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<インタビュー>小泉今日子×浜田真理子 「久世光彦が残した音楽と言葉」(再掲)



小泉今日子×浜田真理子 インタビュー

 演出家として「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」などの名ドラマを数多く残し、作詞家、小説家、エッセイストとしても活躍し、2006年に急逝した久世光彦。彼が14年間に渡り綴ったエッセイ『マイ・ラスト・ソング』の世界を、朗読と歌で綴るステージを2008年から続けてきた久世氏を恩師と呼ぶ小泉今日子と、シンガー・ソングライターの浜田真理子。

 エッセイに登場する童謡や唱歌、昭和の歌謡曲やポップスと、その歌にまつわる久世氏の想いを聴かせるステージは大好評を博し、毎年のように全国各地で巡演してきた。  久世氏の13回忌に当たる2018年、初めて[ビルボードライブ]のステージに登場した際に語ってくれた『マイ・ラスト・ソング』の歌と言葉の魅力とは?

――お二人が『マイ・ラスト・ソング』のステージを始めるきっかけは?

小泉今日子:私にとって久世さんは、久世さん演出のドラマ『あとは寝るだけ』に17歳のときに出演して以来、恩師に当たる方です。その恩返しとして、こういう方がいたことを伝えていくには何かできないだろうかと思っていました。その想いをプロデューサーの佐藤剛さんが真理子さんの歌と私の朗読で聴いてもらえるステージに企画してくださったのが始まりですね。

浜田真理子:剛さんは日本の歌謡史を掘り起こしてゆく過程で久世さんの『マイ・ラスト・ソング』に出会ったそうです。私は生前の久世さんにはお会いしたことはないんですが、以前から昭和の唄をカヴァーで歌っていたので、この企画に繋がっていったんです。

――ステージは好評を博し、初演から10年を迎えるロングラン公演になりました。

小泉:おかげさまで公演を観てくださった方からうちの街でも開催してほしいというご要望をいただいて、全国を巡演してきました。

浜田:私の地元の島根でも公演しましたし、久世さん縁の地にも行きましたね。

小泉:久世さんの奥様の出身地の新潟では日本で最古級の映画館で開催したり、七回忌の時は、親しい人だけをご招待して披露して。

浜田:そうそう。あの時は居並ぶ著名人や大御所にさすがに緊張しました。

小泉:久世さんが惚れ込んだ「さくらの唄」という曲は、同名のドラマも制作されて、主題歌は美空ひばりさんが歌ったんですが、「こんなに一生懸命やったのにヒットしなかった」というエピソードがあるんです。通常の公演では皆さん真剣に耳を傾けてくださるんですけど、久世さんの人となりを知っている業界人の方は大笑いされて。

浜田:小泉さんが朗読で「良い唄でも売れるとは限らないのである」と読むと、ドッカーン。受け方が違いました。

小泉:そうやって回を重ねていくたびに、続けていくことに意味があると思うようになってきましたね。

浜田:そうですね。いつの間にか二人のライフワークになっていた。

――そもそもお二人の出会いは?

小泉:知り合いのバーで、真理子さんのファーストアルバムを聴いて大好きになって、シアターコクーンのワンマンを観に行ったのが最初ですね。

浜田:その後、雑誌で対談させていただいて、気が合っちゃいまして。

小泉:そうそう。その日のうちに、お茶、ご飯、最後はカラオケまで一緒に行っちゃったくらい(笑)。

――浜田さんはデビュー前からエッセイに登場するような昭和の歌を歌っていたそうですね。

浜田:私は20代の修行時代にナイトクラブやバーでピアノの弾き語りをしていたので、お客様のリクエストで昭和の曲を覚えるのはマストだったんです。年配の方々が好きな昔の唄はそこで覚えたし、家がスナックをやっていたので、ジュークボックスに入っている昔の唄を聴いて育ったこともあり、久世さんがエッセイで書かれている曲は知っている曲も多かったんです。

――エッセイには童謡から昭和の歌謡曲まで、120曲あまりの歌が登場しますが、中には今では日常であまり聴かれなくなった曲もありますね。

浜田:私もこのステージで新しく覚えた曲がたくさんあります。戦前から戦後すぐの昭和20年代の曲や、かつて軍歌だったという「海ゆかば」など。

小泉:「海ゆかば」は、久世さんの文章がまた素晴らしいんです。それに私たちの親の世代が聴いていたようないわゆる懐メロと呼ばれた曲も、真理子さんのピアノの弾き語りで聴くと、歌詞やメロディーの美しさにあらためて気がつく。音楽の再発見ができるんです。

浜田:毎回微妙に選曲も違うし、美空ひばりさんにスポットを当てたときはエピソードを広げて、「東京キッド」や「一本の鉛筆」を歌ったり。何でも出来るわけじゃないんですけど、ピアノ一台というのは自由なんです。

小泉:真理子さんのプレイはアレンジがかっこよくて、誰でも知っている曲でも間奏に洋楽のフレーズを入れたりして、ちょっと不良感があって洒落てるんですよ。この企画には真理子さんしかいない! と思いました。

――これまではエッセイに取り上げれられた昭和を軸にした曲をステージで披露されてきましたが、今年のステージは?

小泉:平成も終わろうとしている今、昭和も遠くなりつつあるし、今年からは少し趣向を変えて、私たちの世代が子供の頃に聴いていた昭和40年代〜50年代の歌謡曲や、久世さんが作詞家として世に出した曲、演出したドラマにまつわる歌も増やしていきたいと思っているんです。

浜田:私たちの世代だと、久世さんのことは詳しく知らなくても、『時間ですよ』や『寺内貫太郎一家』といえば誰でも分かりますが、今の人はそれも厳しくなってきているし。

小泉:久世さんがペンネームで作詞された天地真理さんの「ひとりじゃないの」も、歌詞を吟味してみるとけっこう深いんですよ。昔の曲って短いんだけど、ちゃんと3番目まであって、場面が展開していくのが素敵なんです。

浜田:阿久悠さんのトリビュート・アルバムなどで、昭和の歌謡曲が注目されている今は、その時代を知らない若い人にも聴いてもらえるチャンスなんじゃないかと思うんです。

小泉:そうそう。当時はTVでは歌われていなかった2番の歌詞が、実は肝だったとか、後で気づくこともあったりして、今聴いても新鮮なんですよね。歌にもドラマにもその時代特有のムードがあった、あの頃受けた影響は私にとっても大きいですね。

――お二人で10年続けて来られて、気がついたことはありますか?

小泉:久世さんは70年代には『ムー一族』のような尖ったドラマをつくっていましたが、後年はドラマ「向田邦子シリーズ」やエッセイ「昭和幻燈館」などで昭和という時代のムードを残そうとしていたのだと思います。私も年を重ねてその気持ちがやっと分かってきたような気がします。

浜田:久世さんが『マイ・ラスト・ソング』を書き始められたのも、50代後半からですよね。ご自分の備忘録の要素もあったかもしれませんが、忘れたくないこと、残しておきたいことを書いておきたいと思われたはず。

小泉:その気持ちが私たちにも芽生えてきたんです。

浜田:歌も誰も歌わなくなったら、誰も知らなくなってしまう。でも、スタンダードになると、100年前の歌でも残っていくんですよね。ただ、古い曲をそのままやるのではなく、その時代によって多少の変化をつけて、なおかつその曲の持つ魅力を損なわずに今に伝えてゆくことができたら。

小泉:何が残るかって、残す人の気持ちだと思うんです。昭和や久世さんのドラマを知らない世代にも、歌と朗読でこういうユニークで素敵な人がいたと伝えていきたいですね。

――初めての[ビルボードライブ]は、どんなステージになりそうですか?

小泉:今年は久世さんの13回忌でもあるので、お酒を召し上がっていただきながら、ゆっくり味わってもらいたいですね。この10年観ていただいている方と、初めて観る方のどちらにも満足していただけるステージにしたいと思っています。

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「久世光彦の世界」を伝えていくために

 小泉今日子さんが恩師と慕う久世光彦さんに宛てて書いた手紙のなかに、10年目を迎えた「マイ・ラスト・ソング」のことがこんなふうに触れられていました。

あなたが残した「マイ・ラスト・ソング」というエッセイを唄と朗読のライブという形にしてこの十年間全国を回っています。浜田真理子さんという素晴らしいシンガーの唄とピアノ、そして私の拙い朗読で続けています。あなたが戦中に疎開した富山や、朋子さんが青春時代を過ごした高田にも行きました。他にもたくさんの町に呼んでいただいております。(「オール讀物」2018年4月号)

そもそもの始まりは2007年3月31日の夜、大阪フェスティバルホールのライブ・イベントが終わったあとに行われた、打ち上げ会場での会話です。すっかり夜も更けた頃に、出演者だった小泉さんと浜田さん、企画と制作に携わっていたぼくの間で、1年前に亡くなった久世さんについての話になりました。そして久世さんのドラマを見て育った子どもとして、歌が大好きだった久世さんのことを伝えられることは何かと考えながら別れたのです。

その会話が翌年の秋に開催する最初の「マイ・ラスト・ソング」(世田谷パブリックシアター)へと発展し、2009年の世田谷文学館における「久世光彦展」にも結実していきます。
世田谷パブリックシアターという現代演劇や舞踊で知られる会場だったこともあって、舞台上にあるオブジェにスライドで映される文字などが加わり、それらが浜田さんの歌と小泉さんの朗読と混じりあって、これまでにない独特な空間が生まれました。

それから少しづつマイナーチェンジをしながら続けてきた結果、2016年の三越劇場における公演でホールにおける表現としては、完成の域に達したという手応えがありました。

そして10年という区切りを迎えるなかで、今回は会場がビルボード・ライブになったこともあり、今後への可能性を探るためにとりあげる歌の選択に関しては大幅に手を加えたのです。

おかげさまで3月の東京と大阪の公演は、好意的に受け入れられたように感じました。

久世さんは「生涯の望みは自分が死んで50年100年たっても残る歌を書きたい」という言葉を残したように、歌を聴くことが大好きだっただけにとどまらず、書くことにも力を注いでいた方です。
これからも久世さんが追求していた美しいものへのこだわりの成果、ドラマや演劇の仕事、文学者としての作品をふくめて、「久世光彦の世界」が後世に伝わっていくために、「マイ・ラスト・ソング」がなんらかの手助けになれば本望だと思っています。

佐藤剛

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