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<インタビュー>Helsinki Lambda Clubが語る、令和の内輪ノリを描いた新曲/ビルボードライブ公演への期待
Text:Takuto Ueda / Photo:森好弘
Helsinki Lambda Clubが新曲「Supernice (feat. トリプルファイヤー吉田)」を、7月16日にリリースする。2024年11月リリースのEP『月刊エスケープ』に収録予定だったというこの曲では、4人組ロックバンド、トリプルファイヤーの吉田靖直(Vo)を客演としてフィーチャー。Helsinki Lambda Clubの新たな音楽モードも示唆する、実験的な一曲に仕上がった。
7月5日にはビルボードライブ東京で【12th Anniversary Special Live】と題したライブも控える彼ら。新曲の制作エピソードとライブに向けた意気込みを、メンバー3人に語ってもらった。
90年代感をイメージした新曲
――新曲「Supernice (feat. トリプルファイヤー吉田)」ですが、2024年時点でオケ自体は完成していたそうですね。
橋本:そうですね。本当は去年出したEP『月刊エスケープ』に収録するつもりでした。なので、作品としての親和性は全然あると思うし、最近のモードの曲って感じではないですけど、寝かせていたおかげで今の視点からバランスが取れたというか、方向性が見えた気がするので、結果としては寝かせてよかったなと思います。
――具体的にはどれくらいの完成度で寝かせていたんですか?
橋本:楽器のレコーディングまで終わっていました。歌入れをするときに「これは誰かと一緒にやりたいね」という話になって、そこで無理に進めていくより、ちゃんとやりたい人とやれるタイミングを探したいと思って。
――なるほど。そもそもどんな楽曲のイメージが皆さんの中にあったんですか?
橋本:僕の中ではすごくHelsinkiっぽいといえばHelsinkiっぽいんですけど、あまりそういうことは深く考えず、自分の好きなノリとかを素直に出した感覚ですね。だからこそ、誰かに入ってもらったほうが予想外に広がっていくかなって。イメージとしてはスチャダラパーとか、90年代感。あとは、スティーブ・レイシーのローファイな感じとかをイメージしました。
――『月刊エスケープ』に対してはどんな部分で親和性があると思いますか?
橋本:そもそも『月刊エスケープ』は、踊れる作品にしたいというのがあったので。ある角度でそこに重なってくるイメージはありました。ちょっとヒップホップ的なフォーマットではあるけど、稲葉と太起(熊谷)によってファンキーな感じが加わって、よりダンスという文脈に近づいた気がしますね。とはいえ、この曲は今のHelsinkiの過渡期っぽい雰囲気もあって、今後への橋渡しみたいな立ち位置にもなりそうな気がするので、やっぱりタイミングもよかったなと思います。
――熊谷さんと稲葉さんはどんなアプローチを?
熊谷:制作の序盤からベースソロ入れたいなと思っていました。僕らのライブって稲葉がフィーチャーされる瞬間、けっこうあるんですけど、ベースソロはあまりないなって。ライブでもそうやって盛り上がる曲があってもいいのかなと思って提案しました。
稲葉:この曲に関しては、たしかに「ライブではこう映えるんだろうな」みたいな先が見えたというか。例えば「ここの尺を伸ばしたら盛り上がるかな」とか「コール&レスポンス的なこともできるんじゃないか」とか、そういう想像を膨らませながら作ったところはあります。

――客演はトリプルファイヤーの吉田靖直さん。
橋本:僕の中では数年前から吉田さんと一緒にやりたいアイデアはあったりして。めっちゃツェッペリンみたいなハードロックに、吉田さんの歌が入ったら面白いそうだな、とか。いろんな構想は勝手に膨らませていたんですけど、今回の曲で「これ吉田さんじゃない?」とひらめいてお声がけしました。
――もともと交流はあった?
橋本:対バンもしたことあるし、飲みの場でも会ったりしたけど、そこから距離が縮まっていく感じはなかったです。僕はすごく好きだし尊敬しているけど、ぐいぐい詰めていくのは違うかなって。そのくらいの距離感だったからこそ、この曲の「自分ら最高だぜ」と言っている側と吉田さん側との温度差みたいなものがすごくリアルに出ている気がして、そこが個人的にめちゃくちゃ気に入ってます。

――作詞はどんなふうに進めていったのでしょう?
橋本:僕の中の原体験というか、美意識の軸として90年代というのがあって。それこそスチャダラパーとかポンキッキーズとか、あとはパラッパラッパーもそうで、あの内輪感とかダチ感みたいなものに昔から親近感があって、それを令和っぽくアップデートした形にできないかなって発想ですかね。年を取ると言いたいことがどんどんシンプルになっていくというか。ただただ自分を鼓舞するというか、「俺たちスーパーナイス」と言い切ってみるのもシンプルなテイストでいいなって。
――人々が無数のコミュニティに分かれている時代の価値観にもフィットするというか。
橋本:めちゃくちゃ細分化されてますよね。今までは素人の内輪ノリって本当に素人のもので、メディアからは分断されてきたものだと思うけど、最近はYouTubeの影響力が出てきて、あまり境界線がなくなってきた。いろんな見方があっていいとは思うけど、自分たちで「俺たち最高」と言い切るマインドが、わりと今の時代は大切な気がするんですよ。その内輪を冷めた目で見ている人も、考えていることはそこまで違わなかったりするし。そういう令和の内輪ノリを描きたくて。

お客さんとしても来ていた会場でのライブ
――「Helsinkiの過渡期」というお話もありましたが、今の皆さんの音楽モードってどんなところにあると思いますか?
橋本:『月刊エスケープ』で想定していたダンスというテーマが、けっこう紆余曲折あって、ただのダンスという軸には収まらなかったので、それをもうちょっと突き詰めた作品にしたいなとは思っていますね。あと、次は稲葉と太起の二人にも曲を作ってきてもらう形にしようと考えていて。
熊谷:という構想が何となく共有されていたので、前回のツアーでライブのアレンジとしてDJ的に曲をつないでいくゾーンがあったんですけど、ああいうニュアンスの曲は作りたいなと思って、いろいろ考え始めています。もともとある曲をアレンジしてつないでいくのが楽しかったので。メン・アイ・トラストのライブに行ったときにも5、6曲のメドレーを10分くらいでやっていたんですけど、そういうのってアガるじゃないですか。
稲葉:今ちょっと考えているのは、テンポ120とかのダンスというより、横揺れできるような曲ですね。まだどうなるかは分からないですけど。最近はディスコバンドがやっているようなメロウな曲を聴いていて。オハイオ・プレイヤーズの「Sweet Sticky Thing」という曲が好きなんですけど、ファンクとかソウルをやってきた人のリズム感とかノリで、すごく好きなんです。その感じをうまくHelsinkiのロックな感じに落とし込めないかなって。
橋本:個人的には2000年代初頭のラプチャーとか、ちょっとギターロックの香りもするレイヴっぽい音楽もやりたいなと思いますし、XTCみたいなニューウェイヴ系のポストパンクとかも最近またアツいなと思いつつ、今じゃないというか、まだちょっと早い気もしていて。でも、構想はでき始めているので、試したいことはいろいろあります。だから結局、次の作品も広がっちゃうんだろうなって(笑)。
――次のアルバムも楽しみですね。
熊谷:めっちゃバキバキのクラクソンズみたいになるかもしれない(笑)。
橋本:バンドとしては毎回、落ち着いていく前に花咲かせてえと思うんですけど、今回も落ち着く前にちょっとダンスしてえな、みたいな感覚はありますね。

――そして、7月にビルボードライブ東京での公演も控えています。
橋本:うれしいです。光栄です。
――熊谷さんと稲葉さんはお客さんとしてもよく来てくださっているんですよね。
熊谷:サム・ウィルクスとジェイコブ・マンを見たんですけど、めっちゃよかったですね。あと、デビッド・T.ウォーカーもは一番前の席で見ていました。それがたぶん初めてだったかな。もう10年くらい前。ああいう存在を間近で見れるハコってイメージですね。
稲葉:ホセ・ジェイムズを見に行ったとき、サポートのネイト・スミスのドラムとホセのボイパのソロ対決みたいなのが始まって、ドラムの生音がでかすぎて、ほぼそれしか聞こえない状態で「すご!」みたいな。ペダルを踏むときの「キュッキュッ」みたいな音も聞こえちゃうぐらい。あと、僕はコリーヌ・ベイリー・レイを最前で見たんですけど、終わった後に握手してもらった思い出があって、距離感の近さは僕も印象的ですね。

――そんな会場でHelsinkiがライブをすることについては、どんなふうに捉えていますか?
橋本:僕の中では本当に幸運というか。ずっと僕はバンドマンという自覚を持って20代を過ごしてきたけど、30を超えたあたりでいろいろ振り返ったり、先のことを考えたりするなかで、最近はミュージシャンに片足を突っ込んでいるような感覚があって。その片足をさらに深く突っ込むきっかけの場になればいいなと思っています。個人的にはいつもより演奏で表現するという部分にフォーカスしたライブにしたいなと。
――橋本さんの中ではバンドマンとミュージシャンで在り方の違いがあるんですね。
橋本:なんか違うんじゃないかなと思っていて。別にバンドマンと言ったっていいんですけど、そういうマインドで臨むのが今回のリスペクトの表し方かなという気がしています。

――稲葉さんと熊谷さんは、ビルボードライブ東京でのライブについてはどうですか?
熊谷:やっぱり丁寧になるなとは思いますね。本当にいい機会だなと思うし、最近はリハも始めていて、アレンジもやっているんですけど、今までやってこなかったアプローチにも挑戦できそうな感じで、各々のスキルアップにもつながりそうな気がします。
稲葉:アレンジという点では、かなりグラデーションがあるセットリストになりそうだなと思っていて。僕がホセとかコリーヌを見たときみたいな感覚を、お客さんが少しでも味わってくれたらいいなと思うし、例えば「この曲のリズムは足元でこうやって取ってるんだ」とか、普段は見れないところを見れる機会だと思うので、そういうのも含めて楽しんでもらえたらいいなと思います。ビルボードライブしかり、今後もいろんなところでライブしたいです。
橋本:コンセプチュアルと言うとちょっと堅苦しいけど、今後も楽曲にフィットしたライブをしていきたいですね。やろうとしている曲が一番生きる形というか。会場のキャパとか数字の話ではなく、楽曲をいかに気持ちよく発揮できるかという試みにどんどんフォーカスしていきそうな気がします。「こういう楽しみもあるんだ」みたいなものを出していけたらなって。大きいところでやるというのも大事なことだし、応援してくれている皆さんも分かりやすく楽しめるものだとは思うけど、欲を言えばめっちゃ激狭な、本当に数人とかの前でそこに注力したライブとかもやってみたいですしね。

リリース情報
「Supernice (feat. トリプルファイヤー吉田)」
- 2025/7/16 DIGITAL RELEASE
※本楽曲を1曲追加収録したEP『月刊エスケープ』アナログ盤(HAMZ-031)を同日発売
『月刊エスケープ』
- 2025/7/16 RELEASE
<アナログ盤>
HAMZ-031 4,620円(tax in)
公演情報
【Helsinki Lambda Club 12th Anniversary Special Live
Men on the Board~A Slow Burn Session~】
2025年7月5日(土)
東京・ビルボードライブ東京
1st stage open 14:00 start 15:00
2nd stage open 17:00 start 18:00
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