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<インタビュー>恋、仕事、日常を生きる都会の猫たち――ほしよりこが織りなすドラマチックな一冊と、思い出を彩る音楽とは【WITH BOOKS】

Interview & Text: 黒田隆憲
ビルボードジャパンは、2025年11月6日に総合書籍チャート“Billboard JAPAN Book Charts”をローンチした。紙の書籍(書店/EC)と電子書籍の売上に加え、サブスクリプション、図書館での貸し出し、SNSでのリアクションなどを合算した、日本初の総合ブックチャートだ。
書籍や文筆と縁の深いアーティスト、そして音楽と縁の深い作家に、自身の書籍や音楽とのかかわりを尋ねるインタビュー企画【WITH BOOKS】。今回は、『きょうの猫村さん』シリーズで知られ、エド・シーラン「スーパーマーケット・フラワーズ」のミュージックビデオや、2023年・2024年の【京都音博】のビジュアルも手がけた、ほしよりこが登場する。最新作『ラブストーリーを追いかけて』について、そして普段どのように音楽と接しているのかについて話を聞いた。
“令和の東京オフィス”を舞台にした
『ラブストーリーを追いかけて』について
『ラブストーリーを追いかけて』は、『カーサ ブルータス』の猫特集に合わせて、何か書き下ろしを、という依頼をいただいたことがきっかけでスタートしました。猫の恋愛を描いてみたい、恋愛至上主義だったころのトレンディドラマのような物語を描いてみようと思い、チャレンジしました。都内で生きるオス猫とメス猫の恋愛群像劇を描いています。
たとえば、渕根コージのような主人公のオス猫は、とにかく真剣で、一生懸命で、熱い男という設定です。なので、目力を意識しました。渕根が身につけているポロシャツとチノパンも、平成のトレンディドラマっぽいファッションだと思っていますし、オフィスビルの窓から東京の街を見下ろしながらキザなセリフをつぶやく場面でも、都会らしさを演出しています。ほかにも、汐留あたりのオフィスビルや逗子海岸、麻布台ヒルズといった場所を描くことで、トレンディドラマらしさを出してみました。
その一方で、「令和らしさ」も加えています。たとえば、少しコンプライアンスも意識して、かつてのトレンディドラマによくあった、結婚がゴールで男性に選ばれる女性、という構図ではなく、「女性も男性をリードしたい」という姿勢や、キャリアウーマンのあり方も描いてみました。舞台についても、描いている時点でいちばん新しい森ビルである麻布台ヒルズや、コンランショップのレストラン「Orby」を参考にしています。ちなみに、黒井寧々が写無(不倫相手の妻)と出会ってしまうブランドショップは、グッチやmiu miuの店内をイメージしています。

“猫なのに、人間の恋愛ドラマの手触りがある”
本作には、20匹以上の猫が登場します。当初はキャラクター設定をまったく設けていなかったのですが、描いていくうちに猫がどんどん増えていきました。描いていると楽しくなって、ほかの猫たちの背景も追いかけているうちにさらに増え、結果的に群像劇に。それぞれの猫が、真剣に恋と仕事と日常を生きている姿を描きたいと考えました。ドラマチックなセリフや決めゼリフのようなものは、描きながらふっと頭に浮かんだものです。人間のストーリーに寄りすぎると、猫らしさが少し薄れてしまいがちですが、描いているときは特に「線引き」のようなものは考えませんでしたね。
また今回はフルカラーで描いたのですが、そうでないと登場猫の見分けをつけるのが難しかったと思います。逆にいえば、それでも寧々のような黒猫は「見分けにくい」ということも、伝わりやすくなったのではないかと思います。
この作品で読者に届けたいこと
連載を単行本としてまとめるにあたっては、各章の終わりにカットを書き加えました。たとえば、反古音課長が物語の中で話していた編み物を、実際に編んでいるシーンなどです。ちなみに、この場面で描いたマグカップとクッションは、矢沢永吉さんのライブグッズです。開発部の大黒ミミが、間違って贈られた薔薇の花束をその後どうしたのか、といった場面もカットで差し込みました。こうした追加のカットには物語の内容が反映されているので、そのつながりも楽しんでいただけたらうれしいです。
そのほか、相関図は編集者さんに作っていただいたのですが、すごく楽しいものになっていると思います。エピローグのようなかたちで、掃除のおじさんの話も描きました。それが、とある登場猫の話とつながるようにもなっています。そういうふうに、ちょこちょこと遊びや楽しみを差し込んで、何度か読んでくださった方に、あとから気づくような発見があればいいなと思っています。
まだ読者の反応は私のところまであまり届いていないので、はっきりとはわからないのですが、しばらく会っていなかった友人から「めちゃくちゃおもしろかった。表紙だけで大笑いした」と久々に連絡がきて、うれしかったです。私自身、とても楽しんで描いたので、その勢いやビートのようなものが届いたのかもしれません。物語は、読む人それぞれの状況によって感じ方も変わると思うので、どこでどんなふうに感じてもらえたのか、私も知りたいです。
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創作活動/音楽鑑賞について
音楽をいちばん聴くのは、運転しているときです。自分にとっては、車を運転しているときがいちばん音楽がいい感じに聴こえる気がします。なので、ドライブ用に自分でアルバムを組んでいます。「2026 Spring」みたいな感じです。以前は水泳中に聴いていたこともありましたが、最近はあまり聴いていません。走るときにはいろんな曲を聴いてきましたが、いちばん走れるのは宇多田ヒカルだということを発見しました。呼吸のリズムが合うのかもしれません。今はランニング用のイヤホンやヘッドホンで、どれがいいのか探しているところです。
仕事中、漫画のセリフを考えるときに歌詞のあるものを聴くと集中できないので、基本的には無音です。長時間作業をするときは、Kid KoalaのDJを聴いています。また、着色するときにはパソコンでiTunesかSpotifyを流し、外付けのスピーカーで聴くことが多いです。サブスクはどうも苦手なので、できるだけCDを買うか、iTunesで購入しています。
エド・シーラン「スーパーマーケット・フラワーズ」 ほしよりこ Ver.
制作活動中に聴いている音楽
本作を描いているときにずっと聴いていたのは、The Beach Boysの『The Smile Sessions』です。スタジオでのレコーディング風景が延々と録音されているような作品なのですが、自分が美大に通っていたころ、絵を描いている横で友達がバンドの練習をしていて、それがとても落ち着いたし、絵にも集中できたんです。たぶん、それと少し似ているのかなと思いました。
新しい音楽は、偶然の出会いが多いです。街中やドラマを見ているときに、いいなと思った曲が流れていたら、SoundHoundで検索して購入します。最近いちばんよかったのは、Bad Bunnyのハーフタイムショーでした。Bad Bunnyは「Yonaguni」を聴いてからずっと気になっていたので、あのショーは一部しか見ていないけれど、それでも素晴らしかったと思います。それと、去年のくるりの「京都音楽祭」で流れた新曲「ルグルス」もとても好きです。アルバムのアートワークも素敵ですね。あとは、なぜか最近、自分の中で大江千里ブームがあって、「Rain」をよく聴いています。
忘れられない「Moon River」
これまで聴いた曲の中で、忘れられないのがヘンリー・マンシーニの「Moon River」です。何かのドラマの中でふと耳にしてから、そのメロディと歌詞に夢中になって、いろんな人が歌った「Moon River」を集めていたことがありました。70曲くらい集めたと思います。『ティファニーで朝食を』の中にある歌詞のようなセリフ、それがああいう曲として立ち上がっていること、そして物語の内容まで、すべてが銀河のようにつながっている気がするんです。すぐそこにいつもあるのに、決してつかめない星空のような、美しさと切なさに満ちていると思います。
これから描きたい作品
できればまた恋愛の話を描きたいなと思っています。『ラブストーリーを追いかけて』を描いているあいだ、恋に落ちたり、すれ違ったり、思い違いをしたりしながら、それでも日常を生きていく猫たちの姿を描くのはとても楽しかったです。恋愛は昔から何度も描かれてきた題材ですが、そのたびに少しずつ違う表情がある気がします。またいつか、そんな話を描けたらいいなと思っています。

























