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<インタビュー>居場所は図書室にあった――浦小雪(Sundae May Club)が語る本と歌詞の世界【WITH BOOKS】

Interview & Text:上野三樹
Photo: 筒浦奨太
書籍や文筆と縁深いアーティスト、また音楽と縁深い作家へ、自身の書籍や音楽との関わりについて訊くインタビュー企画【WITH BOOKS】。今回は、長崎発のパワフルでポップなスリーピースバンド、Sundae May Clubから浦小雪(Gt. / Vo.)が登場。バンドは2019年に結成し、現在はソロでも活動中。情緒豊かな歌詞とメロディ、真っ直ぐに突き抜けるような歌声で注目を集めている。
「図書室のロックプリンセス」というキャッチコピーを持つ彼女は、中高時代の多くの時間を本を読んで過ごしてきたという。長崎の海を背景に活字で体験した青春への憧れが、ヘッドフォンの中のロックミュージックとひとつになった時、彼女の中で新しい音楽になった。今回のインタビューでは、本の世界にのめり込んだきっかけや、音楽と本の繋がり、そして自身の作詞への影響など語ってもらった。
図書室が居場所だった
――浦さんは長崎県のご出身ということですが、どんな環境で育ったんですか。
浦小雪:私が住んでいたのは長崎県の中でもベッドタウンのような大村市という場所で、子供が多くて活気のある街でした。海が近くて、何もない時でも歩いて10分ちょっとくらいかけて海を見に行ったり、大きな図書館があったり。とても過ごしやすいところでした。
――Sundae May Clubの「潮風」など楽曲の中にも原風景としての海が自然と溶け込んでいるように感じます。図書館に通い始めたのはどんなきっかけでしたか。
浦:本を読み始めたのは小学生の時です。教室の後ろに学級文庫があって、読書タイムにそこから本を選んで読むのが好きでした。当時は『ハリー・ポッター』や『だれも知らない 小さな国』など児童文学シリーズに夢中になっていました。特に『ハリー・ポッター』は小学生には少し分厚くて大変な量でしたが、時間をかけて周りの子よりも熱心に読んでいた記憶があります。
――そこから中学・高校と図書室に入り浸るようになったと。
浦:はい。中学3年間と高校3年間の計6年間、ずっと図書委員をやっていました。私が中学で図書委員をしていたのを知っている同級生が、高校でも「小雪ちゃんは図書委員だよね」という感じで自動的に決めてくれるような雰囲気があって(笑)。当時は友達が多い方ではなかったので、図書室が唯一、寂しさを感じずにいられる「居場所」だったんです。
Sundae May Club「春」Studio Live Movie
――当時、静かな図書室で本と向き合う時間は、浦さんにとってどのような意味を持っていましたか。
浦:本を読んでいる間は、本と交流できているような感覚がありました。当時は青春小説やティーンエイジャーの気持ちを描いた物語をよく読んでいて、それを「友達の代わり」にしていました。実際には友達と遊ぶことは少なかったのですが、本の中で「青春」を擬似体験していたんです。
――物語の世界が、現実を生きる力になっていたんですね。
浦:そうですね。例えば森見登美彦さんの小説を読んで「大学に行けば、もしかしたらこんなに面白い青春が待っているかもしれない!」と期待を膨らませて「絶対に行くぞ」とモチベーションにしていました。本の中に、自分の理想とする生活や希望があったんです。
――本好き同士で仲良くなれた経験はありましたか。
浦:小学校の時、1番前の席でミハエル・エンデの『モモ』を読んでいたら、国語の先生が「あ、それ僕も好きだよ」と声をかけてくれたんです。それまでは本と1対1で向き合うだけでしたが、本を通じて仲間を作れるんだ、他者と交流する手段にもなるんだと気づいた初めての経験でした。中学生になったばかりの頃、最初の自己紹介で読んでいる本について話したことで、出席番号が後ろの子と一気に仲良くなれたこともありましたね。
――浦さんの音楽的なルーツはアヴリル・ラヴィーンやa flood of circleといったエッジの効いたロックだということですが。当時、浦さんの中で「図書館で静かに本を読む」ことと「ヘッドフォンの中のロック・ミュージック」はどのように共存、あるいは作用し合っていたのでしょうか?
浦:自分の中ではその2つは密接に結びついていました。例えば、海外の児童文学の『スターガール』を読みながらアヴリルの曲を聴いたり。特にa flood of circleの「シーガル」を聴きながら冒険小説を読んでいた時の没入感はすごくて。今でもその曲を聴くと当時読んでいた本の内容を思い出すくらい、記憶が強く繋がっています。
――今でも本を読みながら音楽を聴いたりしますか。
浦:昔は不思議とそれができていたんですけど、今はしません。音楽を聴いていると、歌詞に引っ張られてしまい本を読むのはやっぱり難しいので、インストの曲を聴きながら読むことが多いです。当時は頭の中で音楽と本を脳トレのように処理できていたのかもしれません(笑)。

――大人になってから、手に取る本や読み方に変化はありましたか。
浦:昔は青春の擬似体験として読んでいましたが、大人になってからは「今の自分に必要な題材」を無意識に手に取ることが増えました。東京に引っ越してきたばかりの頃に、新しい街で自分の居場所を見つけていく『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(著者:吉田篤弘)という小説に出会い、「今、出会うべくして出会ったな」と感じたこともあります。大学が教育学部で、教員を目指していた頃は、内容を全く知らないのに読み始めた本に教師が出てきたり。その時に必要な本が手元に来るような感覚がありますね。本屋さんを散歩して、タイトルだけでなく背表紙のフォントやインクの質感、装丁の美しさに惹かれて「ジャケ買い」することもあります。
――背表紙だけで「手に取ってみよう!」とピンとくることもあるんですか。
浦:ありますね。タイトルの印象も大きいですが、インクがキラキラしていたり、金色の文字だったりすると、何か呼ばれてるような感じがして手に取りたくなります。
――ちなみに読書は紙の本派ですか、デジタルで読むこともありますか。
浦:絶対に紙ですね。スマホのKindleなどで読むと、通知が来た瞬間に集中が途切れてしまうので。今はあえてスマホを遠くに置いて、音楽を流して、読書のためだけの環境を整えてから没入するようにしています。私にとって読書は、今の生活から一旦離れて、美しいものに触れ、心を回復させるために必要なインプットの時間なんです。
本は迷った時に自分を元に戻してくれる「お守り」
――読書がご自身の音楽表現にどう還元されているのかもお聞きしたいです。浦さんの楽曲制作においてはまず歌詞を先に書かれるということですが。読んできた本の文体などは歌詞に影響していますか。
浦:よしもとばななさんのような柔らかい文体には、とても大きな影響を受けています。歌詞を書くときも、あえて漢字を開いてひらがなで書くことで、言葉に含みを持たせたり、柔らかいニュアンスを残したりすることを意識しています。一方で、西加奈子さんの『白いしるし』を読んだ時には、頭を殴られたような衝撃を受けました。そういう、精神世界を深く掘り下げるような、強い力を持つ言葉には憧れますね。
――浦さんのソロ曲「本を閉じたら」は、まさに本にまつわる曲で、<あの子の姿勢が綺麗だったのは/夏の日差しを全部受け止め 誰かを思ってたから>という歌詞も素敵です。どんなきっかけで作ったんですか。
浦:この曲は、小学6年生の時に東京へ引っ越してしまった親友のことを思って書きました。私にとって初めて「親友」と呼び合えた大切な子で、彼女がいなくなった寂しさが、私をより本の世界へと向かわせたのかもしれません。曲を書いた当時の私にとって本は生活そのものであり、だから「本を閉じたら(現実の世界で)彼女に会えるかな」という願いを込めて、このタイトルをつけました。私にとって、本が一番の支えだった時期の記憶を成仏させるような、とてもパーソナルで重要な曲です。
浦小雪「本を閉じたら 」
――こうして浦さんのお話を聞いていると、本の世界に没頭してた時期を経て大学に入り、バンドSundae May Clubを結成したことで広がった世界ってすごく大きかったんじゃないかなと思います。
浦:はい。大学の軽音サークルでみやはらやヒロトと出会ったことが、私の世界を広げる大きなきっかけになりました。それまでは図書室で一人で本を読んでいましたが、音楽を通じて同じ話ができる仲間が増え、自分がどういう人間なのかを周囲にわかってもらえるようになりました。
――例えば「ハッピーバースデイ」の歌詞にある<仏頂面でピースして 幸せと言えない君へ>という視点だったり<僕らは普通で特別>というメッセージ性も、周囲との関わりの中から生まれたリアリティに溢れていますよね。
浦:周りの友達の中に「自分の誕生日なんて嬉しくない」「生まれてこなきゃ良かった」と言う子がいたんです。私は誕生日を全力で祝いたいタイプなので「あなたが自分の誕生日に幸せと言えなくても、少なくとも私は、あなたが生まれてきたことを心から喜んでいるよ」というメッセージを伝えたくて書きました。「自分なんて普通だから」と卑下する友達もいますが、普通であることは決して悪いことではないし、むしろ素敵で特別なことだと思うんです。私のそばにいてくれるだけで、あなたは私にとって特別なんだよ、ということを伝えたかった。本の世界で「予習」していた人間関係の機微が、バンドという現実の対話を通じて、ようやく実感できるようになった気がします。
Sundae May Club「だって眩しくて」ミュージック・ビデオ
――バンドとしてのこれから、というところでもお伺いさせてください。Sundae May Clubは1stアルバム『なみなみならぬ』をリリースしてメジャーデビューされるということですが。どんな意気込みですか。
浦:バンドって、本当に聴いてくださる受け取り手がいないと意味がないとすごく思うようになって。何か月後にリリースがあるから、ライブがあるからその日まで頑張ろうと思えるような、みんなの生活の中の楽しいことになれたらいいなと思っているんです。あんまり強く背中を押すような曲は書けませんが、日常的に聴いてもらえる、聴いてくれる人のそばにずっといられるようなバンドになっていきたいなと、今強く思っています。
――楽しみにしています。ちなみにBillboard JAPANの Book Chartsをご覧になって、率直にいかがですか。
浦:このチャート、すごいですね! 総合順位だけでなく、図書館の貸し出し数やSNSの指標(口コミ)まで可視化されているのが面白いです。特にSNS指標は信頼できますよね。本当にその本が好きな人が熱量を持って書いているのが伝わってきて、自分がまだ手を出せていない作品を読んでみる良いきっかけになります。
――中高生時代の図書委員としての立場だったら、このチャートをどう活用しますか?
浦:図書室で「今、Billboard JAPANでこれが人気です」という掲示物を作ったり、チャートを参考にした選書棚を作ったりしたいですね。本屋さんに行く前にもこれをチェックしておけば、宝探しのようなワクワク感が増すと思います。

――最後に「浦小雪の選書コーナー」を作るとしたら、メインに置きたい1冊を教えてください。
浦:エラ・フランシス・サンダースの『翻訳できない世界の言葉』です。友達にプレゼントされた本なのですが、世界中にある、その土地の文化や考え方が一言に凝縮された単語を素敵なイラストと共に紹介している本です。日本語の「侘び寂び」や「木漏れ日」なども載っているんですが、その土地にしかない独自の感性が言葉に宿っていることに、言葉を紡ぐ人間としてすごく感動しました。本は迷った時にいつでも自分を元に戻してくれる「お守り」のような存在です。これからSundae May Clubはメジャー1stフルアルバム『なみなみならぬ』をリリースして、より大きな場所へと向かっていきますが、私たちの音楽も、誰かにとってのそんな「お守り」になれたら嬉しいです。
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