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<わたしたちと音楽 vol. 72>メイ・シモネス 音楽を本当に大切にしてくれる人と働く

米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回のゲストは、日米にルーツを持ち米ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するシンガー・ソングライター/ギタリスト、メイ・シモネス。ジャズ、ボサノバ、インディーロックなどをブレンドし、日本語と英語を使いこなしながら、独特の世界観を紡ぎだしている彼女が、音楽や音楽を本当に大切にしてくれる人と働くことの重要性について、率直に話してくれた。(Photo:Shinya Kato l Hair & Make-Up: Mahito)
レコーディング版もライブ版も、それぞれ違った良さがある

――まずは昨年発表したデビュー・アルバム『アニマル』について聞かせてください。今振り返ってみて、この作品はあなたにとってどんな存在でしょうか?
メイ・シモネス:デビュー・アルバムなので、すごく特別な作品です。本当にたくさん時間をかけて、一生懸命制作しました。収録されている曲は全部好きです。ツアーで演奏出来るのが嬉しいですね。
――リリース後、アルバムとの関係性は変わりましたか?去年の5月に出て、もうすぐ1年ですよね。
メイ:変わったと思います。曲を書いているときが、一番感情的に近い状態でいるんですよね。そのときは、その気持ちの中に完全に入り込んでいるので。今はそこから少し時間が経っていますが、それでも曲とのつながりは強く感じています。
――ライブで何度も演奏することで、曲に対する想いは変わりましたか?
メイ:むしろ、もっと好きになった気がします。たくさん演奏することで、自分が上達しているといいな、と思いますし。ライブだとテンポが変わったり、アレンジが少しずつ変化したりもします。レコーディングしたときの音と、何か月もツアーをした後の音、その違いを見るのが楽しいですし、どちらも好きです。
――制作を振り返って、ご自身について気づいた意外な点はありましたか?
メイ:特にないかもしれません。でも、曲をライブで演奏するようになってから、すごく楽しくなりました。演奏を重ねるほど、バンドとしても上達していくし、テンポが少し変わったり、自然と形が変化していったりして。レコーディング版もライブ版も、それぞれ違った良さがあると思っています。
音楽を本当に大切にしてくれる人と働くこと

――あなたが好きなジャズ・アーティストは男性が多い印象ですが、これまで影響を受けた女性アーティストはいますか?
メイ:ジャズを中心に、これまで影響を受けてきたミュージシャンは男性が多いです。でも、ビリー・ホリデイやエラ・フィッツジェラルドはすごく好きですし、青葉市子さんも本当に好きです。難しいことを歌っていても、ちゃんと感情が伝わってくるところに惹かれますね。
――女性としての経験が、ソングライティングに影響していると感じますか?
メイ:自分の経験を書いているだけです。その日にあったこととか。それが一番書きやすいです。最近は少し個人的な内容が増えた気がしますが、それは単純に、そういうことを書くことに慣れてきのかもしれません。
――これまでのキャリアで、ジェンダー・バイアスや性差別を感じた瞬間はありましたか?
メイ:あります。特に初期は、物販スタッフだと思われたり、歌っているだけだと思われたりすることがありました。私はずっとギターを練習してきました。歌うこともしますが、私にとって一番大切なのはギターなんです。
――そういったときはどう対応してきましたか?
メイ:怒ったりはしませんが、「私はギターを弾いています」と説明することもありました。記事で“シンガー”と書かれたときは、直してもらうようお願いすることもあります。
――特に日本は、“可愛い”イメージが重視されることもありますが、自分の見せ方について、プレッシャーを感じたことは?
メイ:私はすごく恵まれていて、一緒に仕事をしている人たちは、いつも私のやりたいことを尊重してくれます。今一緒に仕事をしている人たちは、全員自分で選びました。数か月経っても変わらず関わってくれているなら、その人は本気なんだと思います。音楽を本当に大切にしてくれる人と働くことが大事だと思っています。
――女性アーティストにとって、ツアー生活は時にハードな面もあると思います。心身のバランスを保つために大切にしているのは?
メイ:ツアーは好きです。いろんな場所に行けるし、ファンの人たちにも会える。ツアーでは私だけ女性ということも多いですが、特に気になりません。みんな同じ人間なので。
中でも大切にしているのは睡眠ですね。寝不足だとすぐ体調を崩してしまうので。ツアー中に具合が悪くなるのが一番つらい。だから8時間寝られるのが理想です。
誰かを演じたり、見せかけたりしていない音楽

――あなたの歌詞はとても純粋で誠実な印象があります。率直さは、どれくらい大切な要素ですか?
メイ:私自身、率直な音楽が好きなんです。誰かを演じたり、見せかけたりしていない音楽。歌詞を書くときは、ただ正直に、頭に浮かんだことを書いています。美しい詩的なものを書こうとはあまり思っていなくて、友達と話しているみたいな感覚に近いです。
――アルバムの中で、特に無防備だと感じる曲はありますか?
メイ:多くの曲はどちらかというと明るい感情から生まれたものですが、少しネガティブな感情から生まれた曲は、やっぱり無防備だと感じます。「Rat With Wings」はそのひとつです。技術的には難しくないんですけど、感情的に少しヘヴィな曲で、向き合うのが少し大変でした。でも、演奏すると気持ちが浄化されるというか、セラピーみたいな感覚もあります。
――今回の日本ツアーでは新曲も披露していますが、最近のインスピレーションは?
メイ:音楽的には、いつも聴いているアーティストたちです。チャーリー・パーカー、ウェス・モンゴメリー、ジム・ホール。歌詞は、最近あったことを書いています。12月に日本に来ていたので、東京でのことや友達に会ったことを書いた曲もあります。本当にシンプルで、その日に何をしたか、それを書く感じですね。
――キャリアをスタートしたばかりの自分に、何か声をかけるとしたら?
メイ:自分が好きな音楽を作って、たくさん練習すること。他人がどう思うかは気にしなくていい、って言いたいです。
――最後に今年の目標を教えてください。
メイ:ギターがもっと上手くなること。これは毎年の目標です。あとは、2ndアルバムの制作ですね。

プロフィール
米ミシガン州アナーバー出身。日本人の母を持ち、幼い頃から音楽に親しんできた。4歳でピアノを始め、11歳でエレクトリック・ギターへ転向。高校時代にジャズ・ギターを本格的に学び、その後バークリー音楽大学へ進学し、ジャズを中心にギター演奏を専攻。日本語の幼稚園教諭として働きながら楽曲制作を続け(現在は音楽活動に専念)、英語と日本語の両言語で歌詞を書いたEP『Kabutomushi』を2024年春にリリース。2025年5月にはデビュー・アルバム『アニマル』を発表した。
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