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<インタビュー>ちゃんみな 【No No Girls】、HANAのデビュー、そして2作連続リリース――走り続ける彼女を突き動かすものとは
Interview & Text:山田宗太朗
ガールズグループオーディション【No No Girls】で大きなムーブメントを起こし、そこで生まれた7人組グループHANAをデビューシングル『ROSE』でチャートのトップに送り出すなど、プロデューサーとしての実力にも注目が集まるちゃんみな。プライベートでは結婚と出産も経験して一児の母になるなど話題が尽きないが、自身の新曲も連続リリースし、その活動は止まるどころか加速しているように見える。彼女は今、何を考え、どこに向かっているのか。【No No Girls】の振り返りとHANAのプロデュースについて計画していること、2つの新曲について聞くとともに、今後の展望についても語ってもらった。
チャンスは突然やって来るし、そのタイミングは選べない
――SKY-HIさんが代表をつとめるBMSGとタッグを組んで開催されたガールズグループオーディション【No No Girls】は、すごい反響でしたね。
ちゃんみな:ありがたいことに。でも個人的には、あまり世間の反響や評判を見ないようにしていたんです。元々私は「This is my thing, do your thing.(私は私のことをやるし、あなたはあなたのことをやって)」というマインドで生きているし、世間の声に自分の判断が左右されるのは嫌だったので。ガールズグループを作る過程を見せてはいるけれど、世間にどう思われるかについてはほとんどフォーカスしていませんでした。
――素晴らしいオーディションでしたが、やりきってみて、率直にどのように感じていますか?
ちゃんみな:私も成長できる素晴らしい機会でした。最初に SKY-HIからオーディションをやろうと提案された時は「絶対に今じゃない」と思ったけれど、振り返ってみれば、こういうのって、自分でタイミングを決めることはできないんだなと思いましたね。ある種の運命的なものかもしれません。最終的にいつかプロデューサーになることは昔から思い描いていた夢のひとつだったけれど、自分だけで「今」だとは選ぶことはできない。相手がいて、いろんなタイミングが重なって、チャンスは突然やってくる。そういう意味で、結婚や出産に似ている気がしました。
【No No Girls】Ep.01 / Prologue - What's No No Girls-
――「絶対に今じゃない」と思っていたのはなぜですか?
ちゃんみな:私にはまだ何もないと思っていたからです。何かの賞をもらったわけでもないし、大きく称賛されたこともない。もちろんファンのみんなは私の味方をしてくれていたからずっと心にいたけれど、劣等感のようなものがありました。
――劣等感?
ちゃんみな:そうです。私は、デビュー当時は世間から「JKラッパー」として色物扱いされ、「ラッパーなんだからフリースタイルで誰でもディスれるんでしょ?」みたいな感じで面白がられていました。あの頃はまだ、若い女の子がラップをやると、ミュージシャンというよりは色物として面白がられていたんです。私は子どもながらにミュージシャンとしてのプライドを持っていたので、こうしたレッテルを貼られることにたくさん傷ついてきました。最近になってようやくフィメールラッパーがちゃんと称賛されるようになってきたけれど、私が世に出始めた頃はそうじゃなかったんです。そういう中で戦い続け、「私は本物なんだ」と言い続けてきた。だから茨の道を抜けてきたと思っているんです。
それでも私にはまだ何もないと思っていた。大人たちの手のひら返しはすごく嫌だったし、ひとつの目標にしていた日本武道館公演も、コロナ禍で半分しかお客さんを入れられなくて、思っていたほどの達成感は得られませんでした。なんとなく報われない気持ちがあったんですね。そんな時に作っていたのが「命日」という作品だったんですが、この作品を聴いたSKY-HIが「ガールズグループを作るのは今しかない。もうすぐミナが死んじゃうかもしれない」と思ったらしいんです。私、実はその時、死と近い生き方をしていて。
命日 / ちゃんみな
――精神的に辛い時期だったんでしょうか。
ちゃんみな:精神的にも不安定だったし、仕事はするけれど、目の前のことをやりながらも心と身体が重たいというか……本当に辛かったんですね。そんな辛い時期に人を救うなんてできないと思ったんです。だから「絶対に今じゃない」と。
だけど、SKY-HIに巻き込まれてやることになり、実際にオーディションが始まったら、参加者の女の子たちに「私と同じ思いをさせたくない」という気持ちが強くなってきて。それで、自分が渡せるものは彼女たちに全部渡したいと思うようになりました。
責任感のない人はプロデューサーになるべきではない
――それだけ辛い時期だったのなら、オーディションを通して自分が回復していった実感のようなものがあったんでしょうか。
ちゃんみな:総合的にはそうだと思います。ただ、やればやるほど私の体力や精神もすり減っていくし、目の前では女の子たちが泣いているから、とても平常心ではいられなかったです。しかも妊娠中だったからホルモンバランスも良くなくて……。削られていたことは確かだと思います。最終的には、最終審査【No No Girls THE FINAL】が終わってから一気に来ました。産後うつとも重なってちょっと危ない時期だったんです。「もう何もかも無理!」と思ってしまって。でも、結果的にはこのオーディションを通して私も成長できたし、生きなければ、と思いました。
――産後すぐに【No No Girls THE FINAL】があり、その後数か月でHANAがメジャーデビューしたわけですが、産後うつと重なったその危ない時期はどうやって乗り越えたんでしょうか。
ちゃんみな:私がどうなろうとデビュー曲くらいは書かなきゃという責任感です。これだけはなんとか完成させようと思って書いたのが「ROSE」で、だからあの曲には私の感情が全部乗っているんです。
ROSE / HANA
――ということは、「ROSE」は【No No Girls THE FINAL】の後から作り始めた?
ちゃんみな:トラックはすでにできていて、私の中で打ち出したいHANAのイメージもありました。でもメンバーが決まっていない段階では歌詞もメロディも決まらないので、細かいことは【No No Girls THE FINAL】の後からですね。暗い部屋にこもってひとりでデビュー曲を書いていたら、徐々に元の自分に戻っていったんです。だからやっぱり私にとって音楽は自分を救ってくれるものだし、HANAのみんながいなかったら今の私はいなかったかもしれません。
――「ROSE」は素晴らしい楽曲で、Billboard JAPANの総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”でも1位を獲得しています。あの楽曲の背景には、そのようなご自身の辛さがあったんですね。それを責任感で乗り越えたと。
ちゃんみな:というか、逆に言うと、責任感がない人はプロデューサーなんかやっちゃダメだと思います。オーディション中も私は絶対に泣かないようにしていました。審査する側が泣いちゃだめですよね。いちばん泣きたいのは審査されている側なんですから。いろんなことを同時に進行させて心身ともにギリギリの状態ではあったけれど、そういう状況はこれまで何度も経験しているので、ギリギリの状態との付き合い方がわかってきたのかもしれません。特にこの業界には地獄もあれば天国もある。いや、地獄があるからこそ天国を見ることができると言ったほうが正確かもしれません。生きていてよかったと思える場面にもたくさん出会えるので、ギリギリの状態でも頑張れるんです。
――やはりギリギリの状態ではあったんですね。その言葉を聞けて安心する人も多いかもしれません。ちゃんみなはスーパーウーマンじゃない、彼女もひとりの人間なんだと思うことで鼓舞される気がします。
ちゃんみな:そうなんですよね。たまに「強くてすごいですね」って言われるけれど、実際は全然そんなことなくて、本当にギリギリでやっているので。
――それを表に出さないのはすごいです。オーディション中も、画面上ではいっさいその感じがなかった。出産を目前に控えているとは思えないパワフルさでした。
ちゃんみな:それはそうですよ。だってプロデューサーがヒステリックに泣いていたら、参加者としては「私、ここでデビューして大丈夫……?」って不安になっちゃうから。それができないならプロデューサーになるべきではない。それだけのことです。
リリース情報
シングル「WORK HARD」
- 2025/4/30 DIGITAL RELEASE
シングル「I hate this love song」
- 2025/5/30 DIGITAL RELEASE
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いつかは「ちゃんみなプロデュース」を外し、
HANAを自立させる
――HANAのプロデュースについては、楽曲やMVの構成はもちろん、衣装やメイクなど、あらゆることに関わっているそうですね。今後は少しずつ手放していく予定ですか?
ちゃんみな:もちろんです。HANAのみんなはそれぐらい素質がある子たちなので。今はHANAとしての方向性を固め、みんなが何者なのかを探している段階だけれど、徐々に自分たちで曲を出せるようにしようと思っています。作詞作曲はもちろん、ライブ演出なども含めて、すべてを自分たちでできるように。いつかは「ちゃんみなプロデュース」という看板を外したいんです。HANAとして完全に自立してほしい。もちろん最初の数年でそれをするのは無理だと思うけれど、その先は自分たちでHANAを育てられる能力がつくように今から動いています。
――あるインタビューでは、HANAのプロデュースについて「今は自分の芯を固める作業、自分の色を濃くするための指導をしています」と言っていましたが、具体的にどんな指導なんでしょうか? というか、そもそもそれって指導できるものなんでしょうか?
ちゃんみな:わかりやすいのでビジュアル面での例を出すと、たとえばCHIKAは、髪を下ろすのがずっと嫌だったそうなんです。猫っ毛なのがコンプレックスだったみたいで。でも、CHIKAの髪って、実際に見るとよくわかるけど、めちゃくちゃきれいなんですよね。しかもほとんどケアをしていないらしく、髪を乾かさないで寝ちゃうくらいなのにものすごく美しい。これって天性のものなんですよね。だから「CHIKA、この髪はマジで神からの贈り物だよ。見せつけてやれ」って話をして、そうして実際に髪を下ろして撮ってみる。すると本人も「……好きかもしんないです」と新しい自分を発見する。
MOMOKAの黒リップもそうですね。彼女の場合は「自分にはこういう色のリップが似合う」というはっきりしたイメージがあったけれど、「黒とかも似合うと思うよ?」と提案してやってみたらかなり似合っていて、本人も気に入ってくれた。
日常的にみんなと個別に連絡を取り合って、画像なども見せながら、「こういうのとかどう?」「この中だとどれが好き?」みたいな話をして、「CHIKAとは何か」「MOMOKAとは何か」を固めていくんです。いろんな提案をしながら本人たちの好き嫌いを深掘りして、彼女たちの色をより濃くしていくんですね。「何が好きか」と同じかそれ以上に「何が嫌いか」も大事だと思っているので、それをやらせないようにも気をつけています。
――そういうのを、ちゃんみなは「茨の道」を通ってきたことで自力で学んだんですね。
ちゃんみな:そうです。嫌なこともいっぱい経験しているからこそ、好きなこともわかるようになりました。一人ひとりとたくさん話をしながら、こっちの押し付けにならないように、彼女たちと一緒に彼女たちらしさを探っていますね。
あとは、私の昔の曲を聴かせて好き嫌いを探ったりもしています。私には未発表曲のストックが200曲くらいあって、なかには今の私にはちょっと合わない曲もあるんです。でもHANAには合うかもしれないので、そういうのを作り直して聴かせていますね。
お題を出されたらすぐに出せるくらいは
曲のストックがある
――HANAは鮮烈なデビューを迎えたわけですが、ご自身も新曲をリリースしました。新曲「WORK HARD」は、アニメ『BULLET/BULLET バレット/バレット』の主題歌ですね。アニメの主題歌を手掛けられるのは初めてですよね。
ちゃんみな:そうですね。これに関しては、監督の朴性厚さんから直々にオファーをいただきました。アニメの内容が面白くて、お話を伺った時にパッと思い浮かんだものがあったんです。すごく社会的な話で、自分と重なる部分があると感じて。この作品の「働く」「働かなきゃいけない」という部分にインスパイアされ、努力を続けることの大切さや、試練を乗り越える強さを身につけることの大切さを表現しました。
――朴性厚監督からはどんなリクエストが?
ちゃんみな:リクエストはほとんどなかったんです。ちゃんみならしければそれでいいと。最初は働く人の側の楽曲はどうかと提案されて、でも私は逆に、働かせる側に立ちたいと思ったんです。それでこういう楽曲になりました。アニメの世界観に寄せた上で私らしい楽曲になったので、個人的にとても気に入っています。
WORK HARD / ちゃんみな
――そして、映画『か「」く「」し「」ご「」と「』の主題歌でもある「I hate this love song」。これはいつ作った曲ですか?
ちゃんみな:作ったのは8年くらい前だったかもしれません。実は今回のオファーは、仲良くしていただいているプロデューサーさんに急にいただいたもので、かなりタイトなスケジュールだったんです。もうその時点で映画は完成していました。ちょっと難しいかなと思ったけれど、映画の、原作を読ませていただいて、思いつく曲がストックの中にあり、それを映画用に少しブラッシュアップさせて完成させました。自分の初恋について書いた曲があったんです。
――映画完成後のオファーということは、今回はテレビドラマ『ハヤブサ消防団』の時のようなちゃんみなのサプライズ出演はないと。
ちゃんみな:ないですね(笑)。私、ラブストーリーは苦手だから普段あまり見ないんですけど、すごく面白い映画でした。現代っぽさとクラシックな部分が混じっている映画で。原作の小説もめっちゃかわいかったです。私にもあった感情だったから共感できましたね。
――この曲のタイトルやサビに「hate」という強い言葉を使ったのはなぜですか?
ちゃんみな:この「hate」は「憎む」ではなく「嫌だ」のニュアンスです。本当は自分の気持ちを言いたくない。あなたへ
のラブソングなんて歌いたくない。だってそれって告ってるのと同じだから。だから〈I really hate this
love song〉なんだけど、でも言っちゃってる、みたいな気持ちを表したかったんです。
歌詞で言えば、〈Boy you know it’s not fair〉と歌っているのが最後には〈Girl you know it’s so fair〉と男目線に変わっているのがポイントです。というのも、『か「」く「」し「」ご「」と「』という作品は、原作を読んだ人は覚えているだろうけれど、最終的に相手に何も言わないで終わるんです。だからその部分を主題歌でフォローアップしてみました。
――それにしても、ストックが200曲もあるのは驚きです。これまでにも、たとえば「美人」制作時には10曲以上の候補曲を作ったというエピソードはありましたが、まさか200とは……。
ちゃんみな:楽曲は、時間がある時にまとめて作るんです。1か月間、毎日作り続けたりして。お題を出されたらすぐに「これとこれとこれはどうですか?」と出せるくらいはストックがあります。数だけでいえば、アルバムを15枚くらいは出せるかな? 曲になっていないスケッチみたいなのも含めたらもっとたくさんあるし。
古参の子たちに感謝を伝えたい
――では最後に、仕事ではプロデューサーになり、私生活では子どもが生まれたご自身の今後の目標について教えてください。
ちゃんみな:まずHANAとしては、いったん5年後までのロードマップを作ってみんなと共有しました。とりあえず今年はライブをするための曲が必要だから、たくさん楽曲をリリースします。
自分の活動としては、古参の子たちに感謝を伝えたいんです。ステージが大きくなっていくごとにチケットも取りづらくなっているから、昔から応援してくれている人たちにちゃんとした感謝の場を設けたくて。もうすでに具体的に動き出していて、これが私個人の直近の最大の目標かな。あとは、これから私のツアーも始まるけれど、0歳児を育てながらなので、両親に子育てを手伝ってもらったり、夫とスケジュール調整をしたりして、なんとかやっていこうと思っています。

リリース情報
シングル「WORK HARD」
- 2025/4/30 DIGITAL RELEASE
シングル「I hate this love song」
- 2025/5/30 DIGITAL RELEASE
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