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<インタビュー>エルトン・ジョンも認めた新星ネクター・ウッドの素顔

Photos:辰巳隆二
【SUMMER SONIC 2026】に出演するために来日した、英ロンドンを拠点に活動する英×ガーナをルーツに持つシンガーソングライター=ネクター・ウッド。今年6月に発表したミックステープ『Naturally』は、細やかかつソリッドな生演奏に支えられながら、囁くように歌うネクター独特のボーカル・スタイルが特徴的な、疑念や苛立ちから始まり、やがて自己受容へとたどり着く9曲の物語。収録曲「Wine Into Water」ではエルトン・ジョンがピアノで参加するという世代を超えたコラボレーションも実現している。
ジャスティン・ビーバーのライブに衝撃を受けた少女時代から、ステージで“無”になる感覚、そして『Naturally』というタイトルに込めた想いまで、フェス本番前とは思えないほどリラックスした様子で、彼女は自身の音楽と人生について、じっくりと言葉を紡いでくれた。
──【SUMMER SONIC】への出演を控え、今どのようなお気持ちでいらっしゃいますか?
ネクター・ウッド:待ちきれません、本当にワクワクしてます。かなり歴史のある、格式の高いフェスティバルだと聞いているので、出演できることを光栄に感じています。
──昨年の秋に来日公演をされた際とは、客層も異なるかもしれませんね。
ネクター:そうですね、あの時はBLUE NOTE PLACEで演奏したんですけど、ロンドンにあるロニー・スコッツみたいな、もっとくつろいだジャズバーの雰囲気でした。今回は日本で初めてフェスの舞台に立つので、それも楽しみです。

──ライブでのご自身を、どのように捉えていらっしゃいますか? レコードの中の自分とは、また違う人物なのでしょうか?
ネクター:いえ、同じだと思います。私は曲の中でも実生活でも、自分の感情に対してすごく素直です。その隙間にフィルターがほとんどない。音楽で本音を語ることが好きで、感じたことをそのまま話すのが心地いいんです。だから、ステージの上でも同じ自分だと感じています。
──とはいえ、ライブでこそ見えてくる意外な一面も、あるのではないでしょうか?
ネクター:ありますね。とにかく「楽しい時間を過ごしている」というエネルギーが出ますし、お客さんに一緒に歌ってもらうのがすごく好きなんです。観客と対話するような感覚を大切にしています。言葉の壁があるかもしれないけど、それでもみんな歌いたいし、楽しみたいと思ってくれているはず。だから大阪でも東京でも、みんなで歌おうって呼びかけたいですね。

──楽曲を制作している時と実際に演奏する時とでは、変化があるのでしょうか?
ネクター:プロジェクトを作り終えたあとに、その曲たちをどうやってライブで生き返らせるかを考えるのが本当に楽しくて。バンドのために簡単な音楽的ディレクションをするのも好きですし、一緒にやってくれるスタッフもいるんですけど、そこからさらに「ライブ用に別の要素を足そう」ってなっていくのが面白いんです。音源とは少し違うものになるほうが好きなんですよね。曲を書いている時に「これ、ライブでハマりそう」って考える人もいるみたいですけど、私は書く時と演奏する時をきっちり分けたいタイプなんです。
──その分けるという発想は、どこから生まれたのでしょう。
ネクター:レコーディングやソングライティングでは、可能性が本当に無限にあると思っていて、そこにすごく魅力を感じています。逆にライブでは、あえて制約があるのが好きなんです。制約があるからこそ、より創造的になれると思っています。
──その二つのバランスに気づかれたのは、いつ頃だったのでしたか?
ネクター:制約に関しては、正直、予算の問題が大きいです。ツアーはお金がかかるし、小さいバンド編成になるとそれだけ制約も増えます。今のバンドはキーボード、ベース、ドラムの3人と、私がギターを弾いていて、合計4人。小さな編成で、でも大きな音を鳴らそうとしているところです。今もまだ手探りですね。

──ちなみに、最新ミックステープ『Naturally』の収録曲の中で、ライブになって最も印象が変わった曲は?
ネクター:「Talk To Me Summer」はライブだとかなり印象が違います。私はそれが気に入っていて。ギターも、レコードでは指弾き(フィンガーピッキング)なんですけど、ライブでは少しシスター・スレッジっぽい、ストロークの効いたギターにしています。レコードの方はストリングスが入った本格的なプロダクションなんですけど、バンドにはストリングス隊がいないので、その分をどう翻訳するか工夫していて。よりファンキーな方向に振ることで、ライブ向けの空気に変えています。
──ミックステープの中で、ライブで歌うのが特に好きな歌詞があれば教えてください。
ネクター:「Rivers End」のコーラス部分が印象に残っています。歌うたびに、気持ちが上向きになるんです。「To the river's end, I'm gonna be my best friend」というラインで、つらい状況にあっても、自分自身が自分の一番の友達になれる、自分を信じられるっていう気持ちに変換できる曲なんです。あの部分を歌うと、自分を信じることを思い出させてくれるので、好きですね。
──では、あなたにとってライブの醍醐味とは? その感覚は年を重ねるごとに変化してきましたか。
ネクター:変わっていないと思います。ステージに立つと、世界のすべてのことを完全に考えなくなる瞬間があるんです。自分がどう感じているかさえ考えなくなって、ただ演奏したいという気持ちだけになる。ある意味「空白」の瞬間なんですけど、いい意味での空白なんです。不安がすっと消えて、ただ穏やかになる。あれはもう、セラピーみたいなものです。それが一番好きな部分で、昔からずっと変わらないですね。ある種の“解放”なんです。
──キャリアの初期は、ステージに上がることに緊張されていましたか?
ネクター:もちろん、最初はすごく緊張していました。でも、私は居心地の悪い環境に飛び込むのが好きなタイプで、それをずっと続けてきたことで、今は逆に落ち着いていられるようになったんだと思います。一度もやったことのない曲をその場でやってみて、ミスがあってもそれはそれ。誰も気づかないですから(笑)。やり切った後に「やった、達成した」という感覚があるのが好きなんです。それを繰り返すことで、それが自分のスキルになり、経験になっていくんですよね。

──ステージに上がる前に、何か決まったルーティンはありますか?
ネクター:必ずボーカル・ウォームアップをします。声を整えて、気持ちを落ち着かせるために。あとメイクをするときは必ずプレイリストを流してます。ファンキーで、ソウルフルな70年代ソウルが多いですね。インスピレーションをもらうために。
──具体的には、どのような曲を選ばれるのでしょう。
ネクター:その時々で変えますけど、バンドのメンバーとよく聴くのはシェリル・リンの「Got to Be Real」です。本番前にみんなで流して、お互いにその歌詞を口ずさんだりして。ステージに向けて気分を上げるためのものですね。
──ライブ序盤の数秒間で、客席の空気をどのように読み取っていらっしゃいますか?
ネクター:私の音楽は割とチルなので、乗ってくれてる人はすぐわかります。音楽の中に入り込んでいて、聴く姿勢そのものが違うんです。だから最初の一曲、最初の歓声が上がった時点で、大体その日の空気感が掴めます。声を出して反応してくれるかどうか、とかですね。ロンドンだと、私が何か話すと誰かが「ウー!」って声を上げてくれる文化があるんですけど、そういう反応でその場の空気が測れます。
──客席の反応によって、セットリストを変更することもあるのでしょうか。
ネクター:あります。今は持ち歌もかなり増えてきているので、40分のセットに絞り込むのが本当に難しくて。今まさにそこで悩んでいるところです。誰かがある曲を目当てに来てくれているのに、その曲を演奏できないと申し訳ない気持ちになるので、できるだけみんなに満足してもらえるように意識しています。でも、カタログが増えれば増えるほど、その調整は難しくなりますね。基本的には、みんなが知っている定番曲と、アップテンポで気分を上げてくれる曲をバランスよく組んでいます。特にフェスの場合は、最後に気持ちよく終われるようにしたいので。

──昔から、ライブやフェスによく足を運ばれていましたか? もし影響を受けたアーティストによるステージがあれば、教えてください。
ネクター:実は、しっかりしたライブにはあまり行っていなかったんです。バーで誰かが演奏しているのを聴いたり、オープンマイクに行ったりする程度で。初めて行ったちゃんとしたライブがジャスティン・ビーバーで、あれは本当にライブでした。私は大のビーバー・ファンで、最高の2時間でした。
──そうなんですね! いつ頃のツアーでしょうか?
ネクター:『My World 2.0』と「Never Say Never」がリリースされた時期だったと思います。前髪の時代(笑)。あのライブは本当に見事で、彼のやっていることの凄さに圧倒されました。しかも当時はまだ子供だったのに、あれだけのことができるのが本当に信じられなかった。私にとって初めてのポップ体験でしたね。
あと、去年見たスティーヴィー・ワンダーは、間違いなく人生で見た中で最高のライブのひとつです。もう高齢ですけど、それでもすごいエネルギーで、全曲同じキーで歌い切って、全力でやり続けていました。刺激を受けましたね。名曲もたくさん持っているので、次はこの曲、次はあの曲って、本当にすべてを出し尽くしてくれました。2時間ずっとそのテンションで、完璧にやり切っていました。

──生で見たい、または見てみたかったアーティストはいらっしゃいますか?
ネクター:残念ながら大体もう亡くなっている方たちが多いですね。ダニー・ハサウェイのライブを見られなかったのが本当に悔しいです。ダニーは私にとって大きなインスピレーションの源。エイミー・ワインハウスも見たかった。サラ・ヴォーンもすごかったでしょうね。エラ・フィッツジェラルド、ニーナ・シモン……ああ、本当にレジェンドばかり。アレサ・フランクリンなんて、見たら大泣きしてたと思います。ジョニ・ミッチェルは、幸い今もご存命なので、いつか生で見てみたいです。キャロル・キングも。本当にたくさんいますね、みんなあの時代の人たちです。
──上がった名前を見ると、女性ボーカルにより強く惹かれているようですね。
ネクター:そうですね、女性の声に一番インスパイアされていると思います。もちろん男性のボーカルも素晴らしくて、私はどちらかというと、柔らかい男性の声に惹かれるタイプです。ニック・ハキムの声が本当に大好きで、夢中になっています。でも基本は女性が多いですね。女性ボーカルには本当に幅広い声の種類があって、「うわ、すごい」って驚かされることが多いです。共感できる部分も多いんだと思います。
──最新ミックステープは、不確かさや疑念から始まり、最終的に自己受容へと向かっていく構成になっていますが、その感覚をご自身で実際に感じた瞬間はありましたか?
ネクター:書いている最中に感じていたと思います。当時は本当に苦しい時期で、自分自身を疑ってしまうようなこともあって。業界にいると、自分は正しい方向に進んでいるのか、このカテゴリーに当てはまるべきなのか、そうじゃないのか、そういうことを簡単に考え込んでしまうものなんです。それでも、私を落ち着かせてくれたのは、ロンドンの街を歩いて人間観察をすることでした。どんな仕事をしていても、みんな同じ船に乗っているんだと気づいたんです。みんな、心を落ち着かせるための何かを探している。道を歩いている誰かを見て、この人も何かと向き合っているんだと気づく。だから、このプロジェクトを聴く人にも、そういう心地よさや静けさを感じてもらいたかったんです。

──タイトル・トラック「Naturally」は、どのようにして生まれたのでしょうか?
ネクター:このタイトルは、全体をひとつの言葉で言い表すのにぴったりだと思ったんです。“自然”という言葉には、天候や散歩、身の回りの環境といった、私が実際にインスピレーションを受けたものすべてが詰まっている気がして。それに私にとって「Naturally」という言葉自体が、なんだか気持ちを落ち着かせてくれる言葉なんです。だから「これしかない」と思いました。この曲自体もラブソングで、とてもソウルフルで、聞いていると気分がよくなるので、これがぴったりだと思いました。
最初の「Lights Off」「Roses in the Dark」の2曲から歌詞のムードがこの曲で切り替わるんですけど、それは意図的なものです。プロジェクトの冒頭はダークな場所から始めたかったんです。実際、私自身も暗い心境からこのプロジェクトを書き始めましたから。正直、色々なことに腹が立っていた時期だったんです。だから最初は暗い。でも「Roses in the Dark」を経て「Naturally」に入ると、「ああ、大丈夫だ」という安心感に切り替わる。
──新しいプロジェクトに取りかかる際、ソングライティングのために特別な環境を用意されるのでしょうか?
ネクター:基本的には誰かと一緒に、あるいはスタジオで書くことが多いんですけど、大事なのはその日をどう始めるか、なんです。それが歌詞にも影響してきます。スタジオに入る前に、自分だけの数時間を必ず作るようにしています。それが長めの散歩をしながらスタジオに向かうことだったり、コーヒーを買いに行って、静かな時間を持ってから入ることだったり。スタジオは楽しい場所ではあるんですけど、同時にすごく集中力を要する場所でもあって。だからその前に、自然の中や身の回りの環境に触れておきたいんです。


──このプロジェクトの核になっている曲は、やはり「Naturally」でしょうか?
ネクター:そうだと思います。でも「Wine Into Water」もそれと同じくらい核になっていますね。
──エルトン・ジョンとコラボした「Wine Into Water」についても教えてください。以前から、彼はあなたの音楽を高く評価していたそうですね。
ネクター:そうなんです。もう4年前、最初のプロジェクトを出した頃から、彼はずっと私の音楽を評価してくれていて。1年前、私がガーナで曲を書いている時にビデオ通話をしたことがあって、その時もすごく優しくしてくれました。この曲は去年の6月頃に書いたんですけど、あまりに感情が動いてしまって、しばらく自分でも聴けなかったんです。それが改めて浮かび上がってきた時に、「彼にピアノを弾いてもらえないか頼んでみよう」と思って。断られる可能性もあったけど、受けてもらえる可能性もある。それで彼のマネジメントにメールを送ったら、「やろう」と返事が来ました。実際にスタジオに入って一緒に録音したんですけど、本当に信じられない経験でした。彼の仕事ぶりは、やっぱりすごいです。
──間近で彼の仕事ぶりをご覧になって、いかがでしたか。
ネクター:未だに、自分の身体や頭がその出来事を完全に理解できていない気がします(笑)。信じられない経験でしたけど、同時にすごくリアルで、勇気をもらえる出来事でもありました。「みんな結局は同じなんだ」って思えたんです。彼は本当に素晴らしい人で、クリエイターとしても素晴らしい。あれだけ長いキャリアを重ねてきた今でも、あんなに音楽に対して意欲的でいられるのを見られたことが、本当に刺激になりました。自分の音楽だけに興味があるわけじゃなくて、本当にたくさんの音楽を聴いている人なんです。まさにキュレーターですね。それを見ていると、「自分の技術を磨き続けよう、新しい音楽に触れ続けよう」という気持ちになります。

──あなた自身は、主にどこで新しい音楽を見つけていますか?
ネクター:ほとんど配信サービスとYouTubeですね。YouTubeが好きなのは、ライブ映像から新しいアーティストを発見できるから。かっこいいライブ映像を見つけたら、そこから「これは誰の曲だろう」って調べるのを結構前からやっています。ロンドンのレコード・ショップもすごく素敵なんですけど、ニッチなアーティストを見つけられるお店はごく一部で、多くはメインストリームなものが中心になっている印象です。だから、やっぱり配信サービスが多いですね。
──最近発見して、気に入っているアーティストは?
ネクター:DAMEDAME*。最近出たアルバムが本当に気に入っています。ロンドンを拠点にしているデュオで、本当に素晴らしいです。彼女たちのことも、アルバムも大好きです。
──最後に、何も予定のない、のんびりとした一日は、どのように過ごされるのでしょう。
ネクター:ああ、この質問大好きです(笑)。だいたい10時くらいに起きて、しっかり寝坊して。その後は朝のうちに運動するようにしています、そうしないと絶対にやらなくなっちゃうので。トレーニングに行くか、小さくても意味のある朝食をちゃんと用意するか。ジムに行く時は、好きな曲をガンガン流します。アップテンポな曲ばかり。ジムって正直しんどいけど、終わった後の気持ちよさがあるんです。それが終わったら、ショーディッチにあるお気に入りのカフェまで歩いて、コーヒーを買って。天気がよければ、公園で本を読んだり、少し日を浴びたりしてゆっくりします。家に帰ったら、いい食材を買い込んで、ゆっくり遅めのランチを作る、という感じですね。
























