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<インタビュー>切実な言葉を求める瞬間――前島亜美が語る文学への激しい傾倒と音楽への還元【WITH BOOKS】

インタビューバナー

Interview & Text: 成松哲
Photo: 堀内彩香


 書籍や文筆と縁深いアーティスト、また音楽と縁深い作家へ、自身の書籍や音楽とのかかわりについて訊くインタビュー企画【WITH BOOKS】。今回登場するのは、声優でアーティストの前島亜美。

 幼少期から本の虫だったという彼女は、恩田陸作品との出合いを機に立派な文学オタクに。今では特に純文学を中心に敬愛する作家の著作はすべて読み漁り、インタビュー記事や出演するテレビ、ラジオ、動画、音声番組ももれなくチェック。さらにサイン会に通うのはもちろんのこと、彼らのエッセイや発言に出てきた作家の作品ももれなく読破することで、その趣味の幅を拡げ続けている。さらに最も敬愛するという中村文則との対談を自ら企画し、オールジャンル文芸誌『スピン/spin』(河出書房新社)に中村の小説『銃』についての想いを寄稿している。

 前島亜美はなぜ文学・文芸に激しく傾倒し、作家の言葉を追い続けるのか? そして彼らの作品が彼女の芸能活動に与える影響とは? じっくり話をうかがった。

「とても素晴らしい読書体験」
――中村文則との出会い

――読書が趣味や習慣になったのっていつ頃なんですか?

前島亜美:物心ついた時には本に触れていましたね。小さい頃は祖父母と過ごす時間が多かったんですけど、祖母がすごく本が好きで「本を読んだほうがいい」と教わっていたし、よく買い与えてくれていたんです。だから本……特に小説はずっと楽しく読んでいたんですけど、最初に「この方だ! 見つけた!」となった作家さんは恩田陸さん。『三月は深き紅の淵を』(1997年/講談社)にドハマリして「恩田さん大好き」となって、過去の著作は全部読んだし、『蜜蜂と遠雷』(2016年/幻冬舎)なんかももちろんなんですけど、新作も発売されたらすぐに読むようにしています。


――あっ、好きな作家を見つけたらすべての作品を追いたくなる?

前島:作品だけじゃなくて、全部追います!


――全部?

前島:小説やエッセイはもちろん、インタビュー記事、ブログやSNSの投稿も読むようにしていますし、映像メディアや音声メディアも……。テレビやラジオやYouTubeやPodcastに出演なさっているならその番組も視聴できるものはすべて視聴するようにしています。


――全著作をチェックするほど好きな作家は当然恩田さんだけでは……。

前島:ないですね。小説家であれば中村文則さんや又吉直樹さん、村田沙耶香さん、凪良ゆうさん、歌人なら俵万智さんや鈴木晴香さん、岡野大嗣さん、木下龍也さんは大好きなので作品は全部読んでいるし、ご出演なさっている番組やインタビューも可能な限りすべて追いかけています。


――又吉さんなんて作家としてはもちろん、芸人としてもバリバリメディアに露出しているから追いかけるの大変じゃありません?

前島:でも追いたいんです! 又吉さんがパンサーの向井(慧)さんとサルゴリラの児玉(智洋)さんと一緒にNHK AMで『又吉・児玉・向井のあとは寝るだけの時間』という本当に素晴らしいラジオ番組をなさっていて、その公開収録が6月に名古屋であったんですけど、それに行きたくて行きたくて……。観覧募集に応募したのに外れてしまったことが最近一番悔しかったできごとなんですけど、そのくらい好きな作家さんの言葉はすべて読みたいし、聞きたいんですよね。



――あっ、実際に作家を観ることができる“現場”にも積極的に通われているんですね。

前島:はい。一昨年、中村文則さんと対談させていただいたんですけど、そのきっかけは中村さんの『列』(2023年/講談社)の刊行記念サイン会に私が参加したからですから。そこでファンレターをお渡ししたら名前を覚えていてくださって。「じゃあ対談しましょう」と私のオファーを受けていただきました。


――おーっ、作家を追いかけていた結果、仕事にもつながった! ……とはいえ、そういう下心あふれる理由で追っているわけでは……。

前島:ないですね(笑)。小説の読み方には2パターンあって、作家さんのことはあまり知りたくない。パーソナルな情報は入れずにフラットに作品そのものを鑑賞しようというタイプと、その逆に作家さんの人となりを知った上で、どうやってこの素晴らしい作品が出力されたのか? すらも多角的に知りたいタイプがいると思うんです。


――前島さんは完全に後者ですね(笑)。

前島:はい(笑)。確かにお芝居や作詞などの表現をする者の端くれとして尊敬すべき作家さんのすべてを自分の活動の参考にしたいという思いもあるんですけど、それ以上に私には日々暮らしていくため、生きていくために切実な言葉を求める瞬間がある……というか、常に求めて暮らしている面があって。そして作家さんはみなさん言葉のプロだから、小説や短歌やエッセイはもちろん、インタビューやテレビ・ラジオの番組での発言であってもそのひと言ひと言に無駄が一切ない上に、そのすべてが切実で熱量が高くて、しかも思慮深い。だからこそ「言葉萌え」っていうとちょっと軽すぎるんですけど、でも敬愛する作家さんの言葉は聞き漏らしたくないんです。あと、特にエッセイやインタビューがそうなんですけど、好きな作家や最近読んだ作品を紹介していることが多いから、私の読書の世界が拡がるんですよね。


――前島さんが好きな作家が好きな作品や影響を受けた作家なら、まず間違いない。ハズレを引くことはなさそうですもんね。

前島:そうなんです。舞台でのお仕事をしていることもあって、もともとドストエフスキー作品を読んだことはあったんですけど、より深く読み込む面白さは中村さんに教わりました。今も古今東西、いろんな文学作品を読んでいますけど、特に海外文学についてはさっき挙げた、好きな日本の作家さんの影響で読んでいることが多いですね。



――今回、前島さんには座右の一冊……おそらく切実で思慮深い言葉の詰まっているであろう文学・文芸作品をお持ちいただいたんですけど、正直、その選書にはビックリしました。

前島:そうですか?


――まず5冊あって……。

前島:あはははは(笑)。


――しかもその内訳は小説1冊と歌集2冊と戯曲2冊。そのラインナップを見た瞬間「前島亜美は本物の読書家だ」と確信させていただきました。

前島:ありがとうございます(笑)。


――ここからはぜひ1冊ずつ紹介してください。まずはまずは中村文則の『何もかも憂鬱な夜に』(2009年/集英社)。今日も再三名前が出ている作家です。

前島:今回はこの作品と中村文則さんを激推ししたくて、この企画に出させていただいていると言っても過言じゃなくて(笑)。中村作品との出合いは10年以上前。『掏摸』(2009年/河出書房新社)を読んでいて、それはそれでとても素晴らしい読書体験だったんですけど、がっつりハマるきっかけになったのがこの『何もかも憂鬱な夜に』で。あまりの素晴らしさに「この作家さんはどういった方だろう?」「あっ、『掏摸』の方だ!」となって、それ以来、もうガッツリ。例によって全著作はもちろん、インタビューやメディアでの発言もすべて追いかけているし、「毎日新聞」の連載(「中村文則の書斎のつぶやき」)も毎回読んでます! で、この本との出合いについては岡山の書店員さんに本当に感謝をしなくてはいけなくて……。


――書店員に感謝?

前島:舞台の地方公演で岡山にいたときに、また切実な言葉、純度100%の言葉に触れたくなることがあって書店に行ったら、店員さんがこの本をすごくプッシュしてくれたんです。冗談抜きで、あのときあの方が『何もかも憂鬱な夜に』に巡り合わせてくれなかったら、私はどうにかなっていたかもしれない。そのくらい考えること、思うことが渦巻いていたからこそ書店員さんには本当に感謝しているし、この本は私と文学の向き合い方を変えてくれた1冊でもあるんです。


――向き合い方?

前島:それまでの私にとって優れた文学作品は文字どおりフィクション。物語の中で描かれているのは主人公たち他者のストーリーであって、私はそれを時には楽しんで、時には感動して、時には怒ったり悲しんだりしていたんですけど、『何もかも憂鬱な夜に』は「これは私の話だ!」と思わせてくれたんです。


――前島さんを始め、多くの読者が抱えているであろう事情や思いが当事者性をもって描かれていた?

前島:しかも当然のことではあるんですけど、私の心の中にあった自分には言葉にできなかった感情や何かを本当に深遠な言葉で世間や人生を切り取っていたんです。人間や世界というものについてとにかく徹底的に検討して、言葉の地層をとにかく深く深く掘り進めた上で見つけた言葉で描き出しているから、ただただ「スゴい!」となりました。


――主人公は養護施設出身の刑務官で、担当する控訴期限切れ間近の死刑の未決囚の姿を通じて、施設時代の記憶や混沌とした感情のようなものと向かい合って、ひいては生と死のありようを模索するお話ですよね。最後に希望を感じさせてくれはするものの、基本的には物語全編に絶望や悪が横たわり続けているから、これが「私の話」なのはやっぱり意外です。

前島:本当にこの本には助けられています。芸術や芸能の世界に携わる人間としては、「誰に対しても文化や芸術は平等に開かれていて、人はこの世に存在するあらゆる素晴らしい文化・芸術に触れる権利がある」という気づきを与えてくれたし、なによりも友人・真下の遺品のノートは本当に心が震えました。真下は、絶望や混乱や悪に巻き込まれながらもそれを言葉で記録しようとしていたし、ちゃんと光を見出そうともしていた。実は私も真下のノートに書かれていたようなことを書いていたことがあったからこそ、余計にあのノートの一節を読んだときには涙が止まらなかったんです。


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  1. 自身の作詞活動に繋がる歌集2冊と戯曲2冊
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自身の作詞活動に繋がる歌集2冊と戯曲2冊


――そして2冊目にセレクトしていただいたのが、26人のがんサバイバーあの風プロジェクト『黒い雲と白い雲との境目にグレーではない光が見える』(2021年/左右社)。そもそも短歌との出合いは?

前島:谷川俊太郎さんと、最初にお話ししした岡野大嗣さん、木下龍也さんという2人の歌人が連詩・連歌する共著『今日は誰にも愛されたかった』(2019年/ナナロク社)を読んで「短歌はスゴいぞ!」となって、木下さんの『きみを嫌いな奴はクズだよ』(2016年/書肆侃侃房)であったり、おふたりの歌集もすべて読んでいるし、やっぱり最初にお話ししした俵万智さんや鈴木晴香さんの作品も追うようになりました。


――文字数が決められている短歌や俳句は、まさに無駄を許さない言語表現だけに前島さんにはフィットしそうですね。

前島:歌人のみなさんって、たった31字、三十一文字(みそひともじ)で本質的かつ豊かに世界や自分のことを表現できるのがすごいんですよね。あと、おこがましいかもしれないんですけど、私がやっている作詞にもちょっと近いというか。


――音符の数によって使える文字数が決定されるわけだから。

前島:そうです、そうです。なので作詞活動を始めるようになってから、より短歌の凄みを感じています。


――そして『黒い雲と白い雲との境目に〜』は著者名のとおり。治療中であったり、治療後であったり、癌サバイバー……つまり癌の当事者の女性26人による歌集です。

前島:女性サバイバーの方々が岡野さんの特別レッスンを受けて詠んだ300首の中から厳選された26首と、みなさんの癌の体験談が載っているんですけど、作品として好きなのはもちろん、命と真剣に向き合ったことのある方の言葉にはやはり敬意を払わざるを得ないというか。岡野さんをきっかけに知った歌集ではあるんですけど、26首全部の言葉のが真摯で。「シャンプーよ 生命保険よ マスカラよ 戦う私が買うと思うな」という歌が一番好きなんですけど、切実かつ熱量の高い表現しかここには載っていないんです。


――そして前島さんが推すもう1冊の歌集は萩原慎一郎『歌集 滑走路』(2017年/角川書店)。中学・高校時代のいじめを機に不登校になっていた17歳で歌壇デビューして、多くの賞を受賞して評価を集めるも、32歳のときにいじめに起因する精神的な不調で自死を選んだ萩原の、その死の直後に発表された第一歌集です。

前島:短歌を追いかけているうちに出合った1冊なんですけど、「ぼくたちは 他者を完全否定する 権利などなく ナイフで刺すな」という歌を読んだ瞬間、ボロボロ泣いてしまって……。当然私にも誰かを完全否定する権利なんかないし、反対に私自身12歳で芸能活動を始めて以来、少なからず他人の悪意や攻撃に晒されることもあっただけに、切実に人生を生きてきた荻原さんから出てきたこの言葉は心に刺さりすぎるくらい刺さったんです。荻原さんがこういう言葉を私たちに遺してくれたことに本当に感謝しています。



――残る2冊は戯曲。トム・ストッパード著・小川絵梨子訳『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』(2017年/ハヤカワ演劇文庫)と、ジャン・アヌイ著・岩切正一郎訳の『ひばり』(2007年/ハヤカワ演劇文庫)といずれも海外作品です。

前島:まず『ローゼンクランツと〜』のことからお話ししたほうがいいと思うんですけど、訳者で演出家、新国立劇場の演劇部門の芸術監督の小川絵梨子さんとは『ダディ(DADDY)』(2020年)というお芝居でご一緒したことがあって。以前からたくさん舞台を鑑賞させていただいているくらい、小川さんは憧れの演出家だったので、その時夢が叶ったんですけど、やはりものすごい方だったんです。しかも小川さんは『ローゼンクランツと〜』の演出や翻訳だけでなく、『レオポルトシュタット』(2022年)というトム・ストッパード作品の演出も手掛けていて、これがあまりにも素晴らしくて。3度観に行くくらい好きだったので、同じくトム・ストッパード作品で小川さんが翻訳した『ローゼンクランツと〜』の戯曲を読んでみたら、やっぱりあまりにも素晴らしかったので、今回選んでみました。


――『ローゼンクランツと〜』はシェークスピア『ハムレット』の負けキャラ、死にキャラ2人にフォーカスを当てたスピンオフ的な喜劇で、日本でもまさに小川演出で生田斗真と菅田将暉が共演したりと人気のお芝居です。

前島:トム・ストッパードの脚本が、小川さんならではの言葉で訳されているのが本当に素敵で。小川さんのクリエイティブに対する姿勢は『ダディ(DADDY)』でご一緒したときに実際にこの身で体感して、それがまさにこの本には記録されていて。一歩も譲らないし、妥協を許さない方ならでは、ひと文字たりとも妥協していない言葉だけが並んでいるんです。


――たとえば印象に残っているセリフってあります?

前島:「一貫性、それさえあれば何もいらない」というギルデンスターンのセリフや「お前って偏見の塊だね」「そうなる経験をしてきているから」というやり取りが大好きで。まず言葉のリズムが素晴らしい上に、私自身もそうだし、みなさんにも思い当たるところがあるんじゃないかなと思うんです。


――確かに我々はなぜ偏見を持ってしまうのか? その偏見の形作られ方をたったひと言、それも平たい日本語で言い当てています。

前島:読者としても、役者としても本当に心が震えました。


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  2. 文学や演劇の影響――二幕構成のアルバム『POLYPHONY』
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文学や演劇の影響――
二幕構成のアルバム『POLYPHONY』

――前島さんって本当に一貫してますよね。中村文則などの全仕事をチェックしていた結果、ドストエフスキーの魅力を再発見したように、同じく敬愛している小川絵梨子を追いかけていた結果、海外の優れた戯曲に巡り会っている。

前島:曖昧に愛することができないというか、好きになった人の人生は徹底的に知りたくなってしまうんです(笑)。もう1冊の『ひばり』も小川さんに「あなたには『ひばり』が似合う」と勧められて出合った1冊ですから。


――処刑裁判中のジャンヌ・ダルクが、天啓のようなものを受けて革命に身を投じた生涯を振り返る劇中劇。ジャンヌを最終的に火あぶりに遭う悲劇のヒロインとしてではなく、大空を自由に飛び回るひばりになぞらえています。

前島:初めて読んだとき号泣したくらい、『ひばり』の中で描かれているジャンヌ・ダルクが大好きで。あの作品の中で彼女という存在が放っていた光は私にとって大きな支えになっています。無邪気だし素朴だし可憐なんだけど、「何かが黒い時、それを白とは言えない」と言ってみたり、絶対に自分を曲げない強い信念を持っている。その気高さに共振した……というと生意気かもしれないんですけど、間違いなく憧れています。今度リリースされるアルバム『POLYPHONY』で「Jeanne d’Arc」という曲を作詞してしまうくらい影響を受けた1冊、文字どおり人生を変えられた1冊なんです。ジャンヌ・ダルクは視点によってその輪郭が変化する存在。人物像には諸説あるし、いろんな方が研究しているから、作詞するときには彼女について可能な限りいろんな文献に当たってしっかり勉強したんですけど、それでもやっぱり『ひばり』の中で描かれているジャンヌ・ダルクが一番魅力的な存在で。小川さんが「似合う」と言ってくださったことがとても光栄だったので、ああいう信念を強く持った存在になりたいから、今回は『ひばり』の中の彼女のようなジャンヌ・ダルクについて描かせてもらいました。


――その「Jeanne d’Arc」のリリックに限らず、前島さんの新作『POLYPHONY』ってそこに文学作品の影響を感じさせるアルバムですよね。

前島:そうですね。アルバムタイトルもドストエフスキーに関連したキーワードもあるんです。『POLYPHONY』(ポリフォニー)はもともと複数のメロディラインが対等に絡み合いながら進行する「多声音楽」という形式のことを指す音楽用語なんですけど、ミハイル・バフチンというロシアの哲学者で文芸評論家がドストエフスキー作品を「ポリフォニー」と評したんです。



前島亜美 2nd Album『POLYPHONY』全曲試聴動画

――今作に収録された10曲で歌われていることは必ずしもひとつのメッセージを届けるためのものではないし、ひとつの正解を指し示しているわけでもない?

前島:そうですね。聴く方に自由に解釈していただきたいし、好きなように楽しんでもらいたいと思っています。


――そしてアルバムは二幕構成。その多声的なメッセージ、つまりは楽曲をアナログレコードやカセットテープのようにA面とB面で括るのではなく、前半5曲を第1幕、後半5曲を第2幕としています。

前島:確かにA面とB面ではなく第1幕、第2幕という構成にしたのは文学や演劇の影響ですね。収録曲を並べてみたらちょうど私が作詞した曲が半分、5曲あることに気づいて。であるならば、それをひとまとめにしたトラックリストにしようと思って、第1幕はほかの方に歌詞を書いていただいた5曲、第2幕には自作詞曲を集めてみました。第1幕は5曲中3曲がアニメタイアップだったりもするので、第1幕と第2幕は本当に色合いが違っていて。我がことながらそこも面白いな、と思っています。


――自作詞曲はもちろん、ほかの作詞家が書いた曲についても前島さん自身、作家やデモの選考に携わっているんですよね。

前島:はい。前島亜美名義で歌う曲は、本当に好きな音と言葉しか詰まってないですね。今回のアルバムの第1幕の1曲目「女神Stay Gold!」を作詞作曲してくださったつんく♂さんについては、私が指名してスタッフさんにオファーしていただきました。


――それはなぜ?

前島:実は20年前、ハロプロのオーディションを受けたことがあって、そのときは残念ながらご縁がなかったんですけど、その頃から今までずっと、つんく♂さんの作る人生賛歌がものすごく好きだったので。20年の時を経てご一緒できることになったからにはということでやっぱり「人生賛歌を」とオーダーしたら、まさに私の大好きなつんく♂節でエールを贈っていただけて。本当に感謝しています。あと第1幕の3曲目、BNASSさんに提供していただいた「DAI SUKI」も新曲なんですけど、これもまずは歌詞に惹かれまして。強気な女の子っぽい言葉が紡がれているんだけど、その裏には「大好きだから、こんな態度、スタンスになっちゃうんだよ」という想いが隠れている。その裏腹な感じが多声的、ポリフォニー的で非常に好きなのと、あとサビの中に<雨の日 気圧に弱いのよ>というフレーズがありまして……。


――歌の文句としてはかなり珍しい言葉が散りばめられているけど、なかなかなパンチラインですね(笑)。

前島:しかも私、実際に低気圧に弱くて(笑)。その歌詞のヒロインと私の意外な共通点も面白くて選ばせてもらいました。


――そして5曲とも前島さんの自作詞曲の第2幕は先ほどからお話に出ている『ひばり』に着想を得た「Jeanne d’Arc」で幕を開けます。

前島:「Jeanne d’Arc」の歌詞って500〜600文字くらいなんですけど、歌詞を書く前にまずジャンヌ・ダルクに対する自分の想いを文章にしてみたらなぜか3万字にまで膨れあがりまして……(笑)。今回の歌詞はその3万字からギュッとエッセンスを抽出した500文字だけに1単語……いや、1文字たりとも見逃さずに味わっていただけるとうれしいですね。


――「Jeanne d’Arc」における『ひばり』のように文学・文芸に着想を得て歌詞を書くことは……。

前島:自分が言葉と向き合う姿勢をチューニングするために好きな作家さんの作品を読むことはあるけど、その作品にストレートに影響を受けて歌詞を書いたのは「Jeanne d’Arc」が初めてです。


――となると、アニメのタイアップ曲である「完璧じゃないわたし」は別として、「五月雨」「Inner speech」「優良物件証明歌♡」の歌詞はなにをきっかけに生まれたんでしょう?

前島:「五月雨」に関しては唯一、制作チームから歌詞のテーマのオーダーがありました。それが「夏」「恋愛」「切なさ」だったので、夏の季語である五月雨が降る中、傘を差しかけてもらったというその一瞬の情景をイメージして書きました。そして「Inner speech」と「優良物件証明歌♡」はどちらも以前からいつか書きたいと思っていたテーマを歌っています。


――「Inner speech」で伝えたかったことって?

前島:「Inner speech」は内言語……実際に声や文字で表現する言語ではなく、思考するために頭の中に思い浮かべる言語のことで、そういう自分の中だけにある言葉を駆使して思考することって私にとってはすごく大切なことなんです。しかも頭の中で思考するための内言語と、それを土台に発せられる外言語の両方を駆使してコミュニケーションしている私たちの姿って『POLYPHONY』というタイトルともすごく親和性が高いな、とも思ったので、バラードに乗せて日々私が胸の内で考えていることを表現しながらも、君という名の、日頃応援してくれているファンのみなさんにそっと寄り添う物語を描いてみました。で、「優良物件証明歌♡」については、このタイミングで私が優良物件であることを笑顔で明るく愉快に言っておきたかったんです。どうしても。


――ストレートにうかがいますね。なんで?

前島:あはははは(笑)。前作のアルバム『Determination』(2024年)のときヒャダイン(前山田健一)さんに「職業:あみた」(編註:あみたは前島のニックネーム)という非常に愉快な曲を作っていただいたので、今回も前島亜美という人を愉快に紹介する“あみた曲”シリーズは収録しておくべきだろう、ということになり……。


――今回は「私は優良物件なんだ」と主張してみた?

前島:思いっきり書いて、思いっきり歌ってみました(笑)。


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私の作詞史上最短で書き上げることができました


――そしてアルバムのラストを飾る「完璧じゃないわたし」は出演もなさっているアニメ『才女のお世話 高嶺の花だらけな名門校で、学院一のお嬢様(生活能力皆無)を陰ながらお世話することになりました』(『才女のお世話』)のエンディングテーマで、前島さんは初めてアニメのタイアップ曲の作詞を手掛けています。タイアップ曲を書くときって100%アニメのことだけを歌うものなんですか? それともアニメとの共通点や共感可能なポイントを見つけて、ご自身のメッセージも歌詞には込めている?

前島:ソロデビューが決まったときレーベルの大先輩である水樹奈々さんに2つの言葉をいただきまして。ひとつが「キングレコードのアーティストは金メダルを獲るんだよ」ということで、もうひとつが「タイアップ曲の作詞をするときはキャラクターソングにならないように」。ちゃんと前島亜美の歌として成立するように自分の視点や想いを乗せなさいと言葉をもらったので、まずは原作と共鳴できるポイントを探しました。


――『才女のお世話』と前島さんはどんなところで共鳴し合えたのでしょう?

前島:タイトルのとおり「完璧じゃない」ところですね。ヒロインの此花雛子は表向き完璧を装ってはいるけど、全然完璧ではないキャラクターだし、私ももちろん完璧ではないですから。共鳴できるということは心を動かされるということだし、心を揺さぶられるような素晴らしい原作に出合えたこともあって、私の作詞史上最短で書き上げることができました。


――一方、サウンドってどういう基準で選んでいるんですか? 歌詞とメロディはつんく♂節全開の人生賛歌「女神Stay Gold!」のアレンジがけっこう渋いドラムンベースだったり、ほかにもオーセンティックなギターロックあり、ファンキーな高速ディスコあり、デジタル感の強いハードロックナンバーありと、すごくカラフルなアルバムに仕上がっていますよね。

前島:どれも完全に私の好みですね。ただ、楽曲を選ぶ基準はその時々によって違っていて。コンペに集まったデモテープの中から一目惚れして曲を選ぶこともあるし、いろんな作家さんにコンペの参加をお願いする段階で「こういった曲が理想です」とリファレンスとなる楽曲を提出することもありますし。だから文学と違って音楽はけっこう直感的。好きな作家さんを起点にそのルーツを深掘りするのではなく、今歌いたい曲、今作っているアルバムやシングルに似合いそうな曲をその都度選ばせてもらっている気がします。


――そしてすみません。最後に一件お願いがありまして……。

前島:なんですか?



――Billboard JAPANでは去年の11月から紙の書籍と電子書籍のセールス、図書館での貸し出し実績やSNSを集計したBOOK Chartsを毎週発表しているんですが、ぜひ前島さんにご感想をいただきたいです。

前島:ぜひぜひ!(笑)。(ノートPCを操作しながら)あー、やっぱり「成瀬シリーズ」(宮島未奈による、成瀬あかりを主人公とした連作短編集の総称)は強いですねえ。


――そうやって最新作のチャートがわかるのはもちろん、昭和に発表された書籍のチャートと、平成に発表された書籍のチャートが載っているのがウリのひとつなんですけど……。

前島:これ、すごくいいじゃないですか! あっ『モモ』(著者:ミヒャエル・エンデ/1973年/岩波少年文庫)が入ってる!


――今なお子どもに読み継がれているんでしょうね。

前島:そういうことがわかるのがすごくいいし、『アルジャーノンに花束を』(著者:ダニエル・キイス/訳:小尾芙佐/1959年/ハヤカワ文庫)やアガサ・クリスティ作品が今も売れ続けているのも面白いし。それに「成瀬シリーズ」みたいな旬の作品と、歴史を越えて愛されている作品が同じようにチャートに載っていることってすごく意味のあることですよね。文学にハマるとどうしても時代を遡ることになるんです。好きな作家さんが敬愛している作家の作品や全世界の読書家が読んでいる名作をどうしても読みたくなりますから。そういうとき、それぞれの時代のベストセラーを知れるのチャートは非常に助かりますよね。だから、あとは戯曲チャートがあれば完璧ですよね(笑)。そこでトム・ストッパード作品を紹介してくれたら最高です。


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