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<インタビュー>ジョン・キャロル・カービー、原点のピアノへ──新作とともに臨む約4年ぶりのビルボードライブ・ツアー

Interview & Text: 風間 一慶
Photo:(TOP)Thierry Van Dort、(2022年ビルボードライブ公演)Masanori Naruse
LA出身の鍵盤奏者/プロデューサー/音楽家であり、フランク・オーシャンやソランジュとのコラボレーションでも知られるジョン・キャロル・カービーの約4年ぶりとなるビルボードライブが3月15日(日)に東京、3月18日(水)に大阪でそれぞれ開催される。今回のビルボードライブではピアノを軸にしたソロセットを予定しているというジョン。フュージョンやソウルなど多種多様なジャンルを渡り歩く彼が、なぜ穏やかなセットに回帰したのかについて、新作や好みのピアニストなどの話題とも絡めて訊いた。
──今回ビルボードライブで行うソロセットについて教えてください。どのようなセットで臨む予定ですか?
ジョン:ピアノ中心のセットになるよ。実はピアノを主体とした作品をリリースする予定なんだ。それに合わせて、「自分の演奏に立ち返る」というテーマを掲げてツアーを回っている最中でね。今回は新作からの曲もいくつか演奏するし、これまでバンドで演奏してきた楽曲もリアレンジしているよ。それにシンセサイザーのシーケンスとか予めプログラムしたフレーズを重ねるセットになるかな。
──2022年にビルボードライブへ出演した際もソロセットでしたが、当時とはどう違うのでしょうか?
ジョン:かなり違うと思うよ、前回のセットとは違う機材のセットアップで今のツアーを回っているんだよね。あの時はループやシーケンスが中心で、その上にローズとかウーリッツァーといったエレピを弾くことが多かったし、ドラムマシンも多用していた。今回はビートを入れない、あくまでもピアノが主役なんだ。
というのも、この前ある人と『Conflict』の話をしたんだ。2020年、パンデミックがスタートした頃に出したアルバムで、そのツアーをすることを5年近く忘れていたんだ(笑)。とても共感してもらえたアルバムだったにも関わらず、僕は『Conflict』のようなセットでのライブをあまりやっていない。その気づきがピアノ中心のコンサートをやるきっかけになったんだ。当日は『Conflict』からの曲と新曲、それからこれまでの自分の曲をピアノ用に解釈したものを演奏する予定だよ。
──「Suntory」という新曲を先に聴かせていただきました。確かに『Conflict』を思い出すようなサウンドでしたが、キャリアの原点であるピアノに立ち返った作品を作ろうと思い立ったのはなぜでしょう?
ジョン:新作には約10年の間で書き溜めてた曲が収録されているんだ。つまり、ソロピアノのスタイル自体は変わっていない。だけど最近、僕のピアノに共感してくれる人が多いことにようやく気づいたんだ。僕はヴィルトゥオーソ(名手)ではないけども、ピアノという楽器を通じて人と深く繋がれてきた実感がある。そんなこともあって、一つの作品としてまとめようと思ったんだ。
それと、今回収録した楽曲は「ピアノで作曲を学ぶ上でのエクセサイズ」というようなところから生まれている。『Conflict』の時はもっと具体的で、センチメンタルな感情からインスパイアされたんだ。今回はピアノの前に座って「何か作ってみよう」と考えるところから始めている。その点では異なった作品に仕上がったと思うよ。
──あなたは長年多くのアーティストのプロデュースを担当していますし、最近ではサウンドトラックも作成していますよね。そういった時間と自分の作品を作る時間では、どのように思考のスイッチを使い分けているのでしょうか?
ジョン:厳密には使い分けていないね。というか、その二つの体験はお互いを高め合うものなんだ。他のアーティストのために制作を進めている時は、その人が満足して「ゴールが達成できた」って感じてもらうのが僕の役目。でも自分の音楽を作る時は、自分の目標を満たしつつ、本当に納得できるものを作らなきゃならない。そっちは他人のためにやるより、ずっと深い内省が必要で、正直大変なんだ。ただ一方で、自分の音楽は自分がボスだから、やめたい時にやめて、始めたい時に始められる。その違いはあるけど、満足のいく形までゴールを追求するっていう体験は一緒だね。
──去年配信されたNTS Radioのプログラムで、あなたはソロセットのインスピレーションとしてニューエイジやクラシックを数多く選曲していましたね。フレーズを単に弾くのみではなく、流れている音全体でショーを作っていく方法に関して、そのようなジャンルからどのような学びを得ましたか?
ジョン:そうだね……まずはクラシックについて話してみるよ。ジャズ・ミュージシャンという観点から、クラシックのハーモニーがジャズに与えた影響については色んな場面で感じているんだ。同時に、クラシックの中でも現代的な印象派の作家はジャズから多くの語法を借りている。面白い関係だよね。
一方、クラシックの中でもバッハのようなバロック音楽には別の面白さがある。彼らはハーモニーを外に拡張するというより、コードの内部構造に関心を向けているんだ。ジャズ・ミュージシャンである自分にとっては、むしろその方が挑戦的に聴こえる。複雑なコードを扱うよりも、コードの内部に潜んでいる精緻なポイントを見出す方が今の僕にとっては面白い……そんな感じかな?
──ニューエイジに関してはいかがですか?
ジョン:ニューエイジを聴いていて感銘を受けたのはミニマリズムについてだね。作品にとって重要なのは特定の感情を伝えることで、ニューエイジにとってのそれは「穏やかさ」なんだと思う。それと、ニューエイジって平凡なものを作るのは簡単だけど、素晴らしいものを作るのはとても難しいよね(笑)。
──(笑)。そういったジャンルからの影響を咀嚼したスタイルで、あなたが共感するジャズプレイヤーはいらっしゃいますか?
ジョン:僕の中でのトップ5を挙げるなら、アーマッド・ジャマル、ハービー・ハンコック、デューク・エリントン、エロル・ガーナー、あとはファッツ・ウォーラーだ。昔の人ばっかりだね(笑)。特にファッツ・ウォーラーやハービー・ハンコックの音楽からはユーモアのセンスを感じる。僕にとって、それってすごく重要なんだ。ファッツ・ウォーラーは文字通りコメディアンとして、演奏をしながらジョークを飛ばすというスタイルが強烈だね。 ハービー・ハンコックのユーモアは一見わからないけれど、特に70年代の作品からは音楽におけるスラップスティック・コメディのような諧謔性を感じるよ。
──もう一つの大きな影響源として、あなたは過去の日本のライブでYMO(YELLOW MAGIC ORCHESTRA)のカバーを何度も披露していますよね。クラシックを捉え直すアイデアや使用している機材からは坂本龍一との共通点を感じるのですが、彼のどんな点に魅力を感じていますか?
ジョン:彼は僕のキャリアに大きな影響を与えてくれたんだ。メロディやプロダクションはもちろん、個人的に感銘を受けたのは彼がカバーしているレンジの広さでね。YMOに映画音楽、ピアノソロ、それにポップスと幅広い作品を彼は作り出している。とんでもない量のアウトプットだよね。YMOのメンバーはみんな多作だし、その点については刺激を貰っているかな。
思うに、YMOの3人は自分たちが出すものについて過剰に考えすぎていない気がするんだよね。僕が好きになるのって、どこか頓着のない作品でね。作品が完成したらすぐに出す。世界を変えるかどうか、そんなの考えすぎない。良い音楽なら届くべき人に届くはず。それでまた次のプロジェクトに進めばいい。そんな姿勢が好きなんだ。
──坂本さんの作品で特に愛聴しているものはありますか?
ジョン:そうだな……実を言うと、僕は細野さん派なんだ。あの人のユーモアにすごく共感するんだ、だから一枚選ぶとしたら『はらいそ』かな。ちょっと質問をかわしちゃったね(笑)。
──いえいえ(笑)。最後に、ビルボードライブへ来るオーディエンスへメッセージをお願いします。
ジョン:素晴らしい会場に戻れるのが嬉しいよ。4年前に印象的だったのは、会場がすごく縦に長いこと。ステージに立つと上の方までお客さんがいて「まるでコンテストで審査されてるみたい!」ってくらいの迫力だったんだ(笑)。あの素晴らしい会場で演奏できるのが待ちきれないよ。
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