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<コラム>新時代に拡がる都市音楽、Modern Recordingsが提案する“ポスト・クラシカル”とは - Sven Helbig & Roberto Ames



 2019年よりスタートしたモダン・レコーディングスでは、かの“ギター超人”パット・メセニーが2021年に“作曲家”として発表した作品『Road To The Sun』をはじめ、高名な指揮者を父・兄に持ち、自らも指揮棒を振るクリスチャン・ヤルヴィがオーケストラとエレクトロを交配させた自作曲集『Nordic Escapes』、作曲家アラシュ・サファイヤンがベートーヴェン作品を再構築した『This Is (Not) Beethoven』、オペラにも造詣の深いルーファス・ウェインライトがアムステルダム・シンフォニエッタを従えて行ったクラシック・ライヴ『Rufus Wainwright and Amsterdam Sinfonietta Live』、ジョニ・ミッチェルやジョー・ザヴィヌルらの編曲を手掛けてグラミーに輝き、オランダのメトロポール・オーケストラを育て上げたことでも知られる作編曲家ヴィンス・メンドーサの最新作『Freedom Over Everything』など、多彩な面々が“ポスト・クラシカル”あるいはモダン・レコーディングスという場へと集い、多様な作品を生み出しているのだ。

 そんな中、2022年にモダン・レコーディングスより極めて興味深い新作をリリースしたスヴェン・ヘルビッヒとロバート・エイムズの二人を紹介したい。この二人には共通点も多く、その立ち位置も似通っている印象だ。

<コラム>新時代に拡がる都市音楽、Modern Recordingsが提案する“ポスト・クラシカル”とは - Sven Helbig & Roberto Ames

▲スヴェン・ヘルビッヒ

▲Sven Helbig - Metamorphosis (Official Video)

<コラム>新時代に拡がる都市音楽、Modern Recordingsが提案する“ポスト・クラシカル”とは - Sven Helbig & Roberto Ames

▲ロバート・エイムズ(Photo by Ozge Cone)

▲Robert Ames & Ben Corrigan - Space Hopper (Official Music Video)

 まずは、二人ともクラシック音楽のアカデミックな教育を受けてきている。ドイツ生まれのヘルビッヒは、ドレスデンのカール・マリア・フォン・ウェーバー・アカデミー・オブ・ミュージックで学んでいる。一方、イングランド中部ノーサンプトンシャー生まれのエイムズは、ロンドンの王立音楽院で指揮とヴィオラの修得に励んだ。そして、いずれもクラシック道を厳格に歩んできたわけではなく、幼少期からポップスを含む他ジャンルの音楽にも慣れ親しんできた。

 また、二人とも自らオーケストラを設立し、現代音楽の演奏に精力的に取り組んでいる。ヘルビッヒは1996年にヨーロッパ初の現代音楽専門オーケストラ、ドレスデン交響楽団を設立。エイムズもロンドン・コンテンポラリー・オーケストラを設立し、クセナキスやメシアンなどの現代音楽からフランク・ザッパ『ザ・イエロー・シャーク』まで演奏している。
 さらには、両名とも自身のオーケストラを率い、その活躍の場をポピュラー音楽の領域へと広げているのだ。ヘルビッヒはラムシュタインやペット・ショップ・ボーイズ、さらにはスヌープ・ドッグらのレコーディングやライヴに参画。エイムズはフランク・オーシャンやベル&セバスチャン、ジョニー・グリーンウッドやレディオヘッドらと共演している。あくまで印象に過ぎないが、彼らが非クラシックのアーティストたちと共演する際、それは決して「ストリングスやオーケストラ音色の素材として起用される」といった受動的なものではなく、「生のオーケストラの臨場感、そしてクラシックとポピュラー音楽を融合させる醍醐味を提示する」という能動的なものを感じる。これもポスト・クラシック・アーティストの魅力と言えるだろう。

<コラム>新時代に拡がる都市音楽、Modern Recordingsが提案する“ポスト・クラシカル”とは - Sven Helbig & Roberto Ames

▲スヴェン・ヘルビッヒ

 だが、さらに興味深いのは、この同じ立ち位置にいる二人の差異である。

 1968年生まれのヘルビッヒと1985年生まれのエイムズでは一回り以上の年齢差がある。ゆえに、クラシック以外で聴いてきた音楽にもどこか世代差のようなものがあるのだ。ヘルビッヒは、12歳の頃になんとラジオを自作し、そこから流れてくるポップスやジャズ、あるいはオーケストラ作品に耳を奪われたという。また、影響を受けたアーティストとしてスティーヴ・ライヒやフィリップ・グラス、カール・ジェンキンスらの名前を挙げ、さらにはNYに留学していた際にR&Bやブラジル音楽に親しみ、ブラジル人ドラマー、デュデュカ・ダ・フォンセカからドラムの手解きも受けている。ヘルビッヒは、どちらかと言えば最先端の音楽よりもより伝統的な音楽へと耳が向いていたと言えるだろう。一方エイムズは、ワープ・レコーズのエイフェックス・ツインやスクエアプッシャー、プラッド、オウテカなどのエレクトロニカを浴びるように聴いていたようで、10代前半にはエイフェックス・ツイン『Drukqs』とコリン・デイヴィス指揮のベルリオーズ『幻想交響曲』の2枚のCDを1ヶ月間ひたすら聴き続けたことがあったそうだ。

<コラム>新時代に拡がる都市音楽、Modern Recordingsが提案する“ポスト・クラシカル”とは - Sven Helbig & Roberto Ames

▲ロバート・エイムズ(Photo by Ozge Cone)
 

 そんな二人の最新作。巨視的に捉えると、いずれも「クラシックとエレクトロニカの融合」ではあるが、そこにはそれぞれの個性や音楽志向、さらにはその音楽が示す視点の差異が表れている。

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