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【最終回】平昌オリンピック開・閉会式で音楽監督を務めた音楽家・梁 邦彦に迫る



梁邦彦

2018年2月9日~26日の間、韓国・平昌で開催される第23回オリンピック冬季競技大会。その開・閉会式で音楽監督を務めるのが音楽家の梁 邦彦(りょう くにひこ)58歳だ。東京に生まれ育った在日コリアン2世で、日本では、シンガーソングライター・浜田省吾のバンドメンバー・プロデューサー・アレンジャーとして10年以上にわたり活動を共にし、その後、1996年に1枚目のソロアルバムを発表、ソロ活動と並行して、NHKの人気アニメ「十二国記」や、2015年1月に公開された映画『アゲイン』など数多くの映像音楽に携わると共に、最近では,WOWOWと国際パラリンピック協会が共同制作し、2020年まで続くパラリンピックドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』の音楽制作も担当している。4月には、ビルボードライブ大阪で押尾コータローと共にライブを行う梁 邦彦の魅力を、現地平昌からのリポートと共に、全4回にわたってお届けしていく。

【Vol.1】世界での活躍~押尾コータローとの出会い

平昌現地レポート from 梁 邦彦 DAY:2/6tue


【Vol.2】梁邦彦の音楽に境界線はない

平昌現地レポート from 梁 邦彦 DAY:2/10sat


【Vol.3】オリンピック・パラリンピックに呼ばれた男!?梁 邦彦

平昌現地レポート from 梁 邦彦 DAY:2/20tue


3/5UP!【Vol.4】平昌オリンピック閉幕~押尾コータローとセッション♪

平昌現地レポート from 梁 邦彦 DAY:2/29thu

【Vol.4】平昌オリンピック閉幕~押尾コータローとセッション♪

 2月25日に閉会式を迎えた平昌オリンピック。音楽監督を務めた梁 邦彦にとっては、任命されてから2年余に及ぶ長い制作の日々が終わる日でもあった。


 国際オリンピック委員会・トーマス・バッハ会長が閉会宣言を前に、世界五大陸と今後オリンピックを開催する国の旗手を務めた選手と共に感謝の気持ちを伝えたシーンで流れた音楽は、梁 邦彦のオリジナル曲「Echoes for PyeongChang」だった。梁 邦彦の呼びかけで、日韓のミュージシャンたちによって作られた「平昌応援アルバム・ECHOES FOR PYEONGCHANG」のテーマ曲であり、オリンピック・パラリンピックへの多くの人の想いが響き合い拡がっていく=Echoesというイメージで作られた曲は、五大陸、韓国、日本、中国の選手たちの「平和」と「共存」への想いを象徴しているかのようにも感じられた。


 閉会宣言に続き、開会式にも登場した5人の子供たちが登場し、プレゼントBOXから平昌の景色が描かれたスノードームが現れ、14日間にわたり繰り広げられたアスリートたちの勇姿や名場面、ボランティアたちの献身的姿が円形ステージに次々と映し出され、クライマックスへ。平和を祈願する灯りを手に数百人が入場し、その灯りで作りだされた雪の結晶=皆の想いがステージを満たし、聖火台へと登って行った。聖火が18日間の役割を終えた時、梁 邦彦の心には音楽監督就任からの日々が去来すると共に、このオリンピックを目指し、戦いに挑んだ様々な選手の姿もまた重なっていたのではないだろうか。


 梁 邦彦が2004年に発表した5枚目のオリジナルアルバム『ECHOES』に収められた楽曲に、アルバムタイトルと同名の「ECHOES」という曲がある。「響き合う、共鳴しあう想い」・・・韓国での活動が活発になり始めていたこの時期、日本に先駆け韓国で発売されることになったこのアルバム、この曲に込めた想いは決して小さいものではなかったはずだ。

 その後も、韓国&日本~アジア圏、更にはヨーロッパへと活動を拡げてきた梁 邦彦にとって、今回オリンピックという舞台で、「国境も、国籍も、ジャンルも越えた『梁 邦彦の音楽』」が世界に響いたことは、これまで積み重ねてきた日々がひとつの形となって昇華されたと言っても過言ではないだろう。今後の彼の活動が益々楽しみだ。



 オリンピック閉会式の2日後、梁 邦彦は帰国の途に着いた。さあ、ここからは4月6日にビルボード大阪で開かれる押尾コータローとのライブに向けての準備が始まる。



 3月5日には、押尾コータローのラジオ番組、MBS『押尾コータローの押しても弾いても』への出演が決まっている。平昌の土産話を披露してくれることは間違いないだろうが、この番組恒例の押尾コータローとゲストとのセッションも大きな楽しみ。前回2016年6月に出演した時には、梁 邦彦の作品「十二幻夢曲哀歌」を共に奏でた。今回どんな曲が選ばれるのかは当日聴いてのお楽しみ♪とのことだが、4月のビルボードライブへの期待がより一層高まる一曲になることは間違いない。 (http://www.mbs1179.com/oshio/



平昌現地レポート from 梁 邦彦 DAY:2/29thu

 1ヶ月近い平昌での生活を終え、2日前に無事帰国しました。平昌オリンピックは、スピードスケート女子マススタートやカーリング女子決勝&3位決定戦と、最後まで目が離せない人も多かったことと思いますが・・・皆さん、閉会式はご覧になりましたか?



閉会式で僕が音楽制作を担当したパートは・・・
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▲「A Journey to Remember」という、長寿のシンボルである巨大な亀と、
大勢の舞踏パフォーマーが登場し、亡き人々を追悼する物語。

 このようなアジア色とストーリー性のある音楽作品を創るのは大好きで、深く入り込んで作業を重ね納得の行く作品に仕上がりました。



top ▲オ・ヨンジュン君が歌った「オリンピック讃歌」

 皆さんも美しく澄んだ天使の歌声が記憶に残っているのではないかと思いますが、 オ・ヨンジュン君が歌った「オリンピック讃歌」。若干11歳ながら、大変難しい曲「オリンピック讃歌」をオリンピックという大舞台で動じることなく歌い上げてくれました。彼は済州島出身で、僕が芸術監督を務める済州島の音楽フェスティバルにも出演してくれていて、今回オリンピック製作チームから彼の名前が挙がった時には本当に嬉しく思ったものです。





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▲聖火消灯

 そして、「聖火消灯」。開会式で聖火点灯パートを担当し、閉会式では聖火消灯を担当するというのは、本当に不思議な運命を感じながら制作した曲です。数百人の人々が手にした平和を祈願する灯りが雪の結晶となり、平和への想いが聖火台のスロープをゆっくりと登って行き、聖火が消え、平和祈願の聖なる(静なる)シーンで幕を閉じる・・・。熱いパッションで繰り広げられた競技、戦いを終えて手を取りあった選手たちの姿が目に浮かぶと共に、無事全てを終えた安堵感と、長い期間苦楽をともにしてきた平昌オリンピックの終焉を実感し、何とも言えない「祭りのあと」の気分。しかもとてつもなく大きな「お祭り」。


 実は、閉会式のプログラムが全て終わり、観客の皆さん退場時にも僕の曲が競技場で流れ続けていました。「Echoes for PyeongChang」、「Frontier!」、「Floweres of K」、「Prince of Jeju」、「Mint Academy」・・・今回のオリンピックに向け音楽監督として作った曲ではなく、オリジナル楽曲でこのオリンピックを終えることが出来たのは本当に感慨深かったです。


 去年夏あたりからはずっと佳境モードが続いたオリンピックの音楽監督を終え、ほんの少しだけ休憩して、次は押尾コータローさんとのビルボード大阪でのライブに向けた準備はもちろんのこと、中国の大規模オンラインゲームの音楽制作も待ち構えています。オンラインゲーム音楽は、これまでにも韓国、中国で担当してきましたが、今回の規模は過去最大かもしれません。皆さんのお耳に触れるまでには、まだ時間を要しそうですが、機会があれば是非、聴いてみて頂ければと思います。


 4月6日のビルボード大阪でのライブに向けて押尾さんと一緒に選曲していく段階から既に楽しみが始まっていて、今からワクワクしています。皆さん、桜の時期に大阪で会いましょう!

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【Vol.3】オリンピック・パラリンピックに呼ばれた男!?梁 邦彦

 フィギュアスケート男子で羽生結弦選手と宇野昌麿選手のメダル獲得に沸いた2月17日。同じカンヌンオリンピックパークにあるカンヌンアートセンターで、梁 邦彦もまた多くの人々の歓声と拍手に包まれていた。平昌オリンピック・パラリンピック期間中7カ所の会場で様々なジャンルのコンサートや演劇などのパフォーマンスが披露され、芸術でオリンピック・パラリンピックを応援しようという【The PyeongChang 2018 Cultural Olympiad】からもオファーを受けた梁 邦彦は、そのメイン会場となるホールで【Echoes for PyeongChang】と題したコンサートを行った。


 ソウル・チャンニャンニョク駅9時20分発のKTXでカンヌン駅まで1時間40分。韓国の旧正月と重なったこの日は、例年でも日本のお正月同様故郷へと帰省する人で混みあうのだが、その上オリンピックを観戦しようと世界中から訪れた人々で電車も道路も大混雑の中、セキュリティがとても厳しくいつもとは違い、オフィシャルバスで楽器や衣装を抱えての移動となった。ステージに立ったのは、韓国、日本、アメリカのミュージシャン総勢14名。梁 邦彦とは去年の韓国ツアーや、クリスマスイブに開かれた東京・グローブ座コンサートでも共に演奏してきたメンバーも多く、息の合ったパワフルな演奏で客席を感動の渦に巻き込んでいった。


 中でも圧巻だったのがコンサート終盤、平昌応援アルバムと今回のコンサートタイトルにもなっている「Echoes for PyeongChang」から現在WOWOWで放送中のパラリンピックドキュメンタリー番組のメインテーマ曲「WHO I AM」へと展開されていくところ。「Echoes for PyeongChang」は、韓国の人々にとっては心の歌ともいわれている「アリラン」、特にアリランの源流ともいわれている平昌地域のアリランである「ジョンソンアリラン」のメロディも組み込まれ、オリンピック・パラリンピックへの多くの人の想いが明るく、ECHOES=こだまとなって拡がっていくイメージ。


 一方「WHO I AM」は、IPC=国際パラリンピック委員会とWOWOWとの共同プロジェクトとして、2020年・東京パラリンピック開催までの5年間にわたって世界最高峰のパラアスリートたちに迫るスポーツドキュメンタリー番組のメインテーマで、この番組の劇伴制作を依頼された梁 邦彦が書き下ろしたもの。静かなる魂の叫びと、限界に挑み自らを表現していく選手たちの情熱と輝きを彷彿させるものとなっている。


 いずれもオーケストラサウンドとバンドサウンドの融合、そこに梁 邦彦が奏でるピアノが重なっていくという、彼ならではの旋律が聴く人の心をとらえて離さないものだが、そんな楽曲にこの日は演奏するメンバーたちのオリンピック・パラリンピックを想う心とエネルギーが一つに結集し、会場全体を熱気と興奮に包み込んでいった。それにしてもソチオリンピックの閉会式以降、梁 邦彦にオリンピック・パラリンピックに関連する依頼が増えていることには、偶然とは思えない彼の使命のようなものを感じてしまうのだが・・・。


 この日のコンサートの最後、アンコールに応えメンバーが去ったステージで一人、梁 邦彦は三度ピアノの前に座り「Swan Yard ~Home Again~」という曲を奏で始めた。偶然この日、同じ場所で繰り広げられたフィギュアスケート戦。氷上を優雅に滑るSWANがアンコールで急に思い浮かび、この曲を弾いたという。戦いを終えたアスリート達が様々な思いを胸に家路に向かう。そして演奏を終えたミュージシャンやオーディエンスも。彼の想いが優しく穏やかに拡がり、共に時間を過ごした人々の心に沁み込んでいった。



Comments from Christopher Hardy(Percussion)

   今回のメンバーの一人、パーカッションのクリストファー・ハーディは、去年11月に押尾コータローがゲスト出演したソウルのコンサートでも共演、4月6日に行われるビルボードライブ大阪にもサポートメンバーとして参加することが決まっている。梁 邦彦とは20年以上にわたってコンサートやレコーディングで数え切れないほど活動を共にし、欠かせないメンバーの一人となっている彼に、押尾コータローと梁 邦彦が初めて共演する今回のステージの魅力について尋ねてみた。


 「梁さんの音楽はポジティブなエネルギーに溢れ、何があっても前向きに進んでいく明るさがあり、押尾さんの奏でるサウンドには、限界というものが存在しないかのような素晴らしい拡がりが感じられる。 そんな二人のライブは、ピュアで美しい音色が際立つものになることだろう」と。

そして今回のカンヌンでのコンサートについて彼は・・・
「今回だけを見ればたった一回の公演だけれど、実はそれはソチオリンピック閉会式から4年間かけて梁さんが一つずつ積み重ねてきたものが大きくなったもので、4年間のつながりと流れが感じられる素晴らしい公演だった。」と語った。

 梁 邦彦&押尾コータローのサウンドに多彩な彩りを添えてくれるであろう、クリストファー・ハーディのプレイにも是非!注目して欲しい。



平昌現地レポート from 梁 邦彦 DAY:2/20tue
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  2月17日のソウルは快晴!凛とした寒さも気持ち良い位。メンバーやスタッフは僕のことを「晴れ男」だと言い、本人もかなり自負していたりも^^ 会場最寄のカンヌン駅からオリンピック開催に合わせ新たに建てられたカンヌンアートセンターまではこの期間とてもセキュリティが厳しく、メンバー&スタッフ全員オフィシャルのバスで移動。

  オリンピックパーク入口に面したホールの前は、訪れた人々で埋め尽くされておりオリンピックならではの熱気に包まれていて、4年前のソチオリンピックの時を思い出す一方、ここは韓国で開かれているオリンピックなんだなぁと、感慨にふけったり。






 しかもこの日は、フィギュアスケート男子フリーの演技が行われる日でもあり、楽屋も羽生選手のメダル獲得の話題で持ちきり。リハーサル前のわずかな休憩時間に、ホールロビーから見えるパブリックビューイングに映し出されるフィギュアスケートのライブ映像に思わず釘づけになってしまったり…。音がないので正直実感わかないんだけど、すぐそこで白熱の演技が行われていると思うと、ついつい食い入って観てしまった。


  オリンピックを直に感じられる場所でのコンサートは、僕たちの心も知らず知らず高揚させてくれる。全曲通して行ったリハーサルでもすでに熱が入り、とてもスムーズ。そして本番までの空き時間はオリンピックパーク入口でメンバーほぼ全員で記念撮影まで♪

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 そして本番!
 いつもよりパワーアップした皆の演奏がどんどん連鎖して行き、時間と共に昇華していく様(音)はいつにも増して心地よく、パワフルで、柔らかい温もりに包まれていた気がする。いや〜演奏も盛り上がりましたが、客席もしっかり応えてくれこのLIVE、シナジービシビシでした。まさに忘れられないオリンピック会場でのLIVEになりました。


 昨夜遅く、僕は再び平昌の宿に戻りました。これからは25日の閉会式に向けてラストスパートですが、閉会式で僕の音楽がどこで使われるか、どんな音楽が飛び出すか、楽しみにしていて下さい。コンサートで皆さんからもらったエネルギーで頑張っていきます!ではまた!

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【Vol.2】梁邦彦の音楽に境界線はない

   2月9日に開幕した平昌オリンピックで音楽監督を務めている梁 邦彦は、これまでにも韓国の国を挙げて行われる様々な行事の音楽制作に携わってきた。2015年11月には、ユネスコ設立70周年記念総会オープニングセレモニーでの公演を、パリ・ユネスコ本部で行った。「Thirsting for Peace(平和への渇望)」と題したこの公演では、韓国を代表する詩人コ・ウン氏が紡いだ詩に、梁邦彦が音楽を付けるコラボレーションを軸に、オリジナル楽曲も披露。ステージには、韓国、日本、アメリカのミュージシャン、そして現地フランスの弦楽奏者たちが並び、全世界から集ったユネスコ関係者たちが客席を埋めた。「教育や文化の振興を通じて戦争の悲劇を繰り返さない」というユネスコ設立の理念、ユネスコが重点目標として定めた「文化の多様性の保護および文明間対話の促進」を、まさに体現するかのような公演に、観客はスタンディングオベーションで応えた。



 翌年発表された7枚目のオリジナルアルバム『EMBRACE』では、ロンドンレコーディングが行われ、ロンドン・シンフォニー・オーケストラが参加している。梁 邦彦は、オリジナル・セカンドアルバム制作時より、ロンドンレコーディングを開始、以後映画音楽始め様々な録音で幾度もロンドンのオーケストラと共演してきた。クラシックからハリウッド映画までこなす彼等の演奏が素晴らしいのはもちろん、音楽に対する理解力とセッションに臨む姿勢やマインド、そしてアビーロードスタジオなどの素晴らしいレコーディングスタジオでの収録は、やはり数ランク上の仕上がりになる。そして何より幼い頃からのブリティッシュミュージックへの憧憬もロンドンに足繁く通う要因の一つのようだ。


 このアルバムに収録されている曲「No Boundary」のイメージは、「境界線のない、出入り自由な状態」。 「ある時、境界線というのはもしかしたら自分の先入観で作り出してしまっているのではないかと気が付いた。そして自分の中に作り出された境界イメージは人に自然と伝わってしまう。自分が柔軟な状態でいればミュージシャン始め皆も入って来やすくなり、『皆でちょっとやってみない』という空気になれる。それが自分にとっての『No Boundary』」なのだと梁 邦彦は語った。

▲Yang Bang Ean(Ryo Kunihiko) - No Boundary


 そして梁 邦彦は、6年前から父親の生まれ故郷である韓国・済州島で島を挙げて行われる音楽イベント【Jeju Music Festival】の芸術監督を務めると共に、自らも出演している。夏の終わりの2日間、済州島の美しい自然の中で開催される音楽フェスティバルには、済州島含めた韓国の素晴らしいミュージシャンはもとより、ブラジルや日本からもミュージシャンが集い、去年は宮沢和史&DEPAPEPEも参加した。夏の終わりの2日間、済州島の大自然に包まれ気持ち良く音楽を楽しんでいるミュージシャンと観客たち・・・その光景は毎年開催される【Jeju Music Festival】風物詩となり、野外フェスの醍醐味を感じさせる。

ryokunihiko ryokunihiko


 ドイツで250年近い歴史を持ち、ベートーヴェンの大合唱にはじまる彼の作品ほとんど、そしてワーグナーその他大勢のクラシック大作曲家の楽曲を管理している世界的音楽出版社・ショットミュージック(SCHOTT MUSIC)も梁 邦彦の音楽に興味を示している。2012年に企画された、会長のペーター・ハンザー・シュトレッカー氏の70歳を祝う【Petrushk Project】には、世界から70人の作曲家が彼の誕生プレゼントとして楽曲を提供、梁 邦彦もそのうちの一人として作曲&提供した。ペーター・ハンザー・シュトレッカー氏は梁 邦彦についてこのように語っている。「彼は音楽という言葉で、故郷と世界の人々を繋げ幸せにしている。音楽に国境はない。彼は音楽の親善大使なのだ」と。



平昌現地レポート from 梁 邦彦 DAY:2/10sat

 開会式から一夜明け、少しだけ落ち着きました。4年前のソチオリンピックの閉会式での次期開催地紹介セレモニーでも音楽監督を務めたとはいえ、今回は手掛ける音楽の規模、関わる人員の数も比べものにならず、本番直前まで聖火ランナーや諸々の変更が続き、その検討と修正が延々と続く。この過程はまさに「格闘」でしたが、関わった全員が力を合わせ、GOALにたどり着いたその瞬間は感慨深いものがありました。(まだ閉会式がありますが…)

 皆さん、開会式はご覧になりましたか?当日僕が見ていたのは、ムン・ジェイン大統領の丁度一階下、プレス関係者のど真ん中で、中継画面にも小さく映っていました^^ すぐ隣、アイルランドのプレスカメラマンがあの寒さの中、素手で撮影しているのに驚いていたら、急にこっち向いて「死ぬほど冷たい〜」といったので僕のホカロンあげた^^




今回の開会式で僕が担当した部分は・・・

top ▲オリンピック賛歌

ドイツでも活躍する若きソプラノ界のホープ:ファン・スミさん。典型的なクラシック、フルオーケストラタッチのオリンピック賛歌に仕上げました。彼女はこれから益々伸びていくことでしょう。


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▲韓国と北朝鮮の女子アイスホッケー選手から、
キム・ヨナさんへのバトンタッチが感動的だった聖火ランナー入場から聖火点灯シーン

 聖火走者入場時は爽やかなイメージで始まり、2人の第4走者達がスロープを登るシーンはスリリングでドラマティックな演出。そして、ようやく頂上に辿り着いた時、キム・ヨナがサプライズでスケーティング。ここは氷上を滑る妖精を、高音部弦楽器と女性コーラスで幻想的に。そしてクライマックスの聖火点灯は、火のリングを伝わり聖火台に点火される瞬間までを壮大なスケールで描きました。この一連のシーンは、絶え間ない変更と修正が繰り返された部分で本当に苦労も多かったけど、タイミングバッチリで点火した瞬間は本当に感動的でした。



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▲100人以上のパフォーマーが華やかなライトアップの中で舞い、
絶え間なく花火が打ち上げられたグランドフィナーレショー「Wish Fire」

 このシーンの冒頭に登場したのは、主に海外で活躍中のダンスグループ「Just Jerk」。続いて様々な花火と花火パフォーマー、そして現代舞踊チームのパフォーマンスが全てシンクロした、一大絵巻。シーンが目まぐるしく変化し、音楽をそのタイミングを合わせ作り込んでいくのは至難の業でしたが、徐々にタイミングが合い始め、ジャストのタイミングで大花火グランドフィナーレで開会式の幕を閉じました。



 総じて、フルオーケストラ&混声合唱団から「キレッキレ」ビート上でのパフォーマンスまで、僕にとって未体験ゾーンのスケールでしたが、参加して下さった100人を越える素晴らしいミュージシャン、そしてエンジニアや多くのスタッフのお蔭で完成に至ることが出来ました。今回の参加ミュージシャンは日韓にまたがっています。Korean Symphony Orchestra、韓国の伝統楽器奏者、日本から混声合唱団、ロック、ポップス含めた幅広いジャンルのミュージシャン達合計100人以上。隣国のオリンピック音楽に参加した日本のミュージシャンが皆口を揃え、「頑張って!成功願ってるからね!」と懸命に演奏してくれる姿、胸を打たれました。音楽でつながっているのは幸せなことです。



 そして2月17日には、開会式の音楽制作にも携わってくれた韓国と日本のミュージシャンたちと共に、カンヌンアートセンターで「文化オリンピック」の一環となる単独コンサート【Echoes for PyeongChang】があります。この日は、韓国では旧正月の休暇中であり、オリンピックの氷上競技のメイン会場があるカンヌンでは午前中から男子フィギュアスケートフリーの競技が行われる日でもありますが、夜のコンサートにも大勢の人に足を運んでもらえると嬉しいです。(チケットは既にSold Out^^;)4年間努力を積み重ねてきたアスリートたちの健闘とオリンピック・パラリンピックの成功を心から祈りつつ、僕も17日のコンサートからから25日の閉会式までしっかり駆け抜けたいと思います。

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【Vol.1】世界での活躍~押尾コータローとの出会い

  梁 邦彦がソロ活動を始めてから、今年で22年目を迎える。音楽家としてのキャリアは更に長く、大学時代から様々なアーティストのツアーサポートやプロデュースを行い、1996年にソロアルバム「The Gate Of Dreams」を発表。オリジナルアルバムだけではなく、映画、アニメ、ゲームなど様々な映像音楽の制作にも携わり、その活動は多岐にわたる。2002年に韓国で行われた、釜山アジアンゲームのテーマ曲として梁邦彦の楽曲「Frontier!」が使われたことを契機に韓国で注目されるようになり、2014年にはソチ冬季オリンピック閉会式での次期開催地紹介セレモニーの音楽監督・作曲・演奏を務め、2015年にはパリユネスコ本部で開かれた、ユネスコ設立70周年総会のオープニングセレモニーでの作曲・演奏を担うなど、国際的なプロジェクトに関わる機会も増えている。



 2017年10月27日に韓国で発売されたアルバム『Echoes for PyeonChang』は、平昌オリンピックの音楽監督に任命された梁 邦彦が、これまでに出会った様々なアーティストとオリンピックについて語らう中で、平昌を応援する気持ちや期待を一つの形に出来ればとの想いから呼びかけ、実現したものだ。参加アーティストは、ロック、クラシック、韓国の伝統音楽=国楽、コーラスグループとジャンルを越え、更には国境をも越えて、日本から押尾コータロー、DEPAPEPEが加わり、オリンピックの成功を願う気持ちがひとつの形となった。


▲ ECHOES FOR PYEONGCHANG



 押尾コータローとの出会いは、約1年半前。梁 邦彦がMBSラジオの押尾コータローの番組に出演したことがきっかけとなり意気投合、アルバムへの参加だけでなく、去年11月にソウルで行われた梁 邦彦のライブへの押尾コータローゲスト出演へと繋がっていった。インストゥルメンタル音楽でアジアを中心に活動を続けているという共通点もあり、共鳴しあう2人の演奏が、韓国でも多くの人を魅了した。



平昌現地レポート from 梁 邦彦 DAY:2/6tue


▲OBS(Olympic Broadcasting Services) の中継車室内。
歴代のオリンピック中継を担当している Robert(右)とStephan(左)
「彼等は、僕がソチオリンピック閉会式で演奏したことを覚えてくれていた!」


 1月31日にソウルから平昌に入って早一週間。平昌現地は、昼間でも平均マイナス10℃という極寒。しかし、連日開会式に向けた熱気を帯びたリハーサルを繰り返しながら、ムードもかなり盛り上がっています。

今回の開・閉会式の音楽監督は4人。伝統的な音楽のエキスパートが2人、現代的な音楽を担うのが僕ともう1人います。全体での音楽の分量は果てしなく多いため、それぞれが担当箇所の音楽を長い期間をかけて作り上げてきました。誰がどのコーナーを担当しているかなど具体的なことはお伝え出来ないのですが、様々なパフォーマンスと音楽が重なりあい、スケールの大きなショーが展開されます。

テーマは、「Passion & Connected」そして「平和」。「Passion=情熱」は、アスリートたちはもちろん、オリンピックそのものが持つ情熱。「Connected=つながる」は、世界の人々が横につながっていくことの大切さ。そして、大きなテーマとして「平和」があって、やはり38度線というものがある環境の中で開かれるオリンピックであるからこそ、「平和」というものの大切さを感じてもらいたいと・・・。



▲ここから全世界に向けてオリンピックの映像&音声が発信される。(https://www.obs.tv


開会式まであと3日と迫り、昨日の深夜から今朝未明までは極秘未公開リハーサル。午前0時の気温はマイナス18℃。まさに「凍てつく」とはこのことですが、極寒をものともせず、作業は午前4時まで続きました。制作陣全員がベストなものをお見せ出来るよう渾身の力を振り絞り、最後のスパートをかけていますので、2月9日、夜8時から行われる開会式を、是非楽しみにして下さい。

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