲をなぞるだけではなく、渡辺先生と一緒に「ここでリズムをブレイクさせて、どっちの曲に転ぶんだ!?」というスリリングな仕掛けを盛り込む。オーケストラの皆さんと僕が音で取っ組み合いの喧嘩をするような、ガス欠になった方が負けというくらいの熱いセッションをお見せしたいですね。


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── 最後に、往年のファンの方はもちろん、クラシックコンサートは敷居が高いのでは? と思っている音楽ファンや若い世代に向けて、メッセージをお願いします。


野口: タイトルにある「夢のその先」というのは、僕にとってもまだ見ぬ未知の世界です。近年、大学の研究者の方々と物理や量子力学のお話をさせていただく機会が多いのですが、どんな未知の世界や次元に行っても、普遍的に「絶対に正しい」と言えるもの、それは実は「美しいもの」なんだそうです。どんな国や文化であっても、本当に美しいものだけは揺るがない正しさを持っている。僕が今向かっている“夢のその先”にも、絶対に美しい世界があり、美しい音楽が鳴り響いていると確信しています。 このコンサートは、昔を懐かしむだけのものではありません。半世紀以上歌い続けてきた生身の人間と、日本屈指のオーケストラが舞台上で命を削り合って鳴らす、正真正銘の「今、鳴っている生きた音楽」です。エレキギターの音色、圧倒的なスケールのシンフォニー、そしてマイクを通して会場の空気を揺らす歌声の振動を、ぜひ全身で浴びに来てください。そこには必ず、あなたの心を揺さぶる美しい体験が待っているはずです。



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