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<コラム>世界中の音楽ファンを熱狂させる超絶技巧集団スナーキー・パピー、4年ぶりとなる来日公演への期待



コラム

Text:柳樂光隆 / Photo:Emily Butler Photography

 ジャンルにとらわれない唯一無二の音楽性でグラミー賞〈Best Contemporary Instrumental Album〉を4回、〈Best R&B Performance〉を1回の計5回受賞。マイケル・リーグ率いる、現代最強のジャズ・ミクスチャー・コレクティヴ、スナーキー・パピーが2024年3月に初のビルボードライブ・ツアーを開催する。世界最高峰のパフォーマンスで世界中の音楽ファンを熱狂させている彼らのこれまでのキャリア、そして今回の来日メンバーを柳樂光隆氏に解説してもらった。


 グラミー賞受賞5回。気鋭のインストバンドだったスナーキー・パピーは、いつの間にかシーンを代表する存在になった。リーダーのマイケル・リーグが敏腕たちをまとめ上げ、高度かつ複雑なのに同時にキャッチーでもある楽曲を個々のメンバーの即興演奏をふんだんに盛り込んだスリリングなサウンドで聴かせる彼らのパフォーマンスは、ジャンルを超えて高い評価を得ている。

 もともと2004年ごろに結成され、そこに様々なメンバーが加わり、大所帯になっていき、徐々に「バンド」と「コレクティヴ」の中間のような他に類を見ない活動形態が出来上がっていった。デビューから様々な試行錯誤を続け、最初に大きな評価を得たのが2013年の『Family Dinner – Volume 1 』。1曲ごとに異なるヴォーカリストをゲストに呼んで、その伴奏をスナーキー・パピーが担当するこのシリーズは大きな話題を呼び、レイラ・ハサウェイとコラボした「Something」で初めてのグラミー賞を獲得することになった。


 翌2014年にリリースした『We Like It Here』には「Shofukan」「Lingus」といった代表曲が収録されている。このアルバムは大ヒットし、『We Like It Here』に収められた楽曲は世界中のバンドにカヴァーされ、特にビッグバンドの世界では新たなスタンダードになりつつある。


 この2作に共通するのはレコーディングに観客を入れて、有観客のレコーディングを行い、その様子を動画でも残していて、音源と動画の両方でリリースされていること。つまり、ここに収められている楽曲はすべてが編集されていない、ということになる。一発撮りで完ぺきな演奏が行われているのだが、それと同時にその場で起きたマジカルな瞬間にバンドもスタッフも観客も歓喜したり、驚いたりしている様子がそのままパッケージされていることも重要だ。結成以来、世界中をツアーして現場で鍛えられてきた最強のライブバンドがその力を発揮した光景がアルバムという形になっていたわけだ。

 その後も今のところの最新作『Empire Central』など多くの作品で有観客でのアルバム制作にこだわってきた。スナーキー・パピーにとってはアルバムの制作がライブの延長にあるのだ。それと同時に『Live at the Royal Albert Hall』『Live at GroundUP Music Festival』など、膨大なライブ音源の発表も行ってきた。スナーキー・パピーほど、ライブ・レコーディングへのこだわりが強いグループもなかなかいないだろう。スナーキー・パピーはライブバンドでありながら、同時にそのライブ性を完璧にパッケージすることを突き詰め、インストバンドの可能性を高めてきた偉大なバンドと言えるはずだ。だからこそグラミー賞がこれほどまでに彼らを評価してきた、とも言えるだろう。


 そんなスナーキー・パピーにはどんな個性が在籍しているのかを知ってもらうためにビルボードライブ・ツアーでの来日公演のメンバーを簡単に紹介しておきたい。

 リーダーのマイケル・リーグはベーシストでプロデューサーでもある。ベッカ・スティーヴンスや故デヴィッド・クロスビーの作品を手掛けている音楽シーンのキーパーソンでもある。


 今回の注目のひとりは鍵盤奏者のボビー・スパークス。ロイ・ハーグローヴのRHファクターや現代ゴスペルのスターのカーク・フランクリンの作品にも貢献してきた。ゴスペル経由の重厚なサウンドと、クラヴィネットでの強烈なソロがライブの最大の見せ場になる。


 ジェイムソン・ロスも要注目。若手の登竜門セロニアス・モンク・コンペティションで優勝した超絶ドラマーで、彼のグルーヴがバンドを支える。彼はヴォーカリストとしてもすばらしく、BIGYUKI曰く「次のスター候補」。


 ライブでの華やかさではジャスティン・スタントンも見逃せない。トランペットとキーボードを兼任するということはスナーキー・パピーに貢献できるレベルで二つの楽器を弾くことができるということ。


 管楽器ではトランペットのジェイ・ジェニングスをチェックしてもらいたい。Yayennings名義で50-60年代的なオーセンティックなハードバップをやるプロジェクトでの彼の演奏が素晴らしい。トランペット愛の強い彼は『Empire Central』ではロイ・ハーグローヴに捧げる「Cliroy」を提供している。彼がマイク "マズ" マーハー、クリス・ブロックと並ぶスナーキー・パピーのホーンセクションは超強力だ。


 近年はロックの要素も大胆に取り入れるスナーキー・パピーに必須のギターはクリス・マックイーンが務める。Read/McQueen名義でアルバムをリリースしていて、ブルーグラスやカントリー文脈のアコースティックギターでの超絶プレイを聴かせていたりもする多彩な凄腕だ。


 世界中の音楽を取り入れているスナーキー・パピーはリズム面でパーカッションに頼る部分がかなり大きい。今回はネイト・ワースがその役割を担う。ヒップホップに造詣が深いネイトだからこそのグルーヴが生まれるライブになりそうだ。

 個々のメンバーはそれぞれが異なるジャンルやスタイルで活動している。それがスナーキー・パピーという場に集まるといっきにまとまりつつ、その中でそれぞれが個性を発揮しながらスナーキー・パピーらしいサウンドを奏でるメンバーになる。世界最高のライブバンドたるゆえんはそんなマジカルなバンドの引力にある。今回の久々の来日でも特別な光景が見られることを期待している。



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