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BENNIE K、活動終了前ラストインタビュー 「今は素直に、ありがとうございました!って言いたい」



 活動休止から12年も経って、それでフェードアウトしないのは、多分に二人の生真面目さゆえ。そういえばバイバイって言ってなかったね、ありがとうって言ってなかったね、だから伝えておかなきゃね、とでも言わんばかりの突然の新作リリースに、ファンはもちろんとして音楽業界がにわかに沸き立った。
 そう、BENNIE Kは、わざわざサヨウナラを告げにきたのだ。
 12年ぶりの新作にしてラストソングとなる「FINALE」には、YUKIとCICOが大切に培ってきたBENNIE Kのすべてが詰め込まれている。
 光ににじむような瑞々しいトラックにゆるやかなメロディ、透明な陰影をまとったボーカルにパンチの効いたラップ。嬉しくなるほどに、そして悲しくなるほどに、ぜんぶがぜんぶBENNIE Kらしい。
 つまり彼女たちが選んだ“活動終了”は、「FINALE」をもってBENNIE Kが高みを極めたという証明でもある。
 久しぶりに会った二人は、だから清々しい表情をたたえていた。気持ちの整理がついて、すっきりした思いで語ってくれたこのインタビューもまた、BENNIE Kからのラストメッセージだ。どうか多くのファンに届きますように。

Text:斉藤ユカ

BENNIE Kは活動休止前に完成されていた

――お久しぶりです!12年ぶりぐらいですかね?

YUKI:もうすっかり、なんというか大人になりまして(笑)。

CICO:浦島太郎状態に陥っています(笑)。

――そもそもの休止の理由は、YUKIさんがプロデュース業に専念したいということでしたよね。

YUKI:まず、自分が歌をうたわないという決断をしたのが最初ですね。それから本願でもあったプロデュース業に専念して、自分以外のアーティストさんのお手伝いができればいいなということでBENNIE BECCAが始まったんです。活動休止後は、その延長線上でいろんなアーティストの方々に曲を書かせていただきました。

▲BENNIE BECCA「DEAR COVID BUSTERS-for charity-」

――歌わないと決断したのはなぜですか?

YUKI:今だからこそ正直に伝えると、心身ともに休む必要を感じていました。CICOちゃんも私も、明らかにキャパオーバーしていました。

――二人とも真面目すぎるところがあって、BENNIE Kに常にパーフェクトを求めていたんですよね。コンセプトを突き詰めたステージワークを見ても一目瞭然で、それを何年もコンスタントに続けるのは至難の業です。だからある意味、活動休止は仕方がないことなのかなと思っていました。

YUKI:それこそ今だから言えることですけど、自分たちはただただカオスでしたね(笑)。

CICO:まさしくカオス。二人でものすごい複雑なジェットコースターに乗ってた感じだったんですよね。すごいエキサイトメントもあれば、すごいプレッシャーもあって、やっぱり一度休止して自分たちを見つめ直そうというのが、あのときは本当に必要だったと思うんです

――立ち止まったことは、やっぱりよかったですか?

YUKI:そうですね。私はもともと、人前に出ることが得意ではなくて。歌うことや音楽を作ることは大好きだけど、そうやって作品を作る人はエンタテイメントも同時にできなければダメだと考えてしまって、だとすると自分はなんて才能がないんだろうと思っていたんです。でも、活動休止のあと、一から音楽を学び直したんですね。数学的に音楽理論を勉強して、さらに音楽哲学の本を読んでいったら、プラトンとアリストテレスまで遡って。そのなかの一冊に“「イデア・シャーマニズム的クリエイティブ」と「劇や演出・エンタテインメント的クリエイティブ」は別物である”と書いてあったんです。なんと、私がずっと悶々としていたことが、こんなにはるか昔から解明されて語られていたんです。

――その両方の共存を目指していたのは、まさにBENNIE Kですよね。

YUKI:そうなんです。だからこそ自分はダメだと思ってしまっていたんですね。その点、CICOちゃんはセンスが抜群だったんです。BENNIE Kに必要な両翼を自身のなかにちゃんと持っていたので、みんなが受け取るエモーショナルなものはCICOちゃんが演出したといっても過言じゃない。でも、そうして別物でいいんだということがわかってからは、気持ちはとてもラクになりました。私は曲を作ることだけは限界を感じていなくて、可能性を自分でも感じられるから。

CICO:Showとして素晴らしい歌声以上に必要なものはないと思っているし、演出は後でいかようにも足せると考えているのですが、私も休止後にひとつ発見したんですよ。いろんなアーティストに声をかけてもらって、レコーディングに参加していたんですけど、やっぱりみんなBENNIE KのCICOのラップを求めているんですね。ありがたいなぁと思って、私は普通に「いいよ~」って軽いノリで現場に行ったんですけど、ふたを開けてみたらこれが簡単じゃなかった。BENNIE Kではトラみたいにガオー!ってはじけていたのが、他の現場ではなぜか借りてきた猫みたいになってしまう。ガオー!じゃなくて、ニャオ?みたいな(笑)。そこで自分を鼓舞して、なんとかトラになってガオー!ってやってきましたけど、自分でもびっくりしちゃって。YUKIちゃんのいない世界で、BENNIE KのCICOでラップをすることはなんて難しいんだろうということに気づいたんです。YUKIちゃんの合いの手がないと、私、踊れなくなってた(笑)。

YUKI:CICOちゃんは、オープンでワイルドな印象だし、ラップもパワフルだけど、実はとても繊細なんです。これ言うと、営業妨害になっちゃうかもしれないけど(笑)。

――そうやってお互いにわかり合えていればなおさら、休止期間中にBENNIE Kへの欲求は高まらなかったんですか?

YUKI:休止期間が長かったので、ファンのみなさんや関係者の方々に、BENNIE Kの今後のことについて、続けるにせよ区切るにせよなんらかの提示をしなければいけないとは思っていたんです。でも、なかなかそういう機会がなくて。

CICO:BENNIE Kをどうしたらいいのか、わからかなったというのが正直なところかな。一方で心のどこかでは、収まるべきところに収まるんだろうなっていう、どこか自然の流れに任せるような思いもあって。

――その間、二人で話し合ったりは?

CICO:私がね、海外に逃げていたんです。BENNIE Kのカオスな現実からの逃避ですよね。かといって、イエーイ!って楽しくやっていたわけでもないんですけど、知らない場所をビクビクしながら冒険をして、もうひとつの現実を見なくて済むようにしていたというか(笑)。

――なんというか、荒療治(笑)。

YUKI:たぶんCICOちゃんもそうだったんだと思うんですけど、BENNIE Kが大好きなのに、BENNIE Kに触れるとヘンな汗かいちゃう、みたいな状態だったんです(笑)。私は自分のプロジェクトでYouTubeチャンネルを開設しているんですが、関連動画でBENNIE Kが自動的に流れ出すんですよね。それで聴こえてきたら、即閉じる!みたいな。しばらくは本当にプレッシャーで過去を振り返れなかった。

CICO:実は私もごく最近までBENNIE Kを聴けなかったんです。聴くと心拍数が上がって苦しくなっちゃって。

――えー!? そんなのもう、心配しちゃうレベルです。

YUKI:でも、ある一定の期間を経て、レーベルから「作品を出さない?」というお話をいただいて、これはその時が来たのかもしれないってすんなり思えたんですよね。そうしたら、不思議と過去の作品とまた向き合えるようになって。

CICO:私もそう。今回の作品をつくるにあたって過去のライブ映像を見直したんですけど、なんか吹っ切れました。

――それなのに、今作「FINALE」はラストソングなんですか?

YUKI:“だからこそ”のラストソングなんです。過去の作品を振り返ることができて、当時の熱をしっかりと再確認できたからこそ、私たちのリミットはあそこだったんだ、あれがBENNIE Kとしての最高値だったんだと再認識できたんです。今作の制作がスタートした時、最初からこれがラストだと思っていたわけではないんですが、自然にそういう形に意識が向いていって。CICOちゃんにも話しました、あの頃の二人をBENNIE Kのピークとしてラストソングに刻んでおきたいんだって。

――─つまるところ、BENNIE Kは活動休止前に完成されていた、と。

CICO:うん、そうだと思う。BENNIE Kとしてできることのすべてを私たちはちゃんとできた気がするっていう、そういう気持ちです。そう思えたのは、私たちにとっては嬉しいことでもありますしね。

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今は素直に、ありがとうございました!って言いたい

――なるほどそれで、「FINALE」はどこをどう切ってもBENNIE Kらしいんですね。遠くで小さい音で流れていても、BENNIE Kだ!ってすぐにわかるぐらいです。

YUKI:CICOちゃんいわく、ラストソングが湿っぽいのはとにかくBENNIE Kっぽくない!と。

CICO:これを最後の曲にするんだったら何を伝えたいかなって思ったら、やっぱり“感謝”でしかないなって思ったんです。それならやっぱり私たちらしくないとねって。

YUKI:それなのに、私のマインドがガチガチになっていたのか、書けども書けども出てくるのはマイナーコードの暗い曲ばかり(笑)。それで客観的な視点を取り入れようということになって、旧知のMine-Changにトラックメイクをお願いすることにしたんです。結果として、CICOちゃんのバースは明るく突き抜けて、私のバースはちょっと陰影がある感じで、まさしくBENNIE Kらしい楽曲になりましたね。

――ファンの中に確立された“BENNIE K 像”を壊したくないという気持ちも、もしかしたら強くあったのでしょうか?

YUKI:うん、私は確かにそうでした。それを壊すことをみんなも望んでいないだろうなと思います。

CICO:なおかつ、今回は自分の中の“BK像”にも忠実になろう、と。それは表現するときの体感的なものなんですけど、私の中にいるBENNIE KのCICOは常に上を向いているんです。私は普段はもっとほわーんとしているんですけど、CICOのスイッチが入ると、急に突き抜けるんですね。そこは12年経っても妥協したくなかったです。

――今回、久々にその突き抜け感を味わったわけですよね。

CICO:そうですね。実は、この曲のデモができあがったときにちょうど妊娠がわかったんです。もちろん安定期に入ってからレコーディングしたんですけど、そこそこ高齢出産になるし、正直ちょっと不安だった。でもMine-Changが現場を万全な状態に整えてくれて、いざレコーディングが始まったら、パンっ!と何かが開いて、BENNIE KのCICOが突き抜けていきました。なんの悔いもないレコーディングになりましたね。

――私はこの曲を聴いてBENNIE Kのライブを思い出しました。それこそテーマパークみたいにコンセプチュアルで、めくるめく時間を提供してくれたあのステージの様子が、今作の歌詞に描かれているな、と。

YUKI:世の中的にBENNIE Kの代表曲と呼ばれるのは、きっと「Dreamland」だと思うんですけど、あれはまさにテーマパークのように、楽しんでいる瞬間をたくさんを詰め込んだ曲なんです。それが今回の「FINALE」で終焉を迎えることになって、だったら楽しさも喜びもセンチメンタリズムも感覚的に詰め込んだ世界観を作りたいなって。それで遊園地のイメージを歌詞に落とし込んだんです。冒頭に「オレンジのライトが/無造作に光ってる」というセンテンスがあるんですが、遊園地のライトだけじゃなくて、一部解体中の工事現場のライトもイメージしてて。

CICO:そう聞くと、やっぱりちょっと切ない(笑)。

▲BENNIE K「Dreamland」

――本当ですね。サウンド面においても、キラキラ、ワクワクの中にある切なさがまたBENNIE Kらしいですよね。

YUKI:遊園地って、エリアごとに違う音楽が流れていて、ある場所ではその両方が聴こえて不協和音みたいになっちゃうじゃないですか。Mine-Changにそういう音を入れて欲しいとリクエストしたら見事に再現してくれて、結果素晴らしいサウンドに仕上がりました。

――一部解体中で、不協和音も少し響いている。その遊園地がBENNIE Kの現在地なんですね。でも、CICOさんのラップでパーティー感がぐっと上がるし、歌詞にはコーヒーカップを大暴走させるセンテンスもあって(笑)。

YUKI:そうそう(笑)。コーヒーカップって、唯一人力なんですよね。それがBENNIE Kっぽいなって思って。電気仕掛けの派手なアトラクションがいっぱいあるなかで、最後は人力でコーヒーカップを回して終わろう、っていう。

――とてつもない楽しさと、でも拭えない寂しさがありますね。せっかく久しぶりに会えたのに、もうお別れなの!? っていうのが今の正直な気持ちです。

YUKI:実は私もすごく寂しくて何度も話し合いました。でも、終わりだけど終わりじゃない、みたいな感じなんです。あまりにも時が過ぎてしまったので、「解散」って言い切った方が、もうファンを待たせなくて済むなとも考えたけど、私たちの気持ちとしては、今回のことは決別ではないんですよね。お互い、一緒に音楽をやってきた特別な存在であることは変わらないし、これからも友達なんです。もしかしたら今後、別の形で一緒に音楽を作ることだってあるかもしれない。だから、BENNIE Kというユニットとしての活動を「終了」させるという形が、いちばんしっくりくるなと感じました。

CICO:うん、悲しい感じの「終了」ではないかな。感謝の気持ちを伝えるための「終了」。今回、BENNIE Kのライブ映像を見ながら、ひとつの気づきがあったんです。私、ずっと自分自身が浮いているように感じていたんですね。プログラミングを間違えたロボットみたいだなって(笑)。だから常に「違う!違う!」って自分に言い続けてて、それが苦しかったんです。でも、改めて映像を見たら、みんな受け入れてくれてるなって感じて。こんな私でも、手を伸ばして求めてくれたファンがいたんだなって。それで、もう自分で自分をいじめるのはやめよう!否定するのはやめよう!って思えたんです。

――え、やっと?

CICO:そう、やっと(笑)。今回の一連の作業の中で、自分の存在の何たるかが、感覚的にすとんと腑に落ちたんです。BENNIE Kって、私が自分自身を解き放つための窓口だったんですけど、なんでそれが必要だったのか、その答えがやっとわかったということですよね。だから今は素直に、ありがとうございました!って言いたい。

――納得できたから、潔く辞められるのかも。

CICO:まさにそうだと思います。

――では、今後二人は、すっきりとした気持ちでそれぞれの活動へと舵を切っていくわけですね。

YUKI:そうですね。ファンのみんなにきちんとBENNIE Kのこと、私たちのことを「FINALE」で伝えることができたと感じているので、今は少しホッとしています。私は新しいプロデュース作品のリリースを来年春頃に計画していて、まずはそれをしっかり完成させること。そして、引き続き音楽を通じてみなさんと繋がれたらいいなと思っています。

CICO:私は今ちょうど子育てに必死な時期なので、しばらくは音楽活動はしないと思います。でも落ち着いたら、またまっさらな気持ちで「音楽が好き!」っていうところから始めたいな、と。改めてそのスタートラインに立てるだろうなって、今なんだか確信できているんですよね。

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