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<インタビュー>SPACE SHOWER FUGA田中聡代表取締役社長 日本の音楽業界とアーティストの、海外への“入り口”になる

Interview & Text:柴那典
Photo:堀内彩香
2021年の設立から5年を迎えたSPACE SHOWER FUGA。スペースシャワーネットワークとオランダのFUGAが手を組み、日本の音楽コンテンツを世界に届けるディストリビューターとして歩んできた。
今回は、今年の【Billboard Global Power Players】にも選出されたSPACE SHOWER FUGA代表取締役社長の田中聡氏に、SPACE SHOWER FUGAの成り立ちや田中氏のキャリア、ディストリビューターとしてのビジョンについて話を聞いた。
――SPACE SHOWER FUGAは2021年の設立から5年が経ちました。音楽シーンやビジネスのあり方も大きく変わったと思いますが、振り返っていかがでしょうか?
田中:僕自身はもともとメディア側の人間で、スペースシャワーTVで番組制作などに携わってきました。ディストリビューション事業に関わるようになったのは、ここ4年ほどです。 スペースシャワーはもともとメディアとしてスタートした会社でしたが、2006年にスリーディーシステムを連結子会社化し、BounDEEに社名変更して、インディーズのディストリビューション事業に参入しました。当時はフィジカルが主流でしたが、2018年頃から、海外のパートナーを見つけないと難しいという状況になってきました。
その大きな要因はシステムの問題です。DSPが増え、進化してきたので、国内のシステム会社ベンダーを使って配信システムを構築し、そこにコンテンツを乗せて配信するという形が限界に来ていました。設立前の段階で、日本独自でやっていくのは厳しい、海外のパートナーが必要だという判断があり、FUGAを選んだわけです。そこからの5年で、日本のコンテンツが海外から求められるようになり、日本のアーティストたちも海外に活路を見出さないと厳しい状況になってきた。JVを作るという判断を進めた前任の人たちが作ってくれた道が正しかったと思っています。
――田中さんのこれまでのキャリアについても聞かせてください。もともとスペースシャワーTVで番組を作る側だったとのことですが、どのようなお仕事をされてきたのでしょうか?
田中:いろんな番組をやっていましたが、特に20代~30代の頃に僕が注力していたのは「Black File」他、ヒップホップ関連の番組でした。Kダブシャインさん、RHYMESTERの宇多丸さんが出演する『第三会議室』というラッパーによる時事放談のコーナーの他、若手のラッパーを紹介する様々な企画に取り組みました。その頃から、まだ世に出ていない、ニッチだけれど面白いジャンルのアーティストの番組や企画に携わってきました。その時にやっていたことが、今の自分の原点に近いかもしれません。
その後は編成という部署で仕事をしていました。年間の予算管理をして、番組の制作やプロモーションの企画を決める部署です。その時には『STATION ID』というスペースシャワーTVのメッセージを伝える映像コンテンツを、MAJでも受賞された田中裕介さんをはじめとするMVクリエイターの方々と作っていました。EYESCREAMのデジタル立ち上げ、経営企画室を経て2022年にSPACE SHOWER FUGAに参画したというキャリアです。
――SPACE SHOWER FUGAに田中さんが加わった時点では、どんな問題意識がありましたか。
田中:SPACE SHOWER FUGAは、FUGAとの連携を生かし、海外展開を目指す楽曲やアーティストを支援するサービスとしてスタートしました。サービスをご案内していくなかで、従来からお付き合いのあるインディーズのレーベルやアーティストだけでなく、より幅広いジャンルの企業にも需要があるのではないかと感じるようになりました。特に、ゲームやアニメなどのIPを持つ企業です。そうした企業の多くは、それまで国内を中心にサービスを展開するディストリビューターを利用していました。私たちは、FUGAが持つ海外拠点や各地域のネットワークを組み合わせることで、海外展開において新たな選択肢を提供できるのではないかと考えました。
一方で、スペースシャワーは音楽専門チャンネルを出自とし、ディストリビューション事業についても「インディーズを中心に扱う会社」というイメージが社内外に強くありました。そのため、私たちが実際に提供できるサービスと、従来のイメージとの間には、少しギャップがあったと思います。そこで、ゲームやアニメをはじめとする新たな領域の企業にも積極的にアプローチし、SPACE SHOWER FUGAの顧客層を広げていこうと社内で話し始めました。それが、この2、3年で取り組んできたことです。

――設立から5年をむかえられたとのことですが、改めてSPACE SHOWER FUGAは、日本の音楽市場でなぜ「ジョイントベンチャー」という形を選択したのでしょうか。
田中:実はFUGAは、SPACE SHOWER FUGAの設立前の2018年頃から、日本で独自にサービスを展開することを検討していたようです。その時点ですでにいくつかのクライアントを獲得していましたが、FUGAのシステムを日本に持ち込むだけでは、事業を大きく広げていくのは難しいと考えたのだと思います。日本の音楽市場は世界有数の規模ですが、同時に日本独自の商習慣が多かったり、人と人との繋がりが重要視される特殊なマーケットでもあります。
FUGAの特徴は、自社でディストリビューションを行うだけでなく、他のディストリビューターやレーベルに対して、配信システムやデータ分析、マーケティングなど、必要な機能を柔軟に提供できることです。一方で、その仕組みを日本市場に定着させるためには、日本の音楽業界やクライアントのニーズを理解し、日々の運用を支えられるローカルパートナーが必要でした。また先ほどお伝えした通り、スペースシャワー側にも、国内の基盤だけでディストリビューション事業を成長させていくことには限界があるという問題意識がありました。海外への配信ネットワークだけでなく、今後の事業成長に必要なシステムやデータ基盤を自社だけで開発し、継続的にアップデートしていくことは容易ではありません。
そこでFUGAの海外のモデルをそのまま持ち込むのではなく、日本の音楽業界を深く理解するスペースシャワーの知見と、FUGAのグローバルインフラを融合させることが、日本市場にとってより良い形ではないかと考え、双方の課題と方向性が一致し、2019年頃から協議を始め、約2年半をかけてジョイントベンチャーであるSPACE SHOWER FUGAの設立に至りました。この5年間は、FUGAのテクノロジーを日本市場に合わせてローカライズしながら、日本のパートナーの皆さまにとってご利用いただきやすいサービスを提供できるよう努めてきました。
――ディストリビューションサービスを誰でも利用しやすい状況である今、御社ならではの価値をどう考えていますか?
田中:おっしゃる通り、配信そのもののハードルは下がってきています。だからこそ、私たちが価値を提供できるのは、「配信した後にどう成長につなげるか」だと考えています。特に近年は、音楽レーベルやマネジメント会社様だけでなく、アニメやゲームなどのIPホルダーの皆さまとのお取り組みも増え、国内だけでなくグローバル市場を見据えた戦略設計へのニーズが高まっています。
そうしたニーズに対し、FUGAのテクノロジー基盤やデータ分析力と、スペースシャワーが長年培ってきたネットワークや日本市場への知見を掛け合わせ、リリース設計からDSPマーケティング、データ分析までを一気通貫でサポートしています。また、その土台となるのが、正確な権利情報やメタデータの管理です。配信先やAIによるコンテンツ活用が広がる中で、メタデータの品質は楽曲の発見性や収益性にも大きく影響します。華やかなマーケティングだけでなく、こうした基盤を丁寧に整えることも、長期的な価値を生み出す重要な役割だと考えています。
SPACE SHOWER FUGAの可能性とは

――競合他社と比較した際に、SPACE SHOWER FUGAの差別化要因はどこにありますか?
田中:サービス面で申し上げると、一つはDSPとの直接契約モデルとアグリゲーションモデルを組み合わせた「ハイブリッド型」の提供です。我々のクライアントの中には、一部のDSPとはすでに直接契約を結ばれ、その他のDSPへの配信ソリューションのみを必要とされるケースもあります。そのような場合には、既存の契約を活かしながら、当社のアグリゲーションサービスを組み合わせてご利用いただくなど、それぞれの事業形態やニーズに合わせた最適なご提案をしています。
もう一つの強みは、FUGAのグローバルネットワークを活用したサポート体制です。私たちは世界各国のFUGAチームと日常的に連携しており、日本の作品やアーティストの魅力を深く理解した上で、現地スタッフが各国のDSPに対して直接ピッチを行うことができます。
また、海外公演や現地プロモーションのタイミングには、各国のチームと連携しながら、マーケティング施策やDSPとのコミュニケーションまで一貫してサポートすることも可能です。単に楽曲を配信するだけでなく、各市場に根差したチームとともにアーティストの展開を支援できることは、私たちならではの強みだと考えています。
――では、スペースシャワーSKIYAKIホールディングスというグループの中でのSPACE SHOWER FUGAの位置づけや役割についてはどうでしょうか。
田中:SPACE SHOWER FUGAのようなディストリビューションの事業は、パートナーとなる会社やクリエイター、アーティストにとっての入り口に近いところにいると思います。なので、グループにおける役割を考えるならば、ここで成果を上げたアーティストが、いずれフェスへの出演やファンクラブの開設へと進んでいく際のハブになっていかないといけないと思います。
――SPACE SHOWER FUGAを、今後どのような存在にしていきたいと考えていますか?
田中:音楽配信そのものは、以前に比べて誰でも利用しやすい時代になりました。ディストリビューションサービスも数多く存在し、競争が激しくなっています。だからこそ、これからは単に音源を配信するだけでなく、その先に何ができるのかが問われる時代だと思っています。その点で、スペースシャワーは、もともと配信事業とは異なる領域からスタートした会社です。ライブハウスを運営し、フェスを開催しているほか、メディアやファンクラブの機能も持っています。たとえば、ライブ活動を広げたいアーティストに新たな機会を提案したり、グループ内で情報を共有しながらマーケティングを支援したりすることができます。
現在、そうした機能をより横断的に活用していくことも、今後の可能性の一つだと考えています。こうしたグループ内の機能やネットワークを活用することで、SPACE SHOWER FUGAには、単に音源を配信するだけでなく、クライアントの活動をより幅広く支援できる可能性があると考えています。
もう一つ大切にしたいのが、FUGAの海外メンバーに、実際に日本の音楽市場やカルチャーを体験してもらうことです。先日の「MUSIC AWARDS JAPAN」にも、オランダ、アメリカ、韓国、オーストラリアなどからFUGAのメンバーが来日しました。海外にパートナーがいるというだけではなく、実際に日本に来てもらい、アーティストのライブを観たり、クライアントと直接話したり、日本の音楽業界の空気に触れてもらう。そうした体験を重ねることで、日本のコンテンツや市場への理解が深まり、より具体的で実効性のある提案につながっていくと思います。オンラインで情報を共有するだけでは得られない理解を、実際の体験を通じて深めてもらう。そうした機会を継続的につくり、日本と海外の双方に新しい展開を生み出していくことも、SPACE SHOWER FUGAが果たすべき重要な役割だと考えています。

























