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<インタビュー>evening cinemaが掲げる“中道にして王道”、4人が追及するポップスとは



インタビュー

 4人組ポップ・バンド、evening cinemaが注目を集めている。

 昨年にcinnamonsとのコラボ曲「summertime」がTikTokを中心に国内外でヒットしたことも話題となった彼ら。今年に入ってからは「永遠について」「燦きながら」「See Off」「After All」と楽曲を配信リリースし、10月27日には新曲「Good Luck」をリリース。ボーカル兼コンポーザーの原田夏樹は作曲家や編曲家としても活躍の場を広げている。

 王道ポップスとしてのグッド・メロディを追求しつつ、サウンドの幅を広げているevening cinemaのソング・ライティングについて、バンドの力学について、4人にインタビューを行った。

職業作家になりきれない

――evening cinemaは原田夏樹さんのソロプロジェクトとして活動されていた時期もありましたが、4人組のバンドとしての体制はいつ頃から固まったんでしょうか。

原田:2018年の秋に中国ツアーに行くタイミングがあって、それがきっかけですね。それまで1年間くらいはサポートという体制だったんですけれど、その頃からフィーリングもだいぶ合ってきたので、2019年になってこの4人でやっていこうという話になりました。

――原田さんの中には「バンドとして活動したい」という思いはありました?

原田:ありましたね。5年前に活動を始めた頃からバンドという形にこだわってました。というのも、僕自身のバンドに対する憧れが強くて。シンガー・ソングライターのような形でやるのは想像しにくかったんです。それは音楽性というより精神的なものですね。




――みなさんはどうでしょう。バンド・メンバーとなって何か変化はありましたか?

isoken:2019年の5月頃に本格的にバンドになったんですけれど、そこは曖昧な感じなんです。それ以前からも、曲自体のフォーマットは決まっていたけれど、アレンジは任せてくれていたので。自由度が高いなかで自分の持ち味を出そうとしてやってきたので、その延長線上で自然にこうなっていったというか。

石澤:感覚的には、メンバーになって何かが変わるということは特になかったです。サポートという状態の頃からevening cinemaの曲は好きだったし、自分が出したい音を出させてくれていたので。ただ、自分の意識としては、ここにウェイトをおいて、時間をかけてやっていきたいという気持ちが生まれるようになりました。

山本:もともと自分は前からいたんですけれど、続けていくうちにドラムとギターが就職で抜けて、二人だけになったことがあって。その後、今のメンバーが入ってから本格的に「バンドでやっていくぞ」という意識で取り組み始めました。むしろそこからがスタートみたいな気持ちはあったかもしれないですね。

――ここ最近の曲も含めて、evening cinemaの曲はポップスとしてのスタイルは貫きつつ、「こういう美学やコンセプト、方向性でやっていくバンドである」という主張が明確になってきていると思うのですが。このあたりはどうでしょうか?

原田:僕が曲を作る過程を言うと、デモの段階で一度、全部のパートを入れて作って、それをみんなにアレンジしてもらうやり方をしているんです。あえて素材を貼り付けるだけでみんなに渡しても、1年間一緒にライブをやってきた経験があるので、「この人だったらこういう動き方をするだろう」というのが自分の中で見えてきて、以前よりも曲作りがしやすくなった感じはあります。自分がもともと持っていたイメージとは違う要素が入り込んだりしても、その方向で想像つかないプラスのことをやってくれるというのがなんとなく見え始めてきた。制作をハイペースで続けてもパンクしない感じになってきました。




――原田さんの曲作りのルーツって、どういうところにありますでしょうか? シティポップだけでなく、ビートルズやビーチ・ボーイズなど、いろんな先人へのリスペクトが感じられますが、どうやって培われてきたものでしょう?

原田:たぶん、遡ると小学生の頃になると思います。曲を作るとか、コンセプトとして中心に置くならこの作家だとか、そういうことを微塵も意識せずに好きで聴いていたものが、結果的に今使える手札になっている感じがしますね。



evening cinema - After All / Lyric video


――聴いてきた音楽と作る音楽がちゃんと結びついている。踏まえて作っている感があるのですが、そのあたりは?

原田:ありますね。それは逆に言うと、職業作家になりきれないところだと思っていて。作家さんってある意味、どういうオーダーにも期待以上で返さないといけない。それがプロだと思うんですけれど、バンドは自分の好きなことをとりあえずやる。それ以外で、メンバーで「最近、何聴いている?」みたいな話をして、「じゃあ、こういうのもやってみようか」みたいなのが土台の上に乗っかってくる。そういうイメージです。


トレンドにはすぐには飛びつきたくない

――原田さんが「これをやりたい」「これはやらない」と判断するとき、どういう考え方で決めるのでしょうか?

原田:すごく浅い言い方をすると、トレンドにはすぐには飛びつきたくないというのがあって。5年くらいして、みんなが忘れかけてきたら「僕らの出番」みたいなところはちょっとあります。というのも、トレンドを意識して作ろうとしても、僕はすぐに消化できないというのもあって。今のトレンドがどこから受けた影響で生まれたものなのか、歴史的に見て、どういう流れのうえに位置づけられるのかというのは、数年後に一定の評価として説が確立すると思うので。

――みなさんにお伺いしたいのですが、ソングライターとしての原田さんの特性や強みはどういうところにあると思いますか?

isoken:器用だし、多作だと思います。“降りてくる”タイプの天才肌なソングライターというよりも、理性的に書いている。いろんなところからモチーフを持ってきて、それに対して自分のエッセンスを乗せるのが上手いので、ネタが尽きないし、クオリティも高いんだと思います。

石澤:かなり熱心というか、めちゃめちゃ勉強している人だと思います。evening cinemaの楽曲には圧倒的なメロディと歌詞があって、その大きな柱をどう見せるかを定義づけてくる。それが一番強い印象です。

山本:最初に聴かせてもらったのが「jetcoaster」という曲で。その頃から歌詞もすごくいいなと思っていました。言葉の人だというのは最初から思っているし、今でも変わらないです。




――原田さんとしてはどうですか?

原田:みんなに褒めてもらって気分がいいです(笑)。

――昨年にはcinnamons × evening cinemaの「summertime」がTikTokをきっかけにヒットするという現象もありました。2017年に出した曲が自分たちの活動と関係ないところからバズるという現象はどう捉えていますか?

原田:僕個人の捉え方とバンド全体の捉え方は違っていて。僕個人としては素直に嬉しいですし、なんであんなに評価されたのかいまだにわかってないですけれど、でも、何かしらの理由でみんなが聴いてくれるようになったというのは素直に嬉しいですね。とはいえ、今のメンバーではない時期に作った曲でもあって。バンドとして見たときには、それぞれ葛藤やジレンマはあるかもしれないと思います。



cinnamons × evening cinema - summertime (Official Music Video)


――あの曲は東南アジアを起点にヒットしましたが、他の国で広まっていくというのは?

原田:予想はしていなかったですね。ただ、あの曲は意識的に80年代というテーマで作っていたんです。それがシティポップ・リバイバルの波長と合ったんじゃないかとは思っています。あとは音楽外の要素で言うと、何かの弾みで聴かれるようになって、YouTubeでMVを観たときに、それがアニメだったのも大きいと思います。

――そういう追い風を受けた後も、今のevening cinemaは踊らされず、やるべきことを真っ直ぐにやっている印象があります。

原田:それは意識的にありますね。「どういう曲を書いたらいいんだろう」と悩んだときも、メンバーと話したら「結局ポップになるし、それでいいんじゃないか」というところに落ち着くので。


中道にして王道を行きたい

――今年に入ってリリースされた「燦きながら」「See Off」「After All」「Good Luck」には、ジャケットのデザインも含めて一貫性のあるテイストを感じます。このあたりのコンセプトは?

原田:一連の楽曲というイメージはありますね。プラスして、このメンバーになってガッチリ本格的にやっていますよというのを、わかりやすい形で残したいと思っていて。ジャケに統一性があるというのは、それ以前の作品と比べて、この時期で何か変わったと思ってもらえるように、というのもあります。

――曲作りやアレンジ、サウンド・メイキングについてはどうでしょう?

原田:一番わかりやすい点で言うと、音数が多い曲が増えましたね。特に最近は多いです。それも僕の天の邪鬼なところなんですけど、数年前くらいから音数を減らしたチルな感じの曲が一定数の支持を得ていて、それが格好いいという流れがある。それをやろうかなとも思ったんですけれど、僕らがやる必要があるのかなと思っていて。それよりも、僕はバンドであることに縛られない、自由な曲を書きたい。バンド体制がある種の制限になったらつまらないと思っているんです。必要ならばサポート・メンバーも呼ぶし、4人じゃできないようなストリングスの音も入れる。という感じで、去年の秋の「Night Magic」から音数は増えてます。音数を増やしまくるとバランスがとれなくなったり、アレンジ的に飽和して難しい部分もあるんですけれど、音数がこんなに多くても成り立っている、ひとつのモデルケースになれたら嬉しいという感じで作っています。



【lyric video】evening cinema - Night Magic (Shenzhen Fringe Festival 2020 theme song)


石澤:あとは、コーラス・ワークは大きいですね。

原田:コーラスが単純に好きというのはあるんですけど。どんどんハーモニーを重ねていくのが楽しいという。

isoken:ビートの幅が前のアルバムよりも広くなっているかなと思います。「After All」でネオソウル的なビートをやったり、「See Off」でテンポを早くしていたり。石澤がパーカッションもできるので、そこも音が重なっていて。

山本:ベースとしては逆に、シンプルなところはシンプルに徹するようになったというのもあると思います。

――4月には大滝詠一さんのカバー「雨のウェンズデイ/カナリア諸島にて」もリリースしていましたが、これは?

原田:一番は『A LONG VACATION』40周年というのが大きかったです。ちょうどカバーをやってみないかという話をレーベルの方々からいただいていて、申請したら許可がとれた。バンドを使って自分のエゴを実現させたいと思ってやりました。



evening cinema - 雨のウェンズデイ- 大滝詠一(cover)


evening cinema - カナリア諸島にて - 大滝詠一(Cover)


――ソングライターとして大滝詠一さんから受け継いでいるもの、尊敬しているポイントは?

原田:具体的な節回しやメロディは、そこまで大滝さんからの影響を意識して作っているわけではないですね。というよりも、曲作りに対する姿勢みたいなものが大きい。「いい曲が10曲、元ネタとして集まれば、そりゃいい曲ができるよね」というようなことをラジオでおっしゃっていたんですけれど、簡単に言えばそういう姿勢です。逆に言うと「これっぽいことがやりたい」という曖昧なヴィジョンで、自分の中の引き出しだけで勝負するのは心もとない。なぜこういう音楽がやりたいのか、もともとその音楽はどういう進化を遂げてきたかを深く調べてやりたい。日本のポップスって、元ネタをどう消化するかで発展してきた側面が大きいと思うので。そういう作家さんたちを意識するようになりましたね。

――今って、掘る先が過去の方向でも同時代でも、すごく広がっていると思うんです。70~80年代だったら、同時代のアメリカやイギリスのヒットソング、その前のオールディーズが参照軸になっていた。今は日本においてもポップスの歴史があるし、思春期のJ-POPやJ-ROCKもあるし、海外の音楽も多様化が進んでいる。参照先に何を選ぶかが難しいと思うのですが、そのあたりはどうでしょう?

原田:絶対に動かないのは、中道でありたいということですね。中道にして王道を行きたい。それこそ20~30年遡ると、王道としてミスチルとかスピッツとかB'zとかGLAYがいる。そのあたりのミュージシャンを子供のときに聴いて、それが自分の血肉になっている部分があります。あとは、最近意識的に聴こうと思っているのは、大滝さんや細野さんの影響源ですね。筒美京平さんや服部良一さんのことを調べたりもしています。

――いろんな時代のど真ん中が折り重なると、意外と新しいものになる、というような感覚がある?

原田:そうですね。50~60年前の曲を聴いても、サウンドは未発達なだけで、根本はあまり変わっていないんじゃないかとさえ思います。今やってもおかしくないことって、60年代やそれ以前に転がっている。そう思います。



Interview by 柴那典
Photo by Yuma Totsuka

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