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<インタビュー>空白ごっこ、『プラチナエンド』タイアップのニューシングル「ラストストロウ」を語る



 ボカロPとして活躍していた針原翼とkoyoriが、歌ってみたを投稿していたセツコを迎え、結成された「空白ごっこ」。それぞれルーツにネットカルチャーの要素を色濃く持つ彼らだが、結成後は下北沢を拠点とし、ライブハウスツアー「全下北沢ツアー」を開催するなどネットに留まらない活躍を見せている。

 2019年12月発表の「なつ」に始まり、動画再生回数130万回を超える「運命開花」、ニッポンハム『シャウエッセン』CMソング「シャウりータイム」、TVアニメ『闘神機ジーズフレーム』OPテーマ「天」など、粒ぞろいで個性の強い楽曲群は、メンバー全員が作詞曲を手掛ける「オールクリエイター」なチームだからこそ。

 今回Billboard JAPANでは初めて空白ごっこの3名にインタビューを実施。彼らのルーツと、アニメ『プラチナエンド』のエンディングでもあるニューシングル「ラストストロウ」の制作について伺った。

Interview:ヒガキユウカ

「セツコさんは空白ごっこを引っ張る存在」
2人のコンポーザーが語るボーカリスト・セツコの成長

――みなさんのルーツや、空白ごっこ結成に至るまでの道のりについて伺えたらと思います。セツコさんはもともと、歌ってみたを投稿されていたんですよね。

セツコ:中学生ぐらいの頃から、インターネットをよく見るようになりました。ネットで友達もできたんですけど、あるとき仲の良かった子から「機材をそろえて歌ってみたを始める」と聞いたんです。当時は時間があったし、自分も特にやることがなかったので、真似っこするつもりで始めました。

――これまでどんな音楽を聴いてきましたか?

セツコ:椎名もたさんや春野さんといったボカロP、ボカロ以外だと椎名林檎さんや東京事変、あとはももいろクローバーZとかのアイドルも聴いてたし、小さい頃から洋楽もすごく好きで。アリアナ・グランデやチャーリー・プースを聴いていました。

――針原さん、koyoriさんはともにボカロPとして活躍されていて、空白ごっこ結成前からご縁が始まっていたと伺いました。

針原:2012年頃だったかな。ニコニコ動画を運営しているドワンゴ社の傘下に、ドワンゴ・ユーザーエンタテインメントという会社があって(現U&R records)、僕らはそこから作品をリリースしていたんです。一度そのつながりでテレビに出演する機会があって、収録で僕とkoyoriくんがたまたま一緒になったんですよね。その後にご飯にも行って。

koyori:そうですね。そこが多分、一番最初ですね。

針原:ちょうど10年ぐらい経ちますね。

――今でこそボカロPの名をテレビで見ることも珍しくなくなっていますが、当時はかなり最先端でしたよね。

針原:珍しかったと思いますね。まだそこまでボカロPがメインカルチャーから輩出される機会は少なく、界隈の中だけで盛り上がってる感じでした。米津玄師さんもまだハチさんとして活動されている頃でしたし。

▲koyori(電ポルP)「独りんぼエンヴィー」

▲針原翼(HarryP)「夢よ未来へ / Dream to the Future」

――空白ごっこ結成のきっかけは、セツコさんの歌ってみたを針原さんが見つけてお声がけしたことだとうかがいました。改めて、セツコさんの歌から受けた印象を伺えますか?

針原:本当に独特でインパクトがありました。僕らは普段スタジオワークをしているので、どうしても家の環境ならではの音の悪さはわかります。そういう環境だとどんなに良い声でもある程度くすんでしまうものなんですが、「それなのになんだろうこの歌は、やばくない?」って。koyoriくんにも即日シェアしました。

koyori:衝撃でしたね。すでに完成されているというか、確立された存在感がひしひしと伝わってきて。「え、プロの人じゃないの?」って。まだ世に出ていないことが信じられなかったです。


▲セツコ(仮野せつこ)「少女A」(ぽわぽわPカバー)

――その後空白ごっことして一緒に活動されているわけですが、当時と比べてセツコさんの成長や変化を感じる部分はありますか?

針原:すごくあります。というか、セツコさんはもうすでに空白ごっこを引っ張る存在なんですよ。もちろん今までも3人で「こうしようぜ」っていろいろ話し合ってきたんですけど、特に最近は率先して空白ごっこらしさや自分たちの特徴をしっかり確立しようと、自分の考えを述べてくれます。しかもそれが、いつも的確なんですよね。
僕とkoyoriくんはもともとボカロP、つまりボーカロイドのプロデューサーとして、プロデュースの思考がある側の人間なんです。セツコさんはその2人に挟まれている影響か、プロデュース能力をどんどん見せるようになってきていると思います。

――何か具体的に、それを感じた場面はありますか?

針原:最近、空白ごっこのアー写が変わったんですよ。今まで僕たちは、ビジュアルで表せるものがシンプルなロゴしかなくて。それがある意味「なんだろうこの人たち、謎めいてるね」みたいな感じで、見てもらえてもいたんですけど。
活動2周年を機に、セツコさんをビジュアルに迎えたアートワークにしていくことになりました。その撮影にあたって、セツコさん本人が「自分はこうしたい」というのをよく発言するようになったなと思います。結果、アートワークもすごく良いものになったんですよね。


▲空白ごっこ 最新アーティスト写真

――セツコさんご自身は、自分の中で変化を感じる部分はありますか?

セツコ:自分はもともと「音楽活動をしたい」という願望があったわけではないので、空白ごっこをやるとなったときは「ラッキーだな」ぐらいの気持ちだったんです。「今まで経験したことのないことをするチャンスが、たまたま私に降りたのかな。楽しくできたらいいな」と受け止めていました。
やっと2周年を迎えて、こうやっていろんな方とお話する機会とかをもらえるようになってから、“自分たちの見え方”を強く意識するようになりました。音楽的な部分はもちろんはりー(針原)さん、koyoriさんというプロフェッショナルが背後に2人もいるので、安心しきっているんですけど。「こういうふうに見られたい」とか、「こういうふうに自分たちをプッシュしていきたい」という、欲みたいなものが最近は出てきました。

――セツコさん自身も作詞作曲をされていますが、空白ごっこの前から曲作りの経験はあったんでしょうか?

セツコ:何もしてなかったんです。ちょっとピアノ習ってたぐらいで、それも別にめちゃめちゃクラシック弾けますとかそういうわけでもなく、人並みくらいでした。はりーさんたちに出会ってから、DTMは勉強しました。新しいおもちゃが手に入ったみたいな感じでやり始めて。曲を作るようになったのは本当にここ最近のことです。

針原:空白ごっこが始まる半年前ぐらいに、DTMの勉強合宿をしたんですよ。空白ごっこの編曲をやってくれているエディくんが先生になって、セツコさんに教え込みました。CとかDとかコード理論から始まって、色々と分数コードも全部詰め込んだよね。

セツコ:もう10分休憩したら「はい、次やるよ」みたいな感じで……結構スパルタでしたね……。大変だったけど、やってよかったです。

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『プラチナエンド』タイアップは「来るべくして来た」

――ニューシングル「ラストストロウ」についても伺っていければと思います。『プラチナエンド』という作品そのものへの印象や、タイアップに決まった感想を教えてください。

針原:作品は前から知っていましたし、大場つぐみ先生・小畑健先生という『DEATH NOTE』のタッグということへの期待感もありましたね。すぐに単行本を全巻買って、3人で読みました。
読んでみた感想としては、なんだか僕ららしい作品だなと思いましたね。『プラチナエンド』は、自殺願望の強い主人公が天使に助けられる所から始まり、死に対していろんな人たちが葛藤していく物語です。そういうはっきりとしない、心理的なモヤモヤみたいな部分は、空白ごっこがいつも楽曲で表しているところと共通していて。

koyori:エンディング曲を担当することを意識しながら読んだんですけど、担当させていただくことに全く違和感はなくて。僕も「空白ごっこに合ってるな」とは思いました。無理せず書けそうに思えたというか……いや、難しかったんですけど。自分たちが持ってないアイディアをひねり出すというよりは、すでに武器としてちゃんと持ってるものから生み出せそうだな、という感覚はありました。

――ハードル感はあったけど、乗り越えられないものじゃないというか。

koyori:そうですね、来るべくして来てくださったのかなという感じです。

セツコ:お話が来たときはすごく嬉しかったです。作品を読み終えたとき、ここまでストーリーを作り上げてきたのに、いきなり読者に考えさせるような結末がすごく印象的で。もともと私は、そういう「自分で考えなくちゃいけない」終わり方をする作品がすごく好きなんです。
主人公はこういう終わり方を本当に望んでいたのかなとか、天使や神候補と戦う中でも絶対にブレてなかったものはなんだっけとか、全部読み終わった後にいろいろと考えました。とはいえ自分なりに考えたことを、私たちが「これが正解だと思います」って曲で表すのもナンセンスなことのように感じて。曖昧さを残すように意識しよう、とは最初に考えました。

▲「ラストストロウ」

――タイアップが発表されたとき、セツコさんは「最後に流れる曲ということで、視聴者の皆さんが感じたものを受け止めたり、噛み砕いたりするのがこの曲の役目なのではないかなと思い、話し合いながら曲を作りました」とコメントされていました。どんな話し合いをされたんでしょうか?

セツコ:今までは曲に対してメインの作曲者がいて、まわりが「こうしたらいいんじゃない?」という意見を言う感じだったのが、今回は3人で「『プラチナエンド』はこういうものだと思う」と、それぞれが思う『プラチナエンド』を話しました。
作曲の核の部分はkoyoriさんとはりーさん、編曲のエディさんとが話し合ってきたと思うんですけど、私が思い出せるのは、レコーディングのときに「こういう歌い方をしてほしい」というディレクション側の意見に対して、「私はこうがいいと思う」という返しをしていました。みんなの真ん中に『プラチナエンド』という大きな軸があって、それについての意見の投げ合いがたくさん交わされていたと思います。

――今回、作曲のクレジットが個人のお名前ではなく「空白ごっこ」になっています。曲作りはどのように進んだんでしょうか?

針原:「まず僕から先に触っていい?」と伝えて、叩きを作ったんですよね。なんとなく1コーラス分できた所でエディくんがアレンジを詰めてくれて、そのあとkoyoriくんにパスして、アレンジやメロディの変化をプラスしてもらったりして、時間をかけて何度か往復して順々に曲がパスされながら完成していった感じです。……だよね?koyoriくん。

koyori:最初はメロディと、ざっくりとしたアレンジが来ましたね。でもそのときのメロディと、完成系のメロディは結構変わってるはずです。

針原:こないだデモを聴き直したんだけど、Aメロは残ってました(笑)。

koyori:こうやってみんなで少しずつ手を加えていく作り方は、今まであまりなかったかもしれません。僕はわりと勢いで作っちゃう方なんですけど、『プラチナエンド』というその作品の世界観的にも、そういう作り方じゃない方がいいなとは思いましたね。
普段、僕はアレンジもガチっと固めて出すことが多いんですけど、僕だけの考えで決めない方がいいなと思って。比較的ふわっとした状態で「これどう?」って2人に渡して、キャッチボールしながら進めていきました。

針原:それを受け取る方はまた難しいんですよね、考えさせられるから。たださっきセツコさんが言ったように、『プラチナエンド』の結末にもあった“受け取り手に託される側面”は楽曲にもあって然るべきだなと思って。

――受け取り手に託すことが、制作中のやりとりからすでに発生していたんですね。

針原・koyori:そうですね(笑)。

――「ラストストロウ」の歌詞には、「白い布の中で 休まらない記憶の 甘い匂い」「体温の頼りなさ 冷たい光の数」といった、緻密な五感の描写が散りばめられています。一方で、「一瞬に確かを求めてしまう以外の誤魔化し」「真実の呆気なさ 喧騒の間の孤独」といったフレーズには、シリアスな空気感もあって、いろんな想像を掻き立てられる。セツコさんは歌詞を書かれるときに、どんなことを考えていましたか?

セツコ:結末を決めないようにするというルールを、自分の中で設けていました。作品の核心部分を描くというよりは、「この部分はこのキャラクターに向けて言ってるんだろうな」とか、「キャラクターのこういう生活を描写したのかもしれない」と、いろいろ想像できるようにしたいなと。
『プラチナエンド』は、登場人物それぞれにストーリーがあるんです。そうした登場人物の生活の一部を切り取って繋げるような感覚で、彼らの目に見える風景とか、心に生まれるもやっとした感じとか、笑ったときの顔がやけに印象に残っているとか、そういうのが浮かぶような詞にしたいなと思っていました。

koyori:毎回セツコさんの歌詞には「すごいな」と思わされますね。独特でありながら、イメージが浮かぶキャッチーな表現で。短いフレーズで切り取っても、文章として読んでもかっこいい表現になっていて、「ラストストロウ」の歌詞はそれがより洗練されているなと感じました。空白ごっことしても、新しい一歩を示す曲になったと思います。

空白ごっこ「ラストストロウ」

ラストストロウ

2022/02/16 RELEASE
PCCA-6103 ¥ 1,320(税込)

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Disc01
  1. 01.ラストストロウ
  2. 02.カラス
  3. 03.ふたくち

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