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<わたしたちと音楽 Vol. 53>小林愛実 ピアニストとして、母として、どちらの人生も諦めずに突き進む信念

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回ゲストに迎えたのは、ピアニストとして活躍する小林愛実。7歳でオーケストラと共演、9歳で国際デビューを果たした彼女は精力的な活動を続け、2021年には【ショパン国際ピアノコンクール】で4位入賞を果たし、世界中からの注目を集めた。2024年11月には、産休・育休を経て3年ぶりとなったニューアルバムをリリース。ライフステージの変化を楽しみながらも留まることを知らない彼女に、今感じていることを聞いた。(Interview:Naoko Takashima l Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo:Shinpei Suzuki)

アーティストとして、母として
どちらの人生も手に入れる

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――幼い頃から世界に注目されるピアニストとして活躍されてきた小林さんですが、2023年のご結婚、ご出産を経て音楽との向き合い方は変化しましたか?

小林愛実:音楽への向き合い方はそんなに変わっていないんです。もちろん子どもが産まれてから、時間の使い方は圧倒的に変化しました。家には子どもというかわいいモンスターがいるので、空いた時間でコンサートに向けて練習するしかないのは大変です。でも、子どもの可愛さを見ていると、それだけでまた頑張ろうと思えるんです。


――ライフステージが変わっても音楽には今まで通り全力で向き合っているんですね。それでもやっぱり、育児をしながら活動を続けるには大変なこともありますよね。

小林:人生には、出産以外にもいろいろな大変な出来事があります。だから、自分の置かれた状況に臨機応変に順応して、こなしていくしかないと思うんです。その状況に慣れて当たり前になっていくからあまり深く考えずに「どうにかやるしかない!」と目の前にあることをやるだけです。家事や育児もできる限りを尽くしていますが、全てにおいて完璧は求めていません。仕事以外はけっこう適当なんですよ。両親をはじめとする周りの人に協力してもらい、サポート体制を整えるのが仕事を続けていく秘訣だと思います。


――なるほど! 出産する前は、誰かに頼ることが得意でしたか?

小林:頼れないタイプでしたね。でも、出産してから1人では生きていけないと実感することが増え、遠慮なく周りの人に頼るようになりました。私は“お母さん”だけど1人で子どもを育てなければいけないとは考えていません。もちろん我が子を守らなくてはいけないという気持ちはありますが、母親も父親も平等に親の役割を果たすべきだと思うんです。パートナーと分担して家事や育児をして、それでも大変なときはほかの誰かの力を借りて何人かで育てていけばいいんですよ。


――確かにそうですね。10代や20代前半のときに、仕事と結婚や育児を両立することに対して不安に思うことはありましたか?

小林:ないですね! どちらも諦めるつもりはありませんでした。結婚する相手次第でどちらも両立できると思います。私は結婚しても、母になっても、ピアニストでいたいと考えていました。だからこそ、私の仕事を理解して支えてくれる人と結婚したいという思いはありましたね。


休まなくてはいけないときにも、
戻る場所がある安心感

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――17歳のときにコンサート活動を休止し、アメリカのカーティス音楽院に留学されましたが、その当時と今回の約半年の産休中、育休中の心境はどのように違いましたか?

小林:留学中はコンサート活動を一時的に休止しただけで、自分の実力を上げるために練習し続けていたので、心境は全然違いました。産休や育休については、音楽人生で初めての休みでした。周りの人からも祝福される休みってなかなかないですよね。パートナーの帰りを待って家事をするのも、子どもを育てるのも、とても楽しかったです。でも、それが続くとやっぱり働きたいという気持ちが強くなりました。パートナーはコンサート活動を続けていたので「私はいつ復帰できるのだろうか」と不安に思うこともありました。


――そうなんですね。どのようにその不安に打ち勝ったんですか?

小林:復帰を2か月延期することを決めて心が解放されました。コンサートの予定なども入っていて、なるべくキャンセルや延期をしないように早めの復帰を決めたんです。大きな病気を患ったこともなく元気だったので、頑張れば大丈夫だと思っていましたが、出産は思っていた以上に大変でした。それでもとにかく「早く復帰しないといけない」と思ってしまい、体調を崩し精神的にも追い込まれていたんです。そんなときに、所属している事務所の方やマネージャーに「時間が経てば体も心も元通りになるから、ゆっくり休んで大丈夫だよ」と声をかけていただいたんです。温かい言葉に肩の荷も降りて産後の不安は解消し、無事に復帰できました。


――周りに理解がある人がいて本当によかったですね。結婚や出産を経てこの業界で長く音楽を続けていくためには、どのようなことが必要だと思いますか?

小林:育休を取っても戻れる場所があるといいですね。子どもは授かり物だし、コンサートをキャンセルせざるを得ないこともあります。それを理解して復帰を待ってくれている人がたくさんいたのはありがたかったです。音楽業界に限らず女性が育休を取る際に、応援してくれる環境があれば、より楽しく育児に向き合えますよね。そして私は、ゆっくりかもしれないけれど世の中は変わっていると思います。母親だから、女性だからできないことに目を向けるのではなく、もっといい世の中になることを願って、自分は生きたいように生きていきたいです。


“男性のように”共異なる、
女性ならではのキャリアの築き方

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――クラシック音楽の業界で活躍する女性はたくさんいますが、【ショパン国際ピアノコンクール】で入賞するのは男性のほうが多かったり、楽器によって奏者の男女比も異なります。この業界におけるジェンダーギャップについてどう考えていますか?

小林:昔の海外のオーケストラは男性奏者のみで構成されていたことなどの歴史の名残がまだあるのは感じますね。オーケストラに在籍している女性奏者の友達が「女性がオーケストラで活躍し続けるのは大変だ」と話していたことがあります。確かに、強い信念が必要になってくると思います。会社員なども一緒ですよね。女性で管理職に就いている人がキャリアを重ねていくには、男性のように頑張らなくてはいけないというイメージを抱く人もいるかもしれません。でも、私は自分のアイデンティティを曲げず、女性ならではの強みを活かせると思っています。


――小林さん自身が個人的にジェンダーギャップを感じたことはありますか?

小林:子どもが産まれてからは感じますね。妊娠はとても素晴らしい体験でした。自分の中で命を育てて出産するのは、女性にしか味わえません。でも、父親になるときも休みを取らずにキャリアを追える男性を羨ましく思います。


――結婚や出産以外にも、女性のライフステージの変化はキャリアアップの障害になることがありますよね。

小林:結婚や出産だけではなく、育児に追われたり両親の介護が必要になったりとさまざまな変化があります。そういった変化が家庭で起こったときに仕事を犠牲にするのは女性が多いように思います。それが社会のジェンダーギャップにも繋がっていると感じています。また、女性は年齢によってホルモンバランスが乱れ体調を崩すことも少なくありません。いくつもの障害を乗り越えて女性はキャリアアップを目指さなくてはいけないんです。


歩み続けた先に、
自分なりの答えが見つかるはず

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――小林さんにとって、「この人のように人生を歩みたい」と思えるロールモデルはいますか?

小林:出産をしてからも活躍し続けるクラシックの音楽家は少ないと思います。そのため、どんな業界でも子どもを産んでからも自分がやりたい仕事で輝いている女性を見ると感心します。でも、それは結婚と出産をした私の意見です。結婚はしてもしなくてもいいし、母になることが全てではない。その人が幸せであればいいんだと考えています。


――小林さん自身、たくさんの人のロールモデルになっていると思います。これからライフステージが変化しても仕事で活躍できるのか不安に思っている女性たちへメッセージはありますか?

小林:考えても答えはなかなか出てこない。そういう時は、勇気を振り絞って一歩踏み出すことが大切です。新しい景色が見えて違う答えが見つかるかもしれないし、すぐに見つからなくても一歩ずつ歩んでいけば自分なりの答えに辿り着けるかもしれません。10代の頃は無限に時間があると考えていましたが、子どもが産まれると、時間が風のように過ぎていくんです。だから今やりたいことは我慢せずに挑戦して、後悔しない人生を歩んだほうがいいと思います。



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