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<インタビュー>戦慄かなの、桐野夏生『グロテスク』から生まれた“ルッキズムや執着を手放す自分” 読書が与えてくれるものとは【WITH BOOKS】

インタビューバナー

Text & Interview: 後藤寛子
Photos: 興梠真穂

 Billboard JAPANの書籍複合チャート“Billboard JAPAN Book Charts”ローンチを記念した、読書好きの著名人へのインタビュー企画【WITH BOOKS】に戦慄かなのが登場。ソロ活動のほか、実妹・頓知気さきなとセルフプロデュース・アイドルユニット「femme fatale」、盟友・かてぃとのユニット「悪魔のキッス」、アイドルグループZOCXのメンバーとして目まぐるしく活躍する彼女にとって、読書とは? 少年院での出会いから、深い影響を受けた作品など、本への愛をたっぷり語ってくれた。

──普段はどんな本を読むことが多いですか?

戦慄かなの:本を読み始めた頃は小説が多かったんですけど、最近はエッセイやルポルタージュをよく読みます。いろいろなことを知れることができるのが楽しいんですよね。

──本の探し方としては、興味があるジャンルを手に取るんですか?

戦慄かなの:そうですね。気になった本を買って読んだあと、その本に参考文献として載っている本や作中に出てきた本を読んでいくことが多いです。電子書籍で買うと関連書籍をオススメされるじゃないですか。そこで気になるものがあったらすぐ買ってしまうタイプなので、買ってまだ読んでいない本がたくさん溜まっています(笑)。ルポは作者というよりタイトルや扱っているテーマで選ぶことが多いですけど、加藤諦三さんや中村うさぎさんの本はよく読みますね。

──読む頻度としては?

戦慄かなの:読書はもう生活習慣の一部になっていますね。一回読み始めたら没入してしまうので、特に電子書籍を買うようになってからはご飯を食べている時もトイレに行っている間もずっと読んでいたりします(笑)。もともと少年院に入っていた時に本を読むようになって、最初は「本は紙で読んでこそ」と思っていたんですけど、気づけば大量に増えて本棚がパンパンになっているし、それを処分するのも大変で。電子で読み慣れると、文字が書いてあったら一緒かなと思えるようになりました。

──少年院では、3,000冊近くの本を読んだそうですね。やっぱり本との出会いは戦慄さんにとって大きなものでしたか。

戦慄かなの:はい。それまで本を読むことが娯楽になると思っていなかったんですけど、少年院では本を読むか勉強するか内省するか、みたいな生活なので。本を読んでいる時間が辛いことを忘れられる時間や現実逃避できる時間になっていたんですよね。特に、三浦しをんさんの『舟を編む』という作品が、最初に本というものに愛着を持つきっかけになりました。

──辞書編集部の人々が国語辞典を作り上げるまでを描いた作品ですね。

戦慄かなの:当時の私は本のなりたちも辞書についても全然知らなかったから、すごく惹き込まれて。辞書そのものが大好きになったし、知らない言葉をメモしておいて辞書で一つひとつ調べたり、それをノートに書き写したりするくらい、のめり込みました。そこから本をたくさん読むのが楽しくなったんです。

──ジャンル問わず読むようになったんですか?

戦慄かなの:小説中心に読みつつ、少年院に林真理子さんやさくらももこさんのエッセイとかもあったので、意外とジャンルは幅広かったです。あと、少年院に置いてある本以外も差し入れしてもらえるんですよ。情報網が新聞だけだったから、新聞に載っている本のランキングや広告、直木賞や芥川賞の受賞作が一大トピックで。気になった本を手紙に書いて、お母さんに差し入れてもらっていました。ただ、そのまま差し入れてもらえるものもあれば、検閲で弾かれるものもあるんですよね。弾かれるものは全部保管されていて、帰ってきてから渡してもらえるんですけど、どうして弾かれたのか気になるじゃないですか(笑)。そういう本が溜まっていたし、少年院を出た当初は何をすればいいかわからなかったから、しばらくは日中ずっと本を読んで過ごしていました。今回、人生の中で影響を受けた本として紹介しようと思っている桐野夏生さんの『グロテスク』も、実は差し入れてほしいと言って弾かれた本だったんです。

──そうだったんですね。影響を受けた本として『グロテスク』を選んだ理由というと?

戦慄かなの:まず、自分の心の中にある感情がここまで言語化して書いてあることに衝撃を受けました。この作品について語ろうと思うと美醜やルッキズムの問題が切り離せないと思うんですけど、私自身がそういうものに異常な執着を持って生きてきたので、読みながらあまりにも考えさせられることが多くて。その結果、逆にこだわらなくていいのかなと思えるようになったんですよね。自分はどうやってもブスだから、せめて優しい無害のブスになろうと思えるようになったというか(笑)。『グロテスク』に登場する主人公の「わたし」とユリコと和恵という3人の女性は、全員価値観がちょっと変わっているんですけど、私はそれをバカにできる立場じゃないなと思ったんですよ。読んでいるうちに自分の中にある黒い感情みたいなものを意識せざるを得なくなって、それなら自分の中にそういう気持ちがあるかどうかをしっかり確認しようと思えた。登場人物みたいになりたくないというわけではなくて……ちょっと表現が難しいんですけど。

──普段見ないようにしている感情が文字で書かれているから、暴かれてしまったような感覚?

戦慄かなの:そうそう。美に執着した結果どうなってしまうか、もとから美人な場合も頑張って美しくなろうとした場合もすべての世界線が書かれているじゃないですか。じゃあ、私は美しくなりたいと思うその先にどんな幻想を抱いているのかと考えた時に、自分の考えていること以上のものが小説に描かれているから、執着していたこと自体がどうでもよくなったんですよね。自分の中にある黒い感情に敏感になれて、よくないと思えるきっかけにもなった。だったらせめて優しい人間になろう、無害な人になろうって……きっと本の趣旨とは違うと思いますけど、私はそういう教訓を学びました。

──考え方自体に影響を受けたんですね。

戦慄かなの:桐野夏生さんの小説からの影響は大きいですね。ルッキズムに関する考え方について、共感できるところも批判的な気持ちもあるからこそ、それを私の今の活動の世界観に落とし込めているところがあると思います。

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発信方法として書くという方法がしっくり来ているのは、絶対本を読むようになったおかげ

──ほかに、影響を受けた作品はありますか?

戦慄かなの:もう1冊挙げるとしたら、村田沙耶香さんの『殺人出産』。村田沙耶香さんの作品はもともと好きで、『コンビニ人間』なども読んでいたんですけど、何かのタイミングで『殺人出産』が関連書籍に出てきて読みました。

──村田沙耶香さんは独特の世界を描かれる作家さんですよね。『殺人出産』は、10人産んだらひとり殺すことができるという近未来の物語です。

戦慄かなの:まず設定がすごいですよね。本の中で世界をぶっ壊してくれるところが本当に好きで、ストレス発散になります(笑)。村田さんはそういう独自の世界を当たり前のように書かれるんですよ。そこに納得して感情移入できるし、「名案だ!」みたいな過激な気持ちにはなるわけではないけど、すごくピュアな世界だと思わせるのが上手い。社会に対しする問題提起を、おもしろいかたちでアウトプットされているなと感じます。村田さんの作品だと『トリプル』も好きですね。

──『グロテスク』も『殺人出産』も読んだあとに考えさせられる余白のある小説ですが、読んだあとにいろいろ反芻するタイプですか。

戦慄かなの:書かれていることやテーマについてすごく考えますね。それで暗い気持ちになるというより、そこから派生した気持ちのまま、いろんなことに向き合えるというか。本を読んだあとのメンタルによって日常生活での感じ方も変わってしまうところがあるので、危ないかもしれない(笑)。

──ご自身で作詞する時や音楽表現する時にも、本の影響がありそうですか?

戦慄かなの:あるのかなぁ……歌詞を書くために本を読むことはないですけど、いろいろなものの積み重ねが今の自分を作っているので、自然に影響を受けている部分はあると思います。喋るより文字にするほうが考えをちゃんと見つめられるし、発信方法として書くという方法がしっくり来ているのは、絶対本を読むようになったおかげですね。

──文章を書く時は、自分の中にあるものを発散するような感覚?

戦慄かなの:いや、書く時は考えに考えてから書くので、発散という感じではないです。書くテーマがぽんぽん出てくるわけでもないし、まずテーマが思い浮かぶまでに時間がかかる。だから、作家のみなさんはどうやってテーマを思いついているのかなと思います。それこそ三浦しをんさんはいろんなジャンルを書かれるじゃないですか。辞書についてだったり、『まほろ駅前多田便利軒』での便利屋さん、かたや駅弁についてのエッセイがあったり。私は自分が興味あることや身の回りに関連しているテーマじゃないと歌詞を書けないので、自分の管轄外のテーマを扱った小説を書いている方々を見ると、「頭の中どうなっているんだろう?」と思います。

──では、ビルボードジャパンの書籍チャートを見てみていかがですか?(編集部注:戦慄さんには2025年12月18日公開の文芸書籍チャート“Hot Bungei Books”をご覧いただきました)

戦慄かなの:ランキングを見て買うことはないので新鮮ですね。上位に朝井リョウさんの作品(『生殖記』『イン・ザ・メガチャーチ』)が2冊もランクインしてる。『イン・ザ・メガチャーチ』はアイドルの運営の話なんですね……気になるから読んでみようかな。あ、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』も入ってる! なんで今なんだろう?

──村田沙耶香さんの『消滅世界』が映画化されたので、その影響かもしれないですね。呉勝浩さんの『爆弾』や湊かなえさんの『人間標本』など映画化関連の作品は多いですが、そういう視点ではあんまり読まないですか?

戦慄かなの:そうですね。逆に、映画化されているとちょっと萎えるほうです(笑)。「この本、面白かったな」と思って文庫本で買いなおそうとした時、映画化されて帯やカバーが映画仕様になっていると買う気がなくなったりする。急に俗っぽく感じるというか、何かフィルターがかかっちゃうんですよね。今流行っている本や漫画とかも全然読まないです。

──本当に自分の関心で探していくという出会い方なんですね。読んだ本をまわりの人やファンの方におすすめすることはありますか?

戦慄かなの:本が好きな友達とシェアしたり、誰かと本の話ができたりしたら楽しいんだろうなぁとは思いますけど、そういう相手がいないんですよ。SNSに載せるのも、“本を読んでる” アピールのように思われるのがちょっとイヤで。音楽もすごく好きですけど、好きな音楽をシェアしたこともないです。ファン相手ですら、「私のセンスを受け取れ!」って押しつけるようなことはしたくない自分がいて。だから、ひとりで楽しんでそっとしまっています(笑)。でも、たまにこういうインタビューで影響を受けた本や好きな本を答えると、ファンの人が同じ本を持ってきて「読みました」と言ってくれることがあるんですよ。昔の発言でもそうやって読んでくれる人がいるので、発信するのもいいなと思います。この取材を期に発信してみようかな。

──戦慄さんの影響で本を読んでくれたら嬉しいですよね。

戦慄かなの:嬉しいです! ファンの方で、本を読む習慣がなかったけど、私きっかけで本を好きになった方や、「少年院での話を見て本を読んでみたら大好きになりました」と言ってくれる人がいて。そういう話を聞くとすごく嬉しいです。

──若い世代の人はタイムパフォーマンス重視で、本を読むことが減っているそうですから、ぜひ読書の面白さを広めていただきたいです。

戦慄かなの:文字が無理なのか、10秒くらいでわからないとイヤなのか……。ショート動画とかは単なる暇つぶしという感じで、やっぱり没入感がないですよね。読書のほうが、より充実感が得られるコンテンツだと思います。

──戦慄さんご自身は、何を求めて本を読んでいると思いますか?

戦慄かなの:なんだろうな。たとえば、本で読んでいるルポルタージュの内容を文字にせずにYouTubeで説明している動画があっても、絶対に見ないですね。文字だからこそわかりやすく簡潔に読めて、いろんなことを深く知れる気がする。「そういうコンテンツって本以外にあるのかな?」と思ってしまうくらい。

──たしかに。

戦慄かなの:あと、ボーッとしてる時も大事って言いますけど、私はボーッとしていると何もやっていないという焦りや不安感を覚えることがあるんですよ。でも、本を読んでいると何かしらの有益な情報が頭に入ってきているから、何かをやっている気持ちになれる(笑)。そういう安心感みたいなものを受け取るために本を読んでいるところもあると思います。

──最後に、ソロとしての最新曲「LOVED ALL」についても聞かせてください。大森靖子さんが作詞作曲を手掛けていますが、大森さんの歌詞も、いろいろ考えたり想像したりする余白がありますよね。

戦慄かなの:そうですね。そういえば靖子ちゃんは本読むのかな? 靖子ちゃんの好きな本も知りたいですね。以前、朝井リョウさんがインタビューで「小説家になったら嫉妬する人は?」という質問で靖子ちゃんを挙げていて、「やっぱりすごいんだ!」と思ったことがあります。靖子ちゃんが小説を書いたらどうなるんだろう。斬新な言い回しやパンチラインが強いから、やっぱり歌詞の尺のほうが生きるのかもしれないけど。

ソロ名義の活動で靖子ちゃんに書き下ろしてもらうのは初めてなんです。私が作詞した悪魔のキッスの楽曲「カスタムラブドール」に出てくる「ラブドール」という単語から着想を得て、「ラブドール」の区切るところを変えたら「LOVED ALL」ーーすべての人を愛したという意味合いになるよねっていうところから広げて書いてくれて。靖子ちゃんからの愛情をすっごく感じました。


──戦慄さんの音楽活動は、ソロのほかに、ユニットのfemme fataleと悪魔のキッス、さらにZOCXへの加入などどんどん広がっていて。今後もいろいろなかたちで続けていく予定でしょうか?

戦慄かなの:いろいろ続けていきたいと思っています。アウトプットが増えたぶん、インプットが必要なので、引き続きたくさん本を読んでいきたいです。音楽もそうだし、コンテンツに触れている時間がインプットになり得るので、ちゃんとそういう時間を取らないといけないですね。まずは溜まっている本を読まないと(笑)。

──ご自身の影響で本を読んでもらえると嬉しいという話がありましたが、音楽でも、誰かに手を差し伸べるような活動をしたいという気持ちがありますか?

戦慄かなの:もちろんです。でも、自分が何をしたらいいのかわからないので、「何かできることがあれば」という気持ちですね。「LOVED ALL」もみんなに届いてくれたらいいなと思います。私と近い考えや悩みを持っている人にしかるべきタイミングで届くのはかなり奇跡に近い確率なので、少しでも届いてくれることを祈っています。

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