Billboard JAPAN


Special

<わたしたちと音楽 vol.78>Awich 愛と痛みから生まれる“強さ”

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 2026年6月9日、Billboard JAPANとSpotifyが協働し、一夜限りのスペシャルライブ【Women In Music – EQUAL STAGE】をSGCホール有明にて開催する。出演するのは、新しい学校のリーダーズ、Awich、羊文学、LANAの4組。『わたしたちと音楽』では、出演アーティストへのインタビューをお届けする。

 今回ゲストに迎えたのは、Awich。沖縄で生まれ育ち、渡米、結婚と出産、夫との死別を経て、日本のヒップホップシーンの最前線に立つラッパーだ。子育てとキャリアの両立、沖縄の女性としてのアイデンティティ、そして音楽業界における女性の環境について、率直に語ってくれた。(Interview:Rio Hirai)

沖縄の女性として世界へ
名刺代わりのアルバムから半年

――『Okinawan Wuman』のリリースから半年が経ちました。このアルバムの前と後で、何か変化はありましたか。

Awich:世界中どこに行っても誇れる、名刺代わりのアルバムができたなと感じています。プロデュースしてくれたウータン・クランのRZAは、昔の私からすれば雲の上のような存在だった人。音楽家としても人間としても尊敬できるRZAが、今では家族ぐるみの付き合いになっていて。私の出身地である沖縄とヒップホップにちゃんと敬意を払ったアルバムができて、ここからどんな音楽を作ることになっても揺るがない地盤を築けたという自信が持てました。


――RZAとのアルバム制作は、どのように始まったのですか。

Awich:話自体は3年前くらいからあったんですけど、本当にこれが今の自分に必要なプロジェクトなのか、1年くらい迷っていたんです。でも自分の心の中から「彼以外にハマり役はいないのではないか」という声がずっと訴えてきてはいて。沖縄という空手の発祥の地、アメリカとの歴史がある場所。そこから生まれたヒップホップ・アーティストを、RZAが引き上げてくれるというフルサークルのストーリー、これ以上完璧なものがあるのかって。その心の声を聞くと決めたのが、このアルバムの始まりです。


――タイトルに込めた思いを聞かせてください。

Awich:沖縄は空手の発祥の地でもあるし、戦争や占領の歴史があって、いろんな文化の交差点みたいな場所。世界の縮図になり得る場所だと思っていて、そこから生まれた人間として、この島が持つ痛みと美しさの両方を背負って表現したかった。“Wuman”はWuへの敬意も込めています。RZAからは「あなたは母であり、アーティストであり、活動家であり、沖縄の女性。その輝きが世界中に届くように」というメッセージをもらいました。沖縄の女性は歴史的に強くあることを求められてきたんですよ。「おばぁは最強」、「おばぁの言うことは絶対聞きなさい」っていうのが沖縄あるある。とにかく女性のほうが働き者で、強い。でもその強さだけを表現したかったんじゃなくて、強さが愛から来ていること、痛みから来ていることも全部表現したくて、そういう全部を抱えた存在として堂々と名乗りたかった。


対立させようとする力に
屈せずシスターフッドを

――お子さんを育てながらアーティスト活動を続けることは、どんな経験でしたか。

Awich:結婚して子どもを産んだことで、環境がガラリと変わりました。ずっと家にいなきゃいけない、子育てをしなきゃいけない。夫にも「なんであなたは何も変わらないのに、私だけがこんなに変わらなきゃいけないの?」ってずっと主張し続けてましたね。夫は自由に過ごしているのに、私が夫と同じことをやったら、「母親失格」「妻失格」と言われてしまう。男性のことが羨ましかったし、ずっと戦い続けてきました。


――娘のToyomiさんとの関係は、今どんなふうになっていますか。

Awich:彼女は今18歳なんですけど、昔から「母親だからこうでなきゃいけない」という枠組みを持たずに接してきました。偽りなく、素の自分を全部見せてきた。彼女は小さいながらにそれを受け止めて、周りにも「マミーはマミーでいさせてあげて」って主張してくれるんですよ。小さい頃からなぜかそう言ってくれて、私ができない部分を補完してくれる、パートナーになってくれた感覚があります。


――日本の音楽業界における女性の環境は変わってきていますか?

Awich:変わっていると思います。女性がキャリアと育児を両立することとか、「育児を手伝う」と言っちゃダメとか、そういう意識はすごく変わってきている。でもまだ社会の中で地位が高くなればなるほど、女性の数が少なくなっていきますよね。「偉い社長さんが来るよ」と言われたら、みんな男性を想像してしまう。女性が来たら「あ、女性なんだ、カッコ良い」って思ってしまう。どんなに男女平等を叫んでいても、深層意識の中にはまだそれがある。

あとは、男性が強く意見を主張するとカッコ良いと思われるのに、女性がやると「今日機嫌悪いの?」「体調大丈夫?」って。感情論で言っているように見られてしまう。ヒップホップの業界では特に顕著で、女性の席が少ない。男性がどれだけキャラかぶりしていても許されるのに、女性はすぐ「この人がいるからいらないよね」と言われてしまう。


――「強い女性像」に対して、アレルギーを持つ人もいると思います。Awichさんのアルバムをきちんと聴いたり、ライブのMCを聞けばその強さがどこから来ているか理解できると思うのですが、「強いだけが女性じゃない」という批判もある中で、どう向き合っていますか?

Awich:世の中がピックアップするものを、私は選べないんですよね。「全部の作品を聴いてよ」「全部のインタビュー読んでよ」って思っても、その通りにはいかない。切り取られる部分がそうなってしまうのは、世に出る人間としてある程度腹をくくらないといけない部分で。私はもちろん、強さだけじゃなく、強さが痛みから来ていることをずっと発信し続けてはいるんですけど、強い部分だけを切り取りたいっていう世の中の感覚は存在する。でも、その切り取られたメッセージが、悩んでいる女性たちに響いて、一歩踏み出す力になっていることもあるので。恐れずに発信し続けるしかないですね。


――変えるためには、何が必要だと思いますか?

Awich:やっぱり、どんどん出ていくこと。例えばヒップホップの世界でも、私やLANAがトップに立つことで、後進の女性たちが目指す先が増えていく。あと、対立させようとするエネルギーに屈しないこと。女性が女性同士のつながりを大事にする“シスターフッド”は、今の時点ではすごく大事だと思っています。いつか「仲いいだけじゃダメでしょ、バチバチやろうぜ」という時代が来るかもしれないけど、今はみんなで協力して、マイナスから始まっている部分をプラマイゼロにするところまで底上げする段階なんじゃないかな。


自分と対話すること、
すべてはそこから

――一歩踏み出せない人に、何かアドバイスはありますか?

Awich:私がライフワークの中で一番大事だと思っていることが、自分との対話です。女性は皆必ず「外へ出て強くなりなさい」だけじゃなくて、家庭を守る存在であることもいいし、どんな存在としてでもいい。でも“自分が何をしたいか”という声を自分の心から拾えないと、どこへ向かっても幸せになれない。それは女性だけじゃなく、男性も、人類全員に言えること。セルフラブって流行っていますけど、人は理解していないものは愛せないんですよ。自分が何を好きで、何が得意で、何に喜んで何に悲しむのか。日々の自分を理解しないと、いつまでも文句ばかりの人生になってしまう。しかも本当に全員が本気で自己理解すれば、きっと十人十色やりたいことが違うと思う。自分との対話をしていないから、メディアや広告に見せられているものが好きだと思い込んで、みんな同じ方向に行って、対立してしまう。本当に心の声を聞いていたら、全員いろんなことが好きで、応援し合えると思う。ジャーナリングでも、瞑想でも、運動でもいい。自分との対話をぜひやってほしい。


――Awichさんは生まれ育った場所を出て、海外で生活した経験がありますよね。海外に行くことの意味を、どう捉えていますか。

Awich:遠いところに行けば行くほど、自分が生まれ育った場所を俯瞰して見られるようになる。自分の当たり前だと思っていたことが当たり前じゃないこと、世界で当たり前と言われていることを聞いて、「全然当たり前じゃないんだけど」って思えること。それが大事。今やっている留学のチャリティー※でも、外に出て帰ってきたらどんなことを感じたかを書くワークショップをやってます。(※HelloWorld株式会社および一般社団法人HelloWorldと共同で、沖縄県内の高校1年生~満22歳の方向けに無償での英語学習機会を提供する『Know The World -Awichグローバル教育プロジェクト-(アトランタ留学&まちなか留学)』を2025年から2年連続で開催している。)


――活動のフィールドが広がる中で、変わらないものと変わったものは何ですか。

Awich:自分が大事にしているものを、いつでも同じ熱量を持って話せること。どんな世界に行っても、それは大事です。例えばラグジュアリーな空間でストリートの話をするのは場違いかなと昔は思っていたけど、人間がパッションを持って話すことはきちんと伝わるんだなと思うようになりました。変わったのは、ガツガツいかなくても伝わることもあるという感覚。相手のタイミングを察知して、佇まいや存在感でアピールするテクニックは最近身につけましたね。


――沖縄グローバルアンバサダーとしても活動されていますが、今、沖縄について発信したいことは何ですか。

Awich:個人的には自然が一番の財産だと思っています。どんな建物もお金も、自然にはかなわない。それが残っている場所が世界中で少なくなってきていて、人間がこれから生きていく環境の鍵は自然の中にある。どんな思想やアイデンティティを持っていてもいいけど、人類全員で自然を大事にしていかないと、自分たちが住める場所がなくなっていく。めちゃくちゃベーシックな願いです。


みんなで手を取り合える
この時代を楽しんで

――6月9日の【Women In Music – EQUAL STAGE】に出演されます。このようなステージが開かれることについて、どう思いますか。

Awich:さっきも言ったように、今の時代は女性たちがいろんな垣根を越えて協力することが大事だと思うし、いいスピードで底上げができていると思います。でも、こうやってみんなが協力しないといけない時代も、もしかしたらもう変わっていくかもしれない。だからこそ、今このみんなで手を取り合える時代を楽しみたい。いろんなジャンルを超えた女性アーティストを一気に見られる場を、日本の女性たちに届けられるのは、いいプロジェクトだなと思います。


――共演する新しい学校のリーダーズさん、羊文学さん、LANAさんについて聞かせてください。

Awich:新しい学校のリーダーズとは海外でもよく一緒になるし、共通の友達も多い。ライブが超大好きです。ありえない完成度で、本当に素晴らしい。羊文学さんは生でライブを観るのは初めてかもしれません。楽しみです。羊文学の塩塚(モエカ)さんが、私に子育てしながら活動していることを聞いてみたいっておっしゃってたそうですけど、私の子育て論は絶対参考にならないと思う。独特すぎて(笑)。でも、おしゃべりするのは面白いと思います。


――6月9日に向けて、意気込みを聞かせてください。

Awich:セットリストも、女性へのメッセージを意識して組みました。サプライズも楽しみにしていてください。


――長く活動を続けるために、大切にしていることはありますか。

Awich:どんなプロジェクトもコラボレーションだと自覚すること。どんなに私の名前や顔が先に立っていようが、いろんな方が関わってくれてできている。そこに感謝を伝えて、気を遣うこと。もちろん、もっと爆発的な表現や、尖った表現があってもいい。でも「長く続ける」っていう面で、時間も空間も超えて存在し続けるには、いろんな人の協力が必要です。だからコラボレーションだという自覚が一番大事なのかなと思います。


――最後に、Awichさんにとって音楽とはどんな存在ですか。

Awich:小さい頃からずっと言葉と向き合ってきたんですけど、それが音楽になった瞬間に、意味を考えずにすんなり体に入ってくる感覚を教えてくれた。私にとって音楽は、伝えたいメッセージをみんなに体感として届けられるようにするツール。頭でっかちな私を、ちゃんと体とつなげてくれたものです。


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