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<コラム>金曜ナイトドラマ『魔物』とOST「触れていたい」の親和性――tonunが浮き彫りにするドラマのピュアな部分



コラム

Text:高橋梓

 シンガーソングライターのtonunをご存知だろうか。一度聴いたら忘れられない甘くスモーキーな歌声と、グルーヴィーで心地良いトラックが魅力の彼の楽曲は非常に耳に心地よい。それだけではなく、メロディーセンスも抜群で、デビュー以降多くのリスナーを虜にし続けている新進気鋭の注目アーティストだ。

 tonunが本格的に活動を始めたのは、コロナ禍である2020年。それまで学生時代にバンドをやっていたり、ジャズを習っていたりしていたが、ライブが出来ないコロナ禍で楽曲制作をしてYouTubeへ「最後の恋のmagic」をアップ。そこからSpotifyの「Early Noise」に選ばれ、リスナーの幅を広げていった。そして2023年2月15日には「Friday Night」でメジャーデビュー。同曲はFM802『ヘビーローテーション』、J-WAVE『SONAR TRAX』など全国42の放送局でパワープレイやテーマ曲を獲得し、一気に注目を集めていった。ちなみに、同曲はBillboard JAPANの2023年2月22日公開(集計期間:2023年2月13日~2月19日)の“JAPAN Heatseekers Songs”でも1位を獲得している。




「Friday Night」ミュージック・ビデオ


 その後も精力的にアーティスト活動を行なっているtonun。2024年には「君の目、声」、「沼らせないで♡」、「チルっとしたい」をリリースし、自身の楽曲をより広い層に届けてきた。2025年も2月19日に「洒落たmelody」をリリースするなど、コンスタントに楽曲を発信し続けている。さまざまな楽曲がありつつも、ミックス、マスタリングまでをこなせるからこそ、グルーヴへのこだわりや作り込みが感じられるのが彼の楽曲の特徴だろう。昨今ではTikTokで楽曲が広まり、早いスパンで収束していていくというパターンも多いが、過去のインタビューにて「僕、2015年とか2016年とかの、SuchmosとかYogee New WavesとかLUCKY TAPESとかが出てきたシーンがめちゃくちゃ好き。(中略)あの頃みたいな、『本当に音楽してるな』っていう人たちのシーンがまたできたらいいなって」と本人が語っているように、心から音楽を愛している人たちが集まるシーンを意識しているのではないだろうか。2023年にジャミロクワイのマット・ジョンソン、デリック・マッケンジーとセッションライブをした「琥珀色の素肌」を聴いても、それを感じることができるはずだ。




琥珀色の素肌 _tonun Studio Live Session with Derrick McKenzie & Matt Johnson from Jamiroquai


 また、自身の作品を発信するだけにとどまらず、2024年には中島健人に初の楽曲提供も行なった。提供したのは1stアルバム『N / bias』に収録されていく「黄昏てゆく夜に」。中島本人からのリクエストで実現したそうで、中島は同曲を「渋くてビターな自分を表現できている曲」と評している。その言葉通り、グルーヴィなサウンドに、どこかピリッとする大人っぽさを感じる歌詞が特徴的な同曲は、“アーティスト・中島健人”としての新たな魅力を引き出していると言えるだろう。

 その他にも、シンガーソングライター・春野の楽曲への参加、アパレルブランドであるナノ・ユニバースとのコラボレーション、スキマスイッチのトリビュートアルバム『みんなのスキマスイッチ』への参加と、着実に活躍の幅を広げている。

 そんなtonunが5月14日に「触れていたい」をリリースした。同曲は金曜ナイトドラマ『魔物(마물)』(テレビ朝日系)のOST(Original Sound Track)として誕生した楽曲。同ドラマは日韓クリエイターの共同制作ゆえに、1話の中に何曲ものOSTが登場するという韓国ドラマの形式が採用されている。OSTは登場人物の心情や情景とリンクする作りになっており、より作品へ没入できるきっかけにもなっている。




「触れていたい」リリック・ビデオ


 同ドラマでは「触れていたい」以外にも、ポルカドットスティングレイの「魔物」、Mori Calliopeの「Die For You」、柚木みいなの「ツミビト」、松任谷由実の「岩礁のきらめき」と多くの名曲がストーリーを彩っている。例えば、「魔物」は主人公・華陣あやめ(麻生久美子)と源凍也(塩野瑛久)が一線を越えてしまうスリリングなシーンで流れており、緊迫感を煽るような演出に一役買っている。「触れていたい」も然り。同曲が流れたシーンを振り返ってみると、1話では水がかかってしまいそうになっているあやめを凍也が傘で守るシーン、2話ではあやめが同僚の今野昴(大倉孝二)に詰め寄られているところを凍也が助けるシーン、3話ではあやめの部屋に凍也が会いに来て2人で過ごすシーンであった。いずれもあやめの凍也への恋心が加速する場面で、tonunの優しい声で<触れていたい 抱きしめていたい>と歌われている。“ラブサスペンス”と銘打たれているスリリングな展開がある同ドラマのピュアな部分が、より引き立っているのではないだろうか。




金曜ナイトドラマ『魔物(마물)』


 同ドラマはまだストーリーの序盤。チェックしていない方はぜひ「触れていたい」との親和性の高さを味わいながら観てみてほしい。そして、これほどまでに同ドラマにぴったりとフィットするtonunの才能を味わいつつ、彼の他の楽曲をチェックすることもオススメしたい(ちなみに、個人的オススメ曲は「東京 cruisin’」だ)。

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