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<インタビュー>Tani Yuuki、クリエイティブのルーツやドラマ『ナイト・ドクター』劇中歌の「Over The Time」制作秘話

インタビュー

 優しく切ない歌声と、恋愛に思い悩む等身大の日常を描いた歌詞が話題を呼んでいるシンガーソングライター、Tani Yuukiが、新曲「Over The Time」を6月28日(月)にデジタル配信した。この曲は、フジテレビ系月9ドラマ『ナイト・ドクター』の劇中歌として書き下ろしたもの。Taniにとって初のドラマ・タイアップ曲で、苦悩や葛藤を抱えながら成長していく劇中の登場人物たちの気持ちに寄り添いながら、コロナ禍を生きる私たちにもエールを贈るような壮大なバラードナンバーに仕上がっている。アカペラグループWHITEBOXのメンバーとしても活動しつつ、SNSに投稿した「Myra」が累計1億ストリーミング再生を突破したTani。そんな彼に新曲「Over The Time」の制作秘話はもちろん、音楽に目覚めたきっかけやクリエイティブのルーツ、「Myra」が誕生した背景などについて訊いた。

Interview & Text:黒田隆憲 l Photo:辰巳隆二
衣装:デニムジャケット、カットソー、パンツ (Acne Studios / Acne Studios Aoyama)
問い合わせ先: Acne Studios Aoyama 03-6418-9923

幼少期のエピソード、音楽を作り始めたきっかけ

ーー子供の頃から音楽は好きだったのですか?

Tani Yuuki:はい。母は絢香さんやDREAMS COME TRUEさんなど、いわゆるJ-POP系の音楽をよく聴いていて、父はハードロック系の洋楽がかかるFMラジオを家で流していたんですよね。特に父親がすごく熱心で、僕はあまり詳しくないのですが、車の中で洋楽をガンガン流しながら「このフレーズかっこよくない?」とか「ここ、聴いてよ!」とか言ってくるのがウザくて(笑)。その反動で僕は母親寄りの音楽というか、J-POPの方をよく聴くようになっていました。ちなみに母親も小さい頃からピアノをやっていて、父も学生の頃にバンドを組んでエレキギターを弾いていたみたいです。なので音楽が常に身近にあったのかもしれないですね。

ーーなるほど。自分で音楽をやるようになったのは?

Tani Yuuki:中二の時に、母方のおじいちゃんからアコギをもらったんですよ。おじいちゃんは大工仕事をしていたのですが、ものすごく多才な人で。なぜか家には生ドラムもあって「アコギとドラム、どっちやる?」って言われたんです(笑)。さすがに家でドラムを叩いたら近所迷惑になるだろうと思ってアコギを選びました。

ーーそんな経緯があったのですね。

Tani Yuuki:実はその頃、ちょっと体調を崩してしまって学校を休みがちだったんですよ。友達と遊ぶなど発散する機会がなくなってしまい、フラストレーションが溜まって親とも剃りが悪くなってしまって。この悶々とした気持ちをどうしたらいいのか悩んでいたので、アコギにもすぐ夢中になりました。最初は大好きだったスピッツさんの「チェリー」をカバーしてみることから始まって、YouTubeの弾き語り動画などを見ながら絢香さんやゆずさんなど少しずつレパートリーを増やしていきました。

ーー自分で曲を作るようになったのもその頃から?

Tani Yuuki:最初はとにかく、いろんなアーティストの曲をカバーするのが楽しくて。自分の中に溜まっていた言葉に出来ない思いみたいなものを、誰かの楽曲を介して初めて表に出せた気がしたんですよね。オリジナル曲を作ろうと思ったのは高校を卒業するくらいの時期で、そのまま音楽の専門学校に入って本格的に曲作りや音楽活動をスタートさせました。

ーーご自身の声の魅力に気づいたのは?

Tani Yuuki:高校生の頃、よく友達とカラオケに行ってたんですけど、その時にみんなから「いい声だね」と言われたことが自信につながったのかなと思います。それまでは完全に自己満足というか、ギターを弾きながら勝手に歌っていただけだったんですけど。

ーーバンドを組もうと思ったこともありました?

Tani Yuuki:実は専門学校時代にバンドを組んでいたんです。入学時はシンガーソングライターとして活動するつもりだったんですけど、同級生がバンドを組むにあたってボーカリストを探していて。僕ら「シンガーソングライター専攻」の教室の前で、「ボーカリスト募集」の紙を持ってずっと立っていたりしてたんです(笑)。それを見て「あ、やってみたいかも」と思って名乗りを上げました。スリーピースバンドで、完全に僕好みの音楽を作って演奏していましたね。僕の中の理想のイメージは、高校生の頃から大好きだったRADWIMPSさんでしたが、なかなか思うようにはいかなかったです(笑)。

ーーRADWIMPSにはどんな魅力を感じるのでしょうか。

Tani Yuuki:RADWIMPSさんの「トレモロ」という曲を初めて聴いた時に、メロディと歌詞、タイトルを含めて一つの「作品」としてものすごく美しいなと思ったんです。高校時代はまだオリジナル曲とか作っていなかったんですけど、それから何年かして自分が曲を作る立場になった時に「野田洋次郎さんみたいな曲が作りたい!」と思ってそこからはどんどん没頭していきましたね。

ーーバンドでやっていくかどうしようか、迷っていた時期もあったのですか?

Tani Yuuki:ありました。でも、バンドメンバー全員の音楽の趣味が全くバラバラで……(笑)。それぞれ尊重し合ってはいたのですが、色々迷った末に一人でやっていく道を選びました。ちなみに、初めてのライブは高校を卒業したくらいの時期。大磯の野外イベントみたいなお祭りがあって、その「路上ライブ枠」みたいなところに申し込んでカバー曲を演奏したのが最初ですね。

ーーオリジナル曲を作る上で、RADWIMPS以外にはどんな影響を受けてきましたか?

Tani Yuuki:例えばback numberさんの、話しかけるような歌詞のニュアンスや世界の終わりさんのキャッチーなメロ、曲調に影響を受けていたり、EDM系の曲はアヴィーチーとかも参考にしていています。あとは専門学校に通っていた時に曲作りのコツというか、グッとくるコード進行など色々な技を教えてもらったことも大きかったと思います。それまでは自分で曲を作ったことがなかったので。「Myra」のBメロのコード進行も、授業で先生が「このコード、エモいんだよ!」と言っていたものをストックしていて、それを使ってみたんですよ。専門学校に通ったことは自分の中で大きな糧になっていますね。

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SNSに投稿するようになったきっかけ

ーーちなみに、音楽以外に影響を受けているものはありますか?

Tani Yuuki:映画が好きで、金曜ロードショーとか観ていて印象に残ったシーンやセリフには無意識に自分の中にストックされていると思います。それと以前、海外の冒険小説にハマっていたことがあって。翻訳されているその文体がとても美しくて感銘を受けたので、歌詞を書くときなどにふと浮かんでくることはありますね。

ーー以前のインタビューを読んだら『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に触発されて、1曲作ったとおっしゃっていましたよね。

Tani Yuuki:そうなんですよ。まだリリースしていないんですけど、完パケはしているのでいつか出したいです(笑)。アニメは最近になってハマったんですけど、映画や小説とはまた違う刺激がありますね。実写では表現できないストーリーや映像世界もそうなんですけど、声優さんの「声」を使った表現にも刺激を受けています。

ーー自分の曲を、YouTubeやSNSに投稿するようになったのはどんなきっかけだったのでしょうか。

Tani Yuuki:僕の高校時代の後輩が、今一緒に活動しているWHITEBOXというアカペラグループのリーダー、ホワイトくんと友人だったんです。彼から「動画撮ってみない?」と勧められてカバー動画をアップしたのが最初のきっかけですね。その後ホワイトくんと、「本格的に活動しよう」という話になってWHITEBOXを結成し今に至るのですが、「Tani Yuuki」個人名義のYouTubeチャンネルを開設したのもホワイトくんのアドバイスがきっかけでした。

ーーWHITEBOXはYouTuberを中心に結成されたんですよね。他のメンバーはどうやって集まったのですか?

Tani Yuuki:普段からSNSをこまめにチェックしているホワイトくんが、「いいな」と思った人にDMで声をかけたりしたみたいです。SNSが普及した今だからこそ出来るメンバーの集め方だと思うんですけど、僕個人としては見ず知らずの人にいきなり声をかけるとかすごいな、よくできるなあと感心していました(笑)。

ーーソロでYouTubeチャンネルを開設して、動画を上げていた初期はどんな反応がユーザーから返ってきていました?

Tani Yuuki:最初はもちろん、お友達や家族が興味を持ってくれるくらいで全然見てもらえなくて。再生回数もひと桁とか、たまに100人を超えるくらいだったんですけど、いろんな人に見てもらうきっかけになったのは、やっぱりWHITEBOXの動画が伸びたことですね。そこから辿って見に来てくれた方が多かったと思います。あとは、カバー曲を歌うのも、アクセス数を伸ばす一つの手段ではありました。

ーー先ほど話にも出たTaniさんの「Myra」は、2020年7月LINE MUSIC月間チャートで1位を獲得、『TikTok HOT SONG Weekly Ranking』では8週連続でトップ10をキープするなど大反響を巻き起こしました。この曲は、どんなふうに生まれたのですか?

Tani Yuuki:ヨルシカさんに「エルマ」という曲を聴いた時に、「曲の中に人の名前を入れてもいいんだ!」とびっくりしたんです(笑)。ものすごく耳に残るし、インパクトも大きいじゃないですか。それで僕も、人の名前が歌詞に入った曲を作りたいと思っていろいろ試行錯誤しました。

ーーどんな試行錯誤をしたんですか?

Tani Yuuki:日本人の名前だと印象が強すぎてしまうので(笑)、海外の人気の名前ランキングみたいなサイトでリストを見ながらメロディとハマりが良さそうな名前を探しました。その中に「マイラ」という名前があって、実際に声に出してみたときの響きもすごく良かったので「これにしよう!」と。なので、名前そのものには深い意味は全くないんです。



▲ 「Myra」


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「Over The Time」に込めたテーマ、初ワンマンツアーへの意気込み

ーーそんな誕生秘話があったのですね。そして今回の新曲「Over The Time」は、フジテレビ系月9ドラマ『ナイト・ドクター』の劇中歌として書き下ろしたそうですね。

Tani Yuuki:はい。事前に台本をいただいたのですが、ドラマに登場する5人の医師がそれぞれ抱えている葛藤……ある人は孤独を紛らわせるために仕事に打ち込んでいたり、ある人は守るべきもののために頑張っているけど、他のことに気を回す余裕がなくなっていたり、そういう状況を普遍的なテーマとして曲の中に落とし込みたいと思いました。もちろん、今この時代に「医療ドラマ」を作ることの意味も考えながら、僕自身が自粛期間中に抱えていた気持ちも曲の中に反映させています。



▲ 「Over The Time」


ーー自粛期間中に抱えていた気持ちというのは、具体的には?

Tani Yuuki:例えばライブが思うようにできないことですね。もちろん配信ライブにも良さはあるんですけど、やっぱりお客さんの顔を直接見ながら歌いたいという気持ちが強くて。どんな人が僕の曲を聴いてくれているのか、どんな反応をしてくれているのか、直接確かめる機会ってライブ以外にほとんどないんですよ。それがなかなかできないことは、やっぱりしんどくて。それと、僕がそもそも音楽を始めた頃に抱えていた葛藤、うまく感情を表に出せないとか、周りとのつながりがうまく持てないとか、思うように物事が進まないとか、そういう葛藤も全て含めて落とし込められたらいいなと思いました。

ーー歌詞の中で“Over The Time”、“One More Time”と対比する言葉を並べているのが印象的でした。過ぎ去ってしまった時間を元に戻すことはできないけれど、この先の未来にはきっと「希望」も存在するということを信じている楽曲なのだなと。

Tani Yuuki:そうですね。コロナ禍で世の中が本当にひどいことになってしまって、取り返しのつかない出来事もたくさんあったけど、その中でも変わらずあるものとか、勇気さえあれば立ち直せることとかもきっとあって。「最後までそれを信じてみようよ?」ということが歌いたかったのだと思います。

ーー“どれだけ繰り返しても美しい世界 待ち焦がれた夜明け越しのSmile”も、個人的にとても好きです。これまで当たり前だと思っていた日常が当たり前ではなくなってしまった世の中で、繰り返される日常の美しさに気づき、それがまたいつか戻ってくることを待ち焦がれている今の僕たちの気持ちに寄り添うような言葉だなと。

Tani Yuuki:ありがとうございます。まさに僕が思っていたことです。

ーー今年23歳だとお聞きしたのですが、同世代で注目していたり刺激を受けたりしているアーティストはいますか?

Tani Yuuki:純粋に「すごいなぁ」と思うのはVaundyさんですね。あれだけの名曲を淡々と生み出しているのは尊敬します。自分と同世代の人がどんどん飛躍していっていることに「焦り」も感じつつ、自分も追い越すくらいの勢いで頑張らなきゃなと。

ーー8月に、初ワンマンツアー【Tani Yuuki Tour 2021 “Over The Time”】が開催されますし、初の野外フェス出演も決まったそうですが、そこに向けての意気込みも聞かせてもらえますか?

Tani Yuuki:県外でのライブもソロになってからは初めてで、東京でワンマンをやった時に、県外で来られなかった人たちからもメッセージを結構いただいていて。そういう人たちに会える機会ができたことがまず嬉しいです。せっかくの初ツアーなので、みんなで楽しい時間を過ごしたいですね。お客さんは声が出せないかもしれないけど、僕にとってもお客さんにとっても、最高の思い出になるようなステージにしたいです。

ーーどんな内容になりそうでしょう?

Tani Yuuki:弾き語りでもやりたいし、バンド編成でもやりたいし、最終的にどうなるか分からないけど、やりたいことを出来る限り詰め込んだものにしたいですね(笑)。ちなみに野外フェスは一度も行ったことがなくて。めちゃくちゃアウェーな中でやることになったらどうしよう……? と不安も感じつつ(笑)、でもフェスには前からずっと行ってみたかったので、楽しみな気持ちの方が大きいです。今からワクワクしていますね。

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