Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>SARUKANI、世界最大級のビートボックス大会【Grand Beatbox Battle2021】準優勝を果たした心境とは



 日本を代表するヒューマン・ビートボクサーのSO-SOを中心に、RUSY、KAJI、Koheyの4人で結成されたヒューマン・ビートボックス・クルー兼トラックメイカーのSARUKANI。先日ポーランドで開催された、世界最大級のビートボックス大会【Grand Beatbox Battle2021】では、SO-SOとRUSYによるユニットのSORRYがタッグチームループ部門で日本人初の世界チャンピオンに輝き、SARUKANIもクルー部門で世界2位という快挙を成し遂げた。全て口から出る音(ビートボックス・サウンド)だけで作られているとは思えないほど、ユニークなサウンドと複雑に入り組んだトラックメイキング、それでいてどこまでもキャッチーな4人の楽曲&パフォーマンスは、国内外問わず多くの人々を魅了し続けている。ネットで大人気のキャラクター、ブルーハムハムとコラボした「SARUKANI WARS」も話題となるなど、ビートボックスの裾野を広げ続けている4人に、その魅力や目覚めたきっかけなどじっくりと語ってもらった。

【Grand Beatbox Battle2021】を終えて

――Swissbeatboxが主催する国際ビートボックスコンテスト【Grand Beatbox Battle2021】にて、SARUKANIはクルー部門で2位に、SO-SOさんとRUSYさんのユニットであるSORRYはタッグチームループ部門で1位を獲得されました。まずは率直な感想から聞かせてもらえますか?

SO-SO:タッグチームループ部門での優勝は自信ありましたが、それでも決まった時は嬉しかったですし、日本人で初めてのチャンピオンになれたのも光栄です。

RUSY:ただ、帰国したばかりでまだファンの方にも家族にも直接会って報告できていないので、あまり実感は湧いていなくて。

KAJI:大会が終わってすぐ隔離期間に入っていたし、帰国してもすぐに色々と活動できているわけじゃないので、今はじわじわと噛み締めているところです。

Kohey:個人的に、最も時間をかけて挑んだクルー部門で優勝を逃したのは悔しいです。SARUKANIを結成したのがコロナ禍になってからなので、今回の優勝グループと比べるとやっぱり練習時間や現場慣れが足りなかったのかなと。

▲SO-SO

――大会の様子を動画で拝見しましたが、ビートボックスそのものの進化に驚くばかりでした。ここ数年のトレンドはどう移り変わっていったのでしょうか。

KAJI:例えば2012年あたりはすごく速いビートが流行っていましたね。2015年ごろは、ものすごく低くて重いベース音をフィーチャーするのがトレンドというか。

SO-SO:ここ最近は、「難しい技をいかに複雑に組み合わせていくか?」みたいな流れになってきているので、おそらく初めて見た人は、誰が何をやっているのかさっぱり分からないかもしれないです(笑)。

▲GBB 2021: World League Crew Wildcard | 1!2!3!4! (1st Place)

――確かにSARUKANIのパフォーマンスを見ても、例えばずっとキックだけを担当している人とか一人もいなくて。4人それぞれが複数のパートを操りながら、1曲の中で複雑に入り乱れていますよね。

KAJI:もともとはヒップホップ色の強いビートボクサーが主流でしたが、だんだんそれも多様化してきていますね。最近はYouTubeなどで動画をアップする人も増えているし、そこから独自のスタイルを発展させていく人が世界中にどんどん広がっています。

▲左から:Kohey、KAJI

――そうした状況のなか、日本のビートボックスはどのような位置付けなのでしょうか。

Kohey:アジア圏の中ではレベルが高い方だと思いますね。例えば2019年のアジア大会では、日本人のビートボクサーが上位を独占していましたし。世界的にもレベルは上がってきています。が、やはりフランスとアメリカ、イギリスのレベルは非常に高いです。

KAJI:特にフランスはビートボクサーの母数も多いし、寝ても覚めてもビートボックスばかりやっている連中がわんさかいて(笑)。それに比べると、日本はまだまだビートボクサーの人口そのものが少ないのかなと。一緒に切磋琢磨できる仲間が近くにいるのといないのとでは、上達のスピードも違うと思いますし。そういう意味では僕ら4人はとても恵まれていると思います。

▲Kohey GRAND BEATBOX BATTLE 2021: WORLD LEAGUE | Solo Elimination

――ビートボックスのスタイルに「日本人らしさ」みたいなものもあると思いますか?

SO-SO:思いますね。世界大会で、日本人のどういうところが評価されているかというと、僕はアイデアや独創性だと思っています。KoheyやKAJIが言うように、テクニック的な部分ではフランスやアメリカの方がどうしてもレベルが高いので、そこで勝つための知恵を絞るビートボクサーが日本人には多いのかなと。今回、RUSYと組んでいるSORRYがタッグチームループ部門で優勝できたのも、「海」をテーマにした楽曲の世界観が評価されたのだと思いますね。

▲RUSY

――「海」がテーマですか。そういうアイデアはどこから生まれるんですか?

RUSY:その曲の場合は、僕らが得意とする「効果音」をまず録音してみて、それを逆再生させたりテンポを落としたりしている時に「あれ? 今の音は海の底にいるみたいだぞ」と気がついて。

SO-SO:そこからは、「海といえばやっぱり波の音だな」とか、「潜水艦の音ってどう表現しよう?」「海鳥の鳴き声も入れたいよね」みたいに2人でアイデアをどんどん足して仕上げていきました。

RUSY:散歩している時に聞こえてきた音とか、映画を観にいった時の効果音とか、普段はそういうところからインスパイアされることも多いですね。

KAJI:色々と実験している中で偶然発見した音というのは、自分たちの想像力の外側からやってくるものなので、自分たちだけで考えていたアイデアを超える可能性があるんですよね。そういう「偶然性」みたいなものは、僕らすごく大事にしています。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. 日本国内でのビートボックスの盛り上がり
  3. Next >

日本国内でのビートボックスの盛り上がり

――そもそもみなさんは、どんなきっかけでビートボックスに目覚めたのですか?

KAJI:僕は小学校4年生の頃、Daichiさんの動画を見たのがきっかけです。そこから一人でずっと練習していました。

Kohey:僕は小学校を卒業した頃。ちょうどHIKAKINさんやDaichiさんがYouTubeにビートボックスの動画を上げていて。お二人にものすごく憧れて「自分でもやってみよう」と。

SO-SO:僕は15歳の頃、Reeps Oneというイギリスのビートボクサーの動画をたまたま見て衝撃を受けて。そこからループステーションを使ってリアルタイムに音を重ねていくスタイルにハマっていきました。

RUSY:僕は12歳の頃だったかな、HIKAKINさんがビートボックスの全国大会の動画を上げているのを見て「バトル」の概念を知って。自分でやり出したのは、NaPoMというアメリカ出身のビートボクサーの動画を見たとき。「こんな重低音が口から出るのか!」と感動したのがきっかけです。

――みなさんYouTubeやHIKAKINさんからの影響がとても大きいのですね。

KAJI:かなりデカいですね、もう狂ったように動画を漁っていましたから。

SO-SO:僕らにとっては神様のような存在です。

――では、SARUKANI結成の経緯は?

SO-SO:それぞれ個別に活動していたのですが、4人で仲良くなったのは2019年のアジア大会からですね。

RUSY:ホテルの部屋が、たまたま一緒で意気投合して。翌年にコロナの感染拡大が始まって、ステイホームの期間に「せっかく仲良くなったホテルのルームメイトで、何か1曲作ってみない?」という話になって、それで作った楽曲がすごく反響も良かったんです。

KAJI:もう1曲作ってみたら、それもまためちゃくちゃ良くて(笑)。「じゃあMVも作るか」となって、今のマネージャーとも出会い、大型イベントへの出演も決まって……というふうに進んでいきました。

――コロナ禍での曲作りはどのように行っていたのですか?

SO-SO:最初は完全にリモートでしたね。ファイルをやり取りしながら、それぞれ自宅でレコーディングをしてもらいました。ただ、当時はまだ作曲ソフトの使い方もよく分かってなくて、ファイルのフォーマットを揃えるだけでもひと苦労だったんです(笑)。その時期はみんな、コロナ禍で他に何もやることがなかったから、SARUKANIの作業に集中できていたのだと思います。コロナがなかったら、そもそもSARUKANIは生まれていなかったでしょうね。

▲「SARUKANI WARS (feat. Kohey, Rusy and Kaji)」

――完成した音源を聴くと、さっきも言ったようにメンバーそれぞれのスキルは当然として、それを組み合わせるアレンジ力や構成力、息の合ったチームワークに驚くばかりです。

SO-SO:ありがとうございます。楽曲の構成はめちゃめちゃこだわっていますね。

KAJI:こだわりの強いメンバーばかりなので、毎回めっちゃ揉めています(笑)。だからこそ、ここまで凝ったアレンジになった。あとは、それを忠実に表現できるようになるまでひたすら練習です。1小節ごとというより1拍ごとに細かくチェックしながら仕上げていきました。

――今年10月には、SNSで人気のキャラクター「ブルーハムハム」とのコラボアニメ『小さなビートボクサー』が公開されました。これまでビートボックスを知らなかった人たち、馴染みのなかった人たちの間でも話題になっていますね。

SO-SO:今のビートボックスブームに僕らも少しは貢献しているかもしれないけど、やはりYouTuberのRofu(「Fuga」と「HIRO」からなるビートボックスユニット)の影響が、なんといっても大きいと思いますね。彼らのおかげで今、日本国内でもビートボックスが盛り上がっているのかなと。

KAJI:それまではSHOW-GOさんにしても、僕らSARUKANIにしても、それぞれ勝手に自分たちのテリトリーで活動していたんですけど、RofuがビートボックスにまつわるYouTubeチャンネルを開設したことで、ギュッと一つにまとまった感じがしていて。ビートボックス好きの人がRofuのチャンネルに集まり、そこから別のアーティストを知っていく……みたいなネットワークが構築されたというか。

――「自分でもビートボックスに挑戦してみたい」という人も増えているような気がしますね。

RUSY:確かに。僕のSNSアカウントにも、「あの音はどうやって出しているんですか?」みたいなDMがたくさん来ているし。

――自分たちの活動を通じてビートボックスの裾野を広げたいという気持ちもありますか?

SO-SO:自分たちが好きでやっていることが盛り上がって、結果的にシーンの活性化につながるのであれば、それに越したことはないです。ただ「シーンを活性化させるためにライブをしたり楽曲を作らなければ」みたいには思っていないです。例えばビートボックス協会を立ち上げるとか、大きな大会のオーガナイザーになるとか、そういうことは僕たちが今やることではないのかなと思っていて。もちろん大会に呼んでくれるのは嬉しいですが。

Kohey:きっと自主企画のイベントなどやったらそれはそれで楽しいのかもしれないけど、今は自分たちの活動に集中したい。それに、ビートボックス自体が何か「特別なモノ」として悪目立ちするのではなく、ジャズやヒップホップと同じように一つの「ジャンル」として、音楽シーンの中に組み込まれていく世界を僕は夢見ています。

――最後に、SARUKANIの今後の予定を教えてもらえますか?

SO-SO:来年2022年の3.4月にSARUKANI初の日本ツアーが決定してます。3月6日@東京、4月1日@大阪、4月9日@北海道です。初めてのツアーなので、めちゃめちゃ楽しみですね。ライブ内でも色々発表予定で、来て後悔しない内容にするので、是非遊びに来ていただけると嬉しいです。楽しみにしていてください!

関連キーワード

TAG